2024年03月01日
2024年2月の記録
引っ越し、実家に置いていた本も運びこんだ。
えいやっと造りつけた本棚に納めると、案外空間があった。
まあ、3列詰め込んだ区画もあるからこんなものかな。
と思っていたところ、また違う場所から本が出てきた。
引っ越したら買おうと思っていた本も続々届く。
<今月のデータ>
購入23冊、購入費用32,485円。
読了9冊。
積読本334冊(うちKindle本161冊)。
英国一家、日本をおかわりの感想
前回家族で訪れてから10年、再び一家が来日した。とはいえ前作以来あちこちに人脈ができたようで、単独来日しては各地を取材した記録も混じっている。相変わらずの興味を持ったら深掘り体質、一見お断りの店からフードフェスまで片端から食べ、調べ、呑む。柿右衛門窯で人生を懸けんとする職人の姿に理解できない様子を見せるが、厳格に決められた手順や調理法の先に最高を究めようとする在りかたに著者は気づき、賛辞を贈る。これを日本固有とは思わないが、外来のものを日本なりに極みへと突き詰めてゆくのは確かにお家芸、あらまほしき姿だ。
読了日:02月29日 著者:マイケル・ブース
「ユマニチュード」という革命: なぜ、このケアで認知症高齢者と心が通うのかの感想
ユマニチュードは、ケアの技術であり哲学である。手のひらの持つ能力を活かすケア技術と聞きかじりで認識していたけれど、それだけではなくて、ケアされる人の身体ではなく気持ちに働きかけて動かすことで、互いに協力し合う自然なケアをしようとする取り組みだ。相手をちゃんと見つめ、話しかけ、優しく広く触れ、一日トータル20分でも立ってもらう。立つことができれば寝たきりにはならない。『人は死を迎える日まで、立つことができる』。それは本人にも、ケアする周りにも、福音ではないか。最期まで自律を尊重する姿勢に理想を見る。
自宅に独りであれば、立つことができなくなるとき=死ぬときである。病院や施設では、ケアを中心にした環境になることで、ケアする側には十全なケアをしようとして本人ができることもさせないシステムに組み入れ、ケアされる側もケアされる役割に甘んじて自力でできるはずのこともしなくなれば、云わば寝たきりをつくるようなものと考えてみたりする。だから日本の老人が施設で過ごす年月が欧州の国に比べて長いのか、とか。それは不自由だし、不自然だし、自分はそんなの嫌だよな、と思って、先の上野さんの「在宅ひとり死」に行き当たったのだ。
読了日:02月24日 著者:イヴ・ジネスト,ロゼット・マレスコッティ
在宅ひとり死のススメ (文春新書 1295)の感想
病院死、施設死を経て、自宅死へ。日本人の「死」へ至る道は年々変化している。高齢者は施設に入れるものとの共通認識も薄らぎ、今は人々の希望もかかるコストも、自宅が望ましいと目算される。公的保険で賄えない部分が心配だが、専門家に聞いたところでは緊急コール、訪問介護、保険外自費サービスをフルに使っても月額160万円程度。末期の数カ月なら貯金でなんとかなりそう、と思わせる。"在宅ひとり死"予備軍として、介護保険の動向は気を付けておきたい。年寄りの独居は決して可哀そうではない。ガンでも認知症でも…認知症はまだ怖いな。
祖父は施設で独りの時間を狙ったように朝方逝った。自宅での逝き時に息子が名残惜しんで救急車を呼んでしまい、祖父には望まぬ余生のおまけがついてしまった。動きもしゃべりもできず、さぞ悔やんだろう。逝きかたは家族ではなく、本人が決めるもの。家族の都合で決めた処しかたは、いずれにも後悔を生む。親にも、伴侶にも、自分にも、そのことを肝に銘じ、より良い方策を選びたい。
読了日:02月24日 著者:上野 千鶴子
RRRをめぐる対話 大ヒットのインド映画を読み解くの感想
ラージャマウリの「RRR」について、背景や台詞の真意など、一般日本人にわからない事柄を説明してくれる。特筆すべきは叙事詩「マハーバーラタ」「ラーマーヤナ」だ。台詞のそこここや物語の形に、自分たちの知悉した古き物語のパターンが踏まれていることがインドの、特にテルグの人々には直感され、より楽しんだと知って羨ましく思った。国家として独立して100年に満たないとしても、あんな広大な国家を仮初にも束ねるものは物語である。もちろんその物語を我がものと思わない地方の人々にも、独立運動の翻る旗は訴えるものがあっただろう。
叙事詩を踏んでいる点はひとつ前の「バーフバリ」もおなじで、物語として「そうでなければならなかった」流れが腑に落ちた。すごいなラージャマウリ。ちょっと「ラーマーヤナ」に挑戦してみたい。日本には日本の、そういう"原形"や"原風景"があるのだろうけど、私たちは知らず読みこなしているのだろうか。インドの前に日本のそれを読み解くのが先だろう、という気もする。古事記か。
読了日:02月22日 著者:山田 桂子,山田 タポシ
北海道犬旅サバイバルの感想
『銃と犬と荒野へ』。惜し気に寝かせていたのを手に取ったのは、ナツの失踪を聞いたからだ。もしナツがいなくなった後では、もうこの本を読むことはできないと思った。服部文祥の旅の集大成。さらりと読んでしまうが、そこには彼ならではの計算と選択の連続が記録されている。女神ナツ。服部文祥は衒いもなく「かけがえのない存在」と呼ぶ。20分、3時間といなくなる度、動揺し逡巡する。最後に貰った餞別に暴走する服部文祥は全くストイックではない。食べものへの執着の凄まじさは生体としての本能なんだろう、ポリンキーめんたいあじもきっと。
『ナツと登山や猟を三年間ともにして、こうして北海道を一緒に旅できる相棒になったいま、ナツは私にとってかけがえのない存在で、とてもドライに接することなどできない』。『ナツの存在そのものが私にとってやり直しの利かない一方通行のようなものだ』。愛おしい。しかし事故を恐れて家に閉じ込めることはできない。お互いに山と猟を愛する相棒である限り。そういうところが、服部文祥なんだよなあ。ナツ見つかって、本当に良かった。今は本人は自分を責めているだろうけれど、再び旅に出るんだろうなあ。だってナツはまだ若いもの。
読了日:02月18日 著者:服部文祥
バスドライバーのろのろ日記――本日で12連勤、深夜0時まで時間厳守で運転します (日記シリーズ)の感想
47歳にして教師からバス運転手へ転身。生徒の心が育つさまは見る機会がなかなかないが、バスは物理的に動かす実感がある。と勘繰るぐらい、大きな決断だ。規則を遵守し、乗客に気遣いができる。こんな真面目な性根の人が最終的に辞めたとはどんな捻じれた力学が働いたかと危惧するも、健康上の理由では仕方がない。真面目の反面として、ひとつの嘘と体裁から苦しい心理に追い込まれていくのが辛い。懲罰主義的な会社の方針は、人間の安全を守るためとはいえ、著者の心持ちを萎縮させ、保身に回らせたのも事実。もう少しやりようがありそうだ。
個室に缶詰めで反省文や誓約書を書かされるあたりで、「反省させると犯罪者になります」を思い出した。原因究明と事故回避策は重要だ。しかしそれは当事者に何度も書かせたところで根絶できるものではないし、本人に屈辱感しか残らないとあれば本末転倒だ。ミスや事故の件数の見える化も、効果が限られると同時に、職場の雰囲気づくりに寄与しない。大きなグループ企業の改革はなかなか難事業だと溜息が出た。
読了日:02月17日 著者:須畑 寅夫
じぶん時間を生きる TRANSITIONの感想
コロナ禍を機に、人々の中に価値観の転換が生まれ始めたという。地方在住、しかもリモートワークできなかった建設業勤務には実感のない話だ。それ東京の話やろ、という冷めた感覚が否めない。そしてこれもまた東京お得意のブーム煽動ではないのかと疑う。だって著者の言う新しい豊かさ、それは全然新しくない。ただ気づき、回帰していく動き、それは歓迎すべきだと思う。そして自我肥大が薄らいで地面に根っこをおろせるといいですね。最近テレビもSNSも遠ざけているので、東京の喧騒が遠ざかって心安らかだ。好い。これもtransition。
読了日:02月14日 著者:佐宗邦威
いま見てはいけない (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫)の感想
サキを想起させる意地の悪さ、底なしである。さらにクリスティの観察眼も持ち合わせているとあれば、読むのをやめられるわけがない。好き。ぼんやりした結末などあり得ない。直感や偏見、強い感情が行動を呼び起こし、行動は思いがけず烈火のごとき運命を呼び込む。読みながら、「あーーー」、「もうだからさ~~~」の連続だった。「ボーダーライン」の隻眼の男のメンタリティは気になるし、「十字架の道」の少年が夢見る世界人類共通の祝祭への周囲の大人たちの感想も聞いてみたいところ。棘で傷だらけになる人々を見守る自分も残酷の一部かも。
読了日:02月12日 著者:ダフネ・デュ・モーリア
還暦からの底力―歴史・人・旅に学ぶ生き方 (講談社現代新書)の感想
昔の60歳は今の75歳と体力や老化の程度が同じであるとのデータがある。そして歳を取ったからと活動を縮小するのはナンセンス、働くこと、学ぶこと、旅すること、楽しむことに遅すぎることはないと出口さんは言い切る。一方で変わりゆく日本社会について、社会保障や企業のありかたなど、考え方のアップデートを指南する。自分の世代の損得ではなく、若い世代の未来を想って行動できる、こういう考えかたを良識と呼ぶのだろう。気づいたのは、SNSにはエピソードが多いこと。他者のエピソードに引かれて、全体を見誤らないようにしたい。
読了日:02月03日 著者:出口 治明
注:は電子書籍で読んだ本。
えいやっと造りつけた本棚に納めると、案外空間があった。
まあ、3列詰め込んだ区画もあるからこんなものかな。
と思っていたところ、また違う場所から本が出てきた。
引っ越したら買おうと思っていた本も続々届く。
<今月のデータ>
購入23冊、購入費用32,485円。
読了9冊。
積読本334冊(うちKindle本161冊)。
英国一家、日本をおかわりの感想
前回家族で訪れてから10年、再び一家が来日した。とはいえ前作以来あちこちに人脈ができたようで、単独来日しては各地を取材した記録も混じっている。相変わらずの興味を持ったら深掘り体質、一見お断りの店からフードフェスまで片端から食べ、調べ、呑む。柿右衛門窯で人生を懸けんとする職人の姿に理解できない様子を見せるが、厳格に決められた手順や調理法の先に最高を究めようとする在りかたに著者は気づき、賛辞を贈る。これを日本固有とは思わないが、外来のものを日本なりに極みへと突き詰めてゆくのは確かにお家芸、あらまほしき姿だ。
読了日:02月29日 著者:マイケル・ブース
「ユマニチュード」という革命: なぜ、このケアで認知症高齢者と心が通うのかの感想
ユマニチュードは、ケアの技術であり哲学である。手のひらの持つ能力を活かすケア技術と聞きかじりで認識していたけれど、それだけではなくて、ケアされる人の身体ではなく気持ちに働きかけて動かすことで、互いに協力し合う自然なケアをしようとする取り組みだ。相手をちゃんと見つめ、話しかけ、優しく広く触れ、一日トータル20分でも立ってもらう。立つことができれば寝たきりにはならない。『人は死を迎える日まで、立つことができる』。それは本人にも、ケアする周りにも、福音ではないか。最期まで自律を尊重する姿勢に理想を見る。
自宅に独りであれば、立つことができなくなるとき=死ぬときである。病院や施設では、ケアを中心にした環境になることで、ケアする側には十全なケアをしようとして本人ができることもさせないシステムに組み入れ、ケアされる側もケアされる役割に甘んじて自力でできるはずのこともしなくなれば、云わば寝たきりをつくるようなものと考えてみたりする。だから日本の老人が施設で過ごす年月が欧州の国に比べて長いのか、とか。それは不自由だし、不自然だし、自分はそんなの嫌だよな、と思って、先の上野さんの「在宅ひとり死」に行き当たったのだ。
読了日:02月24日 著者:イヴ・ジネスト,ロゼット・マレスコッティ
在宅ひとり死のススメ (文春新書 1295)の感想
病院死、施設死を経て、自宅死へ。日本人の「死」へ至る道は年々変化している。高齢者は施設に入れるものとの共通認識も薄らぎ、今は人々の希望もかかるコストも、自宅が望ましいと目算される。公的保険で賄えない部分が心配だが、専門家に聞いたところでは緊急コール、訪問介護、保険外自費サービスをフルに使っても月額160万円程度。末期の数カ月なら貯金でなんとかなりそう、と思わせる。"在宅ひとり死"予備軍として、介護保険の動向は気を付けておきたい。年寄りの独居は決して可哀そうではない。ガンでも認知症でも…認知症はまだ怖いな。
祖父は施設で独りの時間を狙ったように朝方逝った。自宅での逝き時に息子が名残惜しんで救急車を呼んでしまい、祖父には望まぬ余生のおまけがついてしまった。動きもしゃべりもできず、さぞ悔やんだろう。逝きかたは家族ではなく、本人が決めるもの。家族の都合で決めた処しかたは、いずれにも後悔を生む。親にも、伴侶にも、自分にも、そのことを肝に銘じ、より良い方策を選びたい。
読了日:02月24日 著者:上野 千鶴子
RRRをめぐる対話 大ヒットのインド映画を読み解くの感想
ラージャマウリの「RRR」について、背景や台詞の真意など、一般日本人にわからない事柄を説明してくれる。特筆すべきは叙事詩「マハーバーラタ」「ラーマーヤナ」だ。台詞のそこここや物語の形に、自分たちの知悉した古き物語のパターンが踏まれていることがインドの、特にテルグの人々には直感され、より楽しんだと知って羨ましく思った。国家として独立して100年に満たないとしても、あんな広大な国家を仮初にも束ねるものは物語である。もちろんその物語を我がものと思わない地方の人々にも、独立運動の翻る旗は訴えるものがあっただろう。
叙事詩を踏んでいる点はひとつ前の「バーフバリ」もおなじで、物語として「そうでなければならなかった」流れが腑に落ちた。すごいなラージャマウリ。ちょっと「ラーマーヤナ」に挑戦してみたい。日本には日本の、そういう"原形"や"原風景"があるのだろうけど、私たちは知らず読みこなしているのだろうか。インドの前に日本のそれを読み解くのが先だろう、という気もする。古事記か。
読了日:02月22日 著者:山田 桂子,山田 タポシ
北海道犬旅サバイバルの感想
『銃と犬と荒野へ』。惜し気に寝かせていたのを手に取ったのは、ナツの失踪を聞いたからだ。もしナツがいなくなった後では、もうこの本を読むことはできないと思った。服部文祥の旅の集大成。さらりと読んでしまうが、そこには彼ならではの計算と選択の連続が記録されている。女神ナツ。服部文祥は衒いもなく「かけがえのない存在」と呼ぶ。20分、3時間といなくなる度、動揺し逡巡する。最後に貰った餞別に暴走する服部文祥は全くストイックではない。食べものへの執着の凄まじさは生体としての本能なんだろう、ポリンキーめんたいあじもきっと。
『ナツと登山や猟を三年間ともにして、こうして北海道を一緒に旅できる相棒になったいま、ナツは私にとってかけがえのない存在で、とてもドライに接することなどできない』。『ナツの存在そのものが私にとってやり直しの利かない一方通行のようなものだ』。愛おしい。しかし事故を恐れて家に閉じ込めることはできない。お互いに山と猟を愛する相棒である限り。そういうところが、服部文祥なんだよなあ。ナツ見つかって、本当に良かった。今は本人は自分を責めているだろうけれど、再び旅に出るんだろうなあ。だってナツはまだ若いもの。
読了日:02月18日 著者:服部文祥
バスドライバーのろのろ日記――本日で12連勤、深夜0時まで時間厳守で運転します (日記シリーズ)の感想
47歳にして教師からバス運転手へ転身。生徒の心が育つさまは見る機会がなかなかないが、バスは物理的に動かす実感がある。と勘繰るぐらい、大きな決断だ。規則を遵守し、乗客に気遣いができる。こんな真面目な性根の人が最終的に辞めたとはどんな捻じれた力学が働いたかと危惧するも、健康上の理由では仕方がない。真面目の反面として、ひとつの嘘と体裁から苦しい心理に追い込まれていくのが辛い。懲罰主義的な会社の方針は、人間の安全を守るためとはいえ、著者の心持ちを萎縮させ、保身に回らせたのも事実。もう少しやりようがありそうだ。
個室に缶詰めで反省文や誓約書を書かされるあたりで、「反省させると犯罪者になります」を思い出した。原因究明と事故回避策は重要だ。しかしそれは当事者に何度も書かせたところで根絶できるものではないし、本人に屈辱感しか残らないとあれば本末転倒だ。ミスや事故の件数の見える化も、効果が限られると同時に、職場の雰囲気づくりに寄与しない。大きなグループ企業の改革はなかなか難事業だと溜息が出た。
読了日:02月17日 著者:須畑 寅夫
じぶん時間を生きる TRANSITIONの感想
コロナ禍を機に、人々の中に価値観の転換が生まれ始めたという。地方在住、しかもリモートワークできなかった建設業勤務には実感のない話だ。それ東京の話やろ、という冷めた感覚が否めない。そしてこれもまた東京お得意のブーム煽動ではないのかと疑う。だって著者の言う新しい豊かさ、それは全然新しくない。ただ気づき、回帰していく動き、それは歓迎すべきだと思う。そして自我肥大が薄らいで地面に根っこをおろせるといいですね。最近テレビもSNSも遠ざけているので、東京の喧騒が遠ざかって心安らかだ。好い。これもtransition。
読了日:02月14日 著者:佐宗邦威
いま見てはいけない (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫)の感想
サキを想起させる意地の悪さ、底なしである。さらにクリスティの観察眼も持ち合わせているとあれば、読むのをやめられるわけがない。好き。ぼんやりした結末などあり得ない。直感や偏見、強い感情が行動を呼び起こし、行動は思いがけず烈火のごとき運命を呼び込む。読みながら、「あーーー」、「もうだからさ~~~」の連続だった。「ボーダーライン」の隻眼の男のメンタリティは気になるし、「十字架の道」の少年が夢見る世界人類共通の祝祭への周囲の大人たちの感想も聞いてみたいところ。棘で傷だらけになる人々を見守る自分も残酷の一部かも。
読了日:02月12日 著者:ダフネ・デュ・モーリア
還暦からの底力―歴史・人・旅に学ぶ生き方 (講談社現代新書)の感想
昔の60歳は今の75歳と体力や老化の程度が同じであるとのデータがある。そして歳を取ったからと活動を縮小するのはナンセンス、働くこと、学ぶこと、旅すること、楽しむことに遅すぎることはないと出口さんは言い切る。一方で変わりゆく日本社会について、社会保障や企業のありかたなど、考え方のアップデートを指南する。自分の世代の損得ではなく、若い世代の未来を想って行動できる、こういう考えかたを良識と呼ぶのだろう。気づいたのは、SNSにはエピソードが多いこと。他者のエピソードに引かれて、全体を見誤らないようにしたい。
読了日:02月03日 著者:出口 治明
注:は電子書籍で読んだ本。
2024年02月01日
2024年1月の記録
年末年始はニュースフィードに書評が溢れた。
あれもこれも面白そうだとは思ったものの、
人は皆嗜好/指向が違うものだという事実は忘れずに読む本を選びたい。
あと、深さもある程度見当をつけられるはずなので、
話題の本でも底の見当がつくものには手を出さないようにしたい。
と言った端から買ってしまった。
<今月のデータ>
購入14冊、購入費用13,636円。
読了13冊。
積読本321冊(うちKindle本159冊)。
武漢コンフィデンシャルの感想
フィクションである。不謹慎か。でも面白かった。武漢という土地は中国の要衝として歴史が深く、病毒研究所も擁するとあっては、そちら系の人々が水面下で血眼になった様が改めて想像される。新型コロナの蔓延さなか、手嶋さんの血も騒いだのだろう。2019年の武漢をプロローグに、列強に蝕まれた時代の武漢、ワシントンDCの炭疽菌テロ、日本陸軍の七三一部隊、雨傘運動下の香港と、各国を股にかけて物語は進む。たくましく、また美しいひとの物語。しかしいつもの幅広い知識・教養が騒々しい。大国の遣りくちに甲斐なくもため息が出た。
読了日:01月31日 著者:手嶋 龍一
首都消失 (徳間文庫)の感想
1983-84年の新聞連載小説。東京、ブラックアウト。通信も交通も遮断される。日本ごと沈めなくとも、首都を機能不全にしただけで国の存在すら危うくなる。その設定の下に描かれるのは、打ちひしがれる国民ではなく、日本の未来のために闘う男たちだ。戦後の混乱を見た壮年と、知らず現状に憤る若者の反発も絡めつつ、日本国家が民主主義と独立を維持するために何をやらなければならないかの模擬が続く。なかでも防衛(外交)は熾烈な捻じ込みが続き、日本の平和というやつの脆さが強調される。やりすぎに感じるが、当時の共通認識だったのか。
読了日:01月24日 著者:小松左京
帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年 (集英社文庫)の感想
福島県浪江町、旧津島村。2011年の原発事故による放射能汚染がひどく、住民の帰還の見通しが立たないまま10年が経過した。朝日の連載。600年の歴史がある旧家も、旧満州から引き揚げた人々が命がけで開拓した田畑も、住民が戻ることなく朽ち、草木に覆われていった。故郷を『予期せぬ理由で一方的にはく奪される』痛みが全編に滲む。詮無い仮定だが、もし、戻れる目処が示されていたら、痛みは和らいだか。人々はもっと帰還できたか。今の能登に既視感を覚える。必ず故郷に戻れると、国が被災者に明言しなきゃ、離れられないだろうに。
読了日:01月22日 著者:三浦 英之
自閉症の僕が跳びはねる理由 (角川文庫)の感想
自閉症の人と私はどこが違うのだろう。そのヒントがあれば、接するとっかかりも得られるかもと思った。しかし、五感の知覚、言語や記憶処理、感情制御などどれも私とは違う形で発達しているらしい。知性が劣るとか鈍いとか、そういうことではない。人の目を見て発話できないのは私と同じ。わかっていても「できない」。この本は文章による表現という手段を手に入れた著者が13歳の時に書いた。この本の出版を、自閉症の子供を持った世界中の親たちは歓迎したという。子供の心の内面や行動の理由を理解したい。その手掛かりを得たい切実さを想った。
読了日:01月21日 著者:東田 直樹
シャンタラム(中) (新潮文庫)の感想
なんということ。辛すぎる。失われた笑顔、失われた友情。ムンバイは違いすぎる人間がごった混ぜかつ過密だけど、自分以外の人間がいるから生きていけることを強烈に思わせる。裏切りも投獄も、苦境から舞い戻るリンの姿はかっこよすぎるくらいだ。しかし愛する人を失ったリンの、なんと弱っちいことか。『インド人みたいな心はどこにもない』。歌い、踊り、楽しむことを彼らは独りでやらない。いつも誰かと、誰かのためにやっている。自分で選んだことも、誰かが選んだことによって自分が変わることも、全て編み上げるように人生は進んでいくのだ。
読了日:01月21日 著者:グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
動画でわかる ヒモトレ入門の感想
母が脚に違和感を覚えているので対処を教えようと思い、前に読んだ「ヒモトレ革命」を探したが誰に貸したままなのか見当たらない。もはや本屋にも置かれていないので、別のを取り寄せた。ごく薄いが、ひもを使ったトレーニング方法とひも巻きのエッセンスはこれで十分。思いもかけない異分野の専門家たちが、実際にひもを使った効果を言語化しているのは非常に興味深い。身体にまつわる職業がら、素人のぼんやりした感覚とは精度が違う、"変化"が瞬時に知覚されるようなのだ。なんと不思議な人体。ともあれ、まずは巻いてみて、実感してもらおう。
読了日:01月19日 著者:小関 勲
アナキズム入門 (ちくま新書1245)の感想
アナキズムって何。という疑問から。国家や権力というものがいつの時代も公平でない以上、それらへの反発や怒り、闘争を元とするアナキズムは、国家と同じだけ歴史を持つ概念ということになる。言葉で抽象的に突き詰めるのは好きじゃないし、その歴史にもあまり興味はなかったのだが、面白かった。狭義では政府や権力集中の否定、ただ広義にはコモンなど馴染みのある意味合いになる。そして人生を労働、生活、地域、自然環境に密接なものと前提して考えることは、私が普段感じていることごとと親和性が高い。クロポトキン。ルクリュ。気になる。
読了日:01月18日 著者:森 元斎
ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う (講談社現代新書)の感想
平均余命までの長い"定年後"を日本人はどう暮らそうとするか。企業の定年規定も年金受給も続々後ろ倒しになり、現役時代と変わらずフルタイムで束縛されて働くなんて人生は気が滅入る。老年期に入っても社会からは労働の担い手、個人としては老後資金の補填のためと語られることが多いが、その働き方は企業の対応如何ではなく、現役時代とは違うスタイルに変わるのだそうだ。短時間勤務や自営などに転じ、意識が学びや社会活動、家庭、趣味に振り向けられると知って安堵した。それにより人生の充足感も得ている、皆がそうなることを願う。
読了日:01月17日 著者:坂本 貴志
ムスコ物語の感想
母に続き息子デルス君にまつわるエッセイ、こちらも興味深かった。マリさんと伴侶の決断に伴って世界を転々とする生活を強制されたことは、日本では奇特な性質を息子に備えた。マリさんはボヘミアンという捉えかたで書いたが、あとがきにデルス君は無謀な親たちに翻弄される成り行きを我慢していたと書き、母の思い及ばないくらい、母親の影響力というものは絶大なのだと知れる。ともあれ今後が楽しみな青年だ。NHKの番組に出演しては各国の著名人と語り合うマリさんが、差別や理不尽な出来事に遭うたび悪態をつきまくるのが意外かつ好ましい。
読了日:01月14日 著者:ヤマザキ マリ
ダンス・イン・ザ・ファーム 周防大島で坊主と農家と他いろいろの感想
地方移住の、ひとつのケース。ミュージシャン稼業が行き詰ってからの転身である。周防大島への移住も農業も、著者より奥さんに先見の明があったと言うべきか。移住し、比較的若手として地域の担い手となり、人の役に立つ。だけなら、こういう人生でなければ私も選んだかもしれないと思う。しかし、それだけでなく人を集めるイベントを企画して、地域や個人の営みを活性化し、またタルマーリーや森田真生氏ら、志向の合った人々が繋がっていくダイナミズムが、私には縁遠いものと感じる。ともあれ、やれそうなことをなんでもやってみる心意気は大事。
読了日:01月13日 著者:中村明珍
集まる場所が必要だ――孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学の感想
頼れるのは遠くの親戚より近くの他人。生活や街の設計は気になっている。著者は社会的インフラの持つ機能と重要性を説く。人々の対面での交流を促進するインフラは、住民の交流や互助行動を増やし、結果として人々のQOLを向上させる。そのための施設を新規に建てるのではなく、既にあるインフラに交流機能を持たせる、また違う機能を持つ施設を掛け合わせるなどの取組が目覚ましい。営利目的ではなく、遠慮や警戒をせずにいることができる、異質な人々がなにかを共有できる場所って大事。市民農園や緑地でもよいのだ。大事なのは排除しないこと。
読了日:01月06日 著者:エリック・クリネンバーグ
おやじはニーチェ: 認知症の父と過ごした436日の感想
去年ショーペンハウアーで締めたので、明けはニーチェで。周りがこれは認知症だと思ったら認知症なのだそうだ。著者は体は元気な認知症の父と同居することになる。目を離せないから、理不尽さに怒りながらも対話を繰り返す。その反応を理解したいと認知症関連をはじめ言語学、古典文学、哲学まで書籍を読み漁る。父をハムレットに重ね見るあたりなど、つい「まさに!」と納得しかけたが、やっぱりその人の元々の性格じゃないですか。幸か不幸かすぐ忘れるから、試行錯誤しながらやっていける。『忘れるということは、なんとよいことだろう』、か。
読了日:01月03日 著者:髙橋 秀実
巡礼の感想
物語はゴミ屋敷から始まる。臭いや不衛生も当然ながら、主の理解不能な行動に近隣の人々は苛立っている。拾い集めてまでゴミを溜め込む行為は確かに理解不能なのだが、顔の見える距離に暮らしていても、だらしないの悪いのと表層的に切り捨てて、元より知ろうともしない関係性が、皆を追い込んでいく。そして主に視点が移る。昭和らしい一家の年月。誰が悪いわけでもなく、人と人がただやっていくことが難しい。人の業や掛け違い、こじれた記憶が具現化したのだ。守る義務を課せられた者が家に絡めとられるやるせなさ。最後には手放せて良かった。
読了日:01月01日 著者:橋本 治
注:は電子書籍で読んだ本。
あれもこれも面白そうだとは思ったものの、
人は皆嗜好/指向が違うものだという事実は忘れずに読む本を選びたい。
あと、深さもある程度見当をつけられるはずなので、
話題の本でも底の見当がつくものには手を出さないようにしたい。
と言った端から買ってしまった。
<今月のデータ>
購入14冊、購入費用13,636円。
読了13冊。
積読本321冊(うちKindle本159冊)。
武漢コンフィデンシャルの感想
フィクションである。不謹慎か。でも面白かった。武漢という土地は中国の要衝として歴史が深く、病毒研究所も擁するとあっては、そちら系の人々が水面下で血眼になった様が改めて想像される。新型コロナの蔓延さなか、手嶋さんの血も騒いだのだろう。2019年の武漢をプロローグに、列強に蝕まれた時代の武漢、ワシントンDCの炭疽菌テロ、日本陸軍の七三一部隊、雨傘運動下の香港と、各国を股にかけて物語は進む。たくましく、また美しいひとの物語。しかしいつもの幅広い知識・教養が騒々しい。大国の遣りくちに甲斐なくもため息が出た。
読了日:01月31日 著者:手嶋 龍一
首都消失 (徳間文庫)の感想
1983-84年の新聞連載小説。東京、ブラックアウト。通信も交通も遮断される。日本ごと沈めなくとも、首都を機能不全にしただけで国の存在すら危うくなる。その設定の下に描かれるのは、打ちひしがれる国民ではなく、日本の未来のために闘う男たちだ。戦後の混乱を見た壮年と、知らず現状に憤る若者の反発も絡めつつ、日本国家が民主主義と独立を維持するために何をやらなければならないかの模擬が続く。なかでも防衛(外交)は熾烈な捻じ込みが続き、日本の平和というやつの脆さが強調される。やりすぎに感じるが、当時の共通認識だったのか。
読了日:01月24日 著者:小松左京
帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年 (集英社文庫)の感想
福島県浪江町、旧津島村。2011年の原発事故による放射能汚染がひどく、住民の帰還の見通しが立たないまま10年が経過した。朝日の連載。600年の歴史がある旧家も、旧満州から引き揚げた人々が命がけで開拓した田畑も、住民が戻ることなく朽ち、草木に覆われていった。故郷を『予期せぬ理由で一方的にはく奪される』痛みが全編に滲む。詮無い仮定だが、もし、戻れる目処が示されていたら、痛みは和らいだか。人々はもっと帰還できたか。今の能登に既視感を覚える。必ず故郷に戻れると、国が被災者に明言しなきゃ、離れられないだろうに。
読了日:01月22日 著者:三浦 英之
自閉症の僕が跳びはねる理由 (角川文庫)の感想
自閉症の人と私はどこが違うのだろう。そのヒントがあれば、接するとっかかりも得られるかもと思った。しかし、五感の知覚、言語や記憶処理、感情制御などどれも私とは違う形で発達しているらしい。知性が劣るとか鈍いとか、そういうことではない。人の目を見て発話できないのは私と同じ。わかっていても「できない」。この本は文章による表現という手段を手に入れた著者が13歳の時に書いた。この本の出版を、自閉症の子供を持った世界中の親たちは歓迎したという。子供の心の内面や行動の理由を理解したい。その手掛かりを得たい切実さを想った。
読了日:01月21日 著者:東田 直樹
シャンタラム(中) (新潮文庫)の感想
なんということ。辛すぎる。失われた笑顔、失われた友情。ムンバイは違いすぎる人間がごった混ぜかつ過密だけど、自分以外の人間がいるから生きていけることを強烈に思わせる。裏切りも投獄も、苦境から舞い戻るリンの姿はかっこよすぎるくらいだ。しかし愛する人を失ったリンの、なんと弱っちいことか。『インド人みたいな心はどこにもない』。歌い、踊り、楽しむことを彼らは独りでやらない。いつも誰かと、誰かのためにやっている。自分で選んだことも、誰かが選んだことによって自分が変わることも、全て編み上げるように人生は進んでいくのだ。
読了日:01月21日 著者:グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
動画でわかる ヒモトレ入門の感想
母が脚に違和感を覚えているので対処を教えようと思い、前に読んだ「ヒモトレ革命」を探したが誰に貸したままなのか見当たらない。もはや本屋にも置かれていないので、別のを取り寄せた。ごく薄いが、ひもを使ったトレーニング方法とひも巻きのエッセンスはこれで十分。思いもかけない異分野の専門家たちが、実際にひもを使った効果を言語化しているのは非常に興味深い。身体にまつわる職業がら、素人のぼんやりした感覚とは精度が違う、"変化"が瞬時に知覚されるようなのだ。なんと不思議な人体。ともあれ、まずは巻いてみて、実感してもらおう。
読了日:01月19日 著者:小関 勲
アナキズム入門 (ちくま新書1245)の感想
アナキズムって何。という疑問から。国家や権力というものがいつの時代も公平でない以上、それらへの反発や怒り、闘争を元とするアナキズムは、国家と同じだけ歴史を持つ概念ということになる。言葉で抽象的に突き詰めるのは好きじゃないし、その歴史にもあまり興味はなかったのだが、面白かった。狭義では政府や権力集中の否定、ただ広義にはコモンなど馴染みのある意味合いになる。そして人生を労働、生活、地域、自然環境に密接なものと前提して考えることは、私が普段感じていることごとと親和性が高い。クロポトキン。ルクリュ。気になる。
読了日:01月18日 著者:森 元斎
ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う (講談社現代新書)の感想
平均余命までの長い"定年後"を日本人はどう暮らそうとするか。企業の定年規定も年金受給も続々後ろ倒しになり、現役時代と変わらずフルタイムで束縛されて働くなんて人生は気が滅入る。老年期に入っても社会からは労働の担い手、個人としては老後資金の補填のためと語られることが多いが、その働き方は企業の対応如何ではなく、現役時代とは違うスタイルに変わるのだそうだ。短時間勤務や自営などに転じ、意識が学びや社会活動、家庭、趣味に振り向けられると知って安堵した。それにより人生の充足感も得ている、皆がそうなることを願う。
読了日:01月17日 著者:坂本 貴志
ムスコ物語の感想
母に続き息子デルス君にまつわるエッセイ、こちらも興味深かった。マリさんと伴侶の決断に伴って世界を転々とする生活を強制されたことは、日本では奇特な性質を息子に備えた。マリさんはボヘミアンという捉えかたで書いたが、あとがきにデルス君は無謀な親たちに翻弄される成り行きを我慢していたと書き、母の思い及ばないくらい、母親の影響力というものは絶大なのだと知れる。ともあれ今後が楽しみな青年だ。NHKの番組に出演しては各国の著名人と語り合うマリさんが、差別や理不尽な出来事に遭うたび悪態をつきまくるのが意外かつ好ましい。
読了日:01月14日 著者:ヤマザキ マリ
ダンス・イン・ザ・ファーム 周防大島で坊主と農家と他いろいろの感想
地方移住の、ひとつのケース。ミュージシャン稼業が行き詰ってからの転身である。周防大島への移住も農業も、著者より奥さんに先見の明があったと言うべきか。移住し、比較的若手として地域の担い手となり、人の役に立つ。だけなら、こういう人生でなければ私も選んだかもしれないと思う。しかし、それだけでなく人を集めるイベントを企画して、地域や個人の営みを活性化し、またタルマーリーや森田真生氏ら、志向の合った人々が繋がっていくダイナミズムが、私には縁遠いものと感じる。ともあれ、やれそうなことをなんでもやってみる心意気は大事。
読了日:01月13日 著者:中村明珍
集まる場所が必要だ――孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学の感想
頼れるのは遠くの親戚より近くの他人。生活や街の設計は気になっている。著者は社会的インフラの持つ機能と重要性を説く。人々の対面での交流を促進するインフラは、住民の交流や互助行動を増やし、結果として人々のQOLを向上させる。そのための施設を新規に建てるのではなく、既にあるインフラに交流機能を持たせる、また違う機能を持つ施設を掛け合わせるなどの取組が目覚ましい。営利目的ではなく、遠慮や警戒をせずにいることができる、異質な人々がなにかを共有できる場所って大事。市民農園や緑地でもよいのだ。大事なのは排除しないこと。
読了日:01月06日 著者:エリック・クリネンバーグ
おやじはニーチェ: 認知症の父と過ごした436日の感想
去年ショーペンハウアーで締めたので、明けはニーチェで。周りがこれは認知症だと思ったら認知症なのだそうだ。著者は体は元気な認知症の父と同居することになる。目を離せないから、理不尽さに怒りながらも対話を繰り返す。その反応を理解したいと認知症関連をはじめ言語学、古典文学、哲学まで書籍を読み漁る。父をハムレットに重ね見るあたりなど、つい「まさに!」と納得しかけたが、やっぱりその人の元々の性格じゃないですか。幸か不幸かすぐ忘れるから、試行錯誤しながらやっていける。『忘れるということは、なんとよいことだろう』、か。
読了日:01月03日 著者:髙橋 秀実
巡礼の感想
物語はゴミ屋敷から始まる。臭いや不衛生も当然ながら、主の理解不能な行動に近隣の人々は苛立っている。拾い集めてまでゴミを溜め込む行為は確かに理解不能なのだが、顔の見える距離に暮らしていても、だらしないの悪いのと表層的に切り捨てて、元より知ろうともしない関係性が、皆を追い込んでいく。そして主に視点が移る。昭和らしい一家の年月。誰が悪いわけでもなく、人と人がただやっていくことが難しい。人の業や掛け違い、こじれた記憶が具現化したのだ。守る義務を課せられた者が家に絡めとられるやるせなさ。最後には手放せて良かった。
読了日:01月01日 著者:橋本 治
注:は電子書籍で読んだ本。
2024年01月05日
2023年の総括
2023年、読んだ本の冊数は170冊。
購入費用156,650円。
積読本320冊(うちKindle本157冊)。
ゴリラにせよインドにせよ、自分が世界を捉える視野の枠組ごと変えてみることは、相手の立場になって考えるとか、異なる切り口を探るなどの方法よりも、劇的にものの見えかたを変えると知った。意識して、一時的にでもフレームを替えることができれば、思いもかけなかった発想が現れる確率が高まると頭に留め、心がけたい。
また、西洋的な現代の思想の流れは片耳で追いつつ、西洋的でないもの、日本の古典を含め、アジアやアフリカ、各地の少数民族の思想を意識的に選んで読みたい。
2024年も良い本に出会えますように。
2023年、私の心に留まった本たち。
<人間は自然に敵わない>
園芸家の一年 (平凡社ライブラリー)
カレル チャペック
土を育てる: 自然をよみがえらせる土壌革命
ゲイブ・ブラウン
土と内臓―微生物がつくる世界
デイビッド・モントゴメリー,アン・ビクレー
家は生態系―あなたは20万種の生き物と暮らしている
ロブ・ダン
巨大津波は生態系をどう変えたか―生きものたちの東日本大震災 (ブルーバックス)
永幡 嘉之
<西洋的なものへの違和感の自覚>
いのちの教室
ライアル・ワトソン
人類の星の時間
シュテファン・ツヴァイク
<和への賛美>
お茶人のための 茶花の野草大図鑑 改訂普及版
宗匠
新編 日本の面影 (角川ソフィア文庫)
ラフカディオ・ハーン
<小説だから表現できるもの>
楢山節考 (新潮文庫)
深沢 七郎
シャンタラム(上) (新潮文庫)
グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
太陽の黄金(きん)の林檎〔新装版〕 (ハヤカワ文庫SF)
レイ ブラッドベリ
2024年01月05日
2023年12月の記録
2023年の総括文をそろそろ考えなければと思い、
2022年の総括を読み返して腰を抜かしそうになった。
『月に1冊でいいから、古典、智の源と称される本に取り組むことを目標に』、
なんて3月の時点で忘れ果てている。
とりあえずショーペンハウアーで締めてみた。
忘却は加速度的に早まっている。
<今月のデータ>
購入12冊、購入費用8,844円。
読了15冊。
積読本320冊(うちKindle本157冊)。
読書について (光文社古典新訳文庫)の感想
10年積んでいた。難解やろなあ、自省を迫られるんやろなと尻込みしていたからで、彼が19世紀のドイツ人であることも知らなかったのだ。さて、主著の注釈として書かれた論集の一部である。切れ味良くも深い類の文章で、わかりやすい。自分が誤りとする対象に対して手厳しい。というより最早罵っている。19世紀半ば、当地では通俗的で底の浅い娯楽本などが流行しており、真に良いものが廃れることを危惧していたと解説にある。今の日本でもありそうな現象を、「ドイツ人という国民はまったく」の調子で批判するあたりも面白い。多読の戒め。
読了日:12月29日 著者:アルトゥール ショーペンハウアー
君が戦争を欲しないならば (岩波ブックレット)の感想
岡山県での講演から。高畑さんは9歳の時、岡山の大空襲に遭っていた。その体験が明瞭な表現で語られる。焼夷弾の落ちかたや焼けかたは「火垂るの墓」に正確に描かれた。しかし体験を語ってはこなかった。それは、自分たちが受けた悲惨な体験を語っても、これから突入していくかもしれない戦争を防止することにはならないから、と言う意味は深い。空襲が即ち一般人に対する無差別攻撃であることは、今のガザを見れば疑いない。だからと被害を強調するのではなく、平和を保つ努力、戦争をしない努力をひたすら続けるほうが、戦争を遠ざける道なのだ。
読了日:12月27日 著者:高畑 勲
夜明け前(が一番暗い)の感想
ひとつひとつ忘れている訳ではないが、この4年間に国政がしでかした数多の愚策失策奸策を一挙に並べると、奈落に臨む崖の縁が風化して大きく欠け落ちていくような寒々しい気分になった。しかし表題は「夜明け前(が一番暗い)」だ。今は暗くとも、ここから明るくなるのだよというニュアンスがある。長く生きれば「たいへんな時代」が前にもあったことを覚えているから絶望的にはならないのだと内田先生は言う。『歴史はそこそこ合理的に推移している』という経験が私には無い。だから個人レベルでくらいは親切な人であろうと思うのかもしれない。
読了日:12月26日 著者:内田 樹
根に帰る落葉はの感想
根に帰る落ち葉。南木さんは私の親の同世代だ。自身の人生の終いを意識した文章が多くなった。それでも私の行く先を照らしてくれる言葉は健在で、人間のからだというものは揺れるものだと、死に向けて絶え間なく老いていくもの、しかしつよいものだと教えてくれる。『記憶をおのれに都合よく改編しつつしたたかに生きのびている』。意に沿わない記憶の改ざんもまた、生き抜くためのスキルと受け入れていい。夫婦での登山の文章にある『人間ドックの検査結果説明では禁煙と歩くことの大切さ以外に、受診者に伝えることはほとんどない』も肝に銘ずる。
沁みた一文。『東京へ、東北へと帰る友の乗るタクシーを見送った夜空に膨らんだ月が重なって出ていた。あえて酔眼を凝らす必要もないので、二つの月をそのままにし、冷えた夜気を胸が痛くなるまで深く吸ってため息をつき、とりあえず今生きて在る事実を確認してみた』。
読了日:12月25日 著者:南木 佳士
森の力 植物生態学者の理論と実践 (講談社現代新書)の感想
日本の本来の森(原植生)は現代の日本にほとんど残っておらず、あとは全て人間が改変したもの(現存植生)だという。少なくとも広葉樹林は、本物の森だと私は思っていたが、自然な森ではないと知った。著者は何十年も各地の現地植生調査を行ない、もともと生育していた土地本来の木(潜在自然植生)を突き止め、その苗を多層になるよう、また競争原理が働く形で密植することによって、「人間が管理せずとも維持できる森」を早く生育させる方式を編み出した。長期の観察から導かれる論理は強い。とりあえず神社の鎮守の森を見に行こう。それが本物。
読了日:12月23日 著者:宮脇 昭
新ドリトル先生物語 ドリトル先生ガラパゴスを救うの感想
愛だなあ。福岡センセが好きなものをいっぱいに詰め込んだ物語。ドリトル先生とスタビンズ君たち、センスオブワンダーの数々、フェルメールとレーウェンフック、それに念願のガラパゴス諸島でのエピソードももちろんてんこ盛りだ。伝説のナチュラリスト、ダーウィンさんも出てきちゃうもんね。自然の不思議もいくつも出てきているので、興味を持って自然科学を志す子供がここから現れたら素敵だな。ガラパゴス諸島での活動はごく一部だけど、そこまでが大冒険だったし、その後もアッと驚く大冒険。ゾウガメを撫でたら10ペソのところが好き。
読了日:12月22日 著者:福岡伸一
忘れる読書 (PHP新書)の感想
『むしろ忘れるために本を読んでいます』なんて格好いい。でもそれは、若い頃からそういう素地を養えたから。この人はほんとうに頭が良いのだと感じる一方、この人の本はこれ以上読まないでおこうと決める。この卓抜した頭脳が深く潜ろうとしているのは、イメージはできるが、私が全く関心を持てない方向だ。六本木から通学だったのか。それを読む時間に充てられたのはすごい。私なら寝る。ペデ沿いの古書店街で漁った、パラフィン紙に包まれた岩波文庫を思い出す。若造には理解できなかったものを、今ならきっと感じ取れる。読み返したくなった。
読了日:12月21日 著者:落合 陽一
池上彰の世界の見方 インド: 混沌と発展のはざまでの感想
無駄にため込んだ断片的な知識を系統立てる、また増強するために。中学校での授業がベースだけあって平易でわかりやすい。宗教、識字率、人口分布を数字で見ることや、生活システムとしてのカースト制、ジャーティへの近代化の影響など、理解が深まる。差別や格差など課題が多い一方で、その多様さ、豊かさゆえの凄まじいエネルギーには期待せずにいられない。仏教はインドでは衰退しているが、日本の一部宗派のお経の詠唱には、インド映画で聴く音楽の節回しに似たものを感じるときがあって、ヒンドゥー教も多神教だし、勝手につながりを感じる。
イギリスはインドとパキスタンの間のみならず、インドと中国の間にも勝手に国境線を引いたのか。パレスチナ/イスラエルといい、なんと罪つくりな。近頃はアフリカからフランス軍が叩き出されているようで、こういう禍根を乗り越えながら、新しい和解が生まれるのだと信じたい。
理解が深まったメモ。「バジュランギおじさんと、小さな迷子」の、印パ問題の根深さ。「きっとうまくいく」の、IITのエリートさと厳しさ。「あなたの名前を呼べたなら」の、寡婦差別。「パドマーワト」の、ジャーハルの理不尽さ。もう一度映画を観直したくなる。そういえば「響け!情熱のムリダンガム」も確か、ジャーティが深くかかわったテーマだったはず。観たいなあ。そういえば池上さんは無いと言い切っていたけれど、映画カーストはあります。新しいカーストは生まれうるということか…。
読了日:12月20日 著者:池上 彰
巡礼の家の感想
道後湯之町、道後温泉。先日泊まった旅館のそこここに、この小説が置いてあった。天童さんが高校時代まで暮らしただけでなく、その後今に至るまで交流を続けているからと知った。呑みながら読んでいたので、この世界はなんて残酷なんだろうと涙が止まらなくなった。事故も自然災害も民族紛争も、容赦なく大切な者を奪っていく。その傷んだ心が癒えるには、時間だけじゃ足りないのだ。人間同士の温かい気持ち、それが最高の手当てだ。身体も心も癒える場所としての道後。ユートピアのような遍路宿"さぎのや"に、天童さんの理想と願いをみる。
読了日:12月16日 著者:天童 荒太
世界で一番美しい人体図鑑の感想
テレビで紹介されていて気になった図鑑。絵の精緻さ、人体の組織の精巧さが相まって溜息がこぼれる。スケルトンシートで重ねている部分が見どころで、表にめくったり裏にめくったり戻ったりと眺めて楽しい。各部位の名称や機能は、ビジュアルを損なわないようにかそれほど細かく書き込まれていない。そもそも、自分の身体に不調があるとき、それがどのあたりなのか見当をつけるために自宅に備えつけておくつもりだった。今朝は骨盤の内側に違和感があって、図鑑によると小腸から大腸につながるあたり。これはあれだなと、マッサージしておきました。
読了日:12月14日 著者:
任せるコツの感想
「正しい丸投げ」の方法論。使っている言葉は易しいが、実は深く、真面目なリーダーシップ論、マネジメント論として、わかりやすくて良かった。望まず中間管理職になった社員の目に触れるよう置いておこうと買い、読み出したら自分がひりひりする羽目になった。社員に仕事を任せるノウハウもそうだけど『育成の最終ゴールは、自分が不要になること』。あの人仕事してないんじゃね?と思われるような人にならないと実はぜんぜん安泰じゃない。未来工業の創業者は「社員には"餅"を与える」と言った。任せることも、"餅"のひとつなのだと思った。
読了日:12月13日 著者:山本 渉
ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」の感想
毎日新聞の連載、加筆修正。人間がゴリラやチンパンジー、サルとの共通祖先と分かれて700万年。その間にそれぞれ営みや集団のありかたを発達させてきた。彼らに関する知見をもって山極さんが見た人間社会の特性は、結論はごく良識的なものながら、切り口で新鮮に感じる。脳の大きさと、集団の平均サイズは相関する。人間の脳は格段に大きくなった。そこから導かれる適正な社会的集団の大きさは150人。深いやりとりをしながら維持できる共鳴集団では10~15人。これをより大人数で運営・管理しようとするから、無理や歪み、格差が出る訳だ。
読了日:12月12日 著者:山極 寿一
シャンタラム(上) (新潮文庫)の感想
夢中。オーヴァーアンダーパンツとかベアハグとか文化摩擦が面白過ぎる。なかでもインド映画でよく見る首振り×笑顔についての考察が大好きだ。自分でやってみると、肩から上の力を抜かないとできないのがわかる。スラムの人口密度は、他の国の都市とはけた違いに高い。欧米人をこの密度に詰め込んだら絶対やってゆけないという主旨の台詞がある。そうならない対人スキルや利他のシステムやがインド人にはあるのだ。ノワールな人生、なのに温かく笑顔に満ちて愛おしい。稚いタリク登場。この素敵なスラムの生活はまだ続いてくれるだろうか。中巻へ。養老先生が面白いと公言されていた小説。インドのスラムが舞台なのが珍しいだけではない。文化の違いに困惑したり、交流を楽しんでいるだけでもない。生まれや立場や来し方の違う人々が互いを受け入れる、理解し合う、愛おしい営みが描かれている。どういう経歴の人が書いているのだろうと奥付を見ると、ほとんど物語と一緒じゃん! どういうこと、これって実話なの?
読了日:12月09日 著者:グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
笑いのある世界に生まれたということ (講談社+α新書)の感想
兼近はなんか好きだ。中野信子も好きだ。二人のガチンコ対談は、とても面白かった。中野先生と生徒兼近。兼近先生と生徒中野。遠慮なしで釣り合って見えるのは絶妙だ。同時に、二人が慎重に狙い定めた戦略に、完全に自分がはめられていると気づいて笑ってしまう。笑う行為は人類が生き延びるために手に入れた特性、生来持っているHappy Pillsであり、人間社会を円滑にするための高度な技術でもある。その深遠を、彼は探っているのだな。それぞれのあとがきのちぐはぐ感がまた意外で、興味深い。同じ時代を生きる者として愛おしく思う。
読了日:12月06日 著者:中野 信子,兼近 大樹
帝国の亡霊、そして殺人 (ハヤカワ・ミステリ)の感想
インド気分を味わうのにちょうどよいミステリ。イギリスからの独立、さらにパキスタン分離独立後のインドは、イギリスの失策ゆえに禍根を残し、恰好の不穏な舞台になる。著者はパキスタン出身の両親を持つイギリス人。インドは支配構造、身分、宗教、性別格差と複合的な社会なので、何からでも動機や障壁にできる。顔立ちが良いと設定されるキャラが多く、ラーム・チャラン、SRKなど脳内設定が忙しい。インドらしい小ネタは満載で楽しいけれど、ゾロアスター教徒設定の主人公といい、西洋的すぎるのが気になる。しゅっとしすぎているのが欠点。
読了日:12月04日 著者:ヴァシーム・カーン
注:は電子書籍で読んだ本。
2022年の総括を読み返して腰を抜かしそうになった。
『月に1冊でいいから、古典、智の源と称される本に取り組むことを目標に』、
なんて3月の時点で忘れ果てている。
とりあえずショーペンハウアーで締めてみた。
忘却は加速度的に早まっている。
<今月のデータ>
購入12冊、購入費用8,844円。
読了15冊。
積読本320冊(うちKindle本157冊)。
読書について (光文社古典新訳文庫)の感想
10年積んでいた。難解やろなあ、自省を迫られるんやろなと尻込みしていたからで、彼が19世紀のドイツ人であることも知らなかったのだ。さて、主著の注釈として書かれた論集の一部である。切れ味良くも深い類の文章で、わかりやすい。自分が誤りとする対象に対して手厳しい。というより最早罵っている。19世紀半ば、当地では通俗的で底の浅い娯楽本などが流行しており、真に良いものが廃れることを危惧していたと解説にある。今の日本でもありそうな現象を、「ドイツ人という国民はまったく」の調子で批判するあたりも面白い。多読の戒め。
読了日:12月29日 著者:アルトゥール ショーペンハウアー
君が戦争を欲しないならば (岩波ブックレット)の感想
岡山県での講演から。高畑さんは9歳の時、岡山の大空襲に遭っていた。その体験が明瞭な表現で語られる。焼夷弾の落ちかたや焼けかたは「火垂るの墓」に正確に描かれた。しかし体験を語ってはこなかった。それは、自分たちが受けた悲惨な体験を語っても、これから突入していくかもしれない戦争を防止することにはならないから、と言う意味は深い。空襲が即ち一般人に対する無差別攻撃であることは、今のガザを見れば疑いない。だからと被害を強調するのではなく、平和を保つ努力、戦争をしない努力をひたすら続けるほうが、戦争を遠ざける道なのだ。
読了日:12月27日 著者:高畑 勲
夜明け前(が一番暗い)の感想
ひとつひとつ忘れている訳ではないが、この4年間に国政がしでかした数多の愚策失策奸策を一挙に並べると、奈落に臨む崖の縁が風化して大きく欠け落ちていくような寒々しい気分になった。しかし表題は「夜明け前(が一番暗い)」だ。今は暗くとも、ここから明るくなるのだよというニュアンスがある。長く生きれば「たいへんな時代」が前にもあったことを覚えているから絶望的にはならないのだと内田先生は言う。『歴史はそこそこ合理的に推移している』という経験が私には無い。だから個人レベルでくらいは親切な人であろうと思うのかもしれない。
読了日:12月26日 著者:内田 樹
根に帰る落葉はの感想
根に帰る落ち葉。南木さんは私の親の同世代だ。自身の人生の終いを意識した文章が多くなった。それでも私の行く先を照らしてくれる言葉は健在で、人間のからだというものは揺れるものだと、死に向けて絶え間なく老いていくもの、しかしつよいものだと教えてくれる。『記憶をおのれに都合よく改編しつつしたたかに生きのびている』。意に沿わない記憶の改ざんもまた、生き抜くためのスキルと受け入れていい。夫婦での登山の文章にある『人間ドックの検査結果説明では禁煙と歩くことの大切さ以外に、受診者に伝えることはほとんどない』も肝に銘ずる。
沁みた一文。『東京へ、東北へと帰る友の乗るタクシーを見送った夜空に膨らんだ月が重なって出ていた。あえて酔眼を凝らす必要もないので、二つの月をそのままにし、冷えた夜気を胸が痛くなるまで深く吸ってため息をつき、とりあえず今生きて在る事実を確認してみた』。
読了日:12月25日 著者:南木 佳士
森の力 植物生態学者の理論と実践 (講談社現代新書)の感想
日本の本来の森(原植生)は現代の日本にほとんど残っておらず、あとは全て人間が改変したもの(現存植生)だという。少なくとも広葉樹林は、本物の森だと私は思っていたが、自然な森ではないと知った。著者は何十年も各地の現地植生調査を行ない、もともと生育していた土地本来の木(潜在自然植生)を突き止め、その苗を多層になるよう、また競争原理が働く形で密植することによって、「人間が管理せずとも維持できる森」を早く生育させる方式を編み出した。長期の観察から導かれる論理は強い。とりあえず神社の鎮守の森を見に行こう。それが本物。
読了日:12月23日 著者:宮脇 昭
新ドリトル先生物語 ドリトル先生ガラパゴスを救うの感想
愛だなあ。福岡センセが好きなものをいっぱいに詰め込んだ物語。ドリトル先生とスタビンズ君たち、センスオブワンダーの数々、フェルメールとレーウェンフック、それに念願のガラパゴス諸島でのエピソードももちろんてんこ盛りだ。伝説のナチュラリスト、ダーウィンさんも出てきちゃうもんね。自然の不思議もいくつも出てきているので、興味を持って自然科学を志す子供がここから現れたら素敵だな。ガラパゴス諸島での活動はごく一部だけど、そこまでが大冒険だったし、その後もアッと驚く大冒険。ゾウガメを撫でたら10ペソのところが好き。
読了日:12月22日 著者:福岡伸一
忘れる読書 (PHP新書)の感想
『むしろ忘れるために本を読んでいます』なんて格好いい。でもそれは、若い頃からそういう素地を養えたから。この人はほんとうに頭が良いのだと感じる一方、この人の本はこれ以上読まないでおこうと決める。この卓抜した頭脳が深く潜ろうとしているのは、イメージはできるが、私が全く関心を持てない方向だ。六本木から通学だったのか。それを読む時間に充てられたのはすごい。私なら寝る。ペデ沿いの古書店街で漁った、パラフィン紙に包まれた岩波文庫を思い出す。若造には理解できなかったものを、今ならきっと感じ取れる。読み返したくなった。
読了日:12月21日 著者:落合 陽一
池上彰の世界の見方 インド: 混沌と発展のはざまでの感想
無駄にため込んだ断片的な知識を系統立てる、また増強するために。中学校での授業がベースだけあって平易でわかりやすい。宗教、識字率、人口分布を数字で見ることや、生活システムとしてのカースト制、ジャーティへの近代化の影響など、理解が深まる。差別や格差など課題が多い一方で、その多様さ、豊かさゆえの凄まじいエネルギーには期待せずにいられない。仏教はインドでは衰退しているが、日本の一部宗派のお経の詠唱には、インド映画で聴く音楽の節回しに似たものを感じるときがあって、ヒンドゥー教も多神教だし、勝手につながりを感じる。
イギリスはインドとパキスタンの間のみならず、インドと中国の間にも勝手に国境線を引いたのか。パレスチナ/イスラエルといい、なんと罪つくりな。近頃はアフリカからフランス軍が叩き出されているようで、こういう禍根を乗り越えながら、新しい和解が生まれるのだと信じたい。
理解が深まったメモ。「バジュランギおじさんと、小さな迷子」の、印パ問題の根深さ。「きっとうまくいく」の、IITのエリートさと厳しさ。「あなたの名前を呼べたなら」の、寡婦差別。「パドマーワト」の、ジャーハルの理不尽さ。もう一度映画を観直したくなる。そういえば「響け!情熱のムリダンガム」も確か、ジャーティが深くかかわったテーマだったはず。観たいなあ。そういえば池上さんは無いと言い切っていたけれど、映画カーストはあります。新しいカーストは生まれうるということか…。
読了日:12月20日 著者:池上 彰
巡礼の家の感想
道後湯之町、道後温泉。先日泊まった旅館のそこここに、この小説が置いてあった。天童さんが高校時代まで暮らしただけでなく、その後今に至るまで交流を続けているからと知った。呑みながら読んでいたので、この世界はなんて残酷なんだろうと涙が止まらなくなった。事故も自然災害も民族紛争も、容赦なく大切な者を奪っていく。その傷んだ心が癒えるには、時間だけじゃ足りないのだ。人間同士の温かい気持ち、それが最高の手当てだ。身体も心も癒える場所としての道後。ユートピアのような遍路宿"さぎのや"に、天童さんの理想と願いをみる。
読了日:12月16日 著者:天童 荒太
世界で一番美しい人体図鑑の感想
テレビで紹介されていて気になった図鑑。絵の精緻さ、人体の組織の精巧さが相まって溜息がこぼれる。スケルトンシートで重ねている部分が見どころで、表にめくったり裏にめくったり戻ったりと眺めて楽しい。各部位の名称や機能は、ビジュアルを損なわないようにかそれほど細かく書き込まれていない。そもそも、自分の身体に不調があるとき、それがどのあたりなのか見当をつけるために自宅に備えつけておくつもりだった。今朝は骨盤の内側に違和感があって、図鑑によると小腸から大腸につながるあたり。これはあれだなと、マッサージしておきました。
読了日:12月14日 著者:
任せるコツの感想
「正しい丸投げ」の方法論。使っている言葉は易しいが、実は深く、真面目なリーダーシップ論、マネジメント論として、わかりやすくて良かった。望まず中間管理職になった社員の目に触れるよう置いておこうと買い、読み出したら自分がひりひりする羽目になった。社員に仕事を任せるノウハウもそうだけど『育成の最終ゴールは、自分が不要になること』。あの人仕事してないんじゃね?と思われるような人にならないと実はぜんぜん安泰じゃない。未来工業の創業者は「社員には"餅"を与える」と言った。任せることも、"餅"のひとつなのだと思った。
読了日:12月13日 著者:山本 渉
ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」の感想
毎日新聞の連載、加筆修正。人間がゴリラやチンパンジー、サルとの共通祖先と分かれて700万年。その間にそれぞれ営みや集団のありかたを発達させてきた。彼らに関する知見をもって山極さんが見た人間社会の特性は、結論はごく良識的なものながら、切り口で新鮮に感じる。脳の大きさと、集団の平均サイズは相関する。人間の脳は格段に大きくなった。そこから導かれる適正な社会的集団の大きさは150人。深いやりとりをしながら維持できる共鳴集団では10~15人。これをより大人数で運営・管理しようとするから、無理や歪み、格差が出る訳だ。
読了日:12月12日 著者:山極 寿一
シャンタラム(上) (新潮文庫)の感想
夢中。オーヴァーアンダーパンツとかベアハグとか文化摩擦が面白過ぎる。なかでもインド映画でよく見る首振り×笑顔についての考察が大好きだ。自分でやってみると、肩から上の力を抜かないとできないのがわかる。スラムの人口密度は、他の国の都市とはけた違いに高い。欧米人をこの密度に詰め込んだら絶対やってゆけないという主旨の台詞がある。そうならない対人スキルや利他のシステムやがインド人にはあるのだ。ノワールな人生、なのに温かく笑顔に満ちて愛おしい。稚いタリク登場。この素敵なスラムの生活はまだ続いてくれるだろうか。中巻へ。養老先生が面白いと公言されていた小説。インドのスラムが舞台なのが珍しいだけではない。文化の違いに困惑したり、交流を楽しんでいるだけでもない。生まれや立場や来し方の違う人々が互いを受け入れる、理解し合う、愛おしい営みが描かれている。どういう経歴の人が書いているのだろうと奥付を見ると、ほとんど物語と一緒じゃん! どういうこと、これって実話なの?
読了日:12月09日 著者:グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ
笑いのある世界に生まれたということ (講談社+α新書)の感想
兼近はなんか好きだ。中野信子も好きだ。二人のガチンコ対談は、とても面白かった。中野先生と生徒兼近。兼近先生と生徒中野。遠慮なしで釣り合って見えるのは絶妙だ。同時に、二人が慎重に狙い定めた戦略に、完全に自分がはめられていると気づいて笑ってしまう。笑う行為は人類が生き延びるために手に入れた特性、生来持っているHappy Pillsであり、人間社会を円滑にするための高度な技術でもある。その深遠を、彼は探っているのだな。それぞれのあとがきのちぐはぐ感がまた意外で、興味深い。同じ時代を生きる者として愛おしく思う。
読了日:12月06日 著者:中野 信子,兼近 大樹
帝国の亡霊、そして殺人 (ハヤカワ・ミステリ)の感想
インド気分を味わうのにちょうどよいミステリ。イギリスからの独立、さらにパキスタン分離独立後のインドは、イギリスの失策ゆえに禍根を残し、恰好の不穏な舞台になる。著者はパキスタン出身の両親を持つイギリス人。インドは支配構造、身分、宗教、性別格差と複合的な社会なので、何からでも動機や障壁にできる。顔立ちが良いと設定されるキャラが多く、ラーム・チャラン、SRKなど脳内設定が忙しい。インドらしい小ネタは満載で楽しいけれど、ゾロアスター教徒設定の主人公といい、西洋的すぎるのが気になる。しゅっとしすぎているのが欠点。
読了日:12月04日 著者:ヴァシーム・カーン
注:は電子書籍で読んだ本。
2023年12月05日
2023年11月の記録
この季節。
エアコンをつけ始めると、部屋の開口部は閉めなければならない。
猫たちは主張する。
廊下へ出たい! 部屋へ入りたい! 廊下へ出たい! 部屋へ入りたい!
開けてくれなきゃドアに爪を立てて自分で開けてみせる!
都度、私は立ちあがってドアを開けることを繰り返す。
座ってもすぐに呼ばれるので集中できず、苛々と本を撫でまわしている。
<今月のデータ>
購入14冊、購入費用11,269円。
読了10冊。
積読本330冊(うちKindle本159冊、Honto本3冊)。
Honto本、ちびちびと消化していたけれど、Booxも捨て、スマホで読む気も起きず、
諦めて放棄することにした。
「月は無慈悲な夜の女王」、「死の鳥」、「シベリア追跡」。
Kindleでいずれ買い直すことになりそう。
日本のコメ問題-5つの転換点と迫りくる最大の危機 (中公新書 2701)の感想
素人へのわかりやすさを心がけて書かれてはいるが、需給や政局により度重ねた政策変更には、素人の頭は追いつかない。つまり、技術の進歩に伴い、少ない労働力で多くの収穫が可能になった。需給から言えば米の収穫量はもう少し減ったほうが、米農家や米産業のためには良い、らしい。しかし余った田んぼをどうするか。小麦や大豆他への転作畑地化、また加工用米、飼料用米に切り替えてでも、いざというとき再び米をつくれる道が残された土地であってほしい。とは感傷か。そして飼料用米は経済的に成り立たない。補助金じゃぶじゃぶを是とするべきか。
田んぼとしての認定ルール。5年以内に、一度は水を張ること。それをしないと田んぼ認定が受けられず、補助金がもらえない。補助金は大きなインセンティヴとして機能してきた。だけど、余った田んぼの活用方法として植えた果樹や設置したビニールハウス、放牧した牛を除去するのは現実的でない。では何が田んぼで何が畑なのか?? もうわからん。補助金の問題が根深すぎて、にっちもさっちもいかない感じがする。とりあえず米も農作物も値上げしよう。スイーツに2,000円出せて、野菜の300円を高く感じるのは間違ってる。
読了日:11月29日 著者:小川 真如
ゾンビ化するアメリカ 時代に逆行する最高裁、州法、そして大統領選の感想
相変わらず日本人から見ると桁の外れた国だなあ。器がでかいようで、なんか生きにくそう。フロリダ州の「ザ・ヴィレッジズ」に度肝を抜かれる。高齢者限定の住宅を建ててつくった、裕福な高齢者限定のコミュニティ、住人は13万人。高齢者が余生を平穏に楽しく暮らすための街。そこまでやるのか。それって、欲求を純粋に求めた形とはいえ、人間社会としてすごく歪だと思う。幸せかな。政治ネタには溜息しか出ないけど、音楽や映画はそのさほど長くない歴史も多様性も映して、だから魅力的で、だから町山さんはアメリカが好きなんだろうと想像する。
「ガラスの天井」ならぬ「ガラスの崖(Glass Cliff)」が現れた。その企業が崖っぷちに追い詰められた時、女性や少数民族が経営陣に抜擢される現象とのこと。曰く、"独自の感性で画期的なアイデアが出ることを期待して"。それって、日本にも既にあるよな。今まで散々、男ばっかりで社会や会社を仕切ってきて、雲行きが怪しくなったら「女性の力」だの「女性らしい感性で」だの、調子の良い事この上ない。ましてや失敗したときには「ほらね」と言わんばかりに責任をなすりつけようとするとはどこまで女々しいのか。その手には乗らんぞ。
読了日:11月24日 著者:町山 智浩
老後を動物と生きるの感想
他者との交流や心身の自由が限られてくる老年期こそ、伴侶動物と暮らすべきだとずっと思ってきた。しかし日本では、安全面、衛生面、管理面などの障壁が先に立って、飼い犬/猫と一緒に入れる老人ホームなどは今も香川県内にはほぼ無い。この本は、老人福祉施設での動物飼育において、規定しておくべき要件のチェックリストや問題点についての論考集である。スイス、ドイツ、オーストリアにおいては、この本が出た2004年の時点で施設への動物受入れが格段に増えているとある。日本は訪問動物が限界だろうか。意地でも猫と離れず自宅で死にたい。
老年期に動物と暮らそうと思うと、人間が先に死んだ場合の備えがどうしたって必要になる。余生の飼養を引き受ける契約も民間団体レベルではあるが、システムとして不安定には違いなく、社会の仕組みとして確立できないものかと思う。外国ではティアハイムの延長として考える精神的素地があるが、日本ではブリーディングのように金儲け目的の悪徳業者がはびこりそうな気がして安心できない。うーん。
読了日:11月23日 著者:マリアンヌ ゲング,デニス・C. ターナー
あなたが私を竹槍で突き殺す前にの感想
タイトルに負けず内容も衝撃的なディストピア小説。より右傾化した日本で総理大臣は小池百合子(推定)、日韓関係は断絶、ヘイトクライムは激増、悪質化の一途にある。在日韓国人の生きる場所を奪う政策が支持され、新大久保にもコリアンの居場所はほとんどない。怖いのは、これが少々過激すぎる設定ではあっても、現実と地続きに見えることだ。著者の来歴を検索したい気持ちを抑えて読み終えた。奥付、同い年の在日韓国人三世だった。同じ日本を生きてきて、私と彼に見える世界がどれだけ隔たっているか。片や強い怒り、片や深い諦めに息が止まる。
『日本国家に刃向かう不逞鮮人』って福田村事件からそのままスライドしてきたみたいな言葉だ。外国にルーツのある人々と共生するための社会制度がことごとく廃止される日本。マイナンバーカード提示義務化に伴う本名開示強制、通名禁止、ヘイトスピーチ解消法廃止、外国人への生活保護給付禁止、特別永住者制度廃止、外国人を対象外とするベーシックインカムの検討。そこまで積極的ではなくとも、そういう排他的な動きにひょっと繋がるのでは、と思ってしまう気配とか、実際に人権を侵害している法制とか、あるからフィクションだと割り切れない。
読了日:11月23日 著者:李龍徳
海をあげる (単行本)の感想
海をもらう。絶望の海。海のような絶望。上間さんは穏やかな、柔らかい声で、相手に伝わるようゆっくり話す人だ。でも心の中にはこんなに憤りと悲しみを抱えていたのだと知る。米軍基地の爆音、水道水汚染や環境破壊、暴力。『いま、まっただなかで暮らしているひとは、どこに逃げたらいいのかわからない』。その深さを想い、言葉にならない。自身も普天間に暮らしながら、困難を抱える若者の、女性たちの言葉を聞く。受け止め、生きることを助ける。当事者でない私たちができることも、たぶん似ている。耳を澄まし、受け止めること。傍に立つこと。
沖縄県に顕著な、貧困状態にある人の多さを社会問題と大局的に捉え、解決方法を模索することも大事だ。しかしそのデータからは思い及ぶことの難しい、たくさんの若者、女性たちそれぞれの痛み、苦しみ、絶望と諦めがあることは見えづらい。ほんとうに酷い。実の親ですら、そして行政にも頼れない若者たちに差し伸べる手は必ず必要だ。その行為すら阻害されて、諦めて流される背中を見送るのはどんな思いだったろう。そこから、若い母親と乳児を保護し、節目を寿いで送り出すシェルター「おにわ」の立ち上げに繋がっていく。なんと尊い営みか。
沖縄に生まれてもいない、育ってもいない、暮らしてもいない私は徹底的に外野だ。むしろ加害者の側ですらある。その私が、沖縄に、沖縄の人々に対してどうあればよいのかは、ずっと考えていることだ。この本を読んで、書き上げた感想、自分で読んで「きれいごとだ」と感じる。とりあえず、読んで終わりにしないと決める。
読了日:11月13日 著者:上間 陽子
おらおらでひとりいぐも (河出文庫)の感想
脳内ひとりごとだだ洩れ系、大好き。止めどのない思考は、濁流となりせせらぎとなり奔流となり、そのときどきの思いに駆られてあっちこっち迷走しながら、人は生きている。辻褄?そんなもん合う訳ないやん。『おらの生ぎるはおらの裁量に任せられているのだな。おらはおらの人生を引き受げる』。女の業もちゃんと書いていて、傷つけた人のこと、離れてしまったきりの人のこと、悔やむけれど、しかたないやん、生きるしかないやん、という苦みも含め、東北弁で書ききったことに喝采をおくる。解説は町田康、これはもうね、当然すぎるね。
読了日:11月12日 著者:若竹千佐子
福田村事件 -関東大震災・知られざる悲劇の感想
関東大震災直後、デマに煽られて「朝鮮人」9人を虐殺したが、実は香川県からの行商人家族の集団だった。妊婦や幼児まで手にかけ、利根川に遺体を突き流した実在の事件だ。朝鮮人であるか否かの事実に関わらず数百人で少数を暴行のうえ虐殺したこと。国のためだったと言い張って悔いず、有罪判決は不服と上告までしたこと。村人から被告に見舞金を出したこと。歴史に残らないよう揃って口を閉ざしたこと。人間の、不変の愚かさがくっきり出ている。怖いのは事件そのものだけでなく、事件を無かったことのように忘れること。そこにぐらいは抗いたい。
被告のひとりの証言。『日本刀を持って出掛けると群衆のなかから、貴様は見物にきたのかと怒鳴りましたので、ついやったような訳です。私は実際相手を斬ったにもかかわらず、予審で三回も否認したのは、摂政宮殿下には玄米を召し上がられている際、不逞鮮人のために国家はどうなることかと憂れへの余りやったような次第ですが、監獄に入れられたので癪にさわったから、事実を否認したのです』。
被害者の地元の女性の証言。『日本人と朝鮮人とまちがえたということは、香川県の言葉と朝鮮の言葉はそんなに似とるんやろかなあ、なんでかしらんと思っておりました。こちらでは朝鮮の人はよくアメ売りに来ました。その人の言葉はなまりとかでわかりました。あの言葉と讃岐の言葉がなんでわからないのかなあ、関東の人ってひどい人やなあと私は思いました。罪のない人をまちがったか何か知らんけど殺すとはひどいとおもいましたよ。それが頭に残っています』。
香川県内には1990年代で46カ所同和地区があったと聞き、その多さに驚いた。瀬戸内海地方は温暖な気候や、人や物の往来の多さのわりに耕せる土地が少ないため、貧しかったと宮本常一も言っていた。面積が小さい香川県は特に、1軒当たりの農地が狭く、小作率も全国一高かった。そのことが、香川の売薬行商人が全国で2番目に多いなど、行商人が多かった理由だろう。「四国辺土」の遍路のことといい、香川県は災害が少なくて良いなど、わりとのほほんとした風土のように自称するが、なかなか深い闇を抱えているのだと最近になって戦慄している。
読了日:11月08日 著者:辻野弥生
生命海流 GALAPAGOSの感想
福岡センセイ、念願叶う。ダーウィンのマーベル号と同じ航路を取ってガラパゴスの島々を旅した記念の誌。装丁も豪華だ。船やコック、ガイドを雇った贅沢な旅とはいえ、自称ニセモノ・ナチュラリストの福岡先生には(きっと私にも)ガラパゴスの自然は厳しいのだろう。それこそ体験しなければわからない。釣竿を持って行ったくらいだから、獲ったり釣ったり生物を子細に観察する機会が全く禁じられたのは誤算だったのではないかしら。ダーウィンの頃は何でもやり放題、捕り放題で大量の標本や剥製を持ち帰ったのにとひき比べてみせるのが微笑ましい。
植物や微生物は『自分たちに必要な分だけ栄養分を作ったり、作ったアンモニアを独占するのではなく、いつも少しだけ多めに活動して、それを他の生命に分け与えてくれた。利己的にならず他を利することもつまり利他性があった。余裕があるところに利他性が生まれ、利他性が生まれると初めて共生が生まれる。利他性はめぐりめぐってまた自分のところに戻ってくる』。そうして何もなかった島に生命は満ちた。生命レベルの利他が無ければ、そもそも生命の繁栄は無かったとの指摘は、壮大で、考えてもみなかったことだった。
読了日:11月05日 著者:福岡 伸一
オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)の感想
初めての小説とは信じられない。実在するのは教師の存在と電信記録、自身の体験だけ。あとは時代の動乱に絡めた人々の受難の歴史、全て日露の膨大な文献にあたって創りあげた架空とは。ソ連という大きな枠組みの中での、女性たちの受難。子供も無縁でいられない。外国籍の人とのつき合いは用心しなさいと教えられ、キューバ危機の報に初恋の人への告白を決心する。人は時代とも世界とも無縁ではいられない。それがむき出しになるソ連と、何も知らないまま守られる日本のいずれが特別なのか、いずれにせよその落差が人の成熟を決するように感じた。
物語として、凄く面白かった。でもそれは米原さん自身がプラハで過ごした幼少期、そこで得た体験や学び方、知識無しにはあり得なくて、かの地の子どもたちがどのような常識と教養を身につけさせられるか、一方で日本の教育がどのような性質のものであるかを痛感せずにいられない。登場人物の痛みを想像する一方で、我が身のほうも苦いものが残る。よい読書体験でした。
読了日:11月03日 著者:米原 万里
オーガニック植木屋の庭づくり: 暮らしが広がるガーデンデザインの感想
ひきちさんの本は4冊目。内容が劇的に違う訳ではないのだけれど、眺めてはイメージをつくり直す過程を繰り返すのが楽しい。今回は「オーガニックとはなにか」「自分の暮らしに合う庭とは」など大きな、かつ現実的な問い立てから、各アイテムの設置方法、望ましい仕様などを細かく書いている。低いレイズドベッド、バイオネスト、野外炉、インセクトホテル、排水用浸透層、睡蓮鉢、雨庭など、やってみたいけれど自分でやれるのかこれは。なものばかり挙げているな私。ま、実際にやってみるこったな。売っている堆肥の性質、注意点は憶えておきたい。
読了日:11月02日 著者:ひきちガーデンサービス 曳地トシ+曳地義治
注:は電子書籍で読んだ本。
エアコンをつけ始めると、部屋の開口部は閉めなければならない。
猫たちは主張する。
廊下へ出たい! 部屋へ入りたい! 廊下へ出たい! 部屋へ入りたい!
開けてくれなきゃドアに爪を立てて自分で開けてみせる!
都度、私は立ちあがってドアを開けることを繰り返す。
座ってもすぐに呼ばれるので集中できず、苛々と本を撫でまわしている。
<今月のデータ>
購入14冊、購入費用11,269円。
読了10冊。
積読本330冊(うちKindle本159冊、
Honto本、ちびちびと消化していたけれど、Booxも捨て、スマホで読む気も起きず、
諦めて放棄することにした。
「月は無慈悲な夜の女王」、「死の鳥」、「シベリア追跡」。
Kindleでいずれ買い直すことになりそう。
日本のコメ問題-5つの転換点と迫りくる最大の危機 (中公新書 2701)の感想
素人へのわかりやすさを心がけて書かれてはいるが、需給や政局により度重ねた政策変更には、素人の頭は追いつかない。つまり、技術の進歩に伴い、少ない労働力で多くの収穫が可能になった。需給から言えば米の収穫量はもう少し減ったほうが、米農家や米産業のためには良い、らしい。しかし余った田んぼをどうするか。小麦や大豆他への転作畑地化、また加工用米、飼料用米に切り替えてでも、いざというとき再び米をつくれる道が残された土地であってほしい。とは感傷か。そして飼料用米は経済的に成り立たない。補助金じゃぶじゃぶを是とするべきか。
田んぼとしての認定ルール。5年以内に、一度は水を張ること。それをしないと田んぼ認定が受けられず、補助金がもらえない。補助金は大きなインセンティヴとして機能してきた。だけど、余った田んぼの活用方法として植えた果樹や設置したビニールハウス、放牧した牛を除去するのは現実的でない。では何が田んぼで何が畑なのか?? もうわからん。補助金の問題が根深すぎて、にっちもさっちもいかない感じがする。とりあえず米も農作物も値上げしよう。スイーツに2,000円出せて、野菜の300円を高く感じるのは間違ってる。
読了日:11月29日 著者:小川 真如
ゾンビ化するアメリカ 時代に逆行する最高裁、州法、そして大統領選の感想
相変わらず日本人から見ると桁の外れた国だなあ。器がでかいようで、なんか生きにくそう。フロリダ州の「ザ・ヴィレッジズ」に度肝を抜かれる。高齢者限定の住宅を建ててつくった、裕福な高齢者限定のコミュニティ、住人は13万人。高齢者が余生を平穏に楽しく暮らすための街。そこまでやるのか。それって、欲求を純粋に求めた形とはいえ、人間社会としてすごく歪だと思う。幸せかな。政治ネタには溜息しか出ないけど、音楽や映画はそのさほど長くない歴史も多様性も映して、だから魅力的で、だから町山さんはアメリカが好きなんだろうと想像する。
「ガラスの天井」ならぬ「ガラスの崖(Glass Cliff)」が現れた。その企業が崖っぷちに追い詰められた時、女性や少数民族が経営陣に抜擢される現象とのこと。曰く、"独自の感性で画期的なアイデアが出ることを期待して"。それって、日本にも既にあるよな。今まで散々、男ばっかりで社会や会社を仕切ってきて、雲行きが怪しくなったら「女性の力」だの「女性らしい感性で」だの、調子の良い事この上ない。ましてや失敗したときには「ほらね」と言わんばかりに責任をなすりつけようとするとはどこまで女々しいのか。その手には乗らんぞ。
読了日:11月24日 著者:町山 智浩
老後を動物と生きるの感想
他者との交流や心身の自由が限られてくる老年期こそ、伴侶動物と暮らすべきだとずっと思ってきた。しかし日本では、安全面、衛生面、管理面などの障壁が先に立って、飼い犬/猫と一緒に入れる老人ホームなどは今も香川県内にはほぼ無い。この本は、老人福祉施設での動物飼育において、規定しておくべき要件のチェックリストや問題点についての論考集である。スイス、ドイツ、オーストリアにおいては、この本が出た2004年の時点で施設への動物受入れが格段に増えているとある。日本は訪問動物が限界だろうか。意地でも猫と離れず自宅で死にたい。
老年期に動物と暮らそうと思うと、人間が先に死んだ場合の備えがどうしたって必要になる。余生の飼養を引き受ける契約も民間団体レベルではあるが、システムとして不安定には違いなく、社会の仕組みとして確立できないものかと思う。外国ではティアハイムの延長として考える精神的素地があるが、日本ではブリーディングのように金儲け目的の悪徳業者がはびこりそうな気がして安心できない。うーん。
読了日:11月23日 著者:マリアンヌ ゲング,デニス・C. ターナー
あなたが私を竹槍で突き殺す前にの感想
タイトルに負けず内容も衝撃的なディストピア小説。より右傾化した日本で総理大臣は小池百合子(推定)、日韓関係は断絶、ヘイトクライムは激増、悪質化の一途にある。在日韓国人の生きる場所を奪う政策が支持され、新大久保にもコリアンの居場所はほとんどない。怖いのは、これが少々過激すぎる設定ではあっても、現実と地続きに見えることだ。著者の来歴を検索したい気持ちを抑えて読み終えた。奥付、同い年の在日韓国人三世だった。同じ日本を生きてきて、私と彼に見える世界がどれだけ隔たっているか。片や強い怒り、片や深い諦めに息が止まる。
『日本国家に刃向かう不逞鮮人』って福田村事件からそのままスライドしてきたみたいな言葉だ。外国にルーツのある人々と共生するための社会制度がことごとく廃止される日本。マイナンバーカード提示義務化に伴う本名開示強制、通名禁止、ヘイトスピーチ解消法廃止、外国人への生活保護給付禁止、特別永住者制度廃止、外国人を対象外とするベーシックインカムの検討。そこまで積極的ではなくとも、そういう排他的な動きにひょっと繋がるのでは、と思ってしまう気配とか、実際に人権を侵害している法制とか、あるからフィクションだと割り切れない。
読了日:11月23日 著者:李龍徳
海をあげる (単行本)の感想
海をもらう。絶望の海。海のような絶望。上間さんは穏やかな、柔らかい声で、相手に伝わるようゆっくり話す人だ。でも心の中にはこんなに憤りと悲しみを抱えていたのだと知る。米軍基地の爆音、水道水汚染や環境破壊、暴力。『いま、まっただなかで暮らしているひとは、どこに逃げたらいいのかわからない』。その深さを想い、言葉にならない。自身も普天間に暮らしながら、困難を抱える若者の、女性たちの言葉を聞く。受け止め、生きることを助ける。当事者でない私たちができることも、たぶん似ている。耳を澄まし、受け止めること。傍に立つこと。
沖縄県に顕著な、貧困状態にある人の多さを社会問題と大局的に捉え、解決方法を模索することも大事だ。しかしそのデータからは思い及ぶことの難しい、たくさんの若者、女性たちそれぞれの痛み、苦しみ、絶望と諦めがあることは見えづらい。ほんとうに酷い。実の親ですら、そして行政にも頼れない若者たちに差し伸べる手は必ず必要だ。その行為すら阻害されて、諦めて流される背中を見送るのはどんな思いだったろう。そこから、若い母親と乳児を保護し、節目を寿いで送り出すシェルター「おにわ」の立ち上げに繋がっていく。なんと尊い営みか。
沖縄に生まれてもいない、育ってもいない、暮らしてもいない私は徹底的に外野だ。むしろ加害者の側ですらある。その私が、沖縄に、沖縄の人々に対してどうあればよいのかは、ずっと考えていることだ。この本を読んで、書き上げた感想、自分で読んで「きれいごとだ」と感じる。とりあえず、読んで終わりにしないと決める。
読了日:11月13日 著者:上間 陽子
おらおらでひとりいぐも (河出文庫)の感想
脳内ひとりごとだだ洩れ系、大好き。止めどのない思考は、濁流となりせせらぎとなり奔流となり、そのときどきの思いに駆られてあっちこっち迷走しながら、人は生きている。辻褄?そんなもん合う訳ないやん。『おらの生ぎるはおらの裁量に任せられているのだな。おらはおらの人生を引き受げる』。女の業もちゃんと書いていて、傷つけた人のこと、離れてしまったきりの人のこと、悔やむけれど、しかたないやん、生きるしかないやん、という苦みも含め、東北弁で書ききったことに喝采をおくる。解説は町田康、これはもうね、当然すぎるね。
読了日:11月12日 著者:若竹千佐子
福田村事件 -関東大震災・知られざる悲劇の感想
関東大震災直後、デマに煽られて「朝鮮人」9人を虐殺したが、実は香川県からの行商人家族の集団だった。妊婦や幼児まで手にかけ、利根川に遺体を突き流した実在の事件だ。朝鮮人であるか否かの事実に関わらず数百人で少数を暴行のうえ虐殺したこと。国のためだったと言い張って悔いず、有罪判決は不服と上告までしたこと。村人から被告に見舞金を出したこと。歴史に残らないよう揃って口を閉ざしたこと。人間の、不変の愚かさがくっきり出ている。怖いのは事件そのものだけでなく、事件を無かったことのように忘れること。そこにぐらいは抗いたい。
被告のひとりの証言。『日本刀を持って出掛けると群衆のなかから、貴様は見物にきたのかと怒鳴りましたので、ついやったような訳です。私は実際相手を斬ったにもかかわらず、予審で三回も否認したのは、摂政宮殿下には玄米を召し上がられている際、不逞鮮人のために国家はどうなることかと憂れへの余りやったような次第ですが、監獄に入れられたので癪にさわったから、事実を否認したのです』。
被害者の地元の女性の証言。『日本人と朝鮮人とまちがえたということは、香川県の言葉と朝鮮の言葉はそんなに似とるんやろかなあ、なんでかしらんと思っておりました。こちらでは朝鮮の人はよくアメ売りに来ました。その人の言葉はなまりとかでわかりました。あの言葉と讃岐の言葉がなんでわからないのかなあ、関東の人ってひどい人やなあと私は思いました。罪のない人をまちがったか何か知らんけど殺すとはひどいとおもいましたよ。それが頭に残っています』。
香川県内には1990年代で46カ所同和地区があったと聞き、その多さに驚いた。瀬戸内海地方は温暖な気候や、人や物の往来の多さのわりに耕せる土地が少ないため、貧しかったと宮本常一も言っていた。面積が小さい香川県は特に、1軒当たりの農地が狭く、小作率も全国一高かった。そのことが、香川の売薬行商人が全国で2番目に多いなど、行商人が多かった理由だろう。「四国辺土」の遍路のことといい、香川県は災害が少なくて良いなど、わりとのほほんとした風土のように自称するが、なかなか深い闇を抱えているのだと最近になって戦慄している。
読了日:11月08日 著者:辻野弥生
生命海流 GALAPAGOSの感想
福岡センセイ、念願叶う。ダーウィンのマーベル号と同じ航路を取ってガラパゴスの島々を旅した記念の誌。装丁も豪華だ。船やコック、ガイドを雇った贅沢な旅とはいえ、自称ニセモノ・ナチュラリストの福岡先生には(きっと私にも)ガラパゴスの自然は厳しいのだろう。それこそ体験しなければわからない。釣竿を持って行ったくらいだから、獲ったり釣ったり生物を子細に観察する機会が全く禁じられたのは誤算だったのではないかしら。ダーウィンの頃は何でもやり放題、捕り放題で大量の標本や剥製を持ち帰ったのにとひき比べてみせるのが微笑ましい。
植物や微生物は『自分たちに必要な分だけ栄養分を作ったり、作ったアンモニアを独占するのではなく、いつも少しだけ多めに活動して、それを他の生命に分け与えてくれた。利己的にならず他を利することもつまり利他性があった。余裕があるところに利他性が生まれ、利他性が生まれると初めて共生が生まれる。利他性はめぐりめぐってまた自分のところに戻ってくる』。そうして何もなかった島に生命は満ちた。生命レベルの利他が無ければ、そもそも生命の繁栄は無かったとの指摘は、壮大で、考えてもみなかったことだった。
読了日:11月05日 著者:福岡 伸一
オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)の感想
初めての小説とは信じられない。実在するのは教師の存在と電信記録、自身の体験だけ。あとは時代の動乱に絡めた人々の受難の歴史、全て日露の膨大な文献にあたって創りあげた架空とは。ソ連という大きな枠組みの中での、女性たちの受難。子供も無縁でいられない。外国籍の人とのつき合いは用心しなさいと教えられ、キューバ危機の報に初恋の人への告白を決心する。人は時代とも世界とも無縁ではいられない。それがむき出しになるソ連と、何も知らないまま守られる日本のいずれが特別なのか、いずれにせよその落差が人の成熟を決するように感じた。
物語として、凄く面白かった。でもそれは米原さん自身がプラハで過ごした幼少期、そこで得た体験や学び方、知識無しにはあり得なくて、かの地の子どもたちがどのような常識と教養を身につけさせられるか、一方で日本の教育がどのような性質のものであるかを痛感せずにいられない。登場人物の痛みを想像する一方で、我が身のほうも苦いものが残る。よい読書体験でした。
読了日:11月03日 著者:米原 万里
オーガニック植木屋の庭づくり: 暮らしが広がるガーデンデザインの感想
ひきちさんの本は4冊目。内容が劇的に違う訳ではないのだけれど、眺めてはイメージをつくり直す過程を繰り返すのが楽しい。今回は「オーガニックとはなにか」「自分の暮らしに合う庭とは」など大きな、かつ現実的な問い立てから、各アイテムの設置方法、望ましい仕様などを細かく書いている。低いレイズドベッド、バイオネスト、野外炉、インセクトホテル、排水用浸透層、睡蓮鉢、雨庭など、やってみたいけれど自分でやれるのかこれは。なものばかり挙げているな私。ま、実際にやってみるこったな。売っている堆肥の性質、注意点は憶えておきたい。
読了日:11月02日 著者:ひきちガーデンサービス 曳地トシ+曳地義治
注:は電子書籍で読んだ本。