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オーナーへメッセージ

2025年04月05日

2025年3月の記録

春は毎年、メンタルが不安定になる。中医学的にもそういうものらしい。
なにかと気力を消耗して、まとまった文章を読むことができない。
去年もそう言っていたのだったか、忘れてしまったけれど。
読めないこともまた、焦燥感に拍車をかける。
凄い本を2冊も読みおえた、その反動ということにしておこう。

<今月のデータ>
購入12冊、購入費用13,595円。
読了8冊。
積読本349冊(うちKindle本164冊)。


ブック

バリ山行バリ山行感想
バリな山歩きの話のみにあらず。道なき山を歩く行為と同じ重量感で外壁工事会社の日常が描かれ、親近感が増した。中小企業が生き残るために元請路線を選択することも、社内で自身の主義を曲げずにいようとすることも、どちらも不安定を是とするありようで、道なき山を歩く行為と相似している。近場の里山でわずかな踏み跡を追っては単独遭難しかける私は妻鹿さんレベルまではいかないが、わかる気はするのだ。彼のバリ山行は現実逃避だっただろうか。いや、そのほうが身体の底からただおもしろく、真の現実を感じられるからだったのではないのか。
読了日:03月29日 著者:松永K三蔵 ファイル

万物の黎明 人類史を根本からくつがえす (翻訳)万物の黎明 人類史を根本からくつがえす (翻訳)感想
読み終えるのが惜しい、とは若干強がりだが、非常に興味深かった。私たちが知識と信じ込んでいる、私たちの遠い祖先や非欧米民族への先入観や偏見は、科学を名乗る故に根深く私たちの思考を縛る。日本人も埒外なのにもかかわらず、だ。著者らの饒舌は小気味よくそれらを喝破する。有史以前から人間は徒歩でも大陸の反対側の人々と交流し、他民族多文化のまま共存する成熟した社会構造を各地に築き、何世紀にもわたり知識を累積し利用した。その創造と破綻が人間の宿命なら、今の社会も一つの例でしかないのは福音では。魚一匹分の鱗が目から落ちた。
原題「The Dawn of Everything」。『本当に希望に満ちた本です……わたしたちはなにごとも変わらない。このままネオリベラリズム、国家資本主義が永遠につづくだけだ、という心理につい陥りがちです。でも、この本には「いや、わたしたちは変われる」という記述がたくさんある。人類は存在しはじめてからずっとそうしてきたのですから』。
自由について。『遠方の地で歓迎されることがわかっているうえで、みずからの共同体を放棄する自由、季節に応じて社会構造のあいだを往復する自由、報復をおそれず権威に服従しない自由。たとえ現在ではほとんど考えることもできないにしても、わたしたちの遠い祖先にとって、これらはすべて自明であったようだ。人間はその歴史を初源の無垢な状態ではじめたわけではないだろう。だが、歴史のはじまりから、なにをすべきか命令されることを嫌うという自己意識はそこにともなっていたようにみえる』。
革命であったように言われる農耕について。穀物や野菜の栽培、畜産も含め、それは一気に人間の生活に取り入れられたのではなかった。戯れのようになにか植えてみたり、小動物を保護してみたり、やめたりを繰り返す、それを意思を持ってやっていたという。そんな自由で気ままな祖先の様子を想像すると痛快だ。庭にいろんなものを植えてみたり、工夫してものをこしらえたり楽しんでいる現代の私たちに地続きだと気づくことができた。それは祖先と同じ”遊戯”で、それこそが人類の繁栄を生んだ名もなき知識の累積の原点なのだ。
読了日:03月28日 著者:デヴィッド・グレーバー,デヴィッド・ウェングロウ ファイル

パンとサーカス (講談社文庫 し 33-8)パンとサーカス (講談社文庫 し 33-8)感想
日本人は自国の革命を想像する義務がある、と思った。大災害でも感染症でも日本は変わらなかった。政治に関心を持って選挙に行く正しき行為の先にも日本の完全主権は無い。革命とはテロや暗殺そのものではあり得ない。どうすれば変わる。自由と平等は要求し、戦わなければ、永遠に手に入れられないもの。『死ぬ前にド派手なサーカス見せろ、思う存分、社会を引っ掻き回せ』。テロの場面で鼓動が早まった。加害への恐怖半分、変革への期待半分。著者は憤りを金言と風刺と皮肉に込め、畳みかける。これは、読者へのアジテーションだ。胸が騒いだ。
読了日:03月20日 著者:島田 雅彦 ファイル

レールの向こう (集英社文庫)レールの向こう (集英社文庫)感想
沖縄に生まれ、沖縄の小説を書いてきた作家の短編集。外から故郷を想う沖縄人、ハワイ移民と家族、ユタを妄信する女やユタ本人などの、内心を周囲の目ではかるように描いたものが多い。沖縄の常識は想像を超える。沖縄で会った人が「友達に電話すればユタの電話番号を教えてもらえる」と言うのに驚いたが、ここでは「ユタを買う」という言い回しが使われる。ユタは自らの霊感を信じて祈祷したり、"真実"を宣する。すると複数のユタが宣する"真実"が矛盾し、ユタとユタが威信をかけて争うようなこともあるとは、今も昔も変わらない光景だろうか。
読了日:03月14日 著者:大城 立裕 ファイル

海南小記 (角川ソフィア文庫)海南小記 (角川ソフィア文庫)感想
大正9年から東京朝日新聞記者として、九州、奄美、沖縄、八重山と訪れた連載記事を元にした紀行記。沖縄を移動しながら読むとシンクロが起きることもあって面白かった。島に人口が増え、生活が逼迫するごと、人は新しい島へと北上した。それが日本の起源と柳田翁は推論した。植物の繁茂するエネルギーは凄まじいが、人間の食をまかなうには限度があると肌で感じた。内地で蒲葵と呼ぶ木は島ではクバ、古名はアヂマサ。白く晒して団扇や笠などに編んで上納したという。島では御嶽で大切にされる、信仰と切り離せない植物。低いヤシの木みたいだった。
豆腐はどこの家でもつくっていたとある。沖縄で豆腐と言えばジーマミー豆腐、落花生からつくる。ジーマミーは「地豆」だがこれは地元で採れる豆ではなく地面の中にできる豆である由。いわゆる豆腐は大豆からつくる。いずれも過去には大々的に栽培されて、在来種もあったものが、外国産に押されて衰退した流れは内地と同じ。ほとんど栽培されていなかったが、近ごろ復活の取組みが盛んとのこと。パイナップル農家の女性と話した。栽培は出荷までに3年ないし2年かかる。決して加工にまわせるほどの収量はなく、台風のリスクは計り知れないとのこと。
読了日:03月12日 著者:柳田 国男 ファイル

私はフーイー 沖縄怪談短篇集 (幽BOOKS)私はフーイー 沖縄怪談短篇集 (幽BOOKS)感想
恒川さんが沖縄に移住して10年経った頃の短編集。沖縄の自然に感じる、ある意味得体の知れない感覚と、恒川さんの描く異界性は親和性がある。一方、現代における犯罪という。現代のモラルに基づいた善悪との組み合わせが、なんとなく居心地が悪かった。琉球王国、戦争、文化や風土の独自性を踏まえたうえで、独りたたずむ目の前の静かな闇は、少し種類が違う怖さのように思う。ただこれも沖縄で読むと違う感覚を覚えるのかもしれない。何度か出てきた阿檀の茂みが持つ密度と人を寄せつけない重量感は、実際に目にしてなるほどと納得できたのだ。
読了日:03月07日 著者:恒川光太郎 ファイル

忘れられた日本―沖縄文化論 (1964年) (中央公論社)忘れられた日本―沖縄文化論 (1964年) (中央公論社)感想
沖縄へ行く前に。昭和36年に訪れた沖縄を、占領と貧困の島と岡本太郎は表した。岡本太郎の放つエネルギーが激しくて、前回に同じく消耗する。日本人が沖縄人に沖縄人として生きることを許さなかったことに憤り、ゆえに言葉や文化が『民族の底の奥ふかいエネルギー』と感じさせる力を弱めていることを苦々しく思い、御嶽で清潔な感動に恍惚する。踏み石が埋め込まれ、茂った草に挟まれた小道の先にある御嶽。斎場御嶽はすっかり観光地化してしまったのだろうか。その清潔、その神聖を感じることはできるのだろうか。祈ることはできるのだろうか。
読了日:03月04日 著者:岡本太郎

日本問答 (岩波新書)日本問答 (岩波新書)感想
難しい。しかし面白い。教養が足りないなりに考え考え生きてきて、どうにも解けない問題の根っこはここだと膝を打った。江戸の私塾は、伝えたい人のところに好奇心で聴きたい人が集まったという。ならばこのシリーズは私の私塾である。日本人のおおもと。明治以降捨ててきた思想は、見失ってもなお日本人の底に在る。日本人の性質は、常にひとつに絞らないことと見る。もともと多様で、デュアルで、そのままを受容して平気な民族。『柔軟かつ強靭な寛容』との表現が好い。国の外からではなく、日本の過去を潜らなければ私たちの正体は見えないのだ。
「一枝の桜」のように、掘れば掘るほどぐじゃぐじゃになってしまう日本人論は、なるべくしてそうなる。日本人だって同じで自分たちを一貫して説明できない。それを遡り学問化しようとしたのが国学だったという。明治以降わからなくなって、探る努力を放棄して今に至る。とすれば、やはり米欧の基準に引きずられ、経済面や武力面での他国との競争にばかり気を取られているうちにまた戦争に頭を突っ込んでいくのだろうと、想像に難くない。独自の思想や循環社会を持っていたことを思い出せれば、真に独立できるのだろうけれども。
田中『義務教育じゃないし、誰かに強制されるわけでもない。もともと学問を究めようとか、それで身を立てようといった向上心すらなかったかもしれません。競争という感覚がどうもなかったようです。学問をして上りつめようというような感じではない。だから好奇心としか言いようがないんです』。 松岡『なるほど。好みだ』。
読了日:03月01日 著者:田中 優子,松岡 正剛 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。

  

Posted by nekoneko at 14:09Comments(0)読書

2025年03月01日

2025年2月の記録

Honya Clubで注文した本を近所の宮脇書店で受け取ることにしている。
仕事で使うために、1冊8,000円くらいする本を注文したからか、
「いつもありがとうございます!」と毎回言ってもらえるようになってしまった。
そんなこと言われたら、つい他にも買いたい本を探してしまうではないですか。

<今月のデータ>
購入19冊、購入費用28,058円。
読了12冊。
積読本342冊(うちKindle本161冊)。


ブック

インドの食卓: そこに「カレー」はない (ハヤカワ新書)インドの食卓: そこに「カレー」はない (ハヤカワ新書)感想
著者はインド、パキスタン、中国の各日本大使館勤務の経歴を持つ。公的文献のほか既刊のカレー本やウェブサイトから得た情報もまま含まれているようだが、自身の専門である国際・政治・歴史分野の絡みと、現地や日本で食べた情報は本人しか持っていないものなので興味深い。考えてみれば狭い日本でも食べ物の歴史と派生っぷりは半端でないのに、インドみたいな広大な国土で四方八方から民族や宗教や文化が流入した国の食を読んで知ろうなんて無茶なのだと思い知った。当然ながら"カレー"なんて食べ物は無い。東京に住んでたら食べに行くのに。
読了日:02月23日 著者:笠井 亮平 ファイル

種をあやす──在来種野菜と暮らした40年のことば種をあやす──在来種野菜と暮らした40年のことば感想
昨日も大根を収穫した。種を蒔き、カイワレ葉っぱを愛で、間引きした葉を食べ、時々に抜いては真っ直ぐさに感嘆し、食べた。在来種野菜を育てるとはさらに、種を採る母本を見極め、花を咲かせ、種を熟成させて枯れ果てるまで見守ることだ。その種を大事に集め、また蒔き、途切れなく循環を続けることだ。もともとの種だって、それまでたくさんの人が代々守ってきたから有る。それまでの長い時間を想うとき、季節とともに命を守り継ぐよろこびと使命感が胸に迫るのだ。F1の種やジーンバンクに保管した種とは違うその重みを、尊さと呼びたくなる。
読了日:02月19日 著者:岩﨑 政利

任務の終わり 下 (文春文庫 キ 2-64)任務の終わり 下 (文春文庫 キ 2-64)感想
ふたりの男の子と痩せっぽちの女の子。ホリーの旅立ち。ホリーはいつの間にか愛すべき女性にかわっていた。『心配すんなよ、ホリーベリー。ぼくたちのバンドを引き裂くなんて、だれにもできないよ』。シリーズ1作目のラストを思い出した。中盤でホッジズが癌と自殺を結びつけて考える場面がある。癌細胞が体内で増殖転移するように、自殺も連鎖反応を起こす。自殺は日本同様アメリカでも多いと見えて、キングは憂い、"寂しき若者"への願いをこめる。『物事には好転する可能性があり、あなたが機会さえ与えるなら、かならず好転するからだ』。
読了日:02月17日 著者:スティーヴン・キング ファイル

任務の終わり 上 (文春文庫 キ 2-63)任務の終わり 上 (文春文庫 キ 2-63)感想
久しぶりの<キング>ジェットコースター。ここ数年のキングの小説でドナルド・トランプはもはや常連です。Zの文字はロシアの戦車に描いてあったアレからかと推測したが、ウクライナ侵略開始のが2022年2月、単行本刊行が2018年なら勘違いだろう。さて、仕留めたはずの敵がまさか、の悪夢が再開する。物理攻撃はともかく、心の内側に注がれる悪意はつらい。ホリーに目を奪われるのは、前より内面が人間らしく描写されているからか、私が忘れてるのか。ホッジズものの完結作と聞いている。前作で私が予想したとおり、物語は円環を描くのか。
読了日:02月14日 著者:スティーヴン・キング ファイル

私の身体を生きる私の身体を生きる感想
気軽に読み始めたが、これは家の外や夫の横では読めない、と思った。女性の体は男性のそれと仕組みが違っているゆえ社会性も同じではあり得ない。のみならず、身体の捉えかたは個々人でこんなに違うのだと文筆を生業としている筆者たちは明瞭に知らしめる。狼狽えた。それは、社会生活を営むうえで感じていては支障があるから、あるいは辛いから、私が日々封じ込めている感覚を暴くことでもあるからだ。喜びより怒りに共鳴する。それでも能町みね子の全身を貫くような強烈な怒りの感情には敵わない。わかりようがない。それでも、認めたいと思う。
読了日:02月12日 著者:西 加奈子,村田 沙耶香,金原 ひとみ,島本 理生,藤野 可織,鈴木 涼美,千早 茜,朝吹 真理子,エリイ,能町 みね子,李 琴峰,山下 紘加,鳥飼 茜,柴崎 友香,宇佐見 りん,藤原 麻里菜,児玉 雨子 ファイル

柳宗民の雑草ノオト 2 (ちくま学芸文庫 ヤ 16-2)柳宗民の雑草ノオト 2 (ちくま学芸文庫 ヤ 16-2)感想
その2。その1で大概は網羅されていただろうから、その2はレアな雑草が多いのではとぼんやり想像していたのだけれど、なんのなんの。その数60種。可愛らしいのから憎たらしいのまで、まだこれもあったかと驚くほどあるのだ。『これらの草々の多くを、昔の人々が見捨てることなく、実にうまく利用してきた』。食用、薬用、鑑賞用など、利用してきた知識はなかなか活用する機会が持てそうになくも貴重だと実感する。一方、挙げられた地味な雑草が園芸店に売られる洋物の草花と同種だったり、むしろ原種だったりと、知識量に感嘆することしきりだ。
読了日:02月12日 著者:柳 宗民

現代農業 2025年 03 月号 [雑誌]現代農業 2025年 03 月号 [雑誌]感想
「種取り事始め」で考えこんでは気持ちを重くしていたところで、定期購読の「現代農業」。土壌の性質によって生態系が異なるので、ついては土を団粒化するための生物も違ってきますよねという分析記事から、読者それぞれの独自の取り組み投稿まで硬軟ごっちゃな感じが好い。種は畑のあちこちにばらまくんだよという記事で、目指しているゆるさ加減を思い出してはっと我に返った次第。だいぶ要点が絞れてきた、名づけて粗放系不耕起草生有機栽培でいきます。隣から飛んでくる落ち葉の量が半端じゃないとわかったので焚き火どんどんが欲しいです。
読了日:02月11日 著者:

種採り事始め (育てて楽しむ)種採り事始め (育てて楽しむ)感想
日本農業新聞でおなじみの福田俊さん。家庭菜園ならF1の種を買うのではなく、自分で採種して楽しむのがおすすめと、種苗会社勤務の経験と、農園での経験を踏まえて詳しく解説している。落花生とこぼれ種のマクワウリしか成功体験がない身に、いきなり自家採種は一足飛びすぎた。固定種の種を買い込んだところで、一種類を5本も植えるスペースもなければ、直播では育たない野菜があることもてんで知らないのだもの。心折れそうになったが、まあ1年目は土づくりを進めつつ、固定種を育ててみる、くらいの目標にしておこう。絵袋は下側を切ること。
読了日:02月11日 著者:福田 俊

関口宏・保阪正康の もう一度! 近現代史 明治のニッポン関口宏・保阪正康の もう一度! 近現代史 明治のニッポン感想
BSの番組が好きだった。幕末から明治時代に入る頃になると、記録もそれなりに残っており精神性も現代人に近い。学生の時分には知識の羅列でしかなかった出来事が、ようやく社会の空気や個々の人間の思惑として捉えられる。1年1トピックほども細かく出来事を取り上げる。関口さんはフリップを読みあげて保坂さんの説明を拝聴しているだけではなくて、知識を持ったうえで所感を差し挟んでいる。穏やかな語り口ながら、鋭いものがある。当時の政治家は現代の政治家より優れたものを持っていたのだろうが、歴史は時代の勝者のものならざるを得ない。
読了日:02月10日 著者:保阪 正康,関口 宏 ファイル

ワ-ニャ伯父さん/三人姉妹 (光文社古典新訳文庫 Aチ 2-1)ワ-ニャ伯父さん/三人姉妹 (光文社古典新訳文庫 Aチ 2-1)感想
チェーホフの戯曲を舞台で観て良かった記憶がある。この2編も舞台で観てみたい。さて、自ら働かない生きかたが否定されることは彼らには激動である。自分が変わらなくても周りが変わってゆくぶん取り残されるのは、現代に似ている。今まで生きてきたように生きていては埋もれてゆくだけ。かといって家族のために働いても先は暗く、外で働いても意味を見出せない。働かずとも良心の呵責を覚えずに生きられる人もいるのに、真面目な者が苦しみ、後世の人々が自分たちをどう思うか議論を重ねる。切なくて、いとおしい。わたしたちに似ているから。
『そうよ、大事なのは働くことよ。あたしたちがこんなに塞ぎ込んで、人生を暗いものとしか見られないのは、労働を知らないせいよ。あたしたち、労働を見下してきた人たちの子供ですもの』。
読了日:02月09日 著者:アントン・パーヴロヴィチ チェーホフ ファイル

羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季感想
高原の厳しい気候に適応するよう改良した在来品種の羊を、伝統的な方法で放牧する暮らし。羊と土地への思い。古来の手法を守って慎ましく暮らしてきた地が、ワーズワースによって注目され、「美しい湖水地方」という幻想を抱く人が地元住民の何百倍もいる事実を恐ろしく著者が感じているのが興味深い。世界中の「観光地」は多かれ少なかれその感覚を持っているものだと思うからだ。景観があるのは審美のためではなく共生のためなのに、と。また、都市の生活や思想を見聞したうえで、あえて故郷を、伝統的な生業を選ぶ人こそ未来の希望だと私は思う。
昨今のコスト高騰以前から、牧畜だけでは生活できないのも旧来である。出稼ぎや宿泊施設経営などを農場主が手掛けるなかで、著者のユネスコの観光プログラムアドバイザーは異色ではないか。オックスフォード大卒の知性と、その後の短い職務体験からつながった道なのだと推測する。『もう地域に溶け込むことのできない人間に変わ』ることなく、伝統と新しい知識の掛け合わせで未来は生まれる。地方地域は存続することができる。と信じたいが、最新作の紹介文が不穏なのがとても気になる。
集団で放牧された羊は知性を育む。私の好きな『牛たちの知られざる生活』の牛と同様でうれしくなる。彼らは荒天時の避難場所、集団秩序、出産に必要な手順を知り、代々受け継いでいる。人間がすべきは敬意を持ち、手助けすることなのだ。
読了日:02月04日 著者:ジェイムズ リーバンクス,James Rebanks


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。

  

Posted by nekoneko at 10:54Comments(0)読書

2025年02月01日

2025年1月の記録

今年もしっちゃかめっちゃかな選本で行こう。
読む必要のない本は、慎重に見定めて。

<今月のデータ>
購入10冊、購入費用7,169円。
読了12冊。
積読本334冊(うちKindle本157冊)。


ブック

いとも優雅な意地悪の教本 (集英社新書)いとも優雅な意地悪の教本 (集英社新書)感想
2016年「すばる」連載。「意地悪」が主題のよもやま話。バカ、デブに代表される二文字の罵倒言葉は、気分に直結して脊髄反射的に発せられる簡潔な性質ゆえに連打してしまうが、知性を駆使した意地悪な言葉は一発で効くとか、質問に答えず四の五のと冗長に続く答弁は、知性が低いのではなく、知性とモラルが分離しているがゆえにその下品さを自覚せずにいられるからとか、すごいことをやってもすごいということを理解する才能がある人にしか理解されないとか、まあ意地悪な文章のオンパレードで爆笑してしまった。樋口一葉を読みたくなった。
読了日:01月30日 著者:橋本 治 ファイル

ちゃぶ台13 特集:三十年後ちゃぶ台13 特集:三十年後
読了日:01月26日 著者:ミシマ社

ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密感想
社会に浸透した労働観をはじめ、教育制度、商習慣、法整備まで素地がかなり異なる点は踏まえておくべきだろう。長期休暇取得や急な欠員を受容する"バックアップシステム"とは、タスク整理や情報共有のシステム化と同時に、余裕を持ったリソース管理が要となる。それはつまり人件費の増加を意味し、かつ生産性を高く保つには、経営効率が確保されていなければならない。ドイツの中小企業割合が日本同様99%を超えている点を考え併せれば、全経営者が教育を受けた経営のプロとは考え難く、経営者および社会の認識に日本との差がありそうだ。
読了日:01月25日 著者:西村 栄基 ファイル

老警 (角川文庫)老警 (角川文庫)感想
老警とはだれか。練られたミステリ。多すぎる情報を疎んでいるとしてやられる。男は女を、親は我が子と組織を、組織は組織と組織内の権力闘争を想って意を決し、それぞれ隠密に行動する。徹底的に被害者やその家族に焦点を当てない、描こうとすらしない、非情がとかく心地悪い。しかし事件が結末を見、終章で作者が書きたかったものが露わになったとき、彼らと彼らの家族に対する私たちの態度は、見ようとしない、無いものであるかのように扱う、同様の非情であると糾弾されたように感じた。閉じてしまったものを開くにはどうすればよいのだろう。
読了日:01月19日 著者:古野 まほろ ファイル

ぼくは古典を読み続ける 珠玉の5冊を堪能するぼくは古典を読み続ける 珠玉の5冊を堪能する感想
連続講義の新書化。古典のススメ。今は古典新訳文庫や池澤夏樹編集があるので、古典もとっつきやすくなったものだと思う。だからといって、関心を持てるまでにはそれなりに本を読む時間と、人生の経験値を積み上げることが必要なのではないかな。特に私のように読書は娯楽であると認識して育った人間には。そのうち、より深いものへの渇望が生まれる、そんな印象を覚えた。若いうちにわからないなりに読んでおくにこしたことはないのだけど。気候が安定して政治も安定する豊かな時代には文化や学術が世界同時多発かつ爆発的に発達するのが興味深い。
読了日:01月17日 著者:出口 治明 ファイル

マハーバーラタ: インド千夜一夜物語 (光文社新書 47)マハーバーラタ: インド千夜一夜物語 (光文社新書 47)感想
正月に観るインド映画の基礎知識として。しかし「マハーバーラタ」は長すぎて、しかもパンダヴァvs.カウラヴァの物語以外にも、今昔物語や禅問答めいた小話が多々収められているようだ。本書はそれをピックアップしたもの。登場人物は神、聖仙、王、賢者と堂々たる面子だが、性欲をつい我慢でけんかった話が多くて笑った。生命力旺盛である。デヴァとアスラの戦いも面白い。バラモンが編纂したものなので多分にヒンズー寄りと思いきや、アスラがドラヴィダ、デヴァがアーリアなのにデヴァが侵略したことを認めていて、これもまた大らかである。
読了日:01月13日 著者:山際 素男 ファイル

現代家庭療法百科現代家庭療法百科感想
亡き祖父母の本棚を整理して出てきた本を貰い受けた。主婦の友社、昭和58年の刊。家族の体調が悪くなったとき、昔はネット検索なんてないから、このぶ厚い本を祖母も熱心にめくったのだろう。症状と治療法に始まり、漢方療法、ツボの図解から民間療法まで、痛苦を和らげるためのさまざまの方法を、各分野の専門家監修のもとまとめている。病気の説明は現代に劣るかもしれないが、東洋医学や生活の知恵はむしろ現代より充実していると思われるので手元に置く。本書は医師による適正な治療と争うためではなく、むしろ補う目的とする編集後記が熱い。
風邪・インフルエンザの民間療法を抜き書きしてみる。焼いた梅干し。ショウガ湯。ネギとみそ。するめとネギ。ゴボウとみそ。シイタケとはちみつ。レンコンとキンカン。干し柿。卵酒。黒豆。コマツナ。シソ。ニラ。ニンニク。ヤマイモ。酢。キンカン。ショウガ酒。みそ酒。ネギ。玄米とミカン。黒豆とクルミ。キク。ヨモギ。ニワトコの花。ドクダミ。ゆず湯。梅酢。and so on。エンドレス。これがよかろうあれがよかろうと、それぞれに試して得た生活の知恵は、健康になりたい、家族を楽にしたいと願う人々の思いの集合体である。胸アツ。
読了日:01月13日 著者:

転がる珠玉のように (単行本)転がる珠玉のように (単行本)感想
「婦人公論」連載。若干短めのエッセイ。新型コロナの流行期に被っているので、医療関係者や家族の病、死の話題が多め。つられて始終涙ぐんだ。コロナ禍が明けたとて、物価高と生活苦、人不足の話題には事欠かない。でも地べた目線の話は温かみがある。そこにこそ希望を感じる。ならば「クリスマス・キャロル」の精神はなくとも、地べた目線は常に忘れずにありたい。あと、エッセイに起承転結が無いといけないわけではないと思った。起承だけでも、著者のエッセンスはじゅうぶんに発揮されている。Never too late.って素敵な言葉。
著者が保育士になったとき、1年目は子供に病気をもらいまくったが、2年目には鋼鉄の体になったという。人間の体は免疫がつくようにできている。しかし、私たちは今こんなに感染症に振り回されている。これはなぜなのだろう。コロナ禍期の強い行動規制が解除されてもう数年が経つ。隔離やマスクを外した反動だけではないのではないか。過消毒やマイクロバイオームの損失によって、人間という生物自体が弱くなっているんじゃないかとまで思う。あと記憶のスパンも短くなってるが、これはきっとスマホにより依存するようになった、情報過多のせいだ。
読了日:01月12日 著者:ブレイディ みかこ ファイル

インド夜想曲 (白水Uブックス 99 海外小説の誘惑)インド夜想曲 (白水Uブックス 99 海外小説の誘惑)感想
友人の消息を追って始まるインドの旅。インドの実在の場所を、主人公は初めてではなさそうにするする進んでいく。しかし、主人公の思考がインドらしくない。外国人だから当たり前だけど。行く先々で出会う相手との対話に戸惑い、苛立ち、でも着地点は最初から決まっていたような。持て余す夜の時間の無聊を慰めるためのような。その感じが西洋的で、物語としては私は好きではなかった。一個人の中で完結する、排他的なよそよそしさ、と名づけてみる。私のほうの気持ちがインドに寄りすぎているのかも。夜の駅や、高級ホテルの場面の雰囲気が好い。
読了日:01月11日 著者:アントニオ タブッキ

“手”をめぐる四百字: 文字は人なり、手は人生なり“手”をめぐる四百字: 文字は人なり、手は人生なり感想
季刊「銀花」連載。原稿用紙1枚の文章はエッセイとしては短い。しかし百様ならぬ五十様の手跡に目が釘付けになった。写真で挟まれたさまざまの手仕事はもちろん、紙一枚の上に表れる文章のなんと自由なこと。達筆どころか、字面が揃わなかったり、マスからはみ出たり、そもそもマス目を手書きしたり。ああ、これでいいんだ、と、近頃自分の手書き文字の汚さに辟易していた私は胸が軽くなったのだ。出版社からいただいた原稿用紙を持ち出し、写経用の筆ペンで、文字を書く遊びを始めた。マスからついはみ出るような、大らかな字を書く人になりたい。
読了日:01月09日 著者:白洲 正子

東の海神(わだつみ) 西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)東の海神(わだつみ) 西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)感想
この正月に引いたおみくじは最高の内容だった。占いというより激励だった。その流れで再読。私にとってこの本は"初心"みたいなもの、かもしれない。小松尚隆は私のメンターなのだ。『なんだ。そう悲壮な顔をしてどうする。どうせなるようにしかならん。軽く構えろ』。国の存亡の危機にあって発した台詞。上に立つ者の心構え、というか。国を守るため自身は必死に考え、体を張って動くのだけれども、どれだけ苦しくてもそれは自分が引き受けるのだと腹を決め、人々には堂々と接し、鷹揚に笑ってみせる。そうあるべしと心得て、今年に挑みたい。
『民は王などいなくても立ち行く。民がいなければ立ち行かないのは王のほうだ。民が額に汗して収穫したものを掠め取って、王はそれで食っている。その代わりに民が一人一人ではできぬことをやってやる』。
読了日:01月07日 著者:小野 不由美

ガラム・マサラ!ガラム・マサラ!感想
のっけからフルスピードでまくしたてるから、無分別な青春ギャングものに手を出したかと後悔しかけたが、どうして、これはこれでリアルな現代インド社会を俯瞰した物語の運びが興味深い。チャイ売りの屋台稼業は、インドの社会階層としては中の下の下だそうだ。テレビ番組の人気者になるという上っ面な狂騒と、金持ちになりたいというインド人のいつの時代も変わらぬ夢(?)を土台に、ドタバタが繰り広げられる。"インド人なのに"電子煙草を吸う、また伝統的でない薬物を摂取する、欧米文化にかぶれたインテリ階級への嫌みがスパイス。
『アビはバターチキンが売り切れた結婚式ビュッフェ会場のおじさんのような眼で僕たちを見ていた。それくらい怒っていた』。『食べ放題のビュッフェにいるパンジャブ人のように、僕の心臓は爆発しそうだった』。こういう比喩が秀逸でゲラゲラ笑ってしまう。そしてSRKとアーリア・バットはもはや鉄板ネタね。
読了日:01月01日 著者:ラーフル・ライナ ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。

  

Posted by nekoneko at 17:00Comments(0)読書

2025年01月07日

2024年の総括

積読の棚のいま



2024年、読んだ本の冊数は160冊。
購入費用199,167円。
積読本335冊(うちKindle本157冊)。

積読本はすべて見えるように並べるべし。という方針のもと、年末に夢中で並べなおした。
積読本とは希望。
未知の世界への扉であり、なにかあっても読むべきものがあるという保証。
努めて読みつつ、素敵な出会いとの期待を常に持ちたい。

2025年も良い本に出会えますように。


ブック

2024年、私の心に留まった本たち。

<多様性を失うことへの恐れ>

あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた (河出文庫 ア 11-1) あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた (河出文庫 ア 11-1)
 アランナ・コリン


捕食者なき世界 (文春文庫 S 12-1) 捕食者なき世界 (文春文庫 S 12-1)
 ウィリアム ソウルゼンバーグ


これが見納め: 絶滅危惧の生きものたちに会いに行く (河出文庫) これが見納め: 絶滅危惧の生きものたちに会いに行く (河出文庫)
 ダグラス・アダムス,マーク・カーワディン,リチャード・ドーキンス


世界の終わりを先延ばしするためのアイディア 人新世という大惨事の中で (単行本) 世界の終わりを先延ばしするためのアイディア 人新世という大惨事の中で (単行本)
 アイウトン・クレナッキ


タネが危ない タネが危ない
 野口 勲



<とことんインド>

シャンタラム(中) (新潮文庫)シャンタラム(下) (新潮文庫) シャンタラム (新潮文庫)
 グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ


ラーマーヤナ―インド古典物語 (上) (レグルス文庫 (1))ラーマーヤナ―インド古典物語 (下) (レグルス文庫 (2)) ラーマーヤナ―インド古典物語 (レグルス文庫)
 河田 清史


デオナール アジア最大最古のごみ山――くず拾いたちの愛と哀しみの物語 デオナール アジア最大最古のごみ山――くず拾いたちの愛と哀しみの物語
 ソーミャ ロイ


インド文化入門 (ちくま学芸文庫) インド文化入門 (ちくま学芸文庫)
 辛島 昇



<知の巨人に圧倒される>

日本文化の核心 「ジャパン・スタイル」を読み解く (講談社現代新書 2566) 日本文化の核心 「ジャパン・スタイル」を読み解く (講談社現代新書 2566)
 松岡 正剛


生きていく民俗 ---生業の推移 (河出文庫) 生きていく民俗 ---生業の推移 (河出文庫) >
 宮本 常一



<人ってやつは>

空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日 (ヤマケイ文庫) 空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日 (ヤマケイ文庫)
 ジョン・クラカワー


いま見てはいけない (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫) いま見てはいけない (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫)
 ダフネ・デュ・モーリア


多様性の科学 多様性の科学
 マシュー・サイド


気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか? 気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?
 スティーブン・E・クーニン


不合理だからうまくいく: 行動経済学で「人を動かす」 (ハヤカワ文庫 NF 405) 不合理だからうまくいく: 行動経済学で「人を動かす」 (ハヤカワ文庫 NF 405)
 ダン・アリエリー

  

Posted by nekoneko at 16:59Comments(0)読書

2025年01月07日

2024年12月の記録

年末年始にスマホやテレビ画面を凝視しすぎるのか、
目が痛い。頭も痛くて病気ではないかと疑う。
発光する画面を見る時間を減らさなければ。

<今月のデータ>
購入11冊、購入費用8,973円。
読了15冊。
積読本335冊(うちKindle本157冊)。


ブック

積ん読の本積ん読の本感想
一日に1冊読んだとしても一年で読めるのは365冊。やばい。もう間近だ。危機感に反して、乱雑に、また整然と積まれた本の写真に見とれてしまう。ここで取材されている方々は総じて積読本という存在にポジティブだ。積読している本があるのは毎日ご飯を食べているのと同じ、ごく自然なこと。読んだ本と一緒に読んでいない本もある家のほうが、未知の世界に自分が開かれている。などなど、金言の宝庫だ。私の、一瞬でも自分の意思で読みたいと思い、お金を払うと決めた本たち。全部の積読本の背中が見えるように並べ直して、今年の締めとします。
読了日:12月29日 著者:石井千湖

一枝の桜: 日本人とはなにか (中公文庫 オ 2-1)一枝の桜: 日本人とはなにか (中公文庫 オ 2-1)感想
ロシア人記者の地元文芸誌連載。時代は先の大阪万博直前。高度成長期の、すさまじい速度で国土を破壊し伝統を捨て去る日本を活写している。読めば読むほど奇々怪々な日本人の相反した性質、対して驚きと魅力に溢れる自然や文化。古今、日本に惹かれた数多の外国人が、それぞれの目的のために日本の姿を著してきた、その労力と情熱に改めて心打たれる。自然の美しさの値打ちを知っていながら、それを自ら損なう行動を取る日本人の矛盾は多くが指摘するところだ。これは私も謎に思っている。美しさでは腹は膨れないと考える即物主義なのだろうか。
読了日:12月25日 著者:フセワロード オフチンニコフ ファイル

きみのお金は誰のため: ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」【読者が選ぶビジネス書グランプリ2024 総合グランプリ「第1位」受賞作】きみのお金は誰のため: ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」【読者が選ぶビジネス書グランプリ2024 総合グランプリ「第1位」受賞作】感想
うまくできている。お金とは何かを「お金の向こう研究所」での物語に乗っけて導いてゆく。サクマドルや水たまりの例えがわかりやすい。経済、外国取引、投資、税金、贈与…各章のまとめだけ拾い読んでも何のこっちゃわからないだろう。お金を増やすこと自体を目的にすると、ただの奪い合いになる。貯めることではなく造ることでしか解決できない。特に今の社会で何が問題であるか、視点の置きかたが白眉で、結論だけ聞いたら「この偽善者め」と鼻白みそうな考えかたも、うっかり騙されておきたいような気分になる。会社の本棚に面陳しておいた。
読了日:12月24日 著者:田内 学

社会保険労務士の世界がよくわかる本社会保険労務士の世界がよくわかる本感想
社労士ノウハウ本。自分で資格取っても法改正や環境変化に継続的にキャッチアップするのはハードルが高い。かといって顧問契約が必要かと迷っていた。当たり前だが起業社労士側からの視点が予想以上に面白かった。『日々の労務相談に対応していくことのみで、顧問先企業の未来がよりよくなることはない』。確かに日々の手続きは多くなくとも、社労士の真価は社員育成や制度の整備・最適化など、いわゆるコンサルの部分であると分析している。簡便なクラウドアプリも生成AIもできない付加価値。なるほど斜陽と揶揄される士業だが、これはあるわ。
読了日:12月24日 著者:大津 章敬,林 由希,中村 秀和,出口 裕美,安中 繁,下田直人 ファイル

開高健名言辞典<漂えど沈まず>: 巨匠が愛した名句・警句・冗句200選開高健名言辞典<漂えど沈まず>: 巨匠が愛した名句・警句・冗句200選感想
開高健のキレッキレの名言を堪能して元本を読む、という流れを期待して読み始めた本だったが、なんか違った。アナログで言葉を拾い集めたという著者の開高健読み込み度は凄い。しかしそれに対して打てば響くレベルで読み手が反応できないと、いや、少なくともその"名言"が書かれた背景をぼんやりとでも思い浮かべられないと、文章の一部であるところのそれはただの言葉でしかないのだ。あと、釣りネタと下ネタ多いからね、余計に文脈の中でないと引くよね。とりあえず「珠玉」を読み直すか、大量に電子化されているエッセイを読むかな。馬馬虎虎。
読了日:12月23日 著者:滝田 誠一郎 ファイル

わたしの農継ぎわたしの農継ぎ感想
これからの日本は大変動と試行錯誤の時代。本人がそれでいいと思うんならなんでもやればいいのだと思う。周りに迷惑をかけない限りは。農のかたちはいろいろある、とわかる。慣行農業、有機、不耕起、自然農法、どれが正しいってものではない。ただ、農家が野菜を育てて採算をとるために今の農法が確立されている現実の尊重と、農家の人が知っていることを何も知らない、お気楽な「真剣な遊び」は別物との自覚を持っておきたい。あと、例えば信州と四国では風土が違う。同じように無農薬や自然農法ができるわけではない、かもしれないと覚えておく。
読了日:12月22日 著者:高橋久美子

タネが危ないタネが危ない感想
野菜のタネは本来、一粒一粒が多様な性質を持つもの。従来と違う環境でも、植えれば気候風土に適応していく力を持つ。日本人がいかに野菜から自家採種し、風土に合うような優れたタネを選抜し固定化してきたかを知ると、タネも驚異だが日本人の根気強さも驚異だ。F1は経済効率性を優先した欠陥種。どうせ家庭菜園をやるなら、固定種の野菜をタネから無農薬×自家堆肥で育ててみたいと思うのは自然だろう。失敗したとしても、私が今から始めればあと20回はタネ取りできる計算だから、どこかの時点で我が家だけのたくましい野菜が完成するはずだ。
F1(一代雑種)野菜は、農家が短期単一栽培しやすく、小売業が大量均一販売しやすくするためにつくられた。伝統野菜・地方野菜っぽい名前がついていても販売側のブランド化したい思惑なだけで、美味しさは目指していない。家庭菜園用に販売しているタネもチェーン店のはF1。F1でない野菜やタネをどこで探せばいいかよくわかった。日々生きていくためにスーパーの野菜もなくてはならないし買う。だけど、できる範囲で、そうじゃない食卓と生活を目指してみる。それにしてもF1、遺伝子組換、放射線育種と人は天に唾する行為を思いつくものだ。
在来種やら固定種やら古来種やらいろいろな呼びかたをするタネの違いを理解したくて。著者は野口種苗研究所の主、三代目。『家庭菜園を楽しむということは、スーパーで売っているような見ばえの良い野菜を、ただ家計の足しに作ることではなく、野菜本来の味を楽しみながら自家採種すれば、野菜の進化の手助けをし、地方野菜を育んで地域おこしの一助にもなる。そんな人が増え、新しい地方野菜が各地に再び生まれる。そんな日がやがて来ることを、毎日夢見ている。』
読了日:12月18日 著者:野口 勲 ファイル

天の光はすべて星 (ハヤカワ文庫 SF フ 1-4)天の光はすべて星 (ハヤカワ文庫 SF フ 1-4)感想
素敵な邦題に惹かれて。古いSFを読むとままあることだが、この小説が書かれた時から思い描く未来が、今の私にとって過去という事実は、なんとも郷愁を呼ぶ。あんなふうだと作者は想像したのだろう。想像された過去、そうはならなかった今。私は“星屑”ではないんだけれど、“星屑”の情熱遺伝子は今も昔も変わらず受け継がれ続けて、それはそうはならなかった今を圧倒して余りあった。エレン。政治家とも対等に渡り合い、自ら望んだように振る舞う姿は古臭くないどころか、格好よさが時代を超越していた。配役はレベッカ・ファーガソンを。
読了日:12月18日 著者:フレドリック・ブラウン

蜜蜂蜜蜂感想
2045年、地球のミツバチは絶滅した。それを挟んだ3つの時代、3つの家族。父と母と子供、妻と夫のやりとりはいつの時代でも相似形を描き、3つの家族のエピソードはパラレルに、しかしミツバチの群れがシンクロした動きを見せるように、浮揚し、軋み、降下し、捻じれ、それぞれの結末へ向かう。いつだって誰かの思うようにはならない世界。人もミツバチも。ブンブン舞って生き延びようとしているだけなんだよな。ノルウェーの作家。アメリカと中国の配置が興味深い。ミツバチ養いたい。あ、逆だ。ミツバチに人間が養われる今が続きますように。
読了日:12月17日 著者:マヤ・ルンデ ファイル

ちゃぶ台6 特集:非常時代を明るく生きる (生活者のための総合雑誌)ちゃぶ台6 特集:非常時代を明るく生きる (生活者のための総合雑誌)感想
安定のちゃぶ台。どうしてこんなにほっとするのか思い返してみる。「経済合理性」の否定!みたいな激しい語調ではなく、これってなんかおかしいよね、だから私はこれを選ぶよ、という個々人の感覚がすくい上げられているから、かな。そしてそれを好ましく感じるから。この号は新型コロナ初期の頃だったので、社会の歪みがいろいろ露わになった時期でもあった。それが落ち着いたら今度は物価上昇に振り回されていて、それでもあの頃感じ取った大事なことは手放してはならないと思う。100円より200円の大根。もうそんな値段じゃ買えないけどね、
読了日:12月16日 著者:

ブート・バザールの少年探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)ブート・バザールの少年探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
どんでん返しは起きずに落着してしまって呆気にとられた。大都市のスラム、居留区に住む貧しい人々。主人公は9歳、目から鼻に抜ける利発さもないのに、近所の子供が姿を消す事件に的外れに探偵ぶってはあしらわれる男の子。その健気さより、いたたまれなさのほうが強いかな。差別、貧困、格差と大人も子供も理不尽を感じながら生きている日常の描写が長く、遅々として進まない。終盤、デオナールのようなごみ集積所を、子供たちを探して歩く親たちの悲しみと怒りが堰を切って暴走する。それでもうやむやになって何も解決しないのがインドらしい。
読了日:12月12日 著者:ディーパ・アーナパーラ ファイル

多様性の科学多様性の科学感想
多様性という言葉は日本でも市民権を得たが、浸透はまだ難しそうだ。会議の場面。参加者の同一性が高いほど話し合いは滑らかで、結論に自信が生まれる。他方、参加者の多様性が高いと反対意見が多く結論はまとまりにくく、自信を持てない結果になる。だからつい同質性の高いグループで出た結論に満足してしまうが、それでは集団の視野が狭く、潜在的固定観念を強化する結果にしかならず、生産性は低くなる。体感と成果が相反する点が重要だ。そこを押して多様性を高めるには人口統計学的多様性/認知的多様性ともに強い意志で取り入れる必要がある。
ヒエラルキー組織は下位メンバーの発言力を弱める。そうでなくても日本人、集団に慣れると違和感を忘れがちだし、無意識に融和的な言葉を選ぶようにもなる。せめてフラットな組織を心掛けるべきだ。あと『標準化を疑う眼』は忘れてはならない。決まりを押しつけたほうが管理は楽だが、最大限、それぞれ独自の環境をつくる権限を与えたほうがメンバーのモチベーションは上がり、総じて生産性は向上する。ほんとうにその決まりは必要か疑う習慣を維持したい。多様性ある集団を評価できる人事評価メソッドは可能か? 課題として覚えておく。
『本書を執筆しようと思ったのは、その多様性がたんに民族的・文化的な問題にとどまらず、ビジネスから政治、歴史学から進化生物学にまで関わる問題だと気づいたのがきっかけだった』。『画一的な集団が抱えるもっとも根深い問題は、情報やデータを的確に理解できないとか、間違った答えを出すとか、与えられたチャンスを十分に活かせないとかいったことではない。真の問題は、本来見なければいけないデータや、訊かなければいけない質問や、つかまえなければいけないチャンスを、自分たちが逃していることに気づいてさえいないことだ』。
読了日:12月11日 著者:マシュー・サイド ファイル

デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場感想
栗城史多、享年35。少々無責任だが普通の、悪気のない若者。幸運により高峰に登れてしまった、映える言動が得意なエンターテイナー。ただし山への情熱も敬意も私は感じられなかった。起業家や芸人として資質があったかもしれない。言い換えれば山師。しかし人として他者に誠実でなかったとしても、ビジネスなら破産程度で済むが、エヴェレストは容赦なく命を奪った。傍で助言してくれる人の真心よりメディアでの映えを優先した、欺瞞や法螺ゆえの帰結。死後の取材は難しい。誰しも悔恨や自責回避、美化のフィルターがかかって、事実が見定め難い。
読了日:12月07日 著者:河野 啓 ファイル

空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日 (ヤマケイ文庫)空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日 (ヤマケイ文庫)感想
クラカワーは機を得て営業公募隊の一員として登頂に挑戦する。そこで大事故は起きた。生き残った自身の苦悶が癒えるのを待たずクラカワーは書いた。苦渋が濃い。高度7500m以上では高度障害、低酸素、極度疲労で誰もが平常の思考力と運動能力を失う。高いスキルを持ったスタッフや常人ならぬ意欲と身体能力を持った同行者も例外ではなく、生きたまま凍りつき、凍りついてなお生き、絶えた。その遺体を一瞥してまた挑戦者が頂上を目指す。自らの命を天秤にかけるほどのエヴェレストの頂への憧れは、どんな因業があって人間の心に巣くうのだろう。
『わたしは望んでいるのだ――あの惨劇の直後、撹乱と苦悩の只中に、あえて自分の気持ちをさらけだすことによって得るものもあるだろう、と。時が経過し苦悶が消散したあとではもう出てこないかもしれない、生のままの厳しい誠実が、わたしの記述にあれば――』。それは誠実であると同時に、ライターとしての野心でもあるのかもしれない。ブクレーエフが「デス・ゾーン」でクラカワーの著述を否定したことへ反論した後記が付録されている。あのような極限状態を正確に書くことは難しい。しかし私はクラカワーのライターとしての矜持と誠実を信じる。
読了日:12月05日 著者:ジョン・クラカワー ファイル

図解 いちばんやさしく丁寧に書いた 会社法の本図解 いちばんやさしく丁寧に書いた 会社法の本感想
会社法は大企業から一人会社まで広く適用されるべく、多岐にわたる膨大な条文を持つ。自社に新たに役員を登用するにあたり、ひととおり読んでもらうためにととにかくわかりやすいものを選んだ。見開きで同内容を文字と図解で表してあるもので、素人がざっくり把握するにはちょうどよい。会社組織の成り立ちから役員の義務など、長く経営にかかわっていれば当たり前のことが、改めて説明されるとそうだったのかと腑に落ちることも多い。経営破綻や清算、M&Aについての条項に目が留まる。会社の終わりには苦いものがある。さて議事録案を作成する。
読了日:12月04日 著者:


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。

  

Posted by nekoneko at 14:34Comments(0)読書