2024年11月01日
2024年10月の記録
頭が痛い。
読み過ぎのせいか、天気のせいか、親から新型コロナもらったか。
素敵に夜が長くなっているのだから、優雅に本を読んで過ごしたいところだけれど。
<今月のデータ>
購入16冊、購入費用25,242円。
読了17冊。
積読本330冊(うちKindle本152冊)。

笹まくら (講談社文庫)の感想
主人公が想起するつど、前触れなく現在に過去が交じる。徴兵を忌避した理由が結局何であれ、数年間の地獄または命の代償は、逃亡中の苦労だけで済まなかった。それから20年、生きて戻った男たちとの断絶、絶えず他者の言動の真意を測り続ける暮らし。笹まくら。自分の良心の満足のために行動することを自ら戒める場面は、自分にはその権利が無いとの意味なら、業苦だろう。引き換え、醜い中年の田舎女と蔑んだ阿貴子は、回想の中でどんどん美しく賢く変わりゆき、現実的でしかし自由に振る舞う姿が鮮やかに脳裏に残る。彼女の真摯が切ない。
読了日:10月27日 著者:丸谷才一
庭仕事の愉しみの感想
ヘッセも庭を愛した人だったと知る。庭にまつわる散文や詩、手紙などを集めたものである。だだっ広い敷地に立つ姿や、庭でレトロな如雨露や籠に囲まれて作業をする写真なども掲載されている。花壇と畑。人間の領域と森のせめぎ合い。文章も詩的だ。『静かにしていると、瞬時のあいだ世界の調和が草の中で歌うのが聞こえてきたりする、そんなひとときが毎日あります』。草むしりを礼拝に喩えている箇所がある。もし禅を知っていたら「庭禅」とも喩えたかもしれない。惜しむらくは私が詩に不調法な事。長い散文か、短歌程度に短くないと落ち着かない。
読了日:10月23日 著者:ヘルマン ヘッセ
字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ (光文社新書)の感想
英語の映画に日本語字幕をつける字幕翻訳者さん。吹替との違いや、字数制限、禁止用語などとの闘いのほか、良い映画を観客の胸に響かせたい思いの障害となる商業主義への批判がかなりを占める。最近のYouTubeは映画も多く公式アップロードされており、日本語対応していなくても自動翻訳機能が使える。ほぼ意味は取れるが、直訳で性別もニュアンスも判別不能である。あれを見ると字幕翻訳者さんの存在は当分重要だと感じる。映画館で観たタミル映画を字幕なしで観ているが、そろそろ字幕が恋しい。翻訳であっても字幕は味わい深いものだから。
読了日:10月16日 著者:太田 直子
最新版 小さな会社のWeb担当者になったら読む本の感想
BtoC業種ではないし、BtoB営業の必要もさほど無い。それでも「会社」であることの表明と、なにより求職者向けのアピールが必要な時代である。大きく分けてウェブサイトとSNS、それぞれの考え方と必要を見定めるにはちょうどよかった。なんせ外注が好きでない性分なので、ウェブサイトの内容見直しと、採用専用サイトの立ち上げ、目的にかなうSNSの企画を進める。クラウドソーシング、SNS連動ツール、アクセス解析も新たな武器として試してみたい。ひとり情シス兼ひとりWeb担もそろそろ卒業しないとなあ。2023年版。
読了日:10月15日 著者:山田 竜也
だれも教えてくれなかった エネルギー問題と気候変動の本当の話 (14歳の世渡り術プラス)の感想
フランス発、世界で読まれているという環境本。エネルギーにはグリーンもクリーンも無い。大規模に使えばどれだってダーティと著者は指摘する。エネルギーを人力に換算すると、現代の日本人はひとりが600人の奴隷を使っていることになるという。それくらい、膨大なエネルギーを消費しないと現代人は生きられない。進化も平和も福祉国家も、エネルギー供給あってこそ。そしてこの世界は拡大することでしか安定しえないという事実。これらを考え合わせると原発は最適解、という結論になるか。日本語翻訳監修は「エネルギーをめぐる旅」の古館さん。
長期で歴史を見ると、化石エネルギーを使用することで人間一人の能力をはるかに超えて生産することができるようになった。これにより農業従事者が減って工業従事者が増えた。さらにエネルギーが安価になり、工業従事者が減ってサービス業従事者が増えた。ここで現在、AIが出てきてサービス業従事者が減ることになるのか。そしてAIはとんでもなくエネルギーを喰う。今新たな革命と呼ばれるのはそこも含めての話なのだろう。
読了日:10月15日 著者:ジャン=マルク・ジャンコヴィシ,クリストフ・ブレイン
使い切れない農地活用読本の感想
農地を持っている訳でもないのに読みたがるのは、家周りの農地の近未来を想像するからだ。この週末は70歳前後と思しき農家さんが協力し合って稲刈りをしていた。しかし近く手が回らなくなる農地の割合は少なくないだろう。手がかからない、といってもそれなりにかかるのだが、クロモジ、クルミ、ミツマタなどの有用植物、ミツバチの蜜源植物、枝物、それ以外の木を植えるなど、各地から集まったアイデアにわくわくする。ただし収穫の無い木を農地に植えるには農業委員会に申請が必要。許可されればさらに税務上および登記上の申請が必要とのこと。
読了日:10月14日 著者:
美は乱調にあり――伊藤野枝と大杉栄 (岩波現代文庫)の感想
当時世間を騒がせた二人の道行き。つまるところ野枝には家事子育ての生活能力も独力で稼ぐ自立能力も無い。親戚知人にとっても傍迷惑だったことが初っ端から書かれる。そして男性から見た野枝と女性が見る野枝の評価の落差もつぶさにほのめかされるあたり、意地悪いのう。寂聴さん43歳、出家前の作。地頭の良さ以外に取り得の無い野枝の"野性"、野枝の内にたぎる女の本能が、理性で抑え込んでもすり抜ける恋情が、市子の中にも、また歳が倍ほどもなり経験を積んだはずの自分の中にも確かにあって自尊心と絡み合っていることに気づいて慄く。
読了日:10月14日 著者:瀬戸内 寂聴
日本改革原案2050: 競争力ある福祉国家への感想
祝幹事長就任。小川さんの凄いところは、ガチンコの質問に答えられない、または言葉を濁すことが無い政策オタクぶりだ。切り取りで消費税増税論者のように揶揄されるが、ずっと人口激減収入減の日本を救う方策を考え続けてきたことをこの本が証明する。今回、2014年の原案から更に修正を加えている。所得税、法人税、相続税の増税ならびに消費税の時限減税だ。常にインプットを怠らない。実現が難しくてもよりあらまほしき在り方を考え続ける。あくまで個人としての案なので、今の幹事長の立場では違うことも言わざるをえないだろうけれども。
読了日:10月12日 著者:小川 淳也
地球の冷やし方の感想
ときめいて、やらずにいられなくなるような、お金のかからない、環境に良いこと。って言ってもいち個人でできることは微々たるものだしな、と思ったが。ソーラーフードドライヤーと、パッシブ・ソーラー・ハウスの鶏小屋いいなあ! 楽しいなあ! しかしつくりかたを聞いても難易度が高い。誰かつくって売ってくれんかなの方向に考えてしまう。著者は発明家を自称し、廃バイクで風力発電機をつくってしまうような人だから、と言い訳したいところだが、なんでも自分でやってみる、それが真に環境に優しい生きかたであることは間違いないのだ。
読了日:10月11日 著者:藤村靖之
国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか (講談社+α新書 672-3C)の感想
諸国と比べ、競争力は圧倒的に高いのに生産性が顕著に低い日本について、根本原因は20人未満のミクロ企業が成長しないまま存続できるシステムだと結論している。企業において生産性と賃金、生産性と企業規模には相関関係があり、生産性と労働者の給料水準がもっとも因果関係が強いと検証されたという。おおむねこの論理により、日本の最低賃金は急上昇を始めた。60年守られてきた中小企業は尻を叩かれるのだ。倒産やM&Aにより淘汰する"グランドデザイン"。これは人口激減と巨大地震を控えた国家には必要なことだろう。正論、8割がた納得。
ミクロ企業は効率が悪いという話。管理する側から言えばそりゃ効率は悪い。しかし一企業の固定費率が高くなりがちなのも社員の守備範囲が広くなりがちなのも、一概に悪いことではない。新しいITツールの取入れが遅いとの指摘は図星だった。規模が小さいからIT化の効果を感じづらく、効率の悪い方法で不便を感じない。最先端会計ソフトの必要も感じない。とはいえ、最近は中小企業向けの諸アプリも充実してきており、それなりに取り入れてはいる。問題は、企業が成長しない点なのだと解釈する。社員、経営者共に教育への貪欲さが必要だろう。
常識が全て根底から変わっていく、という経験を今の日本人はしたことがない。例えばイギリスでは最低賃金を毎年4.2%上げ続けた結果、20年で2倍になったという。それっておかしくないか? それが経済のあるべき姿である、という考えがどうも私は馴染まないのだが(だって20年経ってもニンジンはニンジン、親子丼は親子丼やろ)、資本主義諸国がその方向で動いている以上、同調しなければ脱落するだけである。毎年4.2%以上の昇給、か。労働分割による専門性向上も、歯車の歯が細かくなるだけで良いことだとは思わないがなあ。
読了日:10月10日 著者:デービッド アトキンソン
評価と贈与の経済学 (徳間ポケット)の感想
岡田氏の動画で内田先生との対談本があると聞き、検索したらKindleの中にあったパターン。2013年の出版なのにリーダビリティありすぎて恐い。もう11年経ってるのにまだ同じこと言わなきゃいけない日本が恐い。岡田氏の経歴と周囲に集まる人々の層がわかると、氏がなぜこんなに若者の行動や心情を理解しているのか、分析するのか察せられる。「イワシ化」に加え「自分の気持ち至上主義」「もういいんです症候群」とか「完全記録時代」とかネーミングが絶妙。異質な二人。岡田氏の持論を受け入れられない内田先生の拒絶ぶりも面白い。
読了日:10月08日 著者:内田樹,岡田斗司夫 FREEex
時が滲む朝 (文春文庫 や 48-2)の感想
1989年の天安門事件前夜、大学生たちは正しく愛国と民主主義を主張し、正しくデモに集った。みんな若く、純粋で本気で。しかし退学処分は即ちエリートコースが約束された身分からの転落、時を経て主人公は日本で非正規職に就く。同志は欧米に亡命し、親友は故郷に沈黙した。天安門広場にいなかったとしても、当時希望を覚えた名もなき数多の若者の、いつにもいずれにもあの日々が影を落としている。繰り返し描かれる輝かしい朝日。それは宿命の象徴、どの朝の光景も自らの宿命だったと悟り受容する結末には、希望が確かにある。芥川賞受賞作。
『素晴らしい朝日だ。この黄色い大地に日が昇ってくるのを見て、中華子孫としての血が騒ぎだすんだ』。
読了日:10月08日 著者:楊 逸
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2 (新潮文庫 ふ 57-3)の感想
前作同様、格差の拡がるイギリス社会で身近に起きる事件、それらを巡る親子の対話が主軸。彼は中2になった。保守党政権の緊縮財政政策による社会インフラの劣化、外国人労働者が増えて変化する人々の認識。フリーランスになるための教育プログラムといい、日本の一歩先を行っているように感じる。ある状況下において、自分が心で感じたように他の人々も感じるはずだと考えて規則を外れた行動を取るか、あるいはそれを切り捨てて規則どおりに行動するかは、その人が何を信じているかが如実に表れるものだと思う。つまり社会への信頼があるかないか。
日本はイギリスに比べ大人も子供も教育が足りていないと感じた。大人が政治や民主主義について日常的に議論することや、また中学2年生に課す課題として、社会問題についてのスピーチ原稿をまとめさせるとか、大人と同様に投票するイベントを設け、EU離脱、気候危機などに関する政策を読んで議論させるとか、日本には無いものだ。事実を共有して、異なる立場間で対話をする習慣が、作法が、日本人にはほとんどないのではないか。大人も子供もその面での成長が阻まれている。それはいま日本の建設的な社会設計を阻害している主要因なんじゃないか。
読了日:10月07日 著者:ブレイディ みかこ
鳴かずのカッコウ (小学館文庫 て 2-3)の感想
こんな世界があることを、一般の私たちは意識して生活していない。だけどあるんだなあ、と手嶋さんの小説を読むたび思い出す。『インテリジェンスとは、国家が生き残るための選り抜かれた情報だ。どんなに小さな国も、国家が生き抜くにはインテリジェンス機関は欠かせない』。ただ表面化した犯罪を追うだけでは掴み切れない、他国の思惑や企みをあぶり出す任務。今回は船舶の売買を軸にワールドワイドな頭脳戦が繰り広げられる。ウクライナの空母ワリャーグを中国が買った、それが空母遼寧。裏事情のほのめかしに、どこまで真実かとわくわくした。
読了日:10月04日 著者:手嶋 龍一
はっとりさんちの狩猟な毎日の感想
息抜きに。最初に読んだ時は、『平穏に暮らす人々に対し、生きることの意味を無理やり考えさせるような挑発をする』服部文祥に振り回される小雪さんと子供たちの大変さに同情し、エピソードのあり得なさにいちいち驚いたものだったが、今回はそれらを当たり前と受け取って読んでしまった。だってそれは服部家の普通だから。服部文祥は真剣やもんね。人はやりたいことをやるべきで、親が親の好きなようにやっても子供は子供でええように育つ。なるようになる。犬も猫も鶏も。
読了日:10月02日 著者:服部小雪,服部文祥
注:
は電子書籍で読んだ本。
読み過ぎのせいか、天気のせいか、親から新型コロナもらったか。
素敵に夜が長くなっているのだから、優雅に本を読んで過ごしたいところだけれど。
<今月のデータ>
購入16冊、購入費用25,242円。
読了17冊。
積読本330冊(うちKindle本152冊)。


主人公が想起するつど、前触れなく現在に過去が交じる。徴兵を忌避した理由が結局何であれ、数年間の地獄または命の代償は、逃亡中の苦労だけで済まなかった。それから20年、生きて戻った男たちとの断絶、絶えず他者の言動の真意を測り続ける暮らし。笹まくら。自分の良心の満足のために行動することを自ら戒める場面は、自分にはその権利が無いとの意味なら、業苦だろう。引き換え、醜い中年の田舎女と蔑んだ阿貴子は、回想の中でどんどん美しく賢く変わりゆき、現実的でしかし自由に振る舞う姿が鮮やかに脳裏に残る。彼女の真摯が切ない。
読了日:10月27日 著者:丸谷才一


ヘッセも庭を愛した人だったと知る。庭にまつわる散文や詩、手紙などを集めたものである。だだっ広い敷地に立つ姿や、庭でレトロな如雨露や籠に囲まれて作業をする写真なども掲載されている。花壇と畑。人間の領域と森のせめぎ合い。文章も詩的だ。『静かにしていると、瞬時のあいだ世界の調和が草の中で歌うのが聞こえてきたりする、そんなひとときが毎日あります』。草むしりを礼拝に喩えている箇所がある。もし禅を知っていたら「庭禅」とも喩えたかもしれない。惜しむらくは私が詩に不調法な事。長い散文か、短歌程度に短くないと落ち着かない。
読了日:10月23日 著者:ヘルマン ヘッセ

英語の映画に日本語字幕をつける字幕翻訳者さん。吹替との違いや、字数制限、禁止用語などとの闘いのほか、良い映画を観客の胸に響かせたい思いの障害となる商業主義への批判がかなりを占める。最近のYouTubeは映画も多く公式アップロードされており、日本語対応していなくても自動翻訳機能が使える。ほぼ意味は取れるが、直訳で性別もニュアンスも判別不能である。あれを見ると字幕翻訳者さんの存在は当分重要だと感じる。映画館で観たタミル映画を字幕なしで観ているが、そろそろ字幕が恋しい。翻訳であっても字幕は味わい深いものだから。
読了日:10月16日 著者:太田 直子


BtoC業種ではないし、BtoB営業の必要もさほど無い。それでも「会社」であることの表明と、なにより求職者向けのアピールが必要な時代である。大きく分けてウェブサイトとSNS、それぞれの考え方と必要を見定めるにはちょうどよかった。なんせ外注が好きでない性分なので、ウェブサイトの内容見直しと、採用専用サイトの立ち上げ、目的にかなうSNSの企画を進める。クラウドソーシング、SNS連動ツール、アクセス解析も新たな武器として試してみたい。ひとり情シス兼ひとりWeb担もそろそろ卒業しないとなあ。2023年版。
読了日:10月15日 著者:山田 竜也

フランス発、世界で読まれているという環境本。エネルギーにはグリーンもクリーンも無い。大規模に使えばどれだってダーティと著者は指摘する。エネルギーを人力に換算すると、現代の日本人はひとりが600人の奴隷を使っていることになるという。それくらい、膨大なエネルギーを消費しないと現代人は生きられない。進化も平和も福祉国家も、エネルギー供給あってこそ。そしてこの世界は拡大することでしか安定しえないという事実。これらを考え合わせると原発は最適解、という結論になるか。日本語翻訳監修は「エネルギーをめぐる旅」の古館さん。
長期で歴史を見ると、化石エネルギーを使用することで人間一人の能力をはるかに超えて生産することができるようになった。これにより農業従事者が減って工業従事者が増えた。さらにエネルギーが安価になり、工業従事者が減ってサービス業従事者が増えた。ここで現在、AIが出てきてサービス業従事者が減ることになるのか。そしてAIはとんでもなくエネルギーを喰う。今新たな革命と呼ばれるのはそこも含めての話なのだろう。
読了日:10月15日 著者:ジャン=マルク・ジャンコヴィシ,クリストフ・ブレイン

農地を持っている訳でもないのに読みたがるのは、家周りの農地の近未来を想像するからだ。この週末は70歳前後と思しき農家さんが協力し合って稲刈りをしていた。しかし近く手が回らなくなる農地の割合は少なくないだろう。手がかからない、といってもそれなりにかかるのだが、クロモジ、クルミ、ミツマタなどの有用植物、ミツバチの蜜源植物、枝物、それ以外の木を植えるなど、各地から集まったアイデアにわくわくする。ただし収穫の無い木を農地に植えるには農業委員会に申請が必要。許可されればさらに税務上および登記上の申請が必要とのこと。
読了日:10月14日 著者:

当時世間を騒がせた二人の道行き。つまるところ野枝には家事子育ての生活能力も独力で稼ぐ自立能力も無い。親戚知人にとっても傍迷惑だったことが初っ端から書かれる。そして男性から見た野枝と女性が見る野枝の評価の落差もつぶさにほのめかされるあたり、意地悪いのう。寂聴さん43歳、出家前の作。地頭の良さ以外に取り得の無い野枝の"野性"、野枝の内にたぎる女の本能が、理性で抑え込んでもすり抜ける恋情が、市子の中にも、また歳が倍ほどもなり経験を積んだはずの自分の中にも確かにあって自尊心と絡み合っていることに気づいて慄く。
読了日:10月14日 著者:瀬戸内 寂聴

祝幹事長就任。小川さんの凄いところは、ガチンコの質問に答えられない、または言葉を濁すことが無い政策オタクぶりだ。切り取りで消費税増税論者のように揶揄されるが、ずっと人口激減収入減の日本を救う方策を考え続けてきたことをこの本が証明する。今回、2014年の原案から更に修正を加えている。所得税、法人税、相続税の増税ならびに消費税の時限減税だ。常にインプットを怠らない。実現が難しくてもよりあらまほしき在り方を考え続ける。あくまで個人としての案なので、今の幹事長の立場では違うことも言わざるをえないだろうけれども。
読了日:10月12日 著者:小川 淳也

ときめいて、やらずにいられなくなるような、お金のかからない、環境に良いこと。って言ってもいち個人でできることは微々たるものだしな、と思ったが。ソーラーフードドライヤーと、パッシブ・ソーラー・ハウスの鶏小屋いいなあ! 楽しいなあ! しかしつくりかたを聞いても難易度が高い。誰かつくって売ってくれんかなの方向に考えてしまう。著者は発明家を自称し、廃バイクで風力発電機をつくってしまうような人だから、と言い訳したいところだが、なんでも自分でやってみる、それが真に環境に優しい生きかたであることは間違いないのだ。
読了日:10月11日 著者:藤村靖之

諸国と比べ、競争力は圧倒的に高いのに生産性が顕著に低い日本について、根本原因は20人未満のミクロ企業が成長しないまま存続できるシステムだと結論している。企業において生産性と賃金、生産性と企業規模には相関関係があり、生産性と労働者の給料水準がもっとも因果関係が強いと検証されたという。おおむねこの論理により、日本の最低賃金は急上昇を始めた。60年守られてきた中小企業は尻を叩かれるのだ。倒産やM&Aにより淘汰する"グランドデザイン"。これは人口激減と巨大地震を控えた国家には必要なことだろう。正論、8割がた納得。
ミクロ企業は効率が悪いという話。管理する側から言えばそりゃ効率は悪い。しかし一企業の固定費率が高くなりがちなのも社員の守備範囲が広くなりがちなのも、一概に悪いことではない。新しいITツールの取入れが遅いとの指摘は図星だった。規模が小さいからIT化の効果を感じづらく、効率の悪い方法で不便を感じない。最先端会計ソフトの必要も感じない。とはいえ、最近は中小企業向けの諸アプリも充実してきており、それなりに取り入れてはいる。問題は、企業が成長しない点なのだと解釈する。社員、経営者共に教育への貪欲さが必要だろう。
常識が全て根底から変わっていく、という経験を今の日本人はしたことがない。例えばイギリスでは最低賃金を毎年4.2%上げ続けた結果、20年で2倍になったという。それっておかしくないか? それが経済のあるべき姿である、という考えがどうも私は馴染まないのだが(だって20年経ってもニンジンはニンジン、親子丼は親子丼やろ)、資本主義諸国がその方向で動いている以上、同調しなければ脱落するだけである。毎年4.2%以上の昇給、か。労働分割による専門性向上も、歯車の歯が細かくなるだけで良いことだとは思わないがなあ。
読了日:10月10日 著者:デービッド アトキンソン


岡田氏の動画で内田先生との対談本があると聞き、検索したらKindleの中にあったパターン。2013年の出版なのにリーダビリティありすぎて恐い。もう11年経ってるのにまだ同じこと言わなきゃいけない日本が恐い。岡田氏の経歴と周囲に集まる人々の層がわかると、氏がなぜこんなに若者の行動や心情を理解しているのか、分析するのか察せられる。「イワシ化」に加え「自分の気持ち至上主義」「もういいんです症候群」とか「完全記録時代」とかネーミングが絶妙。異質な二人。岡田氏の持論を受け入れられない内田先生の拒絶ぶりも面白い。
読了日:10月08日 著者:内田樹,岡田斗司夫 FREEex


1989年の天安門事件前夜、大学生たちは正しく愛国と民主主義を主張し、正しくデモに集った。みんな若く、純粋で本気で。しかし退学処分は即ちエリートコースが約束された身分からの転落、時を経て主人公は日本で非正規職に就く。同志は欧米に亡命し、親友は故郷に沈黙した。天安門広場にいなかったとしても、当時希望を覚えた名もなき数多の若者の、いつにもいずれにもあの日々が影を落としている。繰り返し描かれる輝かしい朝日。それは宿命の象徴、どの朝の光景も自らの宿命だったと悟り受容する結末には、希望が確かにある。芥川賞受賞作。
『素晴らしい朝日だ。この黄色い大地に日が昇ってくるのを見て、中華子孫としての血が騒ぎだすんだ』。
読了日:10月08日 著者:楊 逸


前作同様、格差の拡がるイギリス社会で身近に起きる事件、それらを巡る親子の対話が主軸。彼は中2になった。保守党政権の緊縮財政政策による社会インフラの劣化、外国人労働者が増えて変化する人々の認識。フリーランスになるための教育プログラムといい、日本の一歩先を行っているように感じる。ある状況下において、自分が心で感じたように他の人々も感じるはずだと考えて規則を外れた行動を取るか、あるいはそれを切り捨てて規則どおりに行動するかは、その人が何を信じているかが如実に表れるものだと思う。つまり社会への信頼があるかないか。
日本はイギリスに比べ大人も子供も教育が足りていないと感じた。大人が政治や民主主義について日常的に議論することや、また中学2年生に課す課題として、社会問題についてのスピーチ原稿をまとめさせるとか、大人と同様に投票するイベントを設け、EU離脱、気候危機などに関する政策を読んで議論させるとか、日本には無いものだ。事実を共有して、異なる立場間で対話をする習慣が、作法が、日本人にはほとんどないのではないか。大人も子供もその面での成長が阻まれている。それはいま日本の建設的な社会設計を阻害している主要因なんじゃないか。
読了日:10月07日 著者:ブレイディ みかこ


こんな世界があることを、一般の私たちは意識して生活していない。だけどあるんだなあ、と手嶋さんの小説を読むたび思い出す。『インテリジェンスとは、国家が生き残るための選り抜かれた情報だ。どんなに小さな国も、国家が生き抜くにはインテリジェンス機関は欠かせない』。ただ表面化した犯罪を追うだけでは掴み切れない、他国の思惑や企みをあぶり出す任務。今回は船舶の売買を軸にワールドワイドな頭脳戦が繰り広げられる。ウクライナの空母ワリャーグを中国が買った、それが空母遼寧。裏事情のほのめかしに、どこまで真実かとわくわくした。
読了日:10月04日 著者:手嶋 龍一


息抜きに。最初に読んだ時は、『平穏に暮らす人々に対し、生きることの意味を無理やり考えさせるような挑発をする』服部文祥に振り回される小雪さんと子供たちの大変さに同情し、エピソードのあり得なさにいちいち驚いたものだったが、今回はそれらを当たり前と受け取って読んでしまった。だってそれは服部家の普通だから。服部文祥は真剣やもんね。人はやりたいことをやるべきで、親が親の好きなようにやっても子供は子供でええように育つ。なるようになる。犬も猫も鶏も。
読了日:10月02日 著者:服部小雪,服部文祥
注:

Posted by nekoneko at 15:39│Comments(0)
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