2023年07月01日
2023年6月の記録
今年も海の見える一箱古本市&せとうちのみの市に参加することになりました。
読み終えて手放そうと思っている本はたくさんあるのでもうよいようなものの、
もう一冊でも多く読み終えておこうと息巻いてしまう。

<今月のデータ>
購入13冊、購入費用12,262円。
読了16冊。
積読本333冊(うちKindle本165冊、Honto本3冊)。

NHK出版 学びのきほん フェミニズムがひらいた道 (教養・文化シリーズ)の感想
ひとつには過去の話。私が社会へ出る少し前、男女雇用均等法が話題となり、女性も仕事を持ってバリバリ働くのだと素直に受け取った。社会に出て奮闘しているうちに、聡い同級生はとっとと寿退社して専業主婦になっていた。ひとつには現在の話。それでも女性の地位は過去の活動家の女性が勝ち得てきてくれた贈りものであり、今この時も心を傷だらけにして闘っている女性たちがいる。そのことに無感覚でいたくはない。団結して行動を起こすまでいかなくとも、「あれもまたムーブメントだった」と回顧できる、より良いほうへ向かう流れに沿っていたい。
読了日:06月30日 著者:上野 千鶴子
いのちの教室の感想
ライアル・ワトソンは南アフリカ共和国に生まれ育った。白人に偏らない環境ゆえに、大地に足のついた言葉を語ることができる。だから「エレファントム」を読んだとき、フィクションかノンフィクションか迷うような独特な印象を受けたのだ。アフリカのブッシュに育つ感覚×動物行動学のハイブリッド。3代以上前に渡ったということは、彼の祖母であるオウマも生粋のアフリカ育ちである。地元の諸民族に一目置かれる特別な女性。コウノトリに縦縞ズボンを履かせ、オウパを大地に葬る。大地に根差す智を我がものとして羽ばたかせる生きかたに敬服する。
読了日:06月25日 著者:ライアル・ワトソン
お茶人のための 茶花の野草大図鑑 改訂普及版の感想
茶花の図鑑なら、日本らしい植物がたくさん載っているとふんで中古で入手。日本のどの地方に自生しているか、いつ頃舶来したか、名の由来など短くも興味深い記述満載で、写真も明瞭。音で聞くと洋物のように思っていた植物でも、漢字で書いて由来の古いものもたくさんあると知る。藪柑子、唐種小賀玉、酢漿草、射干、郁李、藺など、そう書くのか!と驚いたりうっとりしたり、いつまでも頁を繰っていたい満足感。私は茶人ではないので、活ける例は眺めて感心するばかり。花器の形や組み合わせにも定石のようなものがあるようで、茶の道の深さに慄く。
読了日:06月24日 著者:宗匠
海洋プラスチック 永遠のごみの行方 (角川新書)の感想
プラスチックごみ問題の事実を整理してある。熱回収、リサイクル、バイオプラ、いずれにせよ資源を消費することに変わりはない。さらに再生プラスチックの需要とコスト、資源回収時の汚れ問題、素材の複雑化で問題はさらに難解になる。使わないにこしたことはない。さて、海に浮いているはずのプラスチックごみの99%の行方が分からないという。マイクロプラスチックどころかナノプラスチックにまで細粒化されて人間が追跡できないのではと想像してみる。また、生分解性プラスチックは種類ごとに分解される環境が異なる。問題は解決しなさそうだ。
イケアの製品はプラスチックだらけである。環境先進国と呼ばれるスウェーデン発のこの企業は、どのようなスタンスでプラスチック製品を大量生産しているのかふと疑問に思い確認してみた。イケアは自社製品について目標を表明している。リサイクルプラスチックまたは再生可能なプラスチックのみを製品に使用すること。使い捨てプラスチックを廃止すること。リサイクルしやすいPETとPPを多く使うこと。有害成分を削減すること。まあ、そうなるしかないだろう。それを受け入れて購入し、使うかどうかは、こちら側の選択にかかっている。
読了日:06月24日 著者:保坂 直紀
農は過去と未来をつなぐ――田んぼから考えたこと (岩波ジュニア新書)の感想
日本農業新聞のコラム執筆者。自らを"百姓"の代弁者と位置付ける。なるほど、農家があまりに当たり前と思って口に出さないことが、非農家の私にとっては未知であること、それ故に体感も考え方も違うという事実をお互いに知らないのだと知った。そして「自給」について。「買った方が安い」あるいは自分でつくれない種類の道具を必要と考えると、人は購入に依存した暮らし方へ移行してしまう。いろいろなものを自分でつくり工夫する生活をやめてしまう。農家でなくてもそうだ。やせ我慢でなく「効率を上げる道具」を否む生活をも、私たちは選べる。
読了日:06月22日 著者:宇根 豊
楽園とは探偵の不在なり (ハヤカワ文庫JA)の感想
自ら創作した謎解きルールの枠内で進行する本格推理ゲーム。設定はともかく「天使」の造形が、全編にわたって不気味な色調に染める。『私はあなたの助けを必要としています』。エラリイを想い出した。期待されようとされまいと、調べずにいられない、推理せずにいられない、探偵の「業」と呼んでよいのではないだろうか。表題はテッド・チャン「地獄とは神の不在なり」を踏まえる。テーマもインスパイアされていると著者があとがきに書いている。そちらも読んだはずだが、読んだときぴしっとこなかったものは片っ端から忘れるお歳頃である。
読了日:06月19日 著者:斜線堂 有紀
すべての企業人のためのビジネスと人権入門の感想
大手企業を想定した内容。国内外の時事を耳に入れていれば常識的なことばかりである。しかし一方で、理解していない人が少なくないことも、社会を見ていれば判る。人権にはセンスが必要だ。社内のハラスメントや差別だけが人権ではない。そして『人権リスクのない企業など存在しない』。人権に限らず、自社の抱える課題に気づくことによって本業に新たな観点が生まれるのだけどね。著者は経産大臣のアドバイザーも務める。日本政府は経済に影響があるとなると重い腰を上げるが、女性や難民、LGBTQについてはずいぶん冷淡だ。ちぐはぐが目立つ。
煽り帯。『「脱炭素」の次は「人権」が来る!』なんてビジネスのネタみたいに言うなよ。と思ったらほんとに「人権ビジネスは未曽有のフロンティア」って章があってのけぞる。いやいや「環境ビジネス」もたいがい品性に欠けるし。「人権配慮型ビジネス」なら理解できないこともないが、人の多様性に配慮するとか社会課題を解決するとかって意味合いなら、んなたいそうな名前つけんでも企業の創意発案の範囲だし、営業をかける相手の企業に売り込むなどコンサルらしい押しつけがましさである。ビッグビジネスにとか勝機とか、そういうの無しで行こう。
読了日:06月17日 著者:羽生田 慶介
謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日本納豆〉 (新潮文庫)の感想
やあ、快作。高野さんはムベンベではなく納豆で後世に名を遺すのだなあ。あちこちでつくった人脈がこの件にも怪しい情報や楽しい取材へと導いていくのが、高野さんの円熟味を顕しているようで、安心して読める。息もつかせぬ、アジアを股に掛けたオール納豆な展開。インドのシーク教徒が作る納豆チャーハンが好ましいと同時に、僻地に住むおばあさんが守っている伝統の製法もかけがえなく、食べる全ての人にそれぞれに手前納豆と流儀があるのは、まさに未来への希望だ。巻末解説の小倉ヒラク氏がディープさに追い打ちをかける。次作も見届けないと。
読了日:06月16日 著者:高野 秀行
音楽と生命 (新書企画室単行本)の感想
光沢のある装丁が美しくて手に取った本。元となるEテレ「SWITCHインタビュー」の対談は、そういえば観たのだったか。福岡センセと坂本龍一の静かで深い対話はまさに目前に見るようだと思ったのも当然である。二人の対話は、音楽と自然音、近代的医学と民間医療や漢方薬などテーマを変えながら、ロゴスとピュシスという主題を巡り、回帰していく。生きることや音楽の演奏が、そのとき一度きりの存在であるのと同様、このいくつかの対話もそれ自体が一度きりのものである。その尊さを想うと、表紙がますます白く見えるのは、感傷だろうけれど。
読了日:06月13日 著者:坂本 龍一,福岡 伸一
DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法の感想
地球温暖化こと気候変動は人為由来で二酸化炭素が犯人という前提なので、個人的に怪しいと感じるものを含め、その方向に沿った項目が並ぶ。「今後注目の解決策」は興味深いが、私でも革新的と思えるものは一部だった。分類すると、新しい科学技術の推進、教育・啓発の普及、動植物パワーの復古である。人間が地球にかけ続けている悪影響を逆転にしたいなら、例えば鉱物採掘で更なる環境負荷を増やしたり、遺伝子操作で捻じ曲げたりでなく、自然に沿うのが良い。新しい科学技術は必ずその生産や廃棄の部分で環境負荷や反動が大きくなるのが自明だ。
『大規模な電気事業者のビジネスモデルは分散型エネルギーや分散型ストレージとの共存が困難です。電気事業者は時代遅れになりつつある発電と送電のシステムに投資してきました。電気事業者が抵抗する場合、マイクログリッドにとって最大の壁は技術ではなく、独占です』。「ガイアの夜明け」で愛媛県西条市にできたマイクログリッド施設を取り上げていた。物販棟+ホテルで、電気は創エネ×蓄電池である。大手電気事業者や役所が動けないなら、民間がやるしかない。しかし蓄電池だけで数億! その実行力に敬服する。
紙はバージンパルプよりリサイクルパルプのほうが、森林伐採、水資源消費、化学物質流出すべてを抑える。温室効果ガスで言うなら、それもはるかに排出が少ないとの研究結果が出ている。
読了日:06月11日 著者:ポール・ホーケン
堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法 (幻冬舎新書 690)の感想
日本で納税している人には読んでほしい。そして判断してほしい。なぜシステムが正常に働いていないのがわかっているのに為政者は止めようとしないか。止められたら困る人がいるからだ。政府や大企業が自分たちの利権優先で決めてしまう枠組みに、私たちは否応なく嵌められてしまう。お金だけでなく、生きる権利すら制限され始めているなかで、私たちはどのように抵抗できるのか。最後まで選択肢を手放さない事。まずはセキュリティや透明性が確立されるまでカードはつくらない、使わないという意思表示をすることだ。「100分de名著」が楽しみ。
『命に関わる感染症を理由に、政府が国民の不安につけこんできたとき、アラームが鳴ったんです。憲法を踏みにじるほど政府が暴走したときに立ち上がるのは、自分のためというより、この先を生きる子供たちに対する、私たち大人の責任ですからね。だから「ノー」と言ったんです。後悔しないために』。
『個人データは最大資産。リスクは極力分散し、安心できるルールができるまでは自己責任で死守せよ』。現代社会の一つの本質。それは今までも断片は見えていたから、不安は感じていた。でもオリンピックのような利権満載イベントだけじゃなく、脱炭素も新型コロナワクチンも復興事業も、全て誰かにとって都合の良い思惑だったようだ。政府とメディアが大手を振って推してくるものほどファクトチェックをしなければならない。ほぼほぼ、都合の悪いものが隠されているということだ。もちろん、堤さんの言葉を鵜呑みにするのではなく自分で確認する。
読了日:06月06日 著者:堤 未果
迷蝶の島 (河出文庫)の感想
海とヨットと島と。トリックが全てなので、もうなんにも言えません。浅はかな男には同情のかけらも覚えることができず、だからこそ彼女には、もっとやれーとばかり興が乗ってしまった。それだけに、最後は余計じゃなかったかしら。
読了日:06月04日 著者:泡坂妻夫
季刊環境ビジネス2023年春号の感想
"環境"をダシにしてがっつり稼ぐ気満々な企業の広告記事ばかりでげんなりする。風向きを知るために仕方ないが、この雑誌は後半が面白い。海外レポートは参考になる。ウクライナ・ロシア情勢を背景に、各国が国内再エネをリスク低減策と判断し切替を進めている。ドイツは再エネを他の電力源より優先すると法的に決めているので、再エネ化が進むのに対し、日本は値上げにしろ電力源の優先順位にしろ、国営みたいな電力会社が自社の収益都合で決めるので、これでは変われるはずがない。今日も天気が良すぎるので太陽光発電を止めるようお達しが来た。
『エネルギーが高いか安いかよりも、自国のエネルギーコストが相対的にどのような位置にあるのかを考えていくことが大切です』。『日本は再エネに振り切った方がいいのではないかと思います。少なくとも自国で供給できるエネルギーならば大きな価格の振れは少ないと思います。この不安定な世界の中で唯一リスクを減らす方策は国内の再エネではないかと考えます。(中略)輸入化石燃料のような不安定なものに頼ることは、経済的にはあまり合理的ではないはずです』。
読了日:06月03日 著者:
風をつかまえた少年 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった (文春文庫)の感想
マラウイで風車を立てて発電し、電気を手に入れる。その重要性を、読んで初めて理解した。この現代に、マラウイには干ばつで飢饉が起こる。食べものもお金も仕事もみるみる無くなり、なす術もなく痩せこけた体で飢えてさ迷う隣人たちを、私と世代の近いこの少年は克明に記憶している。学校にも行けず、同級生も犬も死んだ。電気でもっと簡便に水を手に入れられれば、その余った時間で他の生産的な作業ができる。家族が飢えずにすむようにできる。つまり自然エネルギーで電気をつくれれば、生活の質が桁違いに変わる。その欲求の切実さが胸に刺さる。
無いからこそ、自分の手でつくる。おもちゃも狩りの道具も、子供のときから他の用途に使っていた物や廃品を拾ってつくるのが当たり前という環境が、風力発電設備を自力でつくるという到達点につながっている。遊び方のあらかじめ決められた玩具や、お膳立ての整ったDIYで満足しているのが恥ずかしくなるような、人間の持つ能力の可能性において決定的な相違だ。この貪欲さとポテンシャルが相まって、かの国々は今後爆発的に伸びてゆくのだろう。楽しみだ。
『アフリカ人は毎日、手元にあるわずかなものを使って、なんとか自分の思いどおりのものをつくろうとしている。精いっぱいの想像力を駆使して、アフリカに課せられた難題を克服しようとしている。アフリカが世界がごみと思うものをリサイクルしている。アフリカは世界ががらくたと思うものを再生している』。
読了日:06月02日 著者:ウィリアム・カムクワンバ,ブライアン・ミーラー
「惜別」の意図の感想
ええと。これを太宰は素面で書いたんやろか。当時、太宰は多忙だったという。それでも、情報局の要請とあらば拒めるものではなかろうと推察できるけれど、『日本人の生活には西洋文明と全く違つた獨自の凜乎たる犯しがたい品位』や清潔感があったなど、どこまで本気だったのだろうか。末尾の『現代の中國の若い智識人に讀ませて、日本にわれらの理解者ありの感懷を抱かしめ、百發の彈丸以上に日支全面和平に效力あらしめんとの意圖を存してゐます。』が全てを語っているのではないか。執筆を命じた向きへの宣言であり決意表明である。
今のきな臭い世界情勢にあって、ここは私がずっと考えているテーマの一つである。ある程度の正しい情報を得られる社会的位置にある者が、国家権力が旗を振って誘導する筋立てを本当に信じていたのか、信じないならばどのような態度を取り、どのような過程を経て破滅に突き進んだのか。
読了日:06月01日 著者:太宰 治
惜別の感想
太宰はなぜ魯迅を描こうとしたのか、純粋に疑問に思って。「藤野先生」の逸話への感動や、留学生である魯迅の、同級生から徹頭徹尾はみ出さざるをえない境遇、帰国前の「近代文明を病んで悩んだ」日々への共感あたりに熱を感じる。太宰に魯迅が憑依したというより、魯迅に太宰が憑依したかのような饒舌だったからだ。しかし、あとがきに太宰はこの小説が内閣情報局と文学報国会との依嘱であったと明かしている。文学報国会は情報局の実質的な外郭団体であるとのこと。戦局も悪化した時分でもあり、一挙に胡散臭さが充満するのはやむなしとする。
読了日:06月01日 著者:太宰 治
注:
は電子書籍で読んだ本。
読み終えて手放そうと思っている本はたくさんあるのでもうよいようなものの、
もう一冊でも多く読み終えておこうと息巻いてしまう。
<今月のデータ>
購入13冊、購入費用12,262円。
読了16冊。
積読本333冊(うちKindle本165冊、Honto本3冊)。


ひとつには過去の話。私が社会へ出る少し前、男女雇用均等法が話題となり、女性も仕事を持ってバリバリ働くのだと素直に受け取った。社会に出て奮闘しているうちに、聡い同級生はとっとと寿退社して専業主婦になっていた。ひとつには現在の話。それでも女性の地位は過去の活動家の女性が勝ち得てきてくれた贈りものであり、今この時も心を傷だらけにして闘っている女性たちがいる。そのことに無感覚でいたくはない。団結して行動を起こすまでいかなくとも、「あれもまたムーブメントだった」と回顧できる、より良いほうへ向かう流れに沿っていたい。
読了日:06月30日 著者:上野 千鶴子


ライアル・ワトソンは南アフリカ共和国に生まれ育った。白人に偏らない環境ゆえに、大地に足のついた言葉を語ることができる。だから「エレファントム」を読んだとき、フィクションかノンフィクションか迷うような独特な印象を受けたのだ。アフリカのブッシュに育つ感覚×動物行動学のハイブリッド。3代以上前に渡ったということは、彼の祖母であるオウマも生粋のアフリカ育ちである。地元の諸民族に一目置かれる特別な女性。コウノトリに縦縞ズボンを履かせ、オウパを大地に葬る。大地に根差す智を我がものとして羽ばたかせる生きかたに敬服する。
読了日:06月25日 著者:ライアル・ワトソン

茶花の図鑑なら、日本らしい植物がたくさん載っているとふんで中古で入手。日本のどの地方に自生しているか、いつ頃舶来したか、名の由来など短くも興味深い記述満載で、写真も明瞭。音で聞くと洋物のように思っていた植物でも、漢字で書いて由来の古いものもたくさんあると知る。藪柑子、唐種小賀玉、酢漿草、射干、郁李、藺など、そう書くのか!と驚いたりうっとりしたり、いつまでも頁を繰っていたい満足感。私は茶人ではないので、活ける例は眺めて感心するばかり。花器の形や組み合わせにも定石のようなものがあるようで、茶の道の深さに慄く。
読了日:06月24日 著者:宗匠

プラスチックごみ問題の事実を整理してある。熱回収、リサイクル、バイオプラ、いずれにせよ資源を消費することに変わりはない。さらに再生プラスチックの需要とコスト、資源回収時の汚れ問題、素材の複雑化で問題はさらに難解になる。使わないにこしたことはない。さて、海に浮いているはずのプラスチックごみの99%の行方が分からないという。マイクロプラスチックどころかナノプラスチックにまで細粒化されて人間が追跡できないのではと想像してみる。また、生分解性プラスチックは種類ごとに分解される環境が異なる。問題は解決しなさそうだ。
イケアの製品はプラスチックだらけである。環境先進国と呼ばれるスウェーデン発のこの企業は、どのようなスタンスでプラスチック製品を大量生産しているのかふと疑問に思い確認してみた。イケアは自社製品について目標を表明している。リサイクルプラスチックまたは再生可能なプラスチックのみを製品に使用すること。使い捨てプラスチックを廃止すること。リサイクルしやすいPETとPPを多く使うこと。有害成分を削減すること。まあ、そうなるしかないだろう。それを受け入れて購入し、使うかどうかは、こちら側の選択にかかっている。
読了日:06月24日 著者:保坂 直紀


日本農業新聞のコラム執筆者。自らを"百姓"の代弁者と位置付ける。なるほど、農家があまりに当たり前と思って口に出さないことが、非農家の私にとっては未知であること、それ故に体感も考え方も違うという事実をお互いに知らないのだと知った。そして「自給」について。「買った方が安い」あるいは自分でつくれない種類の道具を必要と考えると、人は購入に依存した暮らし方へ移行してしまう。いろいろなものを自分でつくり工夫する生活をやめてしまう。農家でなくてもそうだ。やせ我慢でなく「効率を上げる道具」を否む生活をも、私たちは選べる。
読了日:06月22日 著者:宇根 豊


自ら創作した謎解きルールの枠内で進行する本格推理ゲーム。設定はともかく「天使」の造形が、全編にわたって不気味な色調に染める。『私はあなたの助けを必要としています』。エラリイを想い出した。期待されようとされまいと、調べずにいられない、推理せずにいられない、探偵の「業」と呼んでよいのではないだろうか。表題はテッド・チャン「地獄とは神の不在なり」を踏まえる。テーマもインスパイアされていると著者があとがきに書いている。そちらも読んだはずだが、読んだときぴしっとこなかったものは片っ端から忘れるお歳頃である。
読了日:06月19日 著者:斜線堂 有紀


大手企業を想定した内容。国内外の時事を耳に入れていれば常識的なことばかりである。しかし一方で、理解していない人が少なくないことも、社会を見ていれば判る。人権にはセンスが必要だ。社内のハラスメントや差別だけが人権ではない。そして『人権リスクのない企業など存在しない』。人権に限らず、自社の抱える課題に気づくことによって本業に新たな観点が生まれるのだけどね。著者は経産大臣のアドバイザーも務める。日本政府は経済に影響があるとなると重い腰を上げるが、女性や難民、LGBTQについてはずいぶん冷淡だ。ちぐはぐが目立つ。
煽り帯。『「脱炭素」の次は「人権」が来る!』なんてビジネスのネタみたいに言うなよ。と思ったらほんとに「人権ビジネスは未曽有のフロンティア」って章があってのけぞる。いやいや「環境ビジネス」もたいがい品性に欠けるし。「人権配慮型ビジネス」なら理解できないこともないが、人の多様性に配慮するとか社会課題を解決するとかって意味合いなら、んなたいそうな名前つけんでも企業の創意発案の範囲だし、営業をかける相手の企業に売り込むなどコンサルらしい押しつけがましさである。ビッグビジネスにとか勝機とか、そういうの無しで行こう。
読了日:06月17日 著者:羽生田 慶介


やあ、快作。高野さんはムベンベではなく納豆で後世に名を遺すのだなあ。あちこちでつくった人脈がこの件にも怪しい情報や楽しい取材へと導いていくのが、高野さんの円熟味を顕しているようで、安心して読める。息もつかせぬ、アジアを股に掛けたオール納豆な展開。インドのシーク教徒が作る納豆チャーハンが好ましいと同時に、僻地に住むおばあさんが守っている伝統の製法もかけがえなく、食べる全ての人にそれぞれに手前納豆と流儀があるのは、まさに未来への希望だ。巻末解説の小倉ヒラク氏がディープさに追い打ちをかける。次作も見届けないと。
読了日:06月16日 著者:高野 秀行


光沢のある装丁が美しくて手に取った本。元となるEテレ「SWITCHインタビュー」の対談は、そういえば観たのだったか。福岡センセと坂本龍一の静かで深い対話はまさに目前に見るようだと思ったのも当然である。二人の対話は、音楽と自然音、近代的医学と民間医療や漢方薬などテーマを変えながら、ロゴスとピュシスという主題を巡り、回帰していく。生きることや音楽の演奏が、そのとき一度きりの存在であるのと同様、このいくつかの対話もそれ自体が一度きりのものである。その尊さを想うと、表紙がますます白く見えるのは、感傷だろうけれど。
読了日:06月13日 著者:坂本 龍一,福岡 伸一


地球温暖化こと気候変動は人為由来で二酸化炭素が犯人という前提なので、個人的に怪しいと感じるものを含め、その方向に沿った項目が並ぶ。「今後注目の解決策」は興味深いが、私でも革新的と思えるものは一部だった。分類すると、新しい科学技術の推進、教育・啓発の普及、動植物パワーの復古である。人間が地球にかけ続けている悪影響を逆転にしたいなら、例えば鉱物採掘で更なる環境負荷を増やしたり、遺伝子操作で捻じ曲げたりでなく、自然に沿うのが良い。新しい科学技術は必ずその生産や廃棄の部分で環境負荷や反動が大きくなるのが自明だ。
『大規模な電気事業者のビジネスモデルは分散型エネルギーや分散型ストレージとの共存が困難です。電気事業者は時代遅れになりつつある発電と送電のシステムに投資してきました。電気事業者が抵抗する場合、マイクログリッドにとって最大の壁は技術ではなく、独占です』。「ガイアの夜明け」で愛媛県西条市にできたマイクログリッド施設を取り上げていた。物販棟+ホテルで、電気は創エネ×蓄電池である。大手電気事業者や役所が動けないなら、民間がやるしかない。しかし蓄電池だけで数億! その実行力に敬服する。
紙はバージンパルプよりリサイクルパルプのほうが、森林伐採、水資源消費、化学物質流出すべてを抑える。温室効果ガスで言うなら、それもはるかに排出が少ないとの研究結果が出ている。
読了日:06月11日 著者:ポール・ホーケン

日本で納税している人には読んでほしい。そして判断してほしい。なぜシステムが正常に働いていないのがわかっているのに為政者は止めようとしないか。止められたら困る人がいるからだ。政府や大企業が自分たちの利権優先で決めてしまう枠組みに、私たちは否応なく嵌められてしまう。お金だけでなく、生きる権利すら制限され始めているなかで、私たちはどのように抵抗できるのか。最後まで選択肢を手放さない事。まずはセキュリティや透明性が確立されるまでカードはつくらない、使わないという意思表示をすることだ。「100分de名著」が楽しみ。
『命に関わる感染症を理由に、政府が国民の不安につけこんできたとき、アラームが鳴ったんです。憲法を踏みにじるほど政府が暴走したときに立ち上がるのは、自分のためというより、この先を生きる子供たちに対する、私たち大人の責任ですからね。だから「ノー」と言ったんです。後悔しないために』。
『個人データは最大資産。リスクは極力分散し、安心できるルールができるまでは自己責任で死守せよ』。現代社会の一つの本質。それは今までも断片は見えていたから、不安は感じていた。でもオリンピックのような利権満載イベントだけじゃなく、脱炭素も新型コロナワクチンも復興事業も、全て誰かにとって都合の良い思惑だったようだ。政府とメディアが大手を振って推してくるものほどファクトチェックをしなければならない。ほぼほぼ、都合の悪いものが隠されているということだ。もちろん、堤さんの言葉を鵜呑みにするのではなく自分で確認する。
読了日:06月06日 著者:堤 未果


海とヨットと島と。トリックが全てなので、もうなんにも言えません。浅はかな男には同情のかけらも覚えることができず、だからこそ彼女には、もっとやれーとばかり興が乗ってしまった。それだけに、最後は余計じゃなかったかしら。
読了日:06月04日 著者:泡坂妻夫

"環境"をダシにしてがっつり稼ぐ気満々な企業の広告記事ばかりでげんなりする。風向きを知るために仕方ないが、この雑誌は後半が面白い。海外レポートは参考になる。ウクライナ・ロシア情勢を背景に、各国が国内再エネをリスク低減策と判断し切替を進めている。ドイツは再エネを他の電力源より優先すると法的に決めているので、再エネ化が進むのに対し、日本は値上げにしろ電力源の優先順位にしろ、国営みたいな電力会社が自社の収益都合で決めるので、これでは変われるはずがない。今日も天気が良すぎるので太陽光発電を止めるようお達しが来た。
『エネルギーが高いか安いかよりも、自国のエネルギーコストが相対的にどのような位置にあるのかを考えていくことが大切です』。『日本は再エネに振り切った方がいいのではないかと思います。少なくとも自国で供給できるエネルギーならば大きな価格の振れは少ないと思います。この不安定な世界の中で唯一リスクを減らす方策は国内の再エネではないかと考えます。(中略)輸入化石燃料のような不安定なものに頼ることは、経済的にはあまり合理的ではないはずです』。
読了日:06月03日 著者:

マラウイで風車を立てて発電し、電気を手に入れる。その重要性を、読んで初めて理解した。この現代に、マラウイには干ばつで飢饉が起こる。食べものもお金も仕事もみるみる無くなり、なす術もなく痩せこけた体で飢えてさ迷う隣人たちを、私と世代の近いこの少年は克明に記憶している。学校にも行けず、同級生も犬も死んだ。電気でもっと簡便に水を手に入れられれば、その余った時間で他の生産的な作業ができる。家族が飢えずにすむようにできる。つまり自然エネルギーで電気をつくれれば、生活の質が桁違いに変わる。その欲求の切実さが胸に刺さる。
無いからこそ、自分の手でつくる。おもちゃも狩りの道具も、子供のときから他の用途に使っていた物や廃品を拾ってつくるのが当たり前という環境が、風力発電設備を自力でつくるという到達点につながっている。遊び方のあらかじめ決められた玩具や、お膳立ての整ったDIYで満足しているのが恥ずかしくなるような、人間の持つ能力の可能性において決定的な相違だ。この貪欲さとポテンシャルが相まって、かの国々は今後爆発的に伸びてゆくのだろう。楽しみだ。
『アフリカ人は毎日、手元にあるわずかなものを使って、なんとか自分の思いどおりのものをつくろうとしている。精いっぱいの想像力を駆使して、アフリカに課せられた難題を克服しようとしている。アフリカが世界がごみと思うものをリサイクルしている。アフリカは世界ががらくたと思うものを再生している』。
読了日:06月02日 著者:ウィリアム・カムクワンバ,ブライアン・ミーラー


ええと。これを太宰は素面で書いたんやろか。当時、太宰は多忙だったという。それでも、情報局の要請とあらば拒めるものではなかろうと推察できるけれど、『日本人の生活には西洋文明と全く違つた獨自の凜乎たる犯しがたい品位』や清潔感があったなど、どこまで本気だったのだろうか。末尾の『現代の中國の若い智識人に讀ませて、日本にわれらの理解者ありの感懷を抱かしめ、百發の彈丸以上に日支全面和平に效力あらしめんとの意圖を存してゐます。』が全てを語っているのではないか。執筆を命じた向きへの宣言であり決意表明である。
今のきな臭い世界情勢にあって、ここは私がずっと考えているテーマの一つである。ある程度の正しい情報を得られる社会的位置にある者が、国家権力が旗を振って誘導する筋立てを本当に信じていたのか、信じないならばどのような態度を取り、どのような過程を経て破滅に突き進んだのか。
読了日:06月01日 著者:太宰 治


太宰はなぜ魯迅を描こうとしたのか、純粋に疑問に思って。「藤野先生」の逸話への感動や、留学生である魯迅の、同級生から徹頭徹尾はみ出さざるをえない境遇、帰国前の「近代文明を病んで悩んだ」日々への共感あたりに熱を感じる。太宰に魯迅が憑依したというより、魯迅に太宰が憑依したかのような饒舌だったからだ。しかし、あとがきに太宰はこの小説が内閣情報局と文学報国会との依嘱であったと明かしている。文学報国会は情報局の実質的な外郭団体であるとのこと。戦局も悪化した時分でもあり、一挙に胡散臭さが充満するのはやむなしとする。
読了日:06月01日 著者:太宰 治

注:

Posted by nekoneko at 11:49│Comments(0)
│読書