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オーナーへメッセージ

2025年06月03日

2025年5月の記録

月初は多忙で、下旬は猫の看取りで、
本腰入れて読める状況になかった。
なのであまり考えずに流し読める本や、
情報重視の本、寝転がって読めるKindle本が多くなった。
その流れで、10年積んだ「白鯨」に手が伸びた。

私の同志、はな。



<今月のデータ>
購入9冊、購入費用16,906円。
読了14冊。
積読本343冊(うちKindle本163冊)。


ブック

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書 276)砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書 276)感想
世界中を巡って取引されるものを世界商品と呼ぶ。発祥地アジアから西方へ伝わり、結果的に人間や植物や疫病の移動にもつながった砂糖は世界商品の代表格だ。人体が本能的に欲する「糖」であり、大量生産が可能だったゆえに、諸国が血眼になった。栽培可能な地を植民地化しては切り開き、奴隷を連れてきて酷使した。その暴虐が今も問題の種になっているし、モノカルチャーも現代に残る大弊害だ。帝国主義の時代の過ちで終わったことにはできない。現代のコーヒー、チョコレートなども似たような過程を経ており、構造は変わっていないとわかるからだ。
『このように、モノをつうじて歴史をみることで、どんなことがわかるのでしょうか。(中略)各地の人びとの生活の具体的な姿がわかります。人びとが何を食べ、何を着ていて、どんなところに住んでいたのか。どんなことをうれしいと思い、どんなことに涙したのか。そうした具体的な生活の局面がわからなければ、私たちは、その時代、その地域の人びとと共感しあうことができません。歴史を勉強する大きな目的のひとつは、そうした共感を得ることなのですから、このことはたいへん重要なのです。』
読了日:05月29日 著者:川北 稔 ファイル

日本その日その日 (講談社学術文庫 2178)日本その日その日 (講談社学術文庫 2178)感想
原題「Japan Day by Day」。大森貝塚を発見したモース氏はそもそも腕足類研究のために来日し、標本採取がてら南へ北へと風物や人々の暮らしを見聞するうちに親日家になった。いかにもアメリカ人な風貌のモースさんを見た日本人の描写は私から見ても微笑ましい。乗っていた人力車を降りて、他所の荷車を坂の上に押しあげるのを手伝う。正体不明の料理でも出されれば食べる。能の謡を正座して習う。日本人の無邪気とモースさんの好意が呼応している。好んで来日してくれる人々は、現代でもそういう"日本らしさ"を感じるのだろうか。
アイヌの顔を、自分たちの民族に非常によく似ていて、蒙古人種の面影が見えないと記しているのは興味深い。あと、当時の日本は国家予算のほとんど1/3を教育に費やしている、とある。大学を設立し、モース氏をはじめとする海外の研究者を競って講師として招いたり、博物館を整備したりしている背景が描かれ、教育水準を上げようとする当時の日本の熱意を感じる。それは確実に日本隆盛の基盤となった。ということは、現代の体たらくは、日本を衰退させる方向にしか働かないということになるのだが。
読了日:05月27日 著者:エドワード.シルヴェスター・モース ファイル

ちゃぶ台12 特集:捨てない、できるだけ (生活者のための総合雑誌)ちゃぶ台12 特集:捨てない、できるだけ (生活者のための総合雑誌)感想
備忘録。「未来の描き方」寄藤文平より。説明するための図の書きかたによって、受けとられかた及び意味するところがかわってくる。フロイトの心の構造図については、"たとえ正しくても人の心をこんなミジンコみたいな図で考えたくない"。マズローの欲求5段階説については、三角形の階層図としてではなく、同心円で考えてはいけないのか。協力、組織、人生についても、かつてと今ではイメージが変わってきている由。今後も変わり続けていくことを気に留めること。 
読了日:05月25日 著者:

猫の學校2 老猫専科 (ポプラ新書 な 6-2)猫の學校2 老猫専科 (ポプラ新書 な 6-2)感想
新たに猫の看取りの時期を迎え、また南里さんに戻ってきた。南里さんは猫楠舎を閉じた後もお元気に猫たちと暮らしている。もうしてやれることが無いと泣いては猫に鬱陶しがられている私にも、まだできることはあること、自然に逝くのを看取らせてもらえる感謝、猫に人間を心配させぬよう心を保つ意志の大事さに気づかせてもらった。完璧じゃなかったけど、変えられない過去やまだ来ぬその時を思って泣くことは減らせた。無事見送った今日、清々しい気持ちなのは、やれるだけのことをやりきることができたと思えるよう導いてくれた南里さんのおかげ。
noteも一気読み。『一喜一憂せず、余計な期待をせず、ありのままを受け入れる。難しいし、なにもしないことは、なにかをするよりエネルギーが要ります。でも対等に付き合う、猫さんを尊重するという考えになれば、きっとできます。そして、やる価値は必ずあります。特に、猫の看取りに関して、それを強く感じます。猫をコントロールしようと思わないこと。できれば、猫と対等に付き合えるようになること。』
読了日:05月22日 著者:南里 秀子

文豪たちの悪口本文豪たちの悪口本感想
さぞウィットに富む、キレの良い悪口が聞けるかと思いきや。中原中也や夏目漱石が相手に放ったという言葉はなかなか個性的で面白いけれど、その状況は酔っ払っていたり機嫌が悪かったり、人として褒められたものではない。方や多く取り上げられていたのが、雑誌に投稿された非難文。作家同士名指しで、非を挙げつらい合戦である。読まされるほうも大変だ。作品にせよ悪口にせよ、持てる言葉を駆使して、我が正当を主張しないとおれない、書かないと腹の虫が収まらないとは因果な人種とほとほと閉口した。荷風の日記くらいかわいいものだ。

『空隈なく晴渡りしが西北の風吹きつづきて寒し、日も亭午のころ起出で下女の持来る年賀の郵便物を檢す、菊池寛及び雑誌文藝春秋社より送来りし年賀の葉書あり、菊池等より新年の賀辞を受くべきいわれなければその趣をしるしてそれ等の葉書を各差出人に返送せり、《下略》』永井荷風「断腸亭日乗」
読了日:05月22日 著者: ファイル

ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 (朝日選書)ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 (朝日選書)感想
詩人キーツが提唱し、精神医学に取り入れられた"ネガティブ・ケイパビリティ"。いずれにも重要な概念だが、それはそもそも人が生きるうえで重要だからだ。不確実あるいは未解決なものをそのまま受け止める能力。そしてそのままの状態を耐える能力。素早く結論を出すことを求める社会は逆ベクトルで、ストレスや心身不調につながりがちだけれど。すぐに結論が出るものではないと、人は日々この能力を養うべきなのだ。教育では拙速な答えを飲み込まず、また文学では浅薄な結論で途切れさせず、奥深い世界を探る道として。生を豊かにする力だ。
読了日:05月21日 著者:帚木 蓬生

リア家の人々 (新潮文庫 は 15-8)リア家の人々 (新潮文庫 は 15-8)感想
「リア王」を、戦前戦後の日本の家庭に置き換える企み。妻を亡くした男と3人の娘。父にはぼんやりとした思惑しかなく、娘には長年培ったわだかまりがある。摩擦が表面化する場面の日本っぽさや、決して無垢ではない末娘が思わぬ行動に出るあたり、橋本治らしい意地悪さに満ちて面白い。それだけに留まらない。日本の社会を覆う"体質"が、日本人個々の思想のなさの集積的帰結であるという指摘のために、時代設定をし、社会の動きをつぶさに描くのにかなりの頁を割いている。結果としてのこの空虚な、読後感がどこからくるか考えあぐねている。
読了日:05月15日 著者:橋本 治 ファイル

カレーの世界史 (SBビジュアル新書)カレーの世界史 (SBビジュアル新書)感想
日本における「カレーの第一人者」によるカレー本。南アジアにおいて、スパイスを種種用いて具を煮た料理、それはインドを源としてイギリスを経て日本へ、またインドを始めとする近隣の人々が移動するにつれて世界中に伝播、アレンジされていった。具が何でもよいのと、それが少々傷んでいてもよいのと、たいていの主食に合うのが利点だと思う。夫は食欲がないときカレーそうめんを食べる。私はカレーのみでビールを飲む。ここにあるのはカレーの世界史概略であって、その文化的奥深さや人々の愛着への言及が薄いので私には物足りなかった。
読了日:05月14日 著者:井上岳久

いちばんわかりやすい インド神話 (じっぴコンパクト新書)いちばんわかりやすい インド神話 (じっぴコンパクト新書)感想
インド映画には神様や礼拝、祭りが日常的に描かれるので、学んでみた。主神ヴィシュヌを筆頭に、バラモン教/ヒンドゥー教が他宗教や土俗の神までも無理やり取り込んでいるため、凄まじい数かつ複雑な属性を持っている。熱量が半端ない。こうなってくると、信仰する宗教の別はあれど、あとは"推し"の神を祀った寺院に詣でる、くらいのノリなのかもしれない。たくさんの腕を持つ黒い肌の女神が南インド映画によく出てくる。一概にカーリーと同一ではないのかもしれないが、いずれも激しい気性の持ち主とみる。私の推しはドゥルガーとしておく。
読了日:05月10日 著者:天竺 奇譚

多様化する人材と雇用に対応する ジェンダーフリーの労務管理多様化する人材と雇用に対応する ジェンダーフリーの労務管理感想
過度に「男らしさ」「女らしさ」を押しつけた制度設計に陥っていないかチェックのために。女性、高齢者、障碍者、Z世代、性的マイノリティといった属性も含め、特徴や雇用条件・勤務形態のバリエーションの説明が多様で、取り入れる参考になる。在籍する男性社員・女性社員・経営者へそれぞれ理解と対応を求める呼びかけも興味深い。さて結果としては、旧来型の人員配置にはなっており、特に中高年にアンコンシャス・バイアスが残っているものの、制度としてはオールラウンドウェルカムなものにできている。引き続き細かな観察と対応が必要だ。
読了日:05月09日 著者:小岩 広宣

星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書星野佳路と考えるファミリービジネスの教科書感想
憧れの星野リゾートを率いる星野氏も、同族会社特有の桎梏と戦った跡継ぎの一人である。もうハードランディングしかないのではと途方に暮れていた私にこの本は反省と安堵と勇気をくれた。経営者であり株主であり親族である立場同士ゆえに、対立の芽も対処すべき課題も非同族会社の3倍という。『同族会社の良識』は、全員が全員持てるものではないと割り切らざるを得ない。一方で短期間での成果を重視せず、中期的視点で真のイノベーションに取り組めるのは利点。次の世代にバトンを渡すまでの"管理人"と心得て、やってみればいいのだ。
『クレイグ教授は、スチュワードシップを発揮している経営者や管理職は、「経済的で個人的な行動ではなく、社会的で集団的な行動をとることによって大きな幸福を感じる」と説明します。そして「星野リゾートをはじめ、世界中の成功しているファミリービジネスの共通点は、リーダーたちが自分自身をスチュワードとみなしていることにある」と見ています』。ファミリービジネス学には、流行りのビジネス書に対して抱いていた違和感を切り分け、よりフォーカスすべき課題を明確化する知がある。零細なりに、しばらく重点を置いて学んでみたい。
読了日:05月09日 著者:

諧調は偽りなり――伊藤野枝と大杉栄(上) (岩波現代文庫)諧調は偽りなり――伊藤野枝と大杉栄(上) (岩波現代文庫)感想
前作の日蔭茶屋事件から行きつ戻りつ、また読者からの手紙を挟みつつ、大杉栄と伊藤野枝の時が進む。寂聴さんに迷いはあっただろうか。眼差しは理解へ嫌悪へ振れる。特に野枝は腹を括るほど傲慢と嫌われたようだ。読むのに時間がかかったのは、彼らの活動をどう評価していいかわからなくなったからだ。アナーキズム。労働運動。定義はわかる。私もそちら寄りの性質だ。しかし大杉たちが喧伝する言葉は真に生活者や労働者を代弁しえたのか。一方、出獄した神近市子は現代的な意味で言っても自立した人間で、女性で、自然に感情を寄せやすかった。
読了日:05月06日 著者:瀬戸内 寂聴


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 13:17Comments(0)読書

2025年05月02日

2025年4月の記録

本を読めない日々は続く。
本を買う意欲も衰えめであるのが救い。

<今月のデータ>
購入5冊、購入費用3,412円。
読了8冊。
積読本348冊(うちKindle本164冊)。


ブック

見るだけで「儲かるビジネスモデル」までわかる 決算書の比較図鑑見るだけで「儲かるビジネスモデル」までわかる 決算書の比較図鑑感想
P/LとB/Sの視覚化はうちの会社でも毎年やっている(國貞式)。直感的に把握できるのでわかりやすい。これはそれを国内外の上場企業同士で比較する本。眺めているうちに特徴が感じ取れるようになるのでお勧め。同業種でも会社によって違うし、業界によってもお金の動きや偏りが違っていることがわかる。戦略や弱みも推測できる。正直なところ、みんな知ってるあのカイシャの内実を知りたいという野次馬根性も半ばあって手に取ったのだけれど、50社もの企業のP/LとB/S、キャッシュフローとなると、さすがに途中で飽きてしまった。
読了日:04月26日 著者:矢部 謙介

平均年齢 56 歳 地方の古いアナログガソリンスタンドの DX 革命の起こし方: 社員数たった5名の小さな企業を2年間で大きく変えた人材育成の考え方、AI、ChatGPT 活用術平均年齢 56 歳 地方の古いアナログガソリンスタンドの DX 革命の起こし方: 社員数たった5名の小さな企業を2年間で大きく変えた人材育成の考え方、AI、ChatGPT 活用術感想
ガチの理系院卒、5G研究者、経営企画部勤務を経て妻の家業を継ぎ、ガソリンスタンドをフルリモート経営、"経営コンサル"2年と称する。ほんとうにこの人が言うほど取り組みは根付いているだろうか。うまくいっているだろうか。悪く言えば、現場も知らない、人間関係も築けていない若いのが突然やってきて、メンターぶるのだ。確かにIT化はいつまでも「できない」では済まされないが、DXや新規事業は無理してやる必要がない。80%以上の中小企業が「DX推進ができていない」現状に経営者のほうに問題がないとは言わないが、なんか違う。
読了日:04月22日 著者:nobu ファイル

コロロギ岳から木星トロヤへ (ハヤカワ文庫 JA オ 6-20)コロロギ岳から木星トロヤへ (ハヤカワ文庫 JA オ 6-20)感想
200年余の時間を隔て、惑星間の距離を隔て、若者たちは意思疎通し、問題を解決する。物語の軸は未知との遭遇である。未知の生命体との遭遇を、人間と同じ大きさの、人間と似た形で私たちはつい想像しがちだが、そうではない"未知"の存在『時の蛇』と、楔の世界を著者は描いてみせた。登場する人間の若者たちにとっても、会う術無い互いを想像するのは難しいことで、そこを描こうとした物語だと感じた。その点でBL要素は効力抜群であろう。しかしそこを逆手に取った『私、もうどっちでもいい。この子たちに死なないでほしい』に胸突かれた。
読了日:04月20日 著者:小川 一水 ファイル

独裁者トランプへの道独裁者トランプへの道感想
トランプが再び大統領になる直前まで。町山さんも期待していたトランプの収監は実現しなかった。どころかアメリカ人は大統領にまた選んでしまった。あれだけ犯罪行為や誹謗中傷を垂れ流しておきながらおかしいだろう!と私たちが憤る、その感覚とは全く違う受け止めを持って、トランプに投票した人がたくさんいたという事実は、再びこうしてトランプとその仲間たちがしでかした事々を振り返ったとき、重たく考えさせられる。より深いところの社会的背景や、日本人には理解しづらい社会的通念があるのだろう。取り急ぎPaypalは解約した。
読了日:04月14日 著者:町山 智浩 ファイル

動物と自然に感動する地図帖 地球も生物もすごい!と驚く100テーマ動物と自然に感動する地図帖 地球も生物もすごい!と驚く100テーマ感想
きれいな色に塗り分けられた地図に惹かれて。「島の湖に浮かぶ島の湖に浮かぶ島」なんて地図で見てもどこだかどんなだかわからないのだけど楽しい。地球上で最も陸地から遠い場所「ポイント・ネモ」。つまり人間からも遠いということで、ヴェルヌの小説になぞらえた命名が素敵。オオカミにちなむ地名、クマにちなむ地名…。そういった着想勝負のものばかりではなくて、ちゃんとした科学研究論文に基づいてつくられた地図がほとんど。でも、人間のしでかす悲しいことばかり考えてしまって、楽しみ切った気持ちにはなれなかった。
読了日:04月13日 著者:

佐藤優の特別講義 民主主義の危機: 忍び寄るポピュリズムと強権主義佐藤優の特別講義 民主主義の危機: 忍び寄るポピュリズムと強権主義感想
民主主義が正しく機能していないから、今の日本はおかしいのだと思っていた。しかし民主主義は一つの決まった形があるわけではない、と佐藤優は噛み砕いて説く。日本人が思う民主主義はアメリカのもの。本来、民主主義は地域ごと国ごとに多様であるもの、という前提は押さえておきたい。つまり日本の民主主義は日本なりに機能している。ただし民主主義は理想的でも安定的でもないし、特に正義でもない。さらに佐藤優は多くの国で民主主義が制度疲労を起こしていると考えている。非欧米的な民主主義の形を多く認識しておいたほうが良さそうだ。
『国家の外交における最大の目的は平和を守ることです。いかなる状況下でも不戦、つまり戦争の回避が優先されます。自国の政府はいかに自国民が理不尽に他国によって殺されないようにするかについて心血を注がなければならないし、そうした努力こそが最終的には国家の利益につながっていきます』。元外交官であり沖縄人である佐藤優の優先順位はここにあるように感じたので引用しておく。
読了日:04月10日 著者:佐藤優 ファイル

今夜も焚き火をみつめながら サバイバル登山家随想録今夜も焚き火をみつめながら サバイバル登山家随想録感想
自分の思考のめんどうくささに疾うに気づきながら回避できない悲哀が共感を呼んでおもしろい。ほとんど10年前の連載とはいえ、過去振り返りよりは現在進行形のエピソードがおもしろい。みすず書房からの出版の経緯とか、読売新聞読書委員の話とか、たとえそれがやりすぎてネタっぽいとしても。それに一緒に鹿を解体する山野井さんエピソードはズルい。など褒めているのかわからない感想だけれど、『生きるとは死ぬまでの暇つぶしとそのために食い続けること』など突き詰めて考えてしまう服部文祥の真面目さが好きで、既に新刊を心待ちなのです。
読了日:04月08日 著者:服部文祥(はっとりぶんしょう)

煮えたぎる川 (TEDブックス)煮えたぎる川 (TEDブックス)感想
TEDトークの続き。アマゾンの密林の奥地に、沸点近い熱湯が轟々と流れ続ける川、"煮えたぎる川"があるという。その謎を探る地球物理学者の日々を軸に、それこそ枝のようにいくつものトピックが絡まりあっている。白人による侵略の歴史、油田開発、『先住民であることを忘れた先住民』による無許可森林伐採。規制が厳しいがゆえに石油会社がジャングルの擁護者になるのも、最終的な解決でなくとも希望だ。先進的なシャーマンの存在感が大きい。『私には私の科学』。科学は文化の数だけあっていいんじゃないか。別の科学で証明できるかは別の話。
読了日:04月03日 著者:アンドレス・ルーソ ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。

  

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2025年04月05日

2025年3月の記録

春は毎年、メンタルが不安定になる。中医学的にもそういうものらしい。
なにかと気力を消耗して、まとまった文章を読むことができない。
去年もそう言っていたのだったか、忘れてしまったけれど。
読めないこともまた、焦燥感に拍車をかける。
凄い本を2冊も読みおえた、その反動ということにしておこう。

<今月のデータ>
購入12冊、購入費用13,595円。
読了8冊。
積読本349冊(うちKindle本164冊)。


ブック

バリ山行バリ山行感想
バリな山歩きの話のみにあらず。道なき山を歩く行為と同じ重量感で外壁工事会社の日常が描かれ、親近感が増した。中小企業が生き残るために元請路線を選択することも、社内で自身の主義を曲げずにいようとすることも、どちらも不安定を是とするありようで、道なき山を歩く行為と相似している。近場の里山でわずかな踏み跡を追っては単独遭難しかける私は妻鹿さんレベルまではいかないが、わかる気はするのだ。彼のバリ山行は現実逃避だっただろうか。いや、そのほうが身体の底からただおもしろく、真の現実を感じられるからだったのではないのか。
読了日:03月29日 著者:松永K三蔵 ファイル

万物の黎明 人類史を根本からくつがえす (翻訳)万物の黎明 人類史を根本からくつがえす (翻訳)感想
読み終えるのが惜しい、とは若干強がりだが、非常に興味深かった。私たちが知識と信じ込んでいる、私たちの遠い祖先や非欧米民族への先入観や偏見は、科学を名乗る故に根深く私たちの思考を縛る。日本人も埒外なのにもかかわらず、だ。著者らの饒舌は小気味よくそれらを喝破する。有史以前から人間は徒歩でも大陸の反対側の人々と交流し、他民族多文化のまま共存する成熟した社会構造を各地に築き、何世紀にもわたり知識を累積し利用した。その創造と破綻が人間の宿命なら、今の社会も一つの例でしかないのは福音では。魚一匹分の鱗が目から落ちた。
原題「The Dawn of Everything」。『本当に希望に満ちた本です……わたしたちはなにごとも変わらない。このままネオリベラリズム、国家資本主義が永遠につづくだけだ、という心理につい陥りがちです。でも、この本には「いや、わたしたちは変われる」という記述がたくさんある。人類は存在しはじめてからずっとそうしてきたのですから』。
自由について。『遠方の地で歓迎されることがわかっているうえで、みずからの共同体を放棄する自由、季節に応じて社会構造のあいだを往復する自由、報復をおそれず権威に服従しない自由。たとえ現在ではほとんど考えることもできないにしても、わたしたちの遠い祖先にとって、これらはすべて自明であったようだ。人間はその歴史を初源の無垢な状態ではじめたわけではないだろう。だが、歴史のはじまりから、なにをすべきか命令されることを嫌うという自己意識はそこにともなっていたようにみえる』。
革命であったように言われる農耕について。穀物や野菜の栽培、畜産も含め、それは一気に人間の生活に取り入れられたのではなかった。戯れのようになにか植えてみたり、小動物を保護してみたり、やめたりを繰り返す、それを意思を持ってやっていたという。そんな自由で気ままな祖先の様子を想像すると痛快だ。庭にいろんなものを植えてみたり、工夫してものをこしらえたり楽しんでいる現代の私たちに地続きだと気づくことができた。それは祖先と同じ”遊戯”で、それこそが人類の繁栄を生んだ名もなき知識の累積の原点なのだ。
読了日:03月28日 著者:デヴィッド・グレーバー,デヴィッド・ウェングロウ ファイル

パンとサーカス (講談社文庫 し 33-8)パンとサーカス (講談社文庫 し 33-8)感想
日本人は自国の革命を想像する義務がある、と思った。大災害でも感染症でも日本は変わらなかった。政治に関心を持って選挙に行く正しき行為の先にも日本の完全主権は無い。革命とはテロや暗殺そのものではあり得ない。どうすれば変わる。自由と平等は要求し、戦わなければ、永遠に手に入れられないもの。『死ぬ前にド派手なサーカス見せろ、思う存分、社会を引っ掻き回せ』。テロの場面で鼓動が早まった。加害への恐怖半分、変革への期待半分。著者は憤りを金言と風刺と皮肉に込め、畳みかける。これは、読者へのアジテーションだ。胸が騒いだ。
読了日:03月20日 著者:島田 雅彦 ファイル

レールの向こう (集英社文庫)レールの向こう (集英社文庫)感想
沖縄に生まれ、沖縄の小説を書いてきた作家の短編集。外から故郷を想う沖縄人、ハワイ移民と家族、ユタを妄信する女やユタ本人などの、内心を周囲の目ではかるように描いたものが多い。沖縄の常識は想像を超える。沖縄で会った人が「友達に電話すればユタの電話番号を教えてもらえる」と言うのに驚いたが、ここでは「ユタを買う」という言い回しが使われる。ユタは自らの霊感を信じて祈祷したり、"真実"を宣する。すると複数のユタが宣する"真実"が矛盾し、ユタとユタが威信をかけて争うようなこともあるとは、今も昔も変わらない光景だろうか。
読了日:03月14日 著者:大城 立裕 ファイル

海南小記 (角川ソフィア文庫)海南小記 (角川ソフィア文庫)感想
大正9年から東京朝日新聞記者として、九州、奄美、沖縄、八重山と訪れた連載記事を元にした紀行記。沖縄を移動しながら読むとシンクロが起きることもあって面白かった。島に人口が増え、生活が逼迫するごと、人は新しい島へと北上した。それが日本の起源と柳田翁は推論した。植物の繁茂するエネルギーは凄まじいが、人間の食をまかなうには限度があると肌で感じた。内地で蒲葵と呼ぶ木は島ではクバ、古名はアヂマサ。白く晒して団扇や笠などに編んで上納したという。島では御嶽で大切にされる、信仰と切り離せない植物。低いヤシの木みたいだった。
豆腐はどこの家でもつくっていたとある。沖縄で豆腐と言えばジーマミー豆腐、落花生からつくる。ジーマミーは「地豆」だがこれは地元で採れる豆ではなく地面の中にできる豆である由。いわゆる豆腐は大豆からつくる。いずれも過去には大々的に栽培されて、在来種もあったものが、外国産に押されて衰退した流れは内地と同じ。ほとんど栽培されていなかったが、近ごろ復活の取組みが盛んとのこと。パイナップル農家の女性と話した。栽培は出荷までに3年ないし2年かかる。決して加工にまわせるほどの収量はなく、台風のリスクは計り知れないとのこと。
読了日:03月12日 著者:柳田 国男 ファイル

私はフーイー 沖縄怪談短篇集 (幽BOOKS)私はフーイー 沖縄怪談短篇集 (幽BOOKS)感想
恒川さんが沖縄に移住して10年経った頃の短編集。沖縄の自然に感じる、ある意味得体の知れない感覚と、恒川さんの描く異界性は親和性がある。一方、現代における犯罪という。現代のモラルに基づいた善悪との組み合わせが、なんとなく居心地が悪かった。琉球王国、戦争、文化や風土の独自性を踏まえたうえで、独りたたずむ目の前の静かな闇は、少し種類が違う怖さのように思う。ただこれも沖縄で読むと違う感覚を覚えるのかもしれない。何度か出てきた阿檀の茂みが持つ密度と人を寄せつけない重量感は、実際に目にしてなるほどと納得できたのだ。
読了日:03月07日 著者:恒川光太郎 ファイル

忘れられた日本―沖縄文化論 (1964年) (中央公論社)忘れられた日本―沖縄文化論 (1964年) (中央公論社)感想
沖縄へ行く前に。昭和36年に訪れた沖縄を、占領と貧困の島と岡本太郎は表した。岡本太郎の放つエネルギーが激しくて、前回に同じく消耗する。日本人が沖縄人に沖縄人として生きることを許さなかったことに憤り、ゆえに言葉や文化が『民族の底の奥ふかいエネルギー』と感じさせる力を弱めていることを苦々しく思い、御嶽で清潔な感動に恍惚する。踏み石が埋め込まれ、茂った草に挟まれた小道の先にある御嶽。斎場御嶽はすっかり観光地化してしまったのだろうか。その清潔、その神聖を感じることはできるのだろうか。祈ることはできるのだろうか。
読了日:03月04日 著者:岡本太郎

日本問答 (岩波新書)日本問答 (岩波新書)感想
難しい。しかし面白い。教養が足りないなりに考え考え生きてきて、どうにも解けない問題の根っこはここだと膝を打った。江戸の私塾は、伝えたい人のところに好奇心で聴きたい人が集まったという。ならばこのシリーズは私の私塾である。日本人のおおもと。明治以降捨ててきた思想は、見失ってもなお日本人の底に在る。日本人の性質は、常にひとつに絞らないことと見る。もともと多様で、デュアルで、そのままを受容して平気な民族。『柔軟かつ強靭な寛容』との表現が好い。国の外からではなく、日本の過去を潜らなければ私たちの正体は見えないのだ。
「一枝の桜」のように、掘れば掘るほどぐじゃぐじゃになってしまう日本人論は、なるべくしてそうなる。日本人だって同じで自分たちを一貫して説明できない。それを遡り学問化しようとしたのが国学だったという。明治以降わからなくなって、探る努力を放棄して今に至る。とすれば、やはり米欧の基準に引きずられ、経済面や武力面での他国との競争にばかり気を取られているうちにまた戦争に頭を突っ込んでいくのだろうと、想像に難くない。独自の思想や循環社会を持っていたことを思い出せれば、真に独立できるのだろうけれども。
田中『義務教育じゃないし、誰かに強制されるわけでもない。もともと学問を究めようとか、それで身を立てようといった向上心すらなかったかもしれません。競争という感覚がどうもなかったようです。学問をして上りつめようというような感じではない。だから好奇心としか言いようがないんです』。 松岡『なるほど。好みだ』。
読了日:03月01日 著者:田中 優子,松岡 正剛 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。

  

Posted by nekoneko at 14:09Comments(0)読書

2025年03月01日

2025年2月の記録

Honya Clubで注文した本を近所の宮脇書店で受け取ることにしている。
仕事で使うために、1冊8,000円くらいする本を注文したからか、
「いつもありがとうございます!」と毎回言ってもらえるようになってしまった。
そんなこと言われたら、つい他にも買いたい本を探してしまうではないですか。

<今月のデータ>
購入19冊、購入費用28,058円。
読了12冊。
積読本342冊(うちKindle本161冊)。


ブック

インドの食卓: そこに「カレー」はない (ハヤカワ新書)インドの食卓: そこに「カレー」はない (ハヤカワ新書)感想
著者はインド、パキスタン、中国の各日本大使館勤務の経歴を持つ。公的文献のほか既刊のカレー本やウェブサイトから得た情報もまま含まれているようだが、自身の専門である国際・政治・歴史分野の絡みと、現地や日本で食べた情報は本人しか持っていないものなので興味深い。考えてみれば狭い日本でも食べ物の歴史と派生っぷりは半端でないのに、インドみたいな広大な国土で四方八方から民族や宗教や文化が流入した国の食を読んで知ろうなんて無茶なのだと思い知った。当然ながら"カレー"なんて食べ物は無い。東京に住んでたら食べに行くのに。
読了日:02月23日 著者:笠井 亮平 ファイル

種をあやす──在来種野菜と暮らした40年のことば種をあやす──在来種野菜と暮らした40年のことば感想
昨日も大根を収穫した。種を蒔き、カイワレ葉っぱを愛で、間引きした葉を食べ、時々に抜いては真っ直ぐさに感嘆し、食べた。在来種野菜を育てるとはさらに、種を採る母本を見極め、花を咲かせ、種を熟成させて枯れ果てるまで見守ることだ。その種を大事に集め、また蒔き、途切れなく循環を続けることだ。もともとの種だって、それまでたくさんの人が代々守ってきたから有る。それまでの長い時間を想うとき、季節とともに命を守り継ぐよろこびと使命感が胸に迫るのだ。F1の種やジーンバンクに保管した種とは違うその重みを、尊さと呼びたくなる。
読了日:02月19日 著者:岩﨑 政利

任務の終わり 下 (文春文庫 キ 2-64)任務の終わり 下 (文春文庫 キ 2-64)感想
ふたりの男の子と痩せっぽちの女の子。ホリーの旅立ち。ホリーはいつの間にか愛すべき女性にかわっていた。『心配すんなよ、ホリーベリー。ぼくたちのバンドを引き裂くなんて、だれにもできないよ』。シリーズ1作目のラストを思い出した。中盤でホッジズが癌と自殺を結びつけて考える場面がある。癌細胞が体内で増殖転移するように、自殺も連鎖反応を起こす。自殺は日本同様アメリカでも多いと見えて、キングは憂い、"寂しき若者"への願いをこめる。『物事には好転する可能性があり、あなたが機会さえ与えるなら、かならず好転するからだ』。
読了日:02月17日 著者:スティーヴン・キング ファイル

任務の終わり 上 (文春文庫 キ 2-63)任務の終わり 上 (文春文庫 キ 2-63)感想
久しぶりの<キング>ジェットコースター。ここ数年のキングの小説でドナルド・トランプはもはや常連です。Zの文字はロシアの戦車に描いてあったアレからかと推測したが、ウクライナ侵略開始のが2022年2月、単行本刊行が2018年なら勘違いだろう。さて、仕留めたはずの敵がまさか、の悪夢が再開する。物理攻撃はともかく、心の内側に注がれる悪意はつらい。ホリーに目を奪われるのは、前より内面が人間らしく描写されているからか、私が忘れてるのか。ホッジズものの完結作と聞いている。前作で私が予想したとおり、物語は円環を描くのか。
読了日:02月14日 著者:スティーヴン・キング ファイル

私の身体を生きる私の身体を生きる感想
気軽に読み始めたが、これは家の外や夫の横では読めない、と思った。女性の体は男性のそれと仕組みが違っているゆえ社会性も同じではあり得ない。のみならず、身体の捉えかたは個々人でこんなに違うのだと文筆を生業としている筆者たちは明瞭に知らしめる。狼狽えた。それは、社会生活を営むうえで感じていては支障があるから、あるいは辛いから、私が日々封じ込めている感覚を暴くことでもあるからだ。喜びより怒りに共鳴する。それでも能町みね子の全身を貫くような強烈な怒りの感情には敵わない。わかりようがない。それでも、認めたいと思う。
読了日:02月12日 著者:西 加奈子,村田 沙耶香,金原 ひとみ,島本 理生,藤野 可織,鈴木 涼美,千早 茜,朝吹 真理子,エリイ,能町 みね子,李 琴峰,山下 紘加,鳥飼 茜,柴崎 友香,宇佐見 りん,藤原 麻里菜,児玉 雨子 ファイル

柳宗民の雑草ノオト 2 (ちくま学芸文庫 ヤ 16-2)柳宗民の雑草ノオト 2 (ちくま学芸文庫 ヤ 16-2)感想
その2。その1で大概は網羅されていただろうから、その2はレアな雑草が多いのではとぼんやり想像していたのだけれど、なんのなんの。その数60種。可愛らしいのから憎たらしいのまで、まだこれもあったかと驚くほどあるのだ。『これらの草々の多くを、昔の人々が見捨てることなく、実にうまく利用してきた』。食用、薬用、鑑賞用など、利用してきた知識はなかなか活用する機会が持てそうになくも貴重だと実感する。一方、挙げられた地味な雑草が園芸店に売られる洋物の草花と同種だったり、むしろ原種だったりと、知識量に感嘆することしきりだ。
読了日:02月12日 著者:柳 宗民

現代農業 2025年 03 月号 [雑誌]現代農業 2025年 03 月号 [雑誌]感想
「種取り事始め」で考えこんでは気持ちを重くしていたところで、定期購読の「現代農業」。土壌の性質によって生態系が異なるので、ついては土を団粒化するための生物も違ってきますよねという分析記事から、読者それぞれの独自の取り組み投稿まで硬軟ごっちゃな感じが好い。種は畑のあちこちにばらまくんだよという記事で、目指しているゆるさ加減を思い出してはっと我に返った次第。だいぶ要点が絞れてきた、名づけて粗放系不耕起草生有機栽培でいきます。隣から飛んでくる落ち葉の量が半端じゃないとわかったので焚き火どんどんが欲しいです。
読了日:02月11日 著者:

種採り事始め (育てて楽しむ)種採り事始め (育てて楽しむ)感想
日本農業新聞でおなじみの福田俊さん。家庭菜園ならF1の種を買うのではなく、自分で採種して楽しむのがおすすめと、種苗会社勤務の経験と、農園での経験を踏まえて詳しく解説している。落花生とこぼれ種のマクワウリしか成功体験がない身に、いきなり自家採種は一足飛びすぎた。固定種の種を買い込んだところで、一種類を5本も植えるスペースもなければ、直播では育たない野菜があることもてんで知らないのだもの。心折れそうになったが、まあ1年目は土づくりを進めつつ、固定種を育ててみる、くらいの目標にしておこう。絵袋は下側を切ること。
読了日:02月11日 著者:福田 俊

関口宏・保阪正康の もう一度! 近現代史 明治のニッポン関口宏・保阪正康の もう一度! 近現代史 明治のニッポン感想
BSの番組が好きだった。幕末から明治時代に入る頃になると、記録もそれなりに残っており精神性も現代人に近い。学生の時分には知識の羅列でしかなかった出来事が、ようやく社会の空気や個々の人間の思惑として捉えられる。1年1トピックほども細かく出来事を取り上げる。関口さんはフリップを読みあげて保坂さんの説明を拝聴しているだけではなくて、知識を持ったうえで所感を差し挟んでいる。穏やかな語り口ながら、鋭いものがある。当時の政治家は現代の政治家より優れたものを持っていたのだろうが、歴史は時代の勝者のものならざるを得ない。
読了日:02月10日 著者:保阪 正康,関口 宏 ファイル

ワ-ニャ伯父さん/三人姉妹 (光文社古典新訳文庫 Aチ 2-1)ワ-ニャ伯父さん/三人姉妹 (光文社古典新訳文庫 Aチ 2-1)感想
チェーホフの戯曲を舞台で観て良かった記憶がある。この2編も舞台で観てみたい。さて、自ら働かない生きかたが否定されることは彼らには激動である。自分が変わらなくても周りが変わってゆくぶん取り残されるのは、現代に似ている。今まで生きてきたように生きていては埋もれてゆくだけ。かといって家族のために働いても先は暗く、外で働いても意味を見出せない。働かずとも良心の呵責を覚えずに生きられる人もいるのに、真面目な者が苦しみ、後世の人々が自分たちをどう思うか議論を重ねる。切なくて、いとおしい。わたしたちに似ているから。
『そうよ、大事なのは働くことよ。あたしたちがこんなに塞ぎ込んで、人生を暗いものとしか見られないのは、労働を知らないせいよ。あたしたち、労働を見下してきた人たちの子供ですもの』。
読了日:02月09日 著者:アントン・パーヴロヴィチ チェーホフ ファイル

羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季感想
高原の厳しい気候に適応するよう改良した在来品種の羊を、伝統的な方法で放牧する暮らし。羊と土地への思い。古来の手法を守って慎ましく暮らしてきた地が、ワーズワースによって注目され、「美しい湖水地方」という幻想を抱く人が地元住民の何百倍もいる事実を恐ろしく著者が感じているのが興味深い。世界中の「観光地」は多かれ少なかれその感覚を持っているものだと思うからだ。景観があるのは審美のためではなく共生のためなのに、と。また、都市の生活や思想を見聞したうえで、あえて故郷を、伝統的な生業を選ぶ人こそ未来の希望だと私は思う。
昨今のコスト高騰以前から、牧畜だけでは生活できないのも旧来である。出稼ぎや宿泊施設経営などを農場主が手掛けるなかで、著者のユネスコの観光プログラムアドバイザーは異色ではないか。オックスフォード大卒の知性と、その後の短い職務体験からつながった道なのだと推測する。『もう地域に溶け込むことのできない人間に変わ』ることなく、伝統と新しい知識の掛け合わせで未来は生まれる。地方地域は存続することができる。と信じたいが、最新作の紹介文が不穏なのがとても気になる。
集団で放牧された羊は知性を育む。私の好きな『牛たちの知られざる生活』の牛と同様でうれしくなる。彼らは荒天時の避難場所、集団秩序、出産に必要な手順を知り、代々受け継いでいる。人間がすべきは敬意を持ち、手助けすることなのだ。
読了日:02月04日 著者:ジェイムズ リーバンクス,James Rebanks


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。

  

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2025年02月01日

2025年1月の記録

今年もしっちゃかめっちゃかな選本で行こう。
読む必要のない本は、慎重に見定めて。

<今月のデータ>
購入10冊、購入費用7,169円。
読了12冊。
積読本334冊(うちKindle本157冊)。


ブック

いとも優雅な意地悪の教本 (集英社新書)いとも優雅な意地悪の教本 (集英社新書)感想
2016年「すばる」連載。「意地悪」が主題のよもやま話。バカ、デブに代表される二文字の罵倒言葉は、気分に直結して脊髄反射的に発せられる簡潔な性質ゆえに連打してしまうが、知性を駆使した意地悪な言葉は一発で効くとか、質問に答えず四の五のと冗長に続く答弁は、知性が低いのではなく、知性とモラルが分離しているがゆえにその下品さを自覚せずにいられるからとか、すごいことをやってもすごいということを理解する才能がある人にしか理解されないとか、まあ意地悪な文章のオンパレードで爆笑してしまった。樋口一葉を読みたくなった。
読了日:01月30日 著者:橋本 治 ファイル

ちゃぶ台13 特集:三十年後ちゃぶ台13 特集:三十年後
読了日:01月26日 著者:ミシマ社

ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密ドイツ人のすごい働き方 日本の3倍休んで成果は1.5倍の秘密感想
社会に浸透した労働観をはじめ、教育制度、商習慣、法整備まで素地がかなり異なる点は踏まえておくべきだろう。長期休暇取得や急な欠員を受容する"バックアップシステム"とは、タスク整理や情報共有のシステム化と同時に、余裕を持ったリソース管理が要となる。それはつまり人件費の増加を意味し、かつ生産性を高く保つには、経営効率が確保されていなければならない。ドイツの中小企業割合が日本同様99%を超えている点を考え併せれば、全経営者が教育を受けた経営のプロとは考え難く、経営者および社会の認識に日本との差がありそうだ。
読了日:01月25日 著者:西村 栄基 ファイル

老警 (角川文庫)老警 (角川文庫)感想
老警とはだれか。練られたミステリ。多すぎる情報を疎んでいるとしてやられる。男は女を、親は我が子と組織を、組織は組織と組織内の権力闘争を想って意を決し、それぞれ隠密に行動する。徹底的に被害者やその家族に焦点を当てない、描こうとすらしない、非情がとかく心地悪い。しかし事件が結末を見、終章で作者が書きたかったものが露わになったとき、彼らと彼らの家族に対する私たちの態度は、見ようとしない、無いものであるかのように扱う、同様の非情であると糾弾されたように感じた。閉じてしまったものを開くにはどうすればよいのだろう。
読了日:01月19日 著者:古野 まほろ ファイル

ぼくは古典を読み続ける 珠玉の5冊を堪能するぼくは古典を読み続ける 珠玉の5冊を堪能する感想
連続講義の新書化。古典のススメ。今は古典新訳文庫や池澤夏樹編集があるので、古典もとっつきやすくなったものだと思う。だからといって、関心を持てるまでにはそれなりに本を読む時間と、人生の経験値を積み上げることが必要なのではないかな。特に私のように読書は娯楽であると認識して育った人間には。そのうち、より深いものへの渇望が生まれる、そんな印象を覚えた。若いうちにわからないなりに読んでおくにこしたことはないのだけど。気候が安定して政治も安定する豊かな時代には文化や学術が世界同時多発かつ爆発的に発達するのが興味深い。
読了日:01月17日 著者:出口 治明 ファイル

マハーバーラタ: インド千夜一夜物語 (光文社新書 47)マハーバーラタ: インド千夜一夜物語 (光文社新書 47)感想
正月に観るインド映画の基礎知識として。しかし「マハーバーラタ」は長すぎて、しかもパンダヴァvs.カウラヴァの物語以外にも、今昔物語や禅問答めいた小話が多々収められているようだ。本書はそれをピックアップしたもの。登場人物は神、聖仙、王、賢者と堂々たる面子だが、性欲をつい我慢でけんかった話が多くて笑った。生命力旺盛である。デヴァとアスラの戦いも面白い。バラモンが編纂したものなので多分にヒンズー寄りと思いきや、アスラがドラヴィダ、デヴァがアーリアなのにデヴァが侵略したことを認めていて、これもまた大らかである。
読了日:01月13日 著者:山際 素男 ファイル

現代家庭療法百科現代家庭療法百科感想
亡き祖父母の本棚を整理して出てきた本を貰い受けた。主婦の友社、昭和58年の刊。家族の体調が悪くなったとき、昔はネット検索なんてないから、このぶ厚い本を祖母も熱心にめくったのだろう。症状と治療法に始まり、漢方療法、ツボの図解から民間療法まで、痛苦を和らげるためのさまざまの方法を、各分野の専門家監修のもとまとめている。病気の説明は現代に劣るかもしれないが、東洋医学や生活の知恵はむしろ現代より充実していると思われるので手元に置く。本書は医師による適正な治療と争うためではなく、むしろ補う目的とする編集後記が熱い。
風邪・インフルエンザの民間療法を抜き書きしてみる。焼いた梅干し。ショウガ湯。ネギとみそ。するめとネギ。ゴボウとみそ。シイタケとはちみつ。レンコンとキンカン。干し柿。卵酒。黒豆。コマツナ。シソ。ニラ。ニンニク。ヤマイモ。酢。キンカン。ショウガ酒。みそ酒。ネギ。玄米とミカン。黒豆とクルミ。キク。ヨモギ。ニワトコの花。ドクダミ。ゆず湯。梅酢。and so on。エンドレス。これがよかろうあれがよかろうと、それぞれに試して得た生活の知恵は、健康になりたい、家族を楽にしたいと願う人々の思いの集合体である。胸アツ。
読了日:01月13日 著者:

転がる珠玉のように (単行本)転がる珠玉のように (単行本)感想
「婦人公論」連載。若干短めのエッセイ。新型コロナの流行期に被っているので、医療関係者や家族の病、死の話題が多め。つられて始終涙ぐんだ。コロナ禍が明けたとて、物価高と生活苦、人不足の話題には事欠かない。でも地べた目線の話は温かみがある。そこにこそ希望を感じる。ならば「クリスマス・キャロル」の精神はなくとも、地べた目線は常に忘れずにありたい。あと、エッセイに起承転結が無いといけないわけではないと思った。起承だけでも、著者のエッセンスはじゅうぶんに発揮されている。Never too late.って素敵な言葉。
著者が保育士になったとき、1年目は子供に病気をもらいまくったが、2年目には鋼鉄の体になったという。人間の体は免疫がつくようにできている。しかし、私たちは今こんなに感染症に振り回されている。これはなぜなのだろう。コロナ禍期の強い行動規制が解除されてもう数年が経つ。隔離やマスクを外した反動だけではないのではないか。過消毒やマイクロバイオームの損失によって、人間という生物自体が弱くなっているんじゃないかとまで思う。あと記憶のスパンも短くなってるが、これはきっとスマホにより依存するようになった、情報過多のせいだ。
読了日:01月12日 著者:ブレイディ みかこ ファイル

インド夜想曲 (白水Uブックス 99 海外小説の誘惑)インド夜想曲 (白水Uブックス 99 海外小説の誘惑)感想
友人の消息を追って始まるインドの旅。インドの実在の場所を、主人公は初めてではなさそうにするする進んでいく。しかし、主人公の思考がインドらしくない。外国人だから当たり前だけど。行く先々で出会う相手との対話に戸惑い、苛立ち、でも着地点は最初から決まっていたような。持て余す夜の時間の無聊を慰めるためのような。その感じが西洋的で、物語としては私は好きではなかった。一個人の中で完結する、排他的なよそよそしさ、と名づけてみる。私のほうの気持ちがインドに寄りすぎているのかも。夜の駅や、高級ホテルの場面の雰囲気が好い。
読了日:01月11日 著者:アントニオ タブッキ

“手”をめぐる四百字: 文字は人なり、手は人生なり“手”をめぐる四百字: 文字は人なり、手は人生なり感想
季刊「銀花」連載。原稿用紙1枚の文章はエッセイとしては短い。しかし百様ならぬ五十様の手跡に目が釘付けになった。写真で挟まれたさまざまの手仕事はもちろん、紙一枚の上に表れる文章のなんと自由なこと。達筆どころか、字面が揃わなかったり、マスからはみ出たり、そもそもマス目を手書きしたり。ああ、これでいいんだ、と、近頃自分の手書き文字の汚さに辟易していた私は胸が軽くなったのだ。出版社からいただいた原稿用紙を持ち出し、写経用の筆ペンで、文字を書く遊びを始めた。マスからついはみ出るような、大らかな字を書く人になりたい。
読了日:01月09日 著者:白洲 正子

東の海神(わだつみ) 西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)東の海神(わだつみ) 西の滄海 十二国記 3 (新潮文庫)感想
この正月に引いたおみくじは最高の内容だった。占いというより激励だった。その流れで再読。私にとってこの本は"初心"みたいなもの、かもしれない。小松尚隆は私のメンターなのだ。『なんだ。そう悲壮な顔をしてどうする。どうせなるようにしかならん。軽く構えろ』。国の存亡の危機にあって発した台詞。上に立つ者の心構え、というか。国を守るため自身は必死に考え、体を張って動くのだけれども、どれだけ苦しくてもそれは自分が引き受けるのだと腹を決め、人々には堂々と接し、鷹揚に笑ってみせる。そうあるべしと心得て、今年に挑みたい。
『民は王などいなくても立ち行く。民がいなければ立ち行かないのは王のほうだ。民が額に汗して収穫したものを掠め取って、王はそれで食っている。その代わりに民が一人一人ではできぬことをやってやる』。
読了日:01月07日 著者:小野 不由美

ガラム・マサラ!ガラム・マサラ!感想
のっけからフルスピードでまくしたてるから、無分別な青春ギャングものに手を出したかと後悔しかけたが、どうして、これはこれでリアルな現代インド社会を俯瞰した物語の運びが興味深い。チャイ売りの屋台稼業は、インドの社会階層としては中の下の下だそうだ。テレビ番組の人気者になるという上っ面な狂騒と、金持ちになりたいというインド人のいつの時代も変わらぬ夢(?)を土台に、ドタバタが繰り広げられる。"インド人なのに"電子煙草を吸う、また伝統的でない薬物を摂取する、欧米文化にかぶれたインテリ階級への嫌みがスパイス。
『アビはバターチキンが売り切れた結婚式ビュッフェ会場のおじさんのような眼で僕たちを見ていた。それくらい怒っていた』。『食べ放題のビュッフェにいるパンジャブ人のように、僕の心臓は爆発しそうだった』。こういう比喩が秀逸でゲラゲラ笑ってしまう。そしてSRKとアーリア・バットはもはや鉄板ネタね。
読了日:01月01日 著者:ラーフル・ライナ ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。

  

Posted by nekoneko at 17:00Comments(0)読書