2018年12月01日
2018年11月の記録
録り置きのNHK番組「推しボン!」を観ました。
ひとさまの本棚を見て、脳内麻薬が豪快に出ました。
東出君は本棚に並んだ本も端正でした。なのにどこまでも謙虚なコメントに惚れました。
幼い頃の本の記憶があるって、ほんとうに幸せなことです。
<今月のデータ>
購入19冊、購入費用10,680円。
読了9冊。
積読本143冊(うちKindle本49冊)。

11月の読書メーター
読んだ本の数:9
ニワトリ 愛を独り占めにした鳥 (光文社新書)の感想
鶏への愛を標榜しながら、初っ端から日本の養鶏業と食の説明に明け暮れるのはどういう神経か。鶏を性能やコスパで語る時点で愛はない。都合がいいだけだ。大変に胸糞が悪い。鶏の祖先は東南アジアに今も生息するセキショクヤケイ。なぜ他の鳥でなく、鶏が家畜化されたのかというテーマ立ては面白い。しかし「多芸だから」はないだろう。日本における由来も結局曖昧だ。異分野にわたる知識やラテラルな発想力がないから冗長になる。動物福祉の素養もない。専門分野だけの専門書をお書きになればいいのに。研究者への冷遇を訴えたいなら政府へどうぞ。
読了日:11月24日 著者:遠藤秀紀
江戸の備忘録 (文春文庫)の感想
『江戸時代は身分の違いがあって窮屈な時代のように思われるけれども、まことに彩りゆたかな時代であった』。古文書に鼻を突っ込んで何時間でも座り込んでいる姿が目に浮かぶ。朝日新聞の連載らしく、短くも密に詰まった読み物。誰より磯田さんが面白がっている顔が想像できてにやにやしてしまう。明治や大正時代の記録ならば頑張れば読めるが、江戸の民草の記録は、あっても読めないところに断絶がある。それを埋めようと試みる磯田さんは、江戸の記憶も含めて日本の歴史を語れる人だ。日本はずっと昔から途切れなく繋がっていることを感じられる。
読了日:11月20日 著者:磯田 道史
ペテロの葬列 下 (文春文庫)の感想
なんと悲しい結末。金や大切な人や信頼を失って、失った事実を痛烈に思い知らされても、どうしてか人は生きていくことができる。そんな人たちの物語の後に、同じことが主人公にも降りかかるのだ。しかしこちらのほうが性質が悪い、と私は思う。だって彼女はなに不自由ない。痛みを知った人の悪より、痛みを知らない人の悪は、もっと悪いと思う。ぬけぬけと告白する彼女を憎む。彼女を罰したいという私の気持ちは、老人のものと同じだろうか。この物語で私が共感できたのは田中氏だ。都合よく忘れながら、それなりに率直に、ずず黒く生きるのがいい。
読了日:11月20日 著者:宮部 みゆき
ペテロの葬列 上 (文春文庫)の感想
ハイジャック事件はほんの序章にすぎない。しかしこの老人が善人か悪人かを推し量る作業に、私の思考と目は集中していく。あっけない幕切れから、物語は始まるのだ。「火車」を思い出す。ほんとうにごく普通の人々と、金。金、金、金。これまた金銭的な心配の要らない立場故に、程よい距離を保ちながら主人公はミッションを進めていく。宮部みゆきの物語はもちろん、それだけに終始しない。いくつもの伏線が撒かれて、いつもながら帰結点の想像もつかないまま、安心して上巻を読み終えた。
読了日:11月17日 著者:宮部 みゆき
イナンナの冥界下り (コーヒーと一冊)の感想
古い古いシュメールの時代の物語。文字や、心や時間の概念がなかった時代の物語はこんな感じだったらしい。粗筋はシンプルなものだが、文字がないのだから当然人間の声で伝える訳で、同じフレーズの繰り返しは音読に映えたことだろう。能楽の大きな役割である鎮魂とは違っても、その繰り返すフレーズの部分は、特別な意味を語り手と聴き手に与えたと想像する。ルヌガンガで聴いた安田氏の「夢十夜」第三夜は、漱石が能を意識したとはいえ、ぴたりと嵌まって得も言われぬ心の震えを私に与えた。この物語の仕舞もきっとそうだろう。観てみたいものだ。
読了日:11月12日 著者:安田登
世界のシワに夢を見ろ! (小学館文庫)の感想
バス旅行は本を読む時間が確保できてよいのだが、揺られているうちに寝落ちしてしまう。その点、この本は刺激的で寝落ちする間がなく、自称「バカ最長不倒距離」を誇るそうで、吹かないように適度な緊張感を保てて最適だった。さて、先日のクレイジージャーニーで、早稲田大学探検部OBとして高野さんがスタジオに出ていた。現役探検部の、今どきらしい若者が規格外の冒険を当たり前のようにこなす映像も圧巻ながら、高野さんがまともな人間の姿をして座っているのがどうにも奇異に感じられて、つくづく見つめてしまった。人間って凄いよなぁ…。
読了日:11月11日 著者:高野 秀行
目の見えない人は世界をどう見ているのか (光文社新書)の感想
『障害者とは、健常者が使っているものを使わず、健常者が使ってないものを使っている人』と定義し、自身が交流した人たちとの経験からまとめたものだ。使わなくなった視覚野を別の情報処理に使う、他の感覚が鋭くなるなど適応することで、視覚障害者は世界を創っていく。体の使い方の箇所が興味深かった。見えなければ、体の平衡を取ると同時に、周囲を探らなければならない。当然、環境に直接触れる足裏などの感覚は鋭敏になり、同時に環境との一体感が強くなるとは、視覚入力がないからこそだ。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」をやってみたい。
読了日:11月11日 著者:伊藤 亜紗
知らなきゃよかった 予測不能時代の新・情報術 (文春新書)の感想
世界はキナ臭い動きを見せて、それはテレビでは無論、新聞も各紙読み込まなければ粗方も知ることはできない。読み込みのプロである池上氏と佐藤氏の対談だ。例によって"知らなきゃよかった"事は多岐に渡るが、印象強いのはトランプのくだり。「トランプはキリスト教長老派(カルヴァン派)」という要素を佐藤氏が加えたことで、トランプの言動の一部が明快に説明された瞬間は鮮やかだった。『トランプはきっと世のため人のためにいろんなことをしていると思っているんですよ』。欧米やロシア、アラブ諸国の論理を理解する鍵は心理学より神学か。
読了日:11月10日 著者:池上 彰,佐藤 優
日本沈没 決定版【文春e-Books】の感想
風景も人の心も、どこまでも日本的なSF。45年前の小説なのに、まるで数年前の記憶を見ているような、あるいは近未来の現実を見ているような、軽い錯乱を覚えた。『日本はアジアの"アトランティス"になる』。この小説は、私の中の何かをいたく喚起する。これでもかと日本を襲う災害の連鎖、特に四国の、ふるさとの山河が沈み失せることへの無条件のかなしみが溢れ胸が詰まった。私は田所博士と運命を共にしたい。ここから離れて生きる気などどこにもない。大局から名もない千千の思いをも書き込んで、どこをとっても読み応えのある大作だった。
小松左京のご子息が巻末に詳しい解説を書いている。小松左京は阪神大震災、東日本大震災の報道を食い入るように見ていたという。文章も残している。「日本沈没」のベースとなった小松家の伝承や過去の戦争体験、この小説の結末が本人に与えた影響は想像以上に大きかった。東日本大震災は小松左京に大きな衝撃を与えたとあり、数か月後に80歳で亡くなった。毎日小学生新聞に寄せたメッセージは『この危機は必ず乗り越えられる。日本は必ずユートピアを実現できる。日本と日本人を信じている』。
読了日:11月09日 著者:小松 左京
注:
はKindleで読んだ本。
ひとさまの本棚を見て、脳内麻薬が豪快に出ました。
東出君は本棚に並んだ本も端正でした。なのにどこまでも謙虚なコメントに惚れました。
幼い頃の本の記憶があるって、ほんとうに幸せなことです。
<今月のデータ>
購入19冊、購入費用10,680円。
読了9冊。
積読本143冊(うちKindle本49冊)。

11月の読書メーター
読んだ本の数:9

鶏への愛を標榜しながら、初っ端から日本の養鶏業と食の説明に明け暮れるのはどういう神経か。鶏を性能やコスパで語る時点で愛はない。都合がいいだけだ。大変に胸糞が悪い。鶏の祖先は東南アジアに今も生息するセキショクヤケイ。なぜ他の鳥でなく、鶏が家畜化されたのかというテーマ立ては面白い。しかし「多芸だから」はないだろう。日本における由来も結局曖昧だ。異分野にわたる知識やラテラルな発想力がないから冗長になる。動物福祉の素養もない。専門分野だけの専門書をお書きになればいいのに。研究者への冷遇を訴えたいなら政府へどうぞ。
読了日:11月24日 著者:遠藤秀紀


『江戸時代は身分の違いがあって窮屈な時代のように思われるけれども、まことに彩りゆたかな時代であった』。古文書に鼻を突っ込んで何時間でも座り込んでいる姿が目に浮かぶ。朝日新聞の連載らしく、短くも密に詰まった読み物。誰より磯田さんが面白がっている顔が想像できてにやにやしてしまう。明治や大正時代の記録ならば頑張れば読めるが、江戸の民草の記録は、あっても読めないところに断絶がある。それを埋めようと試みる磯田さんは、江戸の記憶も含めて日本の歴史を語れる人だ。日本はずっと昔から途切れなく繋がっていることを感じられる。
読了日:11月20日 著者:磯田 道史


なんと悲しい結末。金や大切な人や信頼を失って、失った事実を痛烈に思い知らされても、どうしてか人は生きていくことができる。そんな人たちの物語の後に、同じことが主人公にも降りかかるのだ。しかしこちらのほうが性質が悪い、と私は思う。だって彼女はなに不自由ない。痛みを知った人の悪より、痛みを知らない人の悪は、もっと悪いと思う。ぬけぬけと告白する彼女を憎む。彼女を罰したいという私の気持ちは、老人のものと同じだろうか。この物語で私が共感できたのは田中氏だ。都合よく忘れながら、それなりに率直に、ずず黒く生きるのがいい。
読了日:11月20日 著者:宮部 みゆき

ハイジャック事件はほんの序章にすぎない。しかしこの老人が善人か悪人かを推し量る作業に、私の思考と目は集中していく。あっけない幕切れから、物語は始まるのだ。「火車」を思い出す。ほんとうにごく普通の人々と、金。金、金、金。これまた金銭的な心配の要らない立場故に、程よい距離を保ちながら主人公はミッションを進めていく。宮部みゆきの物語はもちろん、それだけに終始しない。いくつもの伏線が撒かれて、いつもながら帰結点の想像もつかないまま、安心して上巻を読み終えた。
読了日:11月17日 著者:宮部 みゆき

古い古いシュメールの時代の物語。文字や、心や時間の概念がなかった時代の物語はこんな感じだったらしい。粗筋はシンプルなものだが、文字がないのだから当然人間の声で伝える訳で、同じフレーズの繰り返しは音読に映えたことだろう。能楽の大きな役割である鎮魂とは違っても、その繰り返すフレーズの部分は、特別な意味を語り手と聴き手に与えたと想像する。ルヌガンガで聴いた安田氏の「夢十夜」第三夜は、漱石が能を意識したとはいえ、ぴたりと嵌まって得も言われぬ心の震えを私に与えた。この物語の仕舞もきっとそうだろう。観てみたいものだ。
読了日:11月12日 著者:安田登

バス旅行は本を読む時間が確保できてよいのだが、揺られているうちに寝落ちしてしまう。その点、この本は刺激的で寝落ちする間がなく、自称「バカ最長不倒距離」を誇るそうで、吹かないように適度な緊張感を保てて最適だった。さて、先日のクレイジージャーニーで、早稲田大学探検部OBとして高野さんがスタジオに出ていた。現役探検部の、今どきらしい若者が規格外の冒険を当たり前のようにこなす映像も圧巻ながら、高野さんがまともな人間の姿をして座っているのがどうにも奇異に感じられて、つくづく見つめてしまった。人間って凄いよなぁ…。
読了日:11月11日 著者:高野 秀行


『障害者とは、健常者が使っているものを使わず、健常者が使ってないものを使っている人』と定義し、自身が交流した人たちとの経験からまとめたものだ。使わなくなった視覚野を別の情報処理に使う、他の感覚が鋭くなるなど適応することで、視覚障害者は世界を創っていく。体の使い方の箇所が興味深かった。見えなければ、体の平衡を取ると同時に、周囲を探らなければならない。当然、環境に直接触れる足裏などの感覚は鋭敏になり、同時に環境との一体感が強くなるとは、視覚入力がないからこそだ。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」をやってみたい。
読了日:11月11日 著者:伊藤 亜紗


世界はキナ臭い動きを見せて、それはテレビでは無論、新聞も各紙読み込まなければ粗方も知ることはできない。読み込みのプロである池上氏と佐藤氏の対談だ。例によって"知らなきゃよかった"事は多岐に渡るが、印象強いのはトランプのくだり。「トランプはキリスト教長老派(カルヴァン派)」という要素を佐藤氏が加えたことで、トランプの言動の一部が明快に説明された瞬間は鮮やかだった。『トランプはきっと世のため人のためにいろんなことをしていると思っているんですよ』。欧米やロシア、アラブ諸国の論理を理解する鍵は心理学より神学か。
読了日:11月10日 著者:池上 彰,佐藤 優


風景も人の心も、どこまでも日本的なSF。45年前の小説なのに、まるで数年前の記憶を見ているような、あるいは近未来の現実を見ているような、軽い錯乱を覚えた。『日本はアジアの"アトランティス"になる』。この小説は、私の中の何かをいたく喚起する。これでもかと日本を襲う災害の連鎖、特に四国の、ふるさとの山河が沈み失せることへの無条件のかなしみが溢れ胸が詰まった。私は田所博士と運命を共にしたい。ここから離れて生きる気などどこにもない。大局から名もない千千の思いをも書き込んで、どこをとっても読み応えのある大作だった。
小松左京のご子息が巻末に詳しい解説を書いている。小松左京は阪神大震災、東日本大震災の報道を食い入るように見ていたという。文章も残している。「日本沈没」のベースとなった小松家の伝承や過去の戦争体験、この小説の結末が本人に与えた影響は想像以上に大きかった。東日本大震災は小松左京に大きな衝撃を与えたとあり、数か月後に80歳で亡くなった。毎日小学生新聞に寄せたメッセージは『この危機は必ず乗り越えられる。日本は必ずユートピアを実現できる。日本と日本人を信じている』。
読了日:11月09日 著者:小松 左京

注:

Posted by nekoneko at 11:05│Comments(0)
│読書