2020年01月07日
2019年12月の記録
年末年始の休みは長めで、飽き飽きする程本を読むつもりだったのに、
終始ばたばたで、疲れと欲求不満ばかり残る結果となりました。
「眠い」と宣言して寝室にこもり、こっそり布団の中で本を読む。
子供の頃よくやっていたようなことをしました。
でも、邪魔されないことの幸せったらなかったなぁ。
<今月のデータ>
購入19冊、購入費用21,643円。
読了13冊。
積読本198冊(うちKindle本81冊)。

12月の読書メーター
読んだ本の数:13
蔵書の苦しみ (光文社新書)の感想
積読本が200冊を突破しそうな今年の読み納め。蔵書が数千数万を数える蔵書家の人々の逸話を読むと、わずか数百冊は取るに足らぬと知る。私は読むことの愉悦は覚えたつもりだが、どこまでも常識的な読書人のひよこである。曰く『自分の書棚には、時に応じて、自在にページをひるがえすことができる本が、五、六百冊もあれば十分、その内訳が少しずつ変わってゆく』のが完全な読書人とあった。そして『三度、四度と読み返せる本を一冊でも多く持っている人が真の読書家』とも。取っておく本は実家に送り溜めてある。今年は本棚を新調耐震化したい。
著者は蔵書を手放すのに"一人古本市"を催した体験を書いている。一箱古本市に並んだ本はすべて、私の身体を通ったものたち。そしてそれが人前に並べられて、金銭と引き換えに他人の手に渡っていくのは不思議な感じであったと書いている。一箱古本市の店主をしているとなにやら面映ゆいのはそういうことなんだろうかと、興味深かった。
読了日:12月31日 著者:岡崎 武志
往復書簡 無目的な思索の応答の感想
不思議な組み合わせに興味をそそられた。一度会っただけの間柄らしき二人による往復書簡形式のエッセイ。往復書簡なので末尾には相手への投げかけや問いかけが置かれていたりするが、それは踏んだりあえて踏まえなかったりと行儀よく緩く連鎖していくので、深いことを言っているが深まっていくのとは違う。二人とも体感や言葉尻に敏感なところが似ている。しかし、理不尽なそれに対して又吉は困惑しそっと身を引くのに対し、武田氏は噛み付く印象がある。その様相はこの装丁のよう、と上手いこと締めたいが、もっともんやりした読後感と評しておく。
読了日:12月29日 著者:又吉直樹,武田砂鉄
猪変の感想
海を泳ぐ姿や野を駆ける姿を見ると、その生命力に畏敬の念さえ覚える。しかし里山近くや島の住人にとっては、集落を消しかねない脅威なのだ。猪の餌は冬にドングリ、春にタケノコ。その間を埋めるのが島特産の柑橘類と聞いて瀬戸内海に猪が増えた理由が腑に落ちた。1990年代に柑橘類の輸入が自由化された辺りから島の猪は増えたのだ。それから30年。山に入る人は更に減り、猪は街にも現れ、被害は拡大している。正直、国民が減ると確定した日本で、人間の力だけで対応するのは限界じゃないか。放棄された田畑に牛を放牧するアイデアは好いね。
野生動物の駆除か保護か。この問題は経済問題を抜きに語れない。ジビエという言葉が由来するフランスには、狩猟と食肉加工ビジネスと野生動物保護が、森林管理や獣害補償も含めて総合的にバランスを取ろうとする仕組みがあるそうだ。生命観ほか、相違はあろうが、獣肉を食べる美食面だけでなく、その考え方をも輸入して国策として検討してほしいと思う。山から撤退するにしても猪に「背中を向けて逃げる」のか「顔を合わせたまま後ずさる」のかという10年以上前の問いには、未だ答えが出ていない。『21世紀の日本は、獣害の世紀になりますよ』。
ちなみに『イノシシが海を泳ぎ渡るのはもう、瀬戸内海の常識と覚悟をした方がいい』という警告は現実のものとなりました。
読了日:12月24日 著者:
おうちでできるおおらか金継ぎの感想
夫の茶碗の縁を欠いてしまって、気に入りだっただけに気落ちも大きい。正月休みもあることだし、金継ぎをしてみようと思い立った。金継ぎ初心者セットがインターネットで売られる時代である。取り掛かる前にそもそも金継ぎとはなんぞやと眺めてみた。欠けたもの。割れたもの。ひびのいったもの。漆に様々なものを混ぜながら工程を経て美しく仕上げる。かすがい継ぎや呼び継ぎのような味わいあるものもあれば、ガラス継ぎに至ってはなぜそこまでして直すかと思ってしまう。実用と風雅のあわいの世界、奥深い。合成樹脂ではなく、漆でがんばってみる。
読了日:12月23日 著者:堀道広
いとしのギーの感想
インターネット記事で知った本。香川県など地方には雑種犬があふれ返っているが、都会の譲渡会では珍しがられ人気があると聞いたことがある。さて、ギーは熊本県で野良犬として育ち、1歳くらいになって東京の譲渡会に出たというから、筋金入りの野良っぷりだっただろう。逸走もせず、人や犬に噛みつきもせず、彼女のペースで人間との暮らしに慣れていく様子が描かれている。写実性の高くない絵なのに、ギーの表情の変化がなんかわかる気がする。オリジナリティ極まる"フセ"のエピソードが紹介されているように、雑種は個性がわかりやすいのかも。
読了日:12月20日 著者:おおが きなこ
老犬たちの涙 “いのち”と“こころ”を守る14の方法の感想
児玉さんは見たままを伝える。飼い主に捨てられた老犬たちが檻の中で、環境の変化に混乱し、飼い主の不在を不審に思い、悲しみ、吠える。痴呆も入っていれば大きい声で鳴くだろう。それは「もっと生きたい」より「飼い主のもとに帰りたい」だろう。檻のボードに殴り書かれた「放棄」の文字が職員さんの遣る方なさを伝える。私も保健所に収容された犬を見て感じていた。白内障や半身麻痺など、老いて遠くまで歩けないはずなのに迷子?と。彼らは重い疾患や介護が負担だからと、故意に捨てられたのだ。悩む飼い主や犬たちの受け皿は必要。だがしかし。
職員さんの言葉『現時点で、迷子になっている子を一刻も早く家に帰すのに、一番、役立つのは、電話番号が入った迷子札だと私は思いますね。電話番号がわかれば、その子を発見した人が直接、携帯で飼い主に連絡することができるからです』。
読了日:12月17日 著者:児玉 小枝
自分の時間を取り戻そう―――ゆとりも成功も手に入れられるたった1つの考え方の感想
生産性向上について。近頃よく聞くトレンドワードだ。企業など組織では、より短い時間、より限られた資源で効果を上げる変革を指す。しかし今まで生産性を理解しづらかったのは、個人にとっての生産性向上が多様な意味を含むからだった。まず自分が欲しいものを把握できている必要があって、それを手に入れるための効率化は単なる時間の無機的合理化だけではない。手に入れたいものが違えば「生産性の高い方法」は違うということ。それが理解できると、自分が取捨選択してきた事の意味が色々見えてきた。まだまだ研ぎ澄ます余地はありそう。考えろ。
読了日:12月17日 著者:ちきりん
屍人荘の殺人 (創元推理文庫)の感想
久しぶりにはまれた本格ミステリ。本格から新本格を経て、新しい時代の本格へ。あとがきの有栖氏のテンションの高さににんまりした。見取り図、クローズドサークルに若者たち、それにゾンビ。ゾンビという設定の奇抜さよりも、主人公の言うとおり「どこまでがありえることなのか判断がつけられない」ことによる不安定感が楽しい。それでも崩れぬ本格感も頼もしく。『舞い戻ってきたホームズを、ワトソンの手で再び崖下に突き落とすなんて』。なんて切なくドラマチックな台詞! この一言のためにたくさんの設定が成されたと聞いても意外じゃないよ。
読了日:12月16日 著者:今村 昌弘
猫のエルはの感想
詩にしろ童話にしろ、珍しい表現形式でも町田節は健在。エルを詠った詩も哀歓に満ちて好きだが、なにより「ココア」が再録されているのが嬉しい。猫特有の、いや、ココア特有の眼差しが、町田さんの最大の愛情をもって描かれ、町田さんとココアの視線が合ったこの一瞬を永遠と呼びたい。その後、ココアは笹蒲鉾を差し出すのだ。ヒグチユウコさんのイラストは猫好きにはたまらん柔らかさに満ちているけれど、この一瞬だけは、脳裏に刻まれたココアの眼差しを至高としたい。猫の、命の、日本に溢れる哀しみを知ってしまった優しい人にお勧めします。
読了日:12月13日 著者:町田 康
神に頼って走れ! 自転車爆走日本南下旅日記 (集英社文庫)の感想
高野さん、波照間島まで自転車で旅をする。んで、行く処行く処でなんにでも祈る。インドへ再入国できるように。あと、自分が大阪に偏見を抱いていないようにとか、煩悩を減らしてくれるようにとか祈る。高野さんには探検がらみの、並外れた知人がたくさんいる。田舎や辺鄙な山奥に住んで、住みたいと環境とやりたいこととを合わせて、環境活動のNGOやネイチャーガイドを生業にしている。探検部出身というと、クレイジージャーニー的な放浪する生き方を想像するけれど、彼らの生き方もやはり探検部にいたからやれたことの延長で、素敵だと思う。
読了日:12月12日 著者:高野 秀行
交通誘導員ヨレヨレ日記――当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちますの感想
交通誘導警備員という仕事も、世間において見下される種類の仕事だ。人手不足から誰でもなれるが、技量と世間知が必須な職人の世界。しかしよくやって当たり前、ミスをすれば怒鳴られるという理不尽な世界でもある。建通新聞でも記事になっていたが、会社勤めを定年で終えた後に警備員稼業を始めて、心折れる人が後を絶たないという。暑いし寒いしトイレに行けないし矢面に立たされるし、こんな仕事をにこやかに続けられる人って、もはや涅槃の境地じゃなかろうか。そのような警備員に出会ったら僥倖と思って、笑顔で「ご苦労様です」を言っとこう。
個人的には運転中に車線変更や待機などの「ご協力」を求められてむっとした態度をとりがちだったり、会社として警備を頼むときも無駄な出費をできるだけ控えたいと思ったり、警備員さんに優しい気持ちを持ち合わせてないことは認める。考えてみれば、警備員稼業をしている人の話を身近に聞くことなんて滅多にないからね。そういう意味で、この著者が魅力ある文章を書ける人であったことは、警備員の世界を一般人に知らしめられてよかったのだ。
読了日:12月07日 著者:柏耕一
生き物の死にざまの感想
生物は生まれ、繁殖し、死ぬ。生死の意味や意義を考え迷うのは、たぶん人間だけだ。本来、生死に感傷などない。生命体にとっては生きていることも死ぬことさえも生きる甲斐だ。「死」は生命体進化のための発明品で、その途轍もなく大きな流れから見るなら、人間が考え迷い、また畏れ悲しみ、また長寿を願うのも、新たな変化への過程なのだろうか。生物はそれぞれ、あの手この手で効率よく繁栄する方法を編み出す。あまりに突飛な様に面食らうものもある。他の種を絶滅させる人間を皮肉に思うでも、あり得なさを面白がるでも、いろいろに読める本だ。
読了日:12月03日 著者:稲垣 栄洋
新聞記者 (角川新書)の感想
『きちんとした回答をいただけていると思わないので、繰り返し聞いています』。今話題の東京新聞社会部望月記者。帯に『「質問できる記者」はなぜ生まれたのか』とあるが、この表現は"全くあたらない"。ごく普通の就活を経て社会部配属となり、経験を積み先輩にしごかれながら記者魂が磨かれ、真実の追及に日々猛進する。それは新聞記者として当然ではないのか。取材相手に聞くべきことを質問できないほうがジャーナリストとしておかしいだろう。なぜ望月記者が叩かれなければならないのか。望月記者の姿勢も取り組み方も真っ当だ。応援している。
読了日:12月01日 著者:望月 衣塑子
注:
はKindleで読んだ本。
終始ばたばたで、疲れと欲求不満ばかり残る結果となりました。
「眠い」と宣言して寝室にこもり、こっそり布団の中で本を読む。
子供の頃よくやっていたようなことをしました。
でも、邪魔されないことの幸せったらなかったなぁ。
<今月のデータ>
購入19冊、購入費用21,643円。
読了13冊。
積読本198冊(うちKindle本81冊)。

12月の読書メーター
読んだ本の数:13

積読本が200冊を突破しそうな今年の読み納め。蔵書が数千数万を数える蔵書家の人々の逸話を読むと、わずか数百冊は取るに足らぬと知る。私は読むことの愉悦は覚えたつもりだが、どこまでも常識的な読書人のひよこである。曰く『自分の書棚には、時に応じて、自在にページをひるがえすことができる本が、五、六百冊もあれば十分、その内訳が少しずつ変わってゆく』のが完全な読書人とあった。そして『三度、四度と読み返せる本を一冊でも多く持っている人が真の読書家』とも。取っておく本は実家に送り溜めてある。今年は本棚を新調耐震化したい。
著者は蔵書を手放すのに"一人古本市"を催した体験を書いている。一箱古本市に並んだ本はすべて、私の身体を通ったものたち。そしてそれが人前に並べられて、金銭と引き換えに他人の手に渡っていくのは不思議な感じであったと書いている。一箱古本市の店主をしているとなにやら面映ゆいのはそういうことなんだろうかと、興味深かった。
読了日:12月31日 著者:岡崎 武志


不思議な組み合わせに興味をそそられた。一度会っただけの間柄らしき二人による往復書簡形式のエッセイ。往復書簡なので末尾には相手への投げかけや問いかけが置かれていたりするが、それは踏んだりあえて踏まえなかったりと行儀よく緩く連鎖していくので、深いことを言っているが深まっていくのとは違う。二人とも体感や言葉尻に敏感なところが似ている。しかし、理不尽なそれに対して又吉は困惑しそっと身を引くのに対し、武田氏は噛み付く印象がある。その様相はこの装丁のよう、と上手いこと締めたいが、もっともんやりした読後感と評しておく。
読了日:12月29日 著者:又吉直樹,武田砂鉄

海を泳ぐ姿や野を駆ける姿を見ると、その生命力に畏敬の念さえ覚える。しかし里山近くや島の住人にとっては、集落を消しかねない脅威なのだ。猪の餌は冬にドングリ、春にタケノコ。その間を埋めるのが島特産の柑橘類と聞いて瀬戸内海に猪が増えた理由が腑に落ちた。1990年代に柑橘類の輸入が自由化された辺りから島の猪は増えたのだ。それから30年。山に入る人は更に減り、猪は街にも現れ、被害は拡大している。正直、国民が減ると確定した日本で、人間の力だけで対応するのは限界じゃないか。放棄された田畑に牛を放牧するアイデアは好いね。
野生動物の駆除か保護か。この問題は経済問題を抜きに語れない。ジビエという言葉が由来するフランスには、狩猟と食肉加工ビジネスと野生動物保護が、森林管理や獣害補償も含めて総合的にバランスを取ろうとする仕組みがあるそうだ。生命観ほか、相違はあろうが、獣肉を食べる美食面だけでなく、その考え方をも輸入して国策として検討してほしいと思う。山から撤退するにしても猪に「背中を向けて逃げる」のか「顔を合わせたまま後ずさる」のかという10年以上前の問いには、未だ答えが出ていない。『21世紀の日本は、獣害の世紀になりますよ』。
ちなみに『イノシシが海を泳ぎ渡るのはもう、瀬戸内海の常識と覚悟をした方がいい』という警告は現実のものとなりました。
読了日:12月24日 著者:


夫の茶碗の縁を欠いてしまって、気に入りだっただけに気落ちも大きい。正月休みもあることだし、金継ぎをしてみようと思い立った。金継ぎ初心者セットがインターネットで売られる時代である。取り掛かる前にそもそも金継ぎとはなんぞやと眺めてみた。欠けたもの。割れたもの。ひびのいったもの。漆に様々なものを混ぜながら工程を経て美しく仕上げる。かすがい継ぎや呼び継ぎのような味わいあるものもあれば、ガラス継ぎに至ってはなぜそこまでして直すかと思ってしまう。実用と風雅のあわいの世界、奥深い。合成樹脂ではなく、漆でがんばってみる。
読了日:12月23日 著者:堀道広

インターネット記事で知った本。香川県など地方には雑種犬があふれ返っているが、都会の譲渡会では珍しがられ人気があると聞いたことがある。さて、ギーは熊本県で野良犬として育ち、1歳くらいになって東京の譲渡会に出たというから、筋金入りの野良っぷりだっただろう。逸走もせず、人や犬に噛みつきもせず、彼女のペースで人間との暮らしに慣れていく様子が描かれている。写実性の高くない絵なのに、ギーの表情の変化がなんかわかる気がする。オリジナリティ極まる"フセ"のエピソードが紹介されているように、雑種は個性がわかりやすいのかも。
読了日:12月20日 著者:おおが きなこ

児玉さんは見たままを伝える。飼い主に捨てられた老犬たちが檻の中で、環境の変化に混乱し、飼い主の不在を不審に思い、悲しみ、吠える。痴呆も入っていれば大きい声で鳴くだろう。それは「もっと生きたい」より「飼い主のもとに帰りたい」だろう。檻のボードに殴り書かれた「放棄」の文字が職員さんの遣る方なさを伝える。私も保健所に収容された犬を見て感じていた。白内障や半身麻痺など、老いて遠くまで歩けないはずなのに迷子?と。彼らは重い疾患や介護が負担だからと、故意に捨てられたのだ。悩む飼い主や犬たちの受け皿は必要。だがしかし。
職員さんの言葉『現時点で、迷子になっている子を一刻も早く家に帰すのに、一番、役立つのは、電話番号が入った迷子札だと私は思いますね。電話番号がわかれば、その子を発見した人が直接、携帯で飼い主に連絡することができるからです』。
読了日:12月17日 著者:児玉 小枝

生産性向上について。近頃よく聞くトレンドワードだ。企業など組織では、より短い時間、より限られた資源で効果を上げる変革を指す。しかし今まで生産性を理解しづらかったのは、個人にとっての生産性向上が多様な意味を含むからだった。まず自分が欲しいものを把握できている必要があって、それを手に入れるための効率化は単なる時間の無機的合理化だけではない。手に入れたいものが違えば「生産性の高い方法」は違うということ。それが理解できると、自分が取捨選択してきた事の意味が色々見えてきた。まだまだ研ぎ澄ます余地はありそう。考えろ。
読了日:12月17日 著者:ちきりん


久しぶりにはまれた本格ミステリ。本格から新本格を経て、新しい時代の本格へ。あとがきの有栖氏のテンションの高さににんまりした。見取り図、クローズドサークルに若者たち、それにゾンビ。ゾンビという設定の奇抜さよりも、主人公の言うとおり「どこまでがありえることなのか判断がつけられない」ことによる不安定感が楽しい。それでも崩れぬ本格感も頼もしく。『舞い戻ってきたホームズを、ワトソンの手で再び崖下に突き落とすなんて』。なんて切なくドラマチックな台詞! この一言のためにたくさんの設定が成されたと聞いても意外じゃないよ。
読了日:12月16日 著者:今村 昌弘

詩にしろ童話にしろ、珍しい表現形式でも町田節は健在。エルを詠った詩も哀歓に満ちて好きだが、なにより「ココア」が再録されているのが嬉しい。猫特有の、いや、ココア特有の眼差しが、町田さんの最大の愛情をもって描かれ、町田さんとココアの視線が合ったこの一瞬を永遠と呼びたい。その後、ココアは笹蒲鉾を差し出すのだ。ヒグチユウコさんのイラストは猫好きにはたまらん柔らかさに満ちているけれど、この一瞬だけは、脳裏に刻まれたココアの眼差しを至高としたい。猫の、命の、日本に溢れる哀しみを知ってしまった優しい人にお勧めします。
読了日:12月13日 著者:町田 康

高野さん、波照間島まで自転車で旅をする。んで、行く処行く処でなんにでも祈る。インドへ再入国できるように。あと、自分が大阪に偏見を抱いていないようにとか、煩悩を減らしてくれるようにとか祈る。高野さんには探検がらみの、並外れた知人がたくさんいる。田舎や辺鄙な山奥に住んで、住みたいと環境とやりたいこととを合わせて、環境活動のNGOやネイチャーガイドを生業にしている。探検部出身というと、クレイジージャーニー的な放浪する生き方を想像するけれど、彼らの生き方もやはり探検部にいたからやれたことの延長で、素敵だと思う。
読了日:12月12日 著者:高野 秀行


交通誘導警備員という仕事も、世間において見下される種類の仕事だ。人手不足から誰でもなれるが、技量と世間知が必須な職人の世界。しかしよくやって当たり前、ミスをすれば怒鳴られるという理不尽な世界でもある。建通新聞でも記事になっていたが、会社勤めを定年で終えた後に警備員稼業を始めて、心折れる人が後を絶たないという。暑いし寒いしトイレに行けないし矢面に立たされるし、こんな仕事をにこやかに続けられる人って、もはや涅槃の境地じゃなかろうか。そのような警備員に出会ったら僥倖と思って、笑顔で「ご苦労様です」を言っとこう。
個人的には運転中に車線変更や待機などの「ご協力」を求められてむっとした態度をとりがちだったり、会社として警備を頼むときも無駄な出費をできるだけ控えたいと思ったり、警備員さんに優しい気持ちを持ち合わせてないことは認める。考えてみれば、警備員稼業をしている人の話を身近に聞くことなんて滅多にないからね。そういう意味で、この著者が魅力ある文章を書ける人であったことは、警備員の世界を一般人に知らしめられてよかったのだ。
読了日:12月07日 著者:柏耕一


生物は生まれ、繁殖し、死ぬ。生死の意味や意義を考え迷うのは、たぶん人間だけだ。本来、生死に感傷などない。生命体にとっては生きていることも死ぬことさえも生きる甲斐だ。「死」は生命体進化のための発明品で、その途轍もなく大きな流れから見るなら、人間が考え迷い、また畏れ悲しみ、また長寿を願うのも、新たな変化への過程なのだろうか。生物はそれぞれ、あの手この手で効率よく繁栄する方法を編み出す。あまりに突飛な様に面食らうものもある。他の種を絶滅させる人間を皮肉に思うでも、あり得なさを面白がるでも、いろいろに読める本だ。
読了日:12月03日 著者:稲垣 栄洋

『きちんとした回答をいただけていると思わないので、繰り返し聞いています』。今話題の東京新聞社会部望月記者。帯に『「質問できる記者」はなぜ生まれたのか』とあるが、この表現は"全くあたらない"。ごく普通の就活を経て社会部配属となり、経験を積み先輩にしごかれながら記者魂が磨かれ、真実の追及に日々猛進する。それは新聞記者として当然ではないのか。取材相手に聞くべきことを質問できないほうがジャーナリストとしておかしいだろう。なぜ望月記者が叩かれなければならないのか。望月記者の姿勢も取り組み方も真っ当だ。応援している。
読了日:12月01日 著者:望月 衣塑子
注:

Posted by nekoneko at 17:18│Comments(0)
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