2023年03月01日
2023年2月の記録
久しぶりに読んだ本が買った本を上回る。
それは端的に言って、AmazonのKindle本セールが刺さらないからである。
気になって古本屋から取り寄せる本は増えている気配。
<今月のデータ>
購入10冊、購入費用11,825円。
読了15冊。
積読本329冊(うちKindle本155冊、Honto本3冊)。

2月の読書メーター
読んだ本の数:15
なんで家族を続けるの? (文春新書 1303)の感想
内田也哉子が中野信子にさまざま尋ねる対談。彼女の抱えてきたわだかまりは融けただろうか。中野信子も内田也哉子も特殊な家庭に育ったという自認があった。それは確実に「新しい家族を持つ」ときに影響した訳で、そこに関心を持つ私もまた自分の育った家庭を普通でないと思ってきた。中野信子の回答は端的だ。生物学的にまた脳科学的に見て、家族は何でもありで普通なんて無い。内田也哉子がほっとする気配が感じ取れて、こちらも緩む。本木雅弘も中野信子も姓を変えることに抵抗が無かった話から、自分を薄情だと自責しなくてよいのだと思えた。
読了日:02月28日 著者:内田 也哉子,中野 信子
人類の星の時間の感想
素晴らしい著作である。若い頃に読む機会と意欲に恵まれていれば人生の糧になったはずだ。歴史小説集という。ヨーロッパ中心にもかかわらず胸に重たく感じるのは、この選ばれた瞬間の多くが西洋人のみならず、極東の私にも人間の来し方として大きな転換点だったと感じられるからだ。凝縮された一瞬。それが他民族への虐殺と略奪であっても、金儲けや自尊心の為であっても、確かに煌めく。ツヴァイクがオーストリア人であると知ればロシアが3篇入っているのも納得だ。ドストエフスキーとトルストイのが好き。計り知れぬ哀しみ、これもまた煌めく。
読了日:02月27日 著者:シュテファン・ツヴァイク
園芸家の一年 (平凡社ライブラリー)の感想
耕作すなわち文化。植物に飼いならされる人間の悲喜こもごもをユーモア満載で綴っている。当時は紳士が嗜む趣味であったようで、なるほど傍から見れば理解しがたい、滑稽ですらあろう姿だが、若い時分には解さない深い深い哲学が庭仕事にはあるからなのだ。そして『わたしたち園芸家は、未来に対して生きている』と断言する。花を植える瞬間はその花が咲いた姿を想うだろう。木を植える瞬間はその木が大きくなった10年後を、さらには見ることの叶わぬ50年後をも想うだろう。いつか自分の庭を得て、体感でわかるようになったら、また読みたい。
訳者あとがきに知った背景は覚えておきたい。チャペックはチェコ人である。この文章が連載された頃、ナチスドイツによる弾圧は既にチェコに及んでいた。兄ヨゼフは逮捕され、強制収容所で亡くなった。カレルはその直前に家で亡くなり、ナチの手を逃れている。そのような時世に、この平和で、笑いに満ちて、何気ない暮らしへの愛溢れる文章が書かれたのだ。それはチャペック兄弟が何を大切に思っていたかを、如実に表していると思った。そしたらその瞬間、とても深い思いが隠されたエッセイだったのだと悟って目が潤んでしまった。
読了日:02月25日 著者:カレル チャペック
お金に頼らず 生きたい君へ: 廃村「自力」生活記 (14歳の世渡り術)の感想
14歳の世渡り術というお題は半ばから踏み倒し、小蕗暮らし近況報告に突入していく。"エネルギーだだ漏れ生活"を脱却して、お金にも文明にも頼らない生活を実現すべく服部文祥は廃村の家と土地を手に入れた。電気、水、燃料を自力でなんとかする暮らし。食料は猟をし、野菜を植え、春を心待ちにする。手あたり次第に木の苗を植えて試せる土地の広大さが羨ましすぎる。服部文祥への私の恋心は差し引いても、胸が疼いた理由。そのキーワードは、桃源郷。人それぞれに違う、その理想郷を実現する一歩を踏み出した、その喜びが溢れているからだ。
人間がいる/いない、獣がいる/いないで村の自然の在りようが違ってくるあたりの観察が興味深い。獣に野菜や果樹の苗や芽を喰われては、労力と金と時間の喪失にがっかりしている。春は限られた回数しかその人に巡ってこない事実を想う。狩猟のときには決して言わなかった『鹿が憎い』にドキリとする。雌鹿を独りで仕留めた、愛すべきナツ(フィクションです)。面倒くさいと口では言いながら、服部文祥は溺愛していると感じる。久保俊治氏の猟犬フチを思い出した。女神だ。ナツの性別は知らんけど。
読了日:02月23日 著者:服部 文祥
教養悪口本の感想
自称専業インテリ悪口作家。ジアタマのいい人の戯言って面白いな。それもこれくらいの分量に留めるからこそ。理系ながら文学のたしなみもあるので深みはそこそこでも幅広くて面白い。ってこれ悪口じゃありませんよ。プロールの餌もんやとか、あいつはラフレシアとか、毒舌っぽくない超毒舌が好き。すぐ使いたい。ああ、でも、自虐にこそ使いたいな。「重さがマイナス」とか言い出しかねない性格だし、車輪の再発明気質だし、スタックオーバーフローです!とか アセトアルデヒドふざけんな!とか、ユーモアで自分を許すってのも大事じゃね? 好い。
読了日:02月17日 著者:堀元 見
サステイナブルに家を建てるの感想
家を建てる行為には、金銭面の制限と庶民的願望と環境負荷との板挟みで悩むプロセスがつきものだろう。環境に負荷をかけずに生きられない人間としては、設計士さんの一言が慰めではある。『自分のためだけでなく、次の住まい手のことまで考えて、日本に良質な家をひとつ増やしましょう』。自分の納得がゆく選択を重ねた先に、晴れやかな生活が待っている。現実に考えうる範囲で、自分たちの性格も考慮して、環境に掛ける負荷をできるだけ下げた家だと思う。分譲地を買い、ハウスメーカーの設定した枠の中で選択を重ねるのとは全然違うのだろうな。
読了日:02月16日 著者:服部雄一郎,服部麻子
鳥・虫・草木と楽しむ オーガニック植木屋の剪定術の感想
通りすがりに見る他所様の庭は、本職が剪定したようなものもあれば、自分でしていた剪定が歳取ってできなくなって巨木伸び放題になったようなものもある。今の私に手入れすべき庭はないけれど、自分で何とかできるような、心安らぐような、そんな庭ができたらと妄想する。曳地家メソッド本3冊目。好きなのだ。本書は木の維持管理を主に置いたもの。木が伸びるポテンシャルと、枝ぶり、樹形ごとにまとめられている。人間が見て気持ちのよい、木にとっても心地よい状態というのがあるのだな。全然かわいそうじゃない。「玉散らし」の呼び名を覚えた。
読了日:02月12日 著者:ひきちガーデンサービス(曳地トシ+曳地義治)
(003)畳 (百年文庫)の感想
私の畳生活への憧れはどこから来るんかなあ、と手に取った。しかしどの小説も、畳に明らかな焦点が当たることはなく、役割も存在感も無いに等しい。3篇目などむしろ「窓」なのだが、読み終えると、思い描く場面は畳の部屋でしかありえない、畳の上で展開した出来事であったと思い当たる。日本人の生活の匂い、なのだろう。『軍国歌謡集』が面白い。男は幻想を抱き、女も幻想も抱く。それは相似形でありながら、か弱いはずの女の心情の転換は素早く、強靭で、さらに勇敢だ。それ故に見事に粉砕される男たちの様子が小気味良くすらある、見事な構成。
読了日:02月12日 著者:林芙美子,獅子文六,山川方夫
無農薬で安心・ラクラク はじめての手づくりオーガニック・ガーデン (PHPビジュアル実用BOOKS)の感想
庭全体をバランスよく妄想できるのはこちら。好き。広い庭も狭い庭も、樹木、草花、アプローチ、水場、作業場所、雨水タンクまでいろんなパターンが細かく載っていて、シンボルツリーやその根元、壁際、半日蔭にはシランが素敵など妄想が広がる。木は冬に実のなるものを植えよう。ちなみに特に何も植えない場所、日陰にはドクダミ、日向にはシロツメクサの種をぶちまけることになっている。その土地に合うか合わないかは植えてみるしかないのね。人間だけの時間とは違う、うーんと伸ばしたような時間軸を楽しみたい。コンポストも曳地式がラクそう。
読了日:02月12日 著者:曳地 トシ,曳地 義治
猫と住まいの解剖図鑑の感想
住まいを考えるとき、人間が困ることを猫にさせないつくりというものがある。猫に物事を禁止しても聴いてもらえないのだから、配置や素材など、人と猫の双方に無理のない妥協点を見出すのがお互いの為だと思うが、それを猫の要望ばかりを容れて俺は我慢かと態度を硬化されては困り果てる。ひいては人間の為だからと穏やかに説明を重ねながら、水を差さないように少しずつ修正を差し入れていくしかないのだろう。精神的に疲れる。そして大手は融通が効かない。助言をくれる専門家が猫エキスパートであったなら、どれだけ楽なことか。繰り返し見返す。
読了日:02月11日 著者:いしまるあきこ
運動未満で体はととのうの感想
呼吸と重心。ここのところ忙しく、目と脳を絶え間なく朝から晩まで働かせるような日々を続けていたら、自分の身体を感じ取れなくなっていた。すっと立つことができなくて、中国武術の時間は目を閉じないと、脳みそで体を動かそうとしてしまう。呼吸と重心。ほんとうのことはシンプルだ。だからこそ効くのだけれど、現代のややこしげな"理論"にインパクト負けしがち。こんな整骨院&ジムが近くにあったら通うのになあ。舌トレーニングはこっそりやる。この動作は中国武術にもあるが、なかなか自分のものにできない。小顔効果もあるとか!
読了日:02月10日 著者:長島康之
死ぬ気まんまん (光文社文庫)の感想
癌再発の告知を受けた足でジャガーを買ったのは有名な話。命も金も惜しまず暮らして、なのに宣告された余命2年を過ぎて周囲に愛想を尽かされたりする。70歳は死ぬのにちょうど良い、生き延びると困ると公言し、ホスピスに入院して14日で自ら退院してしまったりする。骨にも転移して砕けそうな痛みがあるのに。どどめ色になってしまったのに。私は自然の摂理として緩慢な死は受け入れられると思っている。でも、どどめ色は怖いな。私も立派に死ねるだろうか。洋子さんがホスピスから見たゴッホの夕陽を、私も見られるだろうか。対談がよい。
読了日:02月09日 著者:佐野 洋子
生きのびるための流域思考 (ちくまプリマー新書)の感想
水害を防ぐための方策は、排水機能強化やハザードマップ作成に限らず多岐にわたる。人の生活を守る取り組みは奥深い。さて、市街地化が進むと土地の保水・遊水力は低下する。その変化がハイドログラフに歴然と現れており、すなわちそれは豪雨災害の激甚化を意味する。温暖化による雨量の増加も考え合わせると、ますます事態は悪化すると予想される。治水(国土交通省)だけではない、環境保全(環境省)や農地保全(農林水産省)、森林保全(林野庁)も横断したグリーンインフラの構築が喫緊である。道筋はここに示された。あとはやるだけ。
読了日:02月08日 著者:岸 由二
九尾の猫〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)の感想
読む順番を違えているのはわかっていたのだけれど。前巻で生じた何かをエラリイは引きずっている。新たにニューヨークで起きた事件に首を突っ込むのを躊躇ったのもつかの間、俄然やる気になったエラリイに警視共々快哉を叫ぶ。ニューヨークにはライツヴィルに無いものがある。ニューヨーク市民による群舞、恐怖、混乱、妄動、からの暴動。警察が事件を解決しない限り理不尽な恐怖に向き合うしかない、都会の不穏な空気がなんとも言えない。手がかりを得てからの焦点を絞った心理戦パート、精神の迷宮パートと、がらりがらりと転換する趣向も魅力だ。
読了日:02月04日 著者:エラリイ・クイーン
医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者の感想
医療における医者と患者のやりとりのうまくいかない部分を、行動経済学の側面から分析する。患者は必ずしも医学的に望ましいと思える意思決定をしない。そりゃそうだ。命もかかりお金もかかり、しかもたいてい不意打ちだ。これまで言われてきたインフォームドコンセントの不全を補完する次段階の考え方として、シェアード・ディシジョン・メーキングが出てきた。そこに"ナッジ"することで齟齬や歪みの少ない決断を導く方法が試行錯誤されている。一方、意思決定が合理的でないのは医療者側も同じ。読んでいて息苦しい理由は、深く考えたくない。
読了日:02月02日 著者:大竹 文雄,平井 啓
注:
は電子書籍で読んだ本。
それは端的に言って、AmazonのKindle本セールが刺さらないからである。
気になって古本屋から取り寄せる本は増えている気配。
<今月のデータ>
購入10冊、購入費用11,825円。
読了15冊。
積読本329冊(うちKindle本155冊、Honto本3冊)。

2月の読書メーター
読んだ本の数:15

内田也哉子が中野信子にさまざま尋ねる対談。彼女の抱えてきたわだかまりは融けただろうか。中野信子も内田也哉子も特殊な家庭に育ったという自認があった。それは確実に「新しい家族を持つ」ときに影響した訳で、そこに関心を持つ私もまた自分の育った家庭を普通でないと思ってきた。中野信子の回答は端的だ。生物学的にまた脳科学的に見て、家族は何でもありで普通なんて無い。内田也哉子がほっとする気配が感じ取れて、こちらも緩む。本木雅弘も中野信子も姓を変えることに抵抗が無かった話から、自分を薄情だと自責しなくてよいのだと思えた。
読了日:02月28日 著者:内田 也哉子,中野 信子


素晴らしい著作である。若い頃に読む機会と意欲に恵まれていれば人生の糧になったはずだ。歴史小説集という。ヨーロッパ中心にもかかわらず胸に重たく感じるのは、この選ばれた瞬間の多くが西洋人のみならず、極東の私にも人間の来し方として大きな転換点だったと感じられるからだ。凝縮された一瞬。それが他民族への虐殺と略奪であっても、金儲けや自尊心の為であっても、確かに煌めく。ツヴァイクがオーストリア人であると知ればロシアが3篇入っているのも納得だ。ドストエフスキーとトルストイのが好き。計り知れぬ哀しみ、これもまた煌めく。
読了日:02月27日 著者:シュテファン・ツヴァイク


耕作すなわち文化。植物に飼いならされる人間の悲喜こもごもをユーモア満載で綴っている。当時は紳士が嗜む趣味であったようで、なるほど傍から見れば理解しがたい、滑稽ですらあろう姿だが、若い時分には解さない深い深い哲学が庭仕事にはあるからなのだ。そして『わたしたち園芸家は、未来に対して生きている』と断言する。花を植える瞬間はその花が咲いた姿を想うだろう。木を植える瞬間はその木が大きくなった10年後を、さらには見ることの叶わぬ50年後をも想うだろう。いつか自分の庭を得て、体感でわかるようになったら、また読みたい。
訳者あとがきに知った背景は覚えておきたい。チャペックはチェコ人である。この文章が連載された頃、ナチスドイツによる弾圧は既にチェコに及んでいた。兄ヨゼフは逮捕され、強制収容所で亡くなった。カレルはその直前に家で亡くなり、ナチの手を逃れている。そのような時世に、この平和で、笑いに満ちて、何気ない暮らしへの愛溢れる文章が書かれたのだ。それはチャペック兄弟が何を大切に思っていたかを、如実に表していると思った。そしたらその瞬間、とても深い思いが隠されたエッセイだったのだと悟って目が潤んでしまった。
読了日:02月25日 著者:カレル チャペック


14歳の世渡り術というお題は半ばから踏み倒し、小蕗暮らし近況報告に突入していく。"エネルギーだだ漏れ生活"を脱却して、お金にも文明にも頼らない生活を実現すべく服部文祥は廃村の家と土地を手に入れた。電気、水、燃料を自力でなんとかする暮らし。食料は猟をし、野菜を植え、春を心待ちにする。手あたり次第に木の苗を植えて試せる土地の広大さが羨ましすぎる。服部文祥への私の恋心は差し引いても、胸が疼いた理由。そのキーワードは、桃源郷。人それぞれに違う、その理想郷を実現する一歩を踏み出した、その喜びが溢れているからだ。
人間がいる/いない、獣がいる/いないで村の自然の在りようが違ってくるあたりの観察が興味深い。獣に野菜や果樹の苗や芽を喰われては、労力と金と時間の喪失にがっかりしている。春は限られた回数しかその人に巡ってこない事実を想う。狩猟のときには決して言わなかった『鹿が憎い』にドキリとする。雌鹿を独りで仕留めた、愛すべきナツ(フィクションです)。面倒くさいと口では言いながら、服部文祥は溺愛していると感じる。久保俊治氏の猟犬フチを思い出した。女神だ。ナツの性別は知らんけど。
読了日:02月23日 著者:服部 文祥

自称専業インテリ悪口作家。ジアタマのいい人の戯言って面白いな。それもこれくらいの分量に留めるからこそ。理系ながら文学のたしなみもあるので深みはそこそこでも幅広くて面白い。ってこれ悪口じゃありませんよ。プロールの餌もんやとか、あいつはラフレシアとか、毒舌っぽくない超毒舌が好き。すぐ使いたい。ああ、でも、自虐にこそ使いたいな。「重さがマイナス」とか言い出しかねない性格だし、車輪の再発明気質だし、スタックオーバーフローです!とか アセトアルデヒドふざけんな!とか、ユーモアで自分を許すってのも大事じゃね? 好い。
読了日:02月17日 著者:堀元 見


家を建てる行為には、金銭面の制限と庶民的願望と環境負荷との板挟みで悩むプロセスがつきものだろう。環境に負荷をかけずに生きられない人間としては、設計士さんの一言が慰めではある。『自分のためだけでなく、次の住まい手のことまで考えて、日本に良質な家をひとつ増やしましょう』。自分の納得がゆく選択を重ねた先に、晴れやかな生活が待っている。現実に考えうる範囲で、自分たちの性格も考慮して、環境に掛ける負荷をできるだけ下げた家だと思う。分譲地を買い、ハウスメーカーの設定した枠の中で選択を重ねるのとは全然違うのだろうな。
読了日:02月16日 著者:服部雄一郎,服部麻子


通りすがりに見る他所様の庭は、本職が剪定したようなものもあれば、自分でしていた剪定が歳取ってできなくなって巨木伸び放題になったようなものもある。今の私に手入れすべき庭はないけれど、自分で何とかできるような、心安らぐような、そんな庭ができたらと妄想する。曳地家メソッド本3冊目。好きなのだ。本書は木の維持管理を主に置いたもの。木が伸びるポテンシャルと、枝ぶり、樹形ごとにまとめられている。人間が見て気持ちのよい、木にとっても心地よい状態というのがあるのだな。全然かわいそうじゃない。「玉散らし」の呼び名を覚えた。
読了日:02月12日 著者:ひきちガーデンサービス(曳地トシ+曳地義治)

私の畳生活への憧れはどこから来るんかなあ、と手に取った。しかしどの小説も、畳に明らかな焦点が当たることはなく、役割も存在感も無いに等しい。3篇目などむしろ「窓」なのだが、読み終えると、思い描く場面は畳の部屋でしかありえない、畳の上で展開した出来事であったと思い当たる。日本人の生活の匂い、なのだろう。『軍国歌謡集』が面白い。男は幻想を抱き、女も幻想も抱く。それは相似形でありながら、か弱いはずの女の心情の転換は素早く、強靭で、さらに勇敢だ。それ故に見事に粉砕される男たちの様子が小気味良くすらある、見事な構成。
読了日:02月12日 著者:林芙美子,獅子文六,山川方夫

庭全体をバランスよく妄想できるのはこちら。好き。広い庭も狭い庭も、樹木、草花、アプローチ、水場、作業場所、雨水タンクまでいろんなパターンが細かく載っていて、シンボルツリーやその根元、壁際、半日蔭にはシランが素敵など妄想が広がる。木は冬に実のなるものを植えよう。ちなみに特に何も植えない場所、日陰にはドクダミ、日向にはシロツメクサの種をぶちまけることになっている。その土地に合うか合わないかは植えてみるしかないのね。人間だけの時間とは違う、うーんと伸ばしたような時間軸を楽しみたい。コンポストも曳地式がラクそう。
読了日:02月12日 著者:曳地 トシ,曳地 義治

住まいを考えるとき、人間が困ることを猫にさせないつくりというものがある。猫に物事を禁止しても聴いてもらえないのだから、配置や素材など、人と猫の双方に無理のない妥協点を見出すのがお互いの為だと思うが、それを猫の要望ばかりを容れて俺は我慢かと態度を硬化されては困り果てる。ひいては人間の為だからと穏やかに説明を重ねながら、水を差さないように少しずつ修正を差し入れていくしかないのだろう。精神的に疲れる。そして大手は融通が効かない。助言をくれる専門家が猫エキスパートであったなら、どれだけ楽なことか。繰り返し見返す。
読了日:02月11日 著者:いしまるあきこ

呼吸と重心。ここのところ忙しく、目と脳を絶え間なく朝から晩まで働かせるような日々を続けていたら、自分の身体を感じ取れなくなっていた。すっと立つことができなくて、中国武術の時間は目を閉じないと、脳みそで体を動かそうとしてしまう。呼吸と重心。ほんとうのことはシンプルだ。だからこそ効くのだけれど、現代のややこしげな"理論"にインパクト負けしがち。こんな整骨院&ジムが近くにあったら通うのになあ。舌トレーニングはこっそりやる。この動作は中国武術にもあるが、なかなか自分のものにできない。小顔効果もあるとか!
読了日:02月10日 著者:長島康之


癌再発の告知を受けた足でジャガーを買ったのは有名な話。命も金も惜しまず暮らして、なのに宣告された余命2年を過ぎて周囲に愛想を尽かされたりする。70歳は死ぬのにちょうど良い、生き延びると困ると公言し、ホスピスに入院して14日で自ら退院してしまったりする。骨にも転移して砕けそうな痛みがあるのに。どどめ色になってしまったのに。私は自然の摂理として緩慢な死は受け入れられると思っている。でも、どどめ色は怖いな。私も立派に死ねるだろうか。洋子さんがホスピスから見たゴッホの夕陽を、私も見られるだろうか。対談がよい。
読了日:02月09日 著者:佐野 洋子


水害を防ぐための方策は、排水機能強化やハザードマップ作成に限らず多岐にわたる。人の生活を守る取り組みは奥深い。さて、市街地化が進むと土地の保水・遊水力は低下する。その変化がハイドログラフに歴然と現れており、すなわちそれは豪雨災害の激甚化を意味する。温暖化による雨量の増加も考え合わせると、ますます事態は悪化すると予想される。治水(国土交通省)だけではない、環境保全(環境省)や農地保全(農林水産省)、森林保全(林野庁)も横断したグリーンインフラの構築が喫緊である。道筋はここに示された。あとはやるだけ。
読了日:02月08日 著者:岸 由二


読む順番を違えているのはわかっていたのだけれど。前巻で生じた何かをエラリイは引きずっている。新たにニューヨークで起きた事件に首を突っ込むのを躊躇ったのもつかの間、俄然やる気になったエラリイに警視共々快哉を叫ぶ。ニューヨークにはライツヴィルに無いものがある。ニューヨーク市民による群舞、恐怖、混乱、妄動、からの暴動。警察が事件を解決しない限り理不尽な恐怖に向き合うしかない、都会の不穏な空気がなんとも言えない。手がかりを得てからの焦点を絞った心理戦パート、精神の迷宮パートと、がらりがらりと転換する趣向も魅力だ。
読了日:02月04日 著者:エラリイ・クイーン


医療における医者と患者のやりとりのうまくいかない部分を、行動経済学の側面から分析する。患者は必ずしも医学的に望ましいと思える意思決定をしない。そりゃそうだ。命もかかりお金もかかり、しかもたいてい不意打ちだ。これまで言われてきたインフォームドコンセントの不全を補完する次段階の考え方として、シェアード・ディシジョン・メーキングが出てきた。そこに"ナッジ"することで齟齬や歪みの少ない決断を導く方法が試行錯誤されている。一方、意思決定が合理的でないのは医療者側も同じ。読んでいて息苦しい理由は、深く考えたくない。
読了日:02月02日 著者:大竹 文雄,平井 啓

注:

Posted by nekoneko at 18:09│Comments(0)
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