2017年01月01日
2016年12月の記録
昨年は人生が大きく転換した年だったので、読んだ本の冊数が減るのは当然である。と結婚当初も確か書いていた。なのに、年も押し迫った12月下旬、「あと2冊は読まねば120冊読了にならぬ!」と形相を変えていたのには、我ながら苦笑いだ。
逆に言えば、1年で160冊など読めていた年が、人生でどれだけ凪の時期であったかの証左でもある。
積読本94冊(うちKindle本16冊)。

2016年12月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
グアテマラの弟 (幻冬舎文庫)の感想
はいりさん、安定のエッセイ。『背景の空も、目のさめるような、なんて生やさしい青じゃない。のどをからして叫んだような、青っ!だった』。ことば選びの感性も好き。思うに、太陽の日差しの豊富な土地に住む人は、生来の性格にかかわらず、脳天気になるんじゃないかしら。さらにはいりさんの筆にかかると、魅力のない人もものもないみたい。
読了日:12月31日 著者:片桐はいり
湿地 (創元推理文庫)の感想
アイスランド産ミステリ。アイスランドもまた北欧の高福祉国家である。偶然か、これまでに読んだ北欧ミステリと同じく、社会の闇、女性への犯罪や暴力を主題に扱っている。格好いい女性が登場するのも共通。アイスランドがスカンジナビア系の単一民族であることなど、新しく知ることは多かった。降り続く雨に象徴される陰気さの中で、家族への想いこそは一筋の光。科学はそれを損なうものであってはいけない。その光が損なわれることない社会を望む著者の描写に、太陽を振り仰ぎたくなる。事件や手がかりの展開するテンポが秀逸。
読了日:12月30日 著者:アーナルデュル・インドリダソン
「全世界史」講義 II近世・近現代編:教養に効く! 人類5000年史の感想
西暦1400年以降の世界。繁栄した国の要因を考えるとき、為政者の寛大と柔軟は印象深い。逆も真なり。いくつもの国が消えては生まれた。フランス革命により現代国家の概念が生まれ、スペイン内戦で現代の一般人を巻き込む戦争形態になるに至って、私の知る世界になる。知っている断片がぴったりと歴史の流れにはまっていくのは快感であり、私にとっての意味を生んだ。せめて大きな流れは覚えておきたいところ。スペインにはあちこちに中世以降の遺物が残り、美しさに何度もため息が出た。失われたものだから、あんなにも美しいのか。
読了日:12月29日 著者:出口治明
鍵の感想
平野氏のお薦めだったか。夫婦それぞれの日記が、「相方は読んでいないと言っているが、本当は自分の留守に読んでいるに違いなく、しかし自分は気づいていない振りをする」前提に綴られる。偏執、倒錯っぷり、全員が確信的に振る舞う描写はなんとも谷崎だった。ミステリ仕立て。
読了日:12月23日 著者:谷崎潤一郎
女王フアナ (角川文庫)の感想
なんと痛ましい。フアナは生来の癇性であったとしても、立派な風格を備えた、自立した女性だったと思う。それを裏切られ、夫や子を奪われ、力で拘束され、些細な行動も狂っていると嘲笑われたとしたら、感情を爆発させる以外にどう処し方があるというのか。そうして病を深めていった。映画化作品と聞いててっきりドラマ風かと思いきや、著者はできるだけ「無名の歴史家」の記録に沿ってフアナの人生を描いた。決して生まれながらの狂女王などではなかったとする著者の誠意に、拍手を送りたい。プラドで観た絵のフアナはきっと忘れないだろう。
読了日:12月21日 著者:ホセ・ルイスオライソラ
けもの道の歩き方 猟師が見つめる日本の自然の感想
2冊目は、猟師の暮らしから自然の在り方や国の施策を考察する。私たちが「本来の自然」と思っている森は、そもそも過渡の状態でしかない。だから「本来の姿に戻す」という考えには正体がなくて、目指すべきは森や動物との共存なのだ。しかし人間は便利を求めるし、忘れる。暮らす者の目が森のほうを向いているか、だ。また、町に住む私なぞが環境保護、生物多様性、食糧問題獣害対策と唱えてみても、著者のように『立体的に自然を把握』することは到底できない。著者はさぞ歯がゆいだろう。私も歯がゆい。自然と暮らしの断絶を修復するには如何に?
読了日:12月14日 著者:千松信也
イモトアヤコの地球7周半の感想
ネタ本というか、企画の意図は表紙のとおりの文字数の少ない本だが、日々身体を張るイモトアヤコの言葉は意外に重い。国内にくすぶっている日本人に喝を入れると言ってもいい。日本がいかに温室かが繰り返され、中でも『日本の常識が通用しないところに行ってもたくましく生きていける』、つまり危機管理能力を養えと言う。そりゃあんたは特別…と言いかける口をぐっと閉じる。世界に出る楽しさとか、人との交流の妙味とか、身に沁みて感じるのだろうな。
読了日:12月12日 著者:イモトアヤコ
冒険歌手 珍・世界最悪の旅の感想
行動の突飛さやシモの話から頓狂な人かと思いきや、『でも、私は役立たずだからできることをやらなきゃ。』と決意するなど、素直すぎる女性であることがわかる。が、どうも面倒事に引き込まれる性質だ。そうでなくとも波乱万丈の冒険旅。著者は健気に苦難を乗り越えるが、「良識」に沿わない現地人の行為には悲しく思う。金や物の為に好意や契約を裏切るのだ。おそらく、日本人の良識を彼らは持っていない。同時に、冒険家もたいがい金欠で、他者の好意に甘んじる性質を持つ。貨幣経済の論理や常識良識って、偏狭にしか通用しないんじゃないか。
読了日:12月9日 著者:峠恵子
スペイン旅行記―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)の感想
1929年のスペイン紀行文。詩的で形容詞が多いのに疲れるが、旅の高揚感とも取れる。チャペック氏はスペイン人がスペイン的であることを望み、スペイン的なものに貪欲に触れようとする。スペインはあらゆるものが『ありとあらゆるもので』装飾されているという。とても美しいという。ああ、スペインへ行きたい気持ちがいや増し増し! 曰く、人生の豊かさが民族をつくり、歴史と自然は諸民族の中で融合している…。『相違のそれぞれは、愛する価値があるからで、それは人生を何倍もゆたかにする』。salud!
読了日:12月5日 著者:カレルチャペック
腰痛探検家 (集英社文庫)の感想
腰痛持ちの探検家であり、腰痛世界を探検する者でもある。私自身が腰痛デビューしたため手に取った本だが、読むとこちらの腰までが悲鳴を上げそうな痛さ辛さを想像して身体が強張る。これは、良くない。まずは、痛みに執着しないことだから。治療は腰痛の療法の一つである。人の身体は複雑にできていて、関節や筋や心も相互関係にあり、治療は単純でない。治療方法も唯一ではなく、治療者を選び、施術を受け、その施術を信じ続けられるかまで重要になってくる。高野さんの辿り着いた腰痛論は深い。そして腰痛は治療より哲学(と行動)で治るようだ。
読了日:12月3日 著者:高野秀行
注:
はKindleで読んだ本。
逆に言えば、1年で160冊など読めていた年が、人生でどれだけ凪の時期であったかの証左でもある。
積読本94冊(うちKindle本16冊)。

2016年12月の読書メーター
読んだ本の数:10冊

はいりさん、安定のエッセイ。『背景の空も、目のさめるような、なんて生やさしい青じゃない。のどをからして叫んだような、青っ!だった』。ことば選びの感性も好き。思うに、太陽の日差しの豊富な土地に住む人は、生来の性格にかかわらず、脳天気になるんじゃないかしら。さらにはいりさんの筆にかかると、魅力のない人もものもないみたい。
読了日:12月31日 著者:片桐はいり


アイスランド産ミステリ。アイスランドもまた北欧の高福祉国家である。偶然か、これまでに読んだ北欧ミステリと同じく、社会の闇、女性への犯罪や暴力を主題に扱っている。格好いい女性が登場するのも共通。アイスランドがスカンジナビア系の単一民族であることなど、新しく知ることは多かった。降り続く雨に象徴される陰気さの中で、家族への想いこそは一筋の光。科学はそれを損なうものであってはいけない。その光が損なわれることない社会を望む著者の描写に、太陽を振り仰ぎたくなる。事件や手がかりの展開するテンポが秀逸。
読了日:12月30日 著者:アーナルデュル・インドリダソン


西暦1400年以降の世界。繁栄した国の要因を考えるとき、為政者の寛大と柔軟は印象深い。逆も真なり。いくつもの国が消えては生まれた。フランス革命により現代国家の概念が生まれ、スペイン内戦で現代の一般人を巻き込む戦争形態になるに至って、私の知る世界になる。知っている断片がぴったりと歴史の流れにはまっていくのは快感であり、私にとっての意味を生んだ。せめて大きな流れは覚えておきたいところ。スペインにはあちこちに中世以降の遺物が残り、美しさに何度もため息が出た。失われたものだから、あんなにも美しいのか。
読了日:12月29日 著者:出口治明


平野氏のお薦めだったか。夫婦それぞれの日記が、「相方は読んでいないと言っているが、本当は自分の留守に読んでいるに違いなく、しかし自分は気づいていない振りをする」前提に綴られる。偏執、倒錯っぷり、全員が確信的に振る舞う描写はなんとも谷崎だった。ミステリ仕立て。
読了日:12月23日 著者:谷崎潤一郎


なんと痛ましい。フアナは生来の癇性であったとしても、立派な風格を備えた、自立した女性だったと思う。それを裏切られ、夫や子を奪われ、力で拘束され、些細な行動も狂っていると嘲笑われたとしたら、感情を爆発させる以外にどう処し方があるというのか。そうして病を深めていった。映画化作品と聞いててっきりドラマ風かと思いきや、著者はできるだけ「無名の歴史家」の記録に沿ってフアナの人生を描いた。決して生まれながらの狂女王などではなかったとする著者の誠意に、拍手を送りたい。プラドで観た絵のフアナはきっと忘れないだろう。
読了日:12月21日 著者:ホセ・ルイスオライソラ

2冊目は、猟師の暮らしから自然の在り方や国の施策を考察する。私たちが「本来の自然」と思っている森は、そもそも過渡の状態でしかない。だから「本来の姿に戻す」という考えには正体がなくて、目指すべきは森や動物との共存なのだ。しかし人間は便利を求めるし、忘れる。暮らす者の目が森のほうを向いているか、だ。また、町に住む私なぞが環境保護、生物多様性、食糧問題獣害対策と唱えてみても、著者のように『立体的に自然を把握』することは到底できない。著者はさぞ歯がゆいだろう。私も歯がゆい。自然と暮らしの断絶を修復するには如何に?
読了日:12月14日 著者:千松信也

ネタ本というか、企画の意図は表紙のとおりの文字数の少ない本だが、日々身体を張るイモトアヤコの言葉は意外に重い。国内にくすぶっている日本人に喝を入れると言ってもいい。日本がいかに温室かが繰り返され、中でも『日本の常識が通用しないところに行ってもたくましく生きていける』、つまり危機管理能力を養えと言う。そりゃあんたは特別…と言いかける口をぐっと閉じる。世界に出る楽しさとか、人との交流の妙味とか、身に沁みて感じるのだろうな。
読了日:12月12日 著者:イモトアヤコ


行動の突飛さやシモの話から頓狂な人かと思いきや、『でも、私は役立たずだからできることをやらなきゃ。』と決意するなど、素直すぎる女性であることがわかる。が、どうも面倒事に引き込まれる性質だ。そうでなくとも波乱万丈の冒険旅。著者は健気に苦難を乗り越えるが、「良識」に沿わない現地人の行為には悲しく思う。金や物の為に好意や契約を裏切るのだ。おそらく、日本人の良識を彼らは持っていない。同時に、冒険家もたいがい金欠で、他者の好意に甘んじる性質を持つ。貨幣経済の論理や常識良識って、偏狭にしか通用しないんじゃないか。
読了日:12月9日 著者:峠恵子


1929年のスペイン紀行文。詩的で形容詞が多いのに疲れるが、旅の高揚感とも取れる。チャペック氏はスペイン人がスペイン的であることを望み、スペイン的なものに貪欲に触れようとする。スペインはあらゆるものが『ありとあらゆるもので』装飾されているという。とても美しいという。ああ、スペインへ行きたい気持ちがいや増し増し! 曰く、人生の豊かさが民族をつくり、歴史と自然は諸民族の中で融合している…。『相違のそれぞれは、愛する価値があるからで、それは人生を何倍もゆたかにする』。salud!
読了日:12月5日 著者:カレルチャペック


腰痛持ちの探検家であり、腰痛世界を探検する者でもある。私自身が腰痛デビューしたため手に取った本だが、読むとこちらの腰までが悲鳴を上げそうな痛さ辛さを想像して身体が強張る。これは、良くない。まずは、痛みに執着しないことだから。治療は腰痛の療法の一つである。人の身体は複雑にできていて、関節や筋や心も相互関係にあり、治療は単純でない。治療方法も唯一ではなく、治療者を選び、施術を受け、その施術を信じ続けられるかまで重要になってくる。高野さんの辿り着いた腰痛論は深い。そして腰痛は治療より哲学(と行動)で治るようだ。
読了日:12月3日 著者:高野秀行

注:

Posted by nekoneko at 21:43│Comments(0)
│読書