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2021年01月05日

2020年12月の記録

今年は世界の様々な現実を知り、同様に憤っている人々がおり、
それらの解決を模索する不断の試みがあることを心強く思った一年だった。

一方で、あんまり憤ってばかりでは我が身に良くないとも省みる。
来年は、それらを受け止めつつも、人間界を離れた世界の驚異に胸躍らせる読書をしたい。


<今月のデータ>
購入32冊、購入費用17,870円。
読了16冊。
積読本257冊(うちKindle本81冊、Honto本41冊)。


ブック

12月の読書メーター
読んだ本の数:16

人類堆肥化計画人類堆肥化計画感想
攻撃的な里山主義と呼ぼうか。殺気だち殴りかかるごとく、腐敗、堕落、殺害と物騒な言葉を並べ、里山に求める思想を著者は綴る。山尾三省すら感傷的な自然崇拝者と断じ、中途半端な罪悪感を糾弾する。間に挟まれた満ちて足る季節の章から、暮らしの中で得た言葉と知れる。堆肥とは人も含めて、なべて同じ土壌で育まれ育む存在の在り、行く先。自ら落伍者と称する著者は生気に満ち、既に拡がろうとしている。自らの堆肥化のみならず人類の堆肥化と題している辺り、更なる企みを感じさせる。そうか、これは檄文なのだ。挑発されてやろうじゃないか。
読了日:12月31日 著者:東 千茅

望遠ニッポン見聞録望遠ニッポン見聞録感想
ヤマザキマリの生活は若い頃から一貫して世界を転々としたもので、イタリア、ポルトガルのほか一時はエジプト、シリアにも住み、2012年時点はシカゴに住んでいたという。日々の国際的雑感をまとめたエッセイは、著作の中では最も軽い部類だろう。へええ、と思ったのは、長く海外にいて日本語が出てこなくなることはあっても、パートナーから見ればアジア人感満載であるという事実だ。公共の場でしゃがむとか、洟をすするとか、欧米ではNGなんですって。それを聞くと、民族性って個人から簡単に失われないのだと、なぜだか私も嬉しくなった。
読了日:12月28日 著者:ヤマザキマリ ファイル

社会を変える仕事をしよう社会を変える仕事をしよう感想
『まず仕事をしようじゃないか』。ビッグイシュー日本は、「ホームレスという境遇になってしまった人」に自力で路上を抜け出すチャンスを提供する社会的企業である。社会的企業は、NPO団体とは取り組む社会問題が同じでも、運営の判断基準が違ってくるという。その設立者やスタッフ、ボランティアの言葉を集めた本書で、組織の成り立ちや理念を知ることができる。私は「ビッグイシュー」を読むのが好きで、都会に出た折に買ったものだったが、コロナ禍で販売者の売上げは激減しているという。これを機に私はにっこり応援会員になることにした。
読了日:12月25日 著者:佐野 章二 ファイル

空気を読む脳 (講談社+α新書)空気を読む脳 (講談社+α新書)感想
時事に絡めた脳科学読み物連載。「普段は真面目に利他的にも働く人が、いったん不公平な仕打ちを受けると、一気に義憤に駆られて行動してしまう」セロトニントランスポーターの話や、「理性的に先の展開を予測すればするほど、現在をネガティブにとらえる」性質は、まさに今の自分を言われていると思った。適度に不真面目で、鈍感で、忘れっぽく、愚かであるほうが、人間を生きやすくするってことでしょうね。ネガティブな未来からのリアルな脅迫を感じながら毎日をすごさなければならないのは苦行って、中野さんはそうじゃないのか聞いてみたい。
インポスター症候群も洞察を誘うトピックで印象深い。女性の場合は頑張ることが多く、男性の場合は保守的で、繕い、嘘もつくことがあるとか。こういう場合の優秀な人って、つまり役所とかお堅い職業に多い…嫌だねぇ。勉強が程ほどの努力でできてしまう人は、さほど努力しなくても褒められ、ほんとうに努力した部分はもはや認められることがないというのは、私がこれだけひねくれた原因じゃないだろうか。中野さんみたいに模範解答ではなく創意工夫を評価してくれる先生にも出会わず、教師への尊敬の念が大きく欠落したまま大人になってしまった。
「おわりに」が圧巻の印象を残す。幼少期から感じ続けた違和感や苦痛が、中野信子という人を脳科学に向かわせたことが吐露され、その生きづらさや疎外感は如何ほどだったかと痛切に感じさせる。私も、と言うのも少々憚られるが、合理的でない人間が、完全でも公平でもない世界の基幹システムを形づくっていることに気づいた故に、法学でも経済学でもなく心理学を専攻したと思い出し、共振する部分が多々あった。幸か不幸か関心のある分野の研究室がその大学に無かったので本ばかり読んで進学もしなかった、そんな記憶を思い出してひりひりした。
読了日:12月24日 著者:中野信子

地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」 (講談社現代新書)地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」 (講談社現代新書)感想
もう滅多に報道されなくなったフクシマと、そこで生きていた人々を丁寧に追ったルポである。国や東電、除染事業者の身勝手さと愚かさ、故郷を追われ、想像を絶する痛みを抱えた人々、残された地に繁栄する植物や動物のことが同時に思い浮かんでこんがらがる。時が解決することは少なく、国がうやむやにするたび、なし崩しに誰かの故郷が消えていく。「FACTFULNESS」の著者は『誰の命も奪わなかった放射線から避難したせいで、1000人以上の高齢者が亡くなった』と書いた。悪いのは恐怖心ではなく、そもそも原発事故を起こさせた者だ。
読了日:12月22日 著者:青木 美希 ファイル

人間の土地へ人間の土地へ感想
定期的にシリアに暮らした日本人女性の書いた記録である。訪れ始めて数年目にシリア内戦が起きる。著者を受け入れてくれたラドワンとアブドュルラティーフ家を軸に、世界の大きな理不尽が内側から記される。『息子よ。お願いだからこの国を出ていきなさい』。シリアは豊かな国だった。イスラムの掟に従い、家族を大切にして、故郷と決めた地で暮らす、それだけの望みすら叶えられなくなるまでほんの数年。ドキュメンタリー番組で内戦や難民の映像を目にすることに鈍感になった胸にも鋭利に刺さる。「人間の土地」はいつも誰かの故郷だ。
『パルミラでの生活の全てが、時間をかけなければ築けないものばかりだった』。シリア/パルミラには、現金が無くても家族や近親者が一緒に働けば生きていける社会があった。最近読んだマルクス論やコモン論で言うところの、定常経済社会、相互扶助コミュニティである。ラクダや果樹を長年かけて増やし、大切に世話をする。空爆や暴動で故郷に住めなくなることでそれがあっという間に壊される、これが昔から各紛争地で繰り返されてきたのだと理解した。著者が"命の意義"という言葉で表現したのは、人間が大切にしてきた豊かな暮らしと同義だろう。
読了日:12月20日 著者:小松 由佳

人新世の「資本論」 (集英社新書)人新世の「資本論」 (集英社新書)感想
『私たちの手で資本主義を止めなければ、人類の歴史が終わる』。私たちは壮大なダブルスタンダードを生きている。現代環境活動やSDG'sすら資本主義の延命にしかならないと著者は喝破する。このまま世界が変われなければ、遠からず日本人の多くも環境難民になる。それをわかっていながら、プラスチックごみを分別し、省エネな車に買い替え、国庫の金をそれらの政策に底なしに投入している、この欺瞞。だとしても私たちの世代はこの世界に生き、より良く変えて次世代に渡す義務がある。だからこそ、著者は「変えられる未来」を論じてみせるのだ。
人間の活動を地球のキャパ内に収めることと、成長経済主義は並び立たない。人類を救うのは脱成長コミュニズムかつ反アナーキズムな社会だという提案は、一部で芽生えた時流と私の直感にも沿う。しかしその変化がどんなふうに起き、展開するのか、私は想像できないでいる。コモン。自発的な相互扶助。例えばワールドワイドなものよりローカルなもの。営利企業より協同組合。あとがきに「3.5%の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると社会が大きく変わる」という研究を紹介している。3.5%の小さな叛逆という望み。buen vivir。
読了日:12月18日 著者:斎藤 幸平 ファイル

夜は終わらない(下) (講談社文庫)夜は終わらない(下) (講談社文庫)感想
長かった。もう、入れ子構造もアイデンティティーもどうでもええわと思ってしまったが、暴君は物語に引き込まれた。久音に軍配は上がった。きっと、物語の力、語ることの力について書きたかったのだろう。そして画一的なよくできた物語ではなく、自分だけのオリジナルな物語を語る相手がいることの。それは歳を取ったら必要なくなるナイーヴなものかといえばそうではなく、世界にこんなに本が溢れている事実が証左でもある。アマゾンのピダハンだって物語は持っていた。ということは、人間の持つ原始的な希求なのだ。千夜一夜物語も読まないとなあ。
読了日:12月17日 著者:星野 智幸 ファイル

十二国記 幽冥の岸 第1話十二国記 幽冥の岸 第1話感想
十二国記新作短編集からの先行プレゼント短編「幽冥の岸」は「白銀の墟 玄の月」の続き。泰麒は病んで昏倒しているので治してもらいに蓬山へ。これで何度目だろう。小野さんや私たちがもやもやしてきた、天の摂理問題。人の手に余る大事をなんとかしてほしいと抱く夢想が強いほど、翻っての叶えられない不信もまた強いと李斎は思った。それが答えか逡巡する。情の薄い耶利に泰麒を任せる流れに引っかかり。黄海で育った耶利と蓬莱で育った泰麒の落差は激しい。そこを描きたかったのかと思いきや、そうきたか!その展開、そわそわしますよ小野さん!
12月のプレゼントにふさわしい、読者が望む戴の希望のお話を小野センセは書いてくださった。いくつもの言葉がありがたく胸に沁みる。涙がにじむ。相変わらずお身体の調子が良くないと聞く。どうか無理なさらないように、穏やかでいらっしゃいますように。王の言葉をいつものように引用したいところだが、本が出てからにすることにする。
読了日:12月15日 著者:小野不由美ファイル

夜は終わらない(上) (講談社文庫)夜は終わらない(上) (講談社文庫)感想
「千一夜物語」や「トリスタンとイゾルデ」からいろいろ借りている。性的表現が強調されているのもその辺からきているのか、他に仕掛けがあるのかはまだわからない。それにしてもこの暴君、ほんと好きになれないんですけど。身勝手で独りよがりで、自分すら養えず生きる意味も見い出せないことを他人に擦りつけて罵倒する半端者。対峙するクオンに期待。お話の中身がどんどん現実離れしていく。クオンの様子もおかしいし、既になにか企んでいるのか。あやつを奈落に落としてほしいなあ。取って置きの真っ暗な闇に。
読了日:12月14日 著者:星野 智幸 ファイル

絶望の林業絶望の林業感想
将来のリスクヘッジに山を持っていたらいいんじゃないかと考えていたことがある。読んでほとほと嫌になった。今の日本では、まず生業として考えるべきではないな。地元の木で家を建てるのも、よく調べてからが良さそうだ。林野庁主導の補助金政策や業者の短期的利益追求で、林業のシステムは歪んでいる。木が育つためにかかる年月と人間の目先都合が乖離したら、軌道修正に何十年かかるのか。かといって即利益を求めない篤林家を目指すにも、境界線問題に始まり、盗伐やら獣害やらも考えると、想定以上に困ぱいさせられると覚悟した方がいいだろう。
昨日は勝賀山に登った。ずいぶん上までみかん畑に拓かれた里山だ。昔に比べてみかんの種類が増えた。鉄や電気の柵で囲わない畑の木は、片っ端から実を喰われていた。イノシシかサルか。そこから上は雑木林で、それぞれに紅葉や落葉していた。ドングリの生る木も多いが、落ちたカサのわりにドングリが少ない印象。イノシシだなあ。頂上の城跡まわりの木や草を、ボランティアのおっちゃんたちが刈り払っていた。日本では木を切って日光を入れると笹がのさばるとこの本にあったが、なるほど、刈らないとびっしり埋まってしまうみたいだ。
読了日:12月12日 著者:田中 淳夫

ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britainブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain感想
イギリスの時事エッセイ。町山智浩のエッセイでアメリカの実情を理解したように、ブレイディみかこはイギリスの実情を教えてくれる。イデオロギーで世界を解釈するのは苦手なので、イギリス政治の基礎知識がない私は世相の説明についていくのが苦しい。しかし彼女らしいパンクぶりを炸裂させる部分は小気味よい。初っ端から生理貧困のネタとは、いや、大事やけんね。王室と皇室は似ているが、女王には法案を拒否する権利があるとか、ポスト・エリザベスに予測される混乱とか、少しずつ知っていこう。『ステーキを求めざる者、梅干しも得ず』。
日本はアメリカの真似っこをしているので、日本で起きることがアメリカのそれに似るのには違和感がないが、イギリスで起きていることもまた似ているのは、いわゆる"先進国"に共通というよりは、成熟の時期を超える国家の宿命をそれぞれに迎えているように感じる。日本もまた、ブロークンの時代なんよね。まさかこんな国になるなんて、という嘆息はイギリスにも日本にも。そういえば「イギリス」はイングリッシュの日本訛りなんですってね。考えたこともなくて恥ずかしい。
読了日:12月10日 著者:ブレイディ みかこ ファイル

朱鷺の遺言朱鷺の遺言感想
純国産系統朱鷺の絶滅の記録。日本ではありふれた鳥だったはずの朱鷺は、昭和25年には40羽を切っていた。絶滅に向かわせた原因は、水田の化学肥料・農薬使用による障害と餌(春夏秋は水田の昆虫、ドジョウ、貝類、冬は渓流のサワガニ)の減少、減反に伴う耕作放棄、土地の乱開発が主で、いったん数が減れば捕食者、猟師による罠、豪雪すらも大打撃になるとわかる。この絶滅の流れで重要な点としては、ある臨界点を超えると絶滅を止めることができない点と、環境庁が主導権を握ってからでは、一羽として殖やしも孵しもできなかった点である。
今日本に生息している朱鷺は、中国から貸与または譲渡された朱鷺の子孫だ。いくら何羽も譲ってもらっても、人工繁殖技術が向上しても、朱鷺の生息環境が改善されなければ朱鷺は野生で生きていくことができない。近年取り組まれている環境改善の一つが、減農薬、無農薬での米づくりだ。朱鷺、コウノトリ、ナベヅル、いずれも水田でエサを取る。水田整備及び減農薬・無農薬米づくりは重要な役割を持っている一方、つくっても買って食べる人が増えなければ続かない。これにもまた、協力したい思いを強くした。
環境庁は最後の5羽を強制的に捕獲する手段を取る。人工繁殖を試みる為で、失敗し、結局は全て死なせる。残り5羽になるまで放置しながら、技術でなんとかしようとした点が、今読んでいる「人新世の「資本論」」に出てくる、人工的に気候を操作しようとするジオエンジニアリングに似ていると気付いて瞬いた。末期症状を見せ始めた自然に対し、強硬的/恐慌的/強行的に技術を乱発してなんとかしようとする。それは末期を早めることにしかならない。それはひとつの真理なのだと思う。
読了日:12月06日 著者:小林 照幸 ファイル

言葉の虫めがね (角川文庫)言葉の虫めがね (角川文庫)感想
平成25年、流行り言葉の所感から、万葉集の歌に込められた情感まで、雑誌か何かの連載のようなエッセイ集。日本農業新聞のコラムに掲載される俳句や短歌を読むのが私の楽しみだが、俵万智の詠む、または選ぶ歌とは趣が違う。俵万智は都会の暮らしや、荒ぶる情熱を重んじる歌人なのだなと改めて感じた。それから、愛誦性。好きな歌だと、口を突いて出たりするという。読んだ句や歌を一枚の絵のように脳内に映像化してうっとりするだけとは、域が違うのだろう。
読了日:12月05日 著者:俵 万智 ファイル

書楼弔堂 破暁書楼弔堂 破暁感想
久しぶりの京極節。今回の主は古本屋の店主だ。時代を明治に置くことで、一話の登場人物がいったい歴史上の誰であるのか、読み手が推理できる仕掛けになっている。手掛かりは随所にあるので、目を配って推測してみるのだが、だいぶ終盤になってようやく気付くのが悔しい。この店主は『本は墓のようなもの』と言い放つ。続けて『言葉は普く呪文。文字が記された紙は呪符。凡ての本は、移ろい行く過去を封じ込めた、呪物にございます』とくるのだ。我が家の本棚がまるきり納骨堂に思えてきた。これぞという一冊のために、私は溜め続けているのか…。
読了日:12月03日 著者:京極 夏彦

内澤旬子の 島へんろの記内澤旬子の 島へんろの記感想
書き出しは『小豆島のお遍路回ってみようかな』と軽い。しかし、読み終えてみれば深い深い体験だったのだと知る。内澤さんの言うように、我が身や親しい人に降りかかる悪しきことのどこからが自分のせいで、どこからがそうでないのか、わからないことすらもが自身を苛む。歩いて歩いて、そのうちに抱えていた辛苦を手放すための装置が、遍路なのだろう。私も歩きたい。車の排気ガスに巻かれながらアスファルトの上を歩く四国遍路じゃなくて、海や山や、岩壁岩窟系寺院を巡る小豆島遍路に私も出たい。身中に滞る全てを解き放つことができたらと願う。
読了日:12月03日 著者:内澤 旬子


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。


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