2021年10月01日
2021年9月の記録
義母に、「なにか趣味を持ちなさいね」と心配された。
独身時代が長かったぶん、いろんなものに手を出してきたが、
そういえば手を使ってなにかをつくる趣味が今は無いと思い当たる。
無心に、あるいは右脳をつかって手を動かす趣味、手芸とか工芸かな。
読書はだいぶ"網"っぽくなってきた。
ジャンルを詰めて目を細かくするんじゃなく、適度に間隔をあけて、徐々に大きく繋いでいくイメージで。
<今月のデータ>
購入29冊、購入費用31,361円。
読了22冊。
積読本266冊(うちKindle本106冊、Honto本13冊)。

9月の読書メーター
読んだ本の数:19
讃岐の家づくりを考える本 I think ほんとうに心地よい家のつくり方の感想
紙づかいが贅沢な雑誌。菅組の哲学が詰まっている。好いなあ、菅組の家。一軒家というと、外界から家族を守るというか、外の環境や他人の目を遮断する意味合いが先に頭に立つ。しかし菅組の設計の考え方は、どんな立地であっても窓で外への抜け感を設定するとか、外の自然とのつながりを大切にしたとかいうものが多い。菅組が西讃の企業だから古き良きの考え方が残っているというのはあるだろうけれど、街中のちっちゃい家でもそこを目指してくれるのであれば、それはそれでお願いしてみたいと思うのだ。写真がもっと大きいとよかったのに。
読了日:09月29日 著者:株式会社菅組
女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち (幻冬舎新書)の感想
ドイツではコール元首相に引き上げられたメルケルが首相になった。そのために意に沿わない選択をしたこともあっただろう。政策を実現するためには自ら権力を掴む。そのために権力を持っている人間に近づく。それは男性の政治家も同じで、政治組織とはそういうものと考えるべきなのだろう。だからといって、政治能力の劣る有力者に唯々諾々と従い、日本人の尊厳を損なう政策をぶち上げてよいということにはならない。上位の座を掴んだ事実ではなく、性別でもなく、政策と能力の良し悪しで政治家は選ばなければ国は劣化する。よって高市は却下。
女性の立ち位置は向上すべきだが、権力の座につくのが誰でもいいとは思わない。男に阿り、あるいは持てる能力を振り回し抜け目なく立ち回って上位の座を掴んだ女性の政治家を、他の男性の政治家よりも評価すべきではない。掲げる政策を実行しようとする一個の政治家として見たい。世界諸国に比べ周回遅れの日本で、「初の女性首相」の称号に何の価値もない。よって高市は却下。
読了日:09月29日 著者:ブレイディ みかこ
人形浄瑠璃文楽編 曾根崎心中 日本古典文学電子叢書の感想
文楽の演目となっている「生玉社前の段」「天満屋の段」「天神森の段」の床本。原作と浄瑠璃は細部で異なり、やや端折られているようだ。聴く方が想像しやすいよう、段の冒頭が場の描写で始まるのは同じ。情景と心情を取り混ぜた風流な語り始めでぐっと引き込む。作者のそういう仕掛けなのだ。もともと話も長くない。響きに重きを置き、余白は浄瑠璃や人形や、観客の想像力が埋める趣向は、なんとも江戸らしくてよいなあ。人形浄瑠璃の「天神森の段」を観る予習としてはちょうどよかった。『そこな九平次の毛虫どの、阿呆口でもおいてたも』。
読了日:09月28日 著者:竹下 介
曾根崎心中の感想
お初徳兵衛。私が思い浮かべる曾根崎心中は人形浄瑠璃だ。白く滑らかに整った、一見世間知らずみたいな二人の顔。その頬の表面を涙が流れる。木彫の裏に血潮が流れる。『これが、これが、これが、恋』。角田さんの描く初から、想いが止め処なく溢れて胸が一杯になる。打掛の下に徳兵衛を隠しながら、九平次に啖呵を切る初は見事だ。後世のそしりなど知ったことか。数多の哀しいおんなの、数え切れぬひとだまの、見守る、幸せな初の恋の成就。演目を観る人々は、木彫りの人形の向こうに、真実の魂を見てきたのだろう。その初を、父が遣うので予習に。
読了日:09月27日 著者:角田 光代,近松 門左衛門
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)の感想
初ポケットブック判でじっくりと。前書きでケン・リュウに釘を刺されるまでもなく、ここにある物語には中国独自の政治的事情よりも資本主義社会共通の要素が色濃く出ているのを感じた。著者の属する国家や文化によって、創出されるSF世界の明暗やざらつき度合いは違っても、似た予感が伏流している。だからこそ「折りたたみ北京」や「百鬼夜行街」のような、民族性の部分とサイエンスとががっぷり融合する作品が読みたいと思うのだ。ところで中国の幽霊も足が無いらしいんだけど、浮くんじゃなく這って移動するのはスタンダードですか?怖いです。
『世界中の作家と同様、今日の中国の作家たちはヒューマニズムに関心を抱いています。グローバリゼーションに、テクノロジーの発展に、伝統と現代性に、富と権利の格差に、発展と環境保全に、歴史と権利と自由と正義に、家族と愛情に、言葉を通して気持ちを表明する美しさに、言語遊戯に、科学の深淵さに、発見の感動に、生の究極の意味に関心を抱いています』。ケン・リュウ
読了日:09月26日 著者:郝 景芳
災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)の感想
国名シリーズの頃より大人の男になったっぽいエラリイ。色気も使えます。ライツヴィルに着いたとき、偽名を使い、犯罪の発生を期待するかのような不審な行動を取るので、ホームズみたいな、常識人から足を踏み外したマニアになったかと心配した。さて災厄の町。悲劇が起きたのは家なのに、「災厄の家」ではなく「災厄の町」である。口さがなく騒ぎ立て、名家の不幸を面白がり、石を投げつける田舎町の人々。もしライツヴィルが良心ある人々の町なら、ライト家の人はこんなに苦しまなくてよかったのに。だけど田舎町ってこういうものよね。余韻苦し。
読了日:09月25日 著者:エラリイ・クイーン
ヘンな論文 (角川文庫)の感想
身近に想像できて、親しみやすい論文の紹介。私は心理学専攻でパーソナルスペースを扱った卒論を書いたので、「カップルの観察」の研究は自分が参加したいくらい興味深い。私の場合、テーマへの関心が先にあったのだが、その辺を扱う教官が大学にいなかったこともあって、ゼミを離れてふらふらしていたら担当教官を得られず、あやうく留年しかけたのだった。拾ってくれた教授は「自由研究よりちょっとマシ」と優しく送り出してくれ、今も感謝している。もし、これという研究室に出会っていたら、研究者になる人生もあったかも…いや、なかったか。
読了日:09月20日 著者:サンキュータツオ
早く絶版になってほしい #駄言辞典の感想
日経の企画。セクハラ、パワハラを含め、「駄言」の定義は青野さんの『古い価値観、固定観念に縛られている変われない社会の中で言われている言葉』がしっくりくる。明治や戦後の為政者によって歪められた政策がそのまま現代の無意識に根を下ろしている。これを読んでも、何が問題かわからない人にはわからないようで、ある意味感心する。本人が愚かなだけで悪気はない場合もあろうが、その言葉が相手を傷つけることを重々理解して発せられる意図的なマウンティングの場合もあるので、やはりここは闘っておかないと、未来のためにならないでしょう。
このタイミングで野田聖子。「女性に関する政策しかやらない野田」という自民党内の認識は、どれだけ老齢男性優位の組織かを端的に示す。その中にありながら、政治も家族も諦めず、今なお総裁選に立候補し、女性や子供、弱者のための政策を掲げる野田氏は、自民党の希望だと思う。残念ながら、今後も自民党は変われないだろうとは思うけれど。『60歳になった私の今の存在意義であり役割は、若手の女性たちの「盾」になること』。
読了日:09月20日 著者:
富士山噴火と南海トラフ 海が揺さぶる陸のマグマ (ブルーバックス)の感想
構造上、巨大地震と火山活動は連動する。そして海溝型の南海トラフ巨大地震は2030年代に起こる可能性が高く、富士山は300年以上噴火していないことからマグマを溜めている可能性が高い…。自分が生きている間に大震災は起きる前提で読んだ。地震による街々の破壊、土砂災害や物流寸断はもちろん、富士山の噴火だって直接の被害は受けなくとも、電子制御されるライフライン破壊や生産活動停滞の影響は全国に及ぶだろう。これまでにも繰り返し受けてきた災害を、今回は日本人のどれだけがどうやって生き抜けるのか、戦慄せずにいられない。
火山噴火が引き起こす災害は、火山灰、溶岩流、噴石、火砕流、泥流、山体崩壊と多様だ。火山灰は物が燃えた灰とは違い、マグマが急冷してできた2mm以下のガラス質の破片であるという事実を、これまで何度も噴火の度に報道されたにもかかわらず、私は初めて知った。土の養分にもならず、こすれば鋭利に傷つける、それは、害でしかない。火山灰だけでも、交通インフラの破壊、人間の健康被害、電子機器の障害、農作物の不作、家畜の死、野生動植物への影響等々甚大なのだ。それが首都圏に流れる…。
読了日:09月18日 著者:鎌田 浩毅
時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。の感想
小川さんの政治や有権者に対する姿勢、政策をある程度知っている私には、先の新書の方が興味深い。この本がこれほど話題になっているのは、専門家でない著者の、感情混じりのむちゃ振りに対しても真っ向から向き合う、小川さんの対話の姿勢が新鮮だからだろう。現状の問題や考え抜いた政策をどう話せばわかりやすいかと言葉に悩み、説明できていないと思えば自ら謝る。その様子が私たちの中に年々蓄積した、政治家というものへの先入観や諦めを突き崩すからだ。日本をより良く変えていくことを彼が『あきらめそうになるけど、あきらめない』からだ。
『政治は勝った51が、どれだけ残りの49を背負えるかなんです』。
小川さんが人前で泣くのは珍しい事ではない。ただ、これほど国を憂え、日本をより良くすべく奔走する小川さんを見ると、国民としての義務を私は果たしているかと省みるのだ。私は思う。だって変わらんのに。変わろうとせんやんか。小川さんは言う。『選挙は、毎日が砂粒を積み上げていくような感じがして、途方に暮れそうになるんですね。でも、そこで途方に暮れちゃうと、そうじゃない人の勝利なんで、途方に暮れそうなことを認め、でも、途方に暮れないことを決意して、一粒一粒、砂を積み上げることをあきらめない、ということしかないんです』。
読了日:09月16日 著者:和田靜香
ヴィオラ母さん 私を育てた破天荒な母・リョウコの感想
マリさんから母リョウコへの愛の言葉。あるいは子育て論。描かれたリョウコの自由さが目立つけれど、金と時間はなくとも、愛情深く、また余計な枷をはめないよう気遣いつつ子供たちを育てた事実が、娘による描写から読み取れる。リョウコがあって今のマリさんがあるように、リョウコがあるのもまたその両親祖父母があってのことだ。大正時代に駐在したアメリカから女の思い出のあるベッドを持って帰る父とか、日がな一日楽器をいじって過ごす祖父とかいたら、私だって、いやそれよりも、知的好奇心や教養を唆す恋人がいたら、人生違ってた気がする。
ヤマザキ家はマリさんの実父をはじめ、たくさんの別れを経験した。別れを致し方のないもの、またしかるべきものと受け止めざるを得なかった経験が、彼女たちの強靭さを育てた。一方で、たとえ地球の裏側でも、一度得た縁はつながり、反永続的に保つことができると知っていることもまた、彼女たちの行動力の源泉となっている。それに引きかえ、私にはそのどちらもが足りないから、ごくごく小さな別れでもめそめそして、会わなくなってしまえばその好意すら信じることができず、SNSにコメントすることすら躊躇う、ちっちゃな人間なのだよなと思う。
読了日:09月15日 著者:ヤマザキマリ
五十八歳、山の家で猫と暮らすの感想
八ヶ岳南麓の別荘地。なぜメイ・サートンが私の念頭にあったのかわからないが、山での独り暮らしを選び取ったというよりは、家族の思い出のある家が先にあって、ついそこに住むことになった感が強い。メイ・サートンが荒々しい自然に囲まれた我が家で独り、がむしゃらに闘っていたのとはむしろ対照的に、ごくごく日本人的に環境を整え、管理会社やご近所さんとうまく関係を築いているので、独りで不安なこともあるけれど、概ね満ち足りている印象。と言いつつ、私は羨ましいのだ。女独り自由に、小鳥の餌箱や庭について妄想し自ら実行する生活が。
読了日:09月12日 著者:平野 恵理子
センス・オブ・ワンダー (新潮文庫)の感想
レイチェル・カーソン×川内倫子。小さな驚異にぴたりフォーカスする川内さんの写真はカーソンの文章によく似合っている。忙しない日々の中にあっても、幼い姪に指をしっかと握られ連れまわされている時だけは、私も、彼女の気づきに賛意を表し、自分が得たまた別の気づきを共有することに、時間を充てることができる。子供の目に戻って世界を眺める。この先もそんな時間を得られるといいなとつくづく思う。巻末に福岡ハカセのエッセイがついているのが得した気分である。そう、大人になることは獲得のプロセスではなく、むしろ喪失の物語なのだと。
読了日:09月12日 著者:レイチェル・カーソン
そのうちなんとかなるだろうの感想
内田先生の自伝。著作をいくつか読んでいれば、ああこのエピソードがあの論につながっていくのだなとわかって興味深い。本人の記憶の中の内田少年はだいぶいろいろしでかしている。ちょっと度を過ぎても、空気に許容度があったから、そのうちなんとかなった時代だったのだろうか。今もそうとは、あんまり思えない。『しなければならないことは「苦役」だと思わない』だなんて、主婦(主夫)論を内田先生から聞くとは思わなかった。相手に期待せず、押しつけず、全部自分でやる。余った時間がボーナスとは、わかっちゃいるけどやっぱり釈然としない。
『どうしてやりたいのか、その理由がうまく言えないけど「なんとなくやりたい」ことを選択的にやったほうがいい』
読了日:09月11日 著者:内田樹
異類婚姻譚の感想
怖い。思わず、テレビを見ている夫の顔を窺った。今んとこ大丈夫、かな…。なにかべちゃべちゃしたものが漏れるより、顔が変わっていくほうが怖い。なにもしなくなっていくことが怖い。その変化が、慣れた伴侶に気を許すレベルではなく、人としての崩壊に近づいているようで、一緒に暮らす自分ともども人生の終焉にいるような恐怖を覚える。逆に、私もなにかに悪態をつくようなとき、醜い顔をするだろう。それを見て、俺が結婚したのはこんな女だったかと、内心愕然としているのではないかと想像すると、これもまた怖いし。でも、山芍薬なのよね。
〈犬たち〉に、実は憧れる。守ってくれる家があって、猫たちと自分しかいない世界を想像する。
読了日:09月10日 著者:本谷 有希子
本当に君は総理大臣になれないのか (講談社現代新書)の感想
小川さんの口調が感じとれるような好著だ。小川さんの来歴と、「日本改革原案」に基づく構想インタビューの二本立て構成。小川さんが総理になった仮定(!)で行なう日本の大改革構想、なかでも「所得税・法人税・相続税課税適正化及び漸次消費税増税・本格的ベーシックインカム・教育社会福祉無償化法案」の存在は圧巻だ。さらには人口減少社会の困難を打破するために、国民自身の当事者意識と責任感覚を呼び覚ますために、その実現に文字通り人生の全てをかける小川さんの覚悟。ああ、余りの律儀さにもう、涙が出てくる。必ずや小選挙区当選を。
真っ直ぐに官僚を目指していた小川さんは、入省しばらくで真実を覚ったという。それぞれの省庁には全体観がない。官僚は、自分が所属する組織の部分利益と、自身の利益だけを追求する。だから、自分の担う仕事や、所属する組織の意義を疑い、廃止を求める事態はありえない。国益は二の次だと。だから、政治家が全体の構図を描いて決めなければならないのだと。森友・加計問題や「桜を見る会」を巡る問題。そこに、"政権の悪意を成立させてしまう知恵を官僚が提供している"構図があると小川さんは指摘しており、まさに目から鱗が落ちた気分だ。
小川さんは先日も自転車(!)でうちの会社に立ち寄り、新型コロナ等で今お困りのことはないですかと近況を尋ねてくださった。ついこないだテレビの討論番組に出ていたはずなのに、いつもながら、体が幾つあるのだろう。小川さんの熱意に接するといつも、日本の未来を諦めそうになっていた自分を恥ずかしいと思う。そしり記事を身内の新聞に書かせて本人は地元に影も形もないどこぞの悪徳ヅラ恫喝議員とは器が違う。この本の中で絶版と書かれた「日本改革原案」は加筆アップデートされた内容でKindle化されています。読みたかった方はぜひ!
読了日:09月09日 著者:小川 淳也,中原 一歩
ユーコン川を筏で下るの感想
野田さんはプロ・カヌーイストという肩書になるのか。カヌーでもなく筏を漕ぎ、ユーコンを下る。モーター付きのボートだと退屈で死にそうになるので、自力で漕ぐほうが正解らしい。椎名さんが、みんなでわいわい楽しげな場面に焦点を当てるのに対して、野田さんの描写はどこか静謐で、ぼんやり読んでいると独りと2頭が筏旅をして、他のカヌーイストや住民に邂逅しているように感じるくらいだ。実際は8人と2頭である。日本の川は無駄なダム&橋工事で分断されているうえに、難癖つけられたり通報されたりするとか。さもありなん。嫌な国だねえ。
読了日:09月07日 著者:野田 知佑
かぐわしき植物たちの秘密 香りとヒトの科学の感想
学名、和名の意味と由来。その植物にまつわる種々のエピソード。それぞれの香りが持つ効果について、研究結果などを挙げてさらりと説明してくれる。あれらのかぐわしい香りを成分に分解して説明されるのは興ざめだけど、古来漢方や習俗で用いる植物の効能が、進行形の研究により続々と裏打ちされていることを知ってはその先人の知恵に舌を巻く。今、私たちはマスクで様々な匂いからも隔離されている。ふくいくとした好ましい匂いのあれやこれやを、ゆったりと心ゆくまで楽しむ時間を、心がけて確保したい。備忘:歯が痛いときにはサンショウを噛む。
読了日:09月07日 著者:田中 修,丹治 邦和
移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活 (講談社文庫)の感想
日本が単一民族で構成されていると自認(誤認)していることにより、3代程度遡っても皆日本生まれ日本育ち日本国籍日本話者である人々の「日本人」認識はとても狭義になっている。外国馴れしている高野さんでも、その人のルーツに沿って物事を説明しようとすると行き詰ってしまうくらいの複雑さを持った人たち。フランスやブラジルのような「他民族多人種の移民国家」で育った人が言うように、生活する中でなにか概念を共有する人=同胞のほうが楽だ。国家によって区別されるアイデンティティなんて、薄い方が自他ともに生きやすいに決まっている。
加えて、障害を持たない、性的指向もマジョリティ側である、など枷を足しこんでいけば、そりゃ狭量になるに決まっている。とりあえず"同じな見た目"にするよう制度設計された日本の義務教育の中で、「多様性」の認識が育つわけがないわな多様性の芽をとことん矯めておきながら「多様性を尊重」もないもんだ。とパラリンピックを見ながら思ったのだった。「感動をもらう」ためにオリパラを観るとか、敢えて多様に見えるよう人選をしたのが透けて見えるとかって気持ち悪いけれど、パラリンピックの閉会式のパフォーマンスはなかなか好かったな。
読了日:09月06日 著者:高野 秀行
注:
は電子書籍で読んだ本。
独身時代が長かったぶん、いろんなものに手を出してきたが、
そういえば手を使ってなにかをつくる趣味が今は無いと思い当たる。
無心に、あるいは右脳をつかって手を動かす趣味、手芸とか工芸かな。
読書はだいぶ"網"っぽくなってきた。
ジャンルを詰めて目を細かくするんじゃなく、適度に間隔をあけて、徐々に大きく繋いでいくイメージで。
<今月のデータ>
購入29冊、購入費用31,361円。
読了22冊。
積読本266冊(うちKindle本106冊、Honto本13冊)。

9月の読書メーター
読んだ本の数:19

紙づかいが贅沢な雑誌。菅組の哲学が詰まっている。好いなあ、菅組の家。一軒家というと、外界から家族を守るというか、外の環境や他人の目を遮断する意味合いが先に頭に立つ。しかし菅組の設計の考え方は、どんな立地であっても窓で外への抜け感を設定するとか、外の自然とのつながりを大切にしたとかいうものが多い。菅組が西讃の企業だから古き良きの考え方が残っているというのはあるだろうけれど、街中のちっちゃい家でもそこを目指してくれるのであれば、それはそれでお願いしてみたいと思うのだ。写真がもっと大きいとよかったのに。
読了日:09月29日 著者:株式会社菅組

ドイツではコール元首相に引き上げられたメルケルが首相になった。そのために意に沿わない選択をしたこともあっただろう。政策を実現するためには自ら権力を掴む。そのために権力を持っている人間に近づく。それは男性の政治家も同じで、政治組織とはそういうものと考えるべきなのだろう。だからといって、政治能力の劣る有力者に唯々諾々と従い、日本人の尊厳を損なう政策をぶち上げてよいということにはならない。上位の座を掴んだ事実ではなく、性別でもなく、政策と能力の良し悪しで政治家は選ばなければ国は劣化する。よって高市は却下。
女性の立ち位置は向上すべきだが、権力の座につくのが誰でもいいとは思わない。男に阿り、あるいは持てる能力を振り回し抜け目なく立ち回って上位の座を掴んだ女性の政治家を、他の男性の政治家よりも評価すべきではない。掲げる政策を実行しようとする一個の政治家として見たい。世界諸国に比べ周回遅れの日本で、「初の女性首相」の称号に何の価値もない。よって高市は却下。
読了日:09月29日 著者:ブレイディ みかこ


文楽の演目となっている「生玉社前の段」「天満屋の段」「天神森の段」の床本。原作と浄瑠璃は細部で異なり、やや端折られているようだ。聴く方が想像しやすいよう、段の冒頭が場の描写で始まるのは同じ。情景と心情を取り混ぜた風流な語り始めでぐっと引き込む。作者のそういう仕掛けなのだ。もともと話も長くない。響きに重きを置き、余白は浄瑠璃や人形や、観客の想像力が埋める趣向は、なんとも江戸らしくてよいなあ。人形浄瑠璃の「天神森の段」を観る予習としてはちょうどよかった。『そこな九平次の毛虫どの、阿呆口でもおいてたも』。
読了日:09月28日 著者:竹下 介


お初徳兵衛。私が思い浮かべる曾根崎心中は人形浄瑠璃だ。白く滑らかに整った、一見世間知らずみたいな二人の顔。その頬の表面を涙が流れる。木彫の裏に血潮が流れる。『これが、これが、これが、恋』。角田さんの描く初から、想いが止め処なく溢れて胸が一杯になる。打掛の下に徳兵衛を隠しながら、九平次に啖呵を切る初は見事だ。後世のそしりなど知ったことか。数多の哀しいおんなの、数え切れぬひとだまの、見守る、幸せな初の恋の成就。演目を観る人々は、木彫りの人形の向こうに、真実の魂を見てきたのだろう。その初を、父が遣うので予習に。
読了日:09月27日 著者:角田 光代,近松 門左衛門

初ポケットブック判でじっくりと。前書きでケン・リュウに釘を刺されるまでもなく、ここにある物語には中国独自の政治的事情よりも資本主義社会共通の要素が色濃く出ているのを感じた。著者の属する国家や文化によって、創出されるSF世界の明暗やざらつき度合いは違っても、似た予感が伏流している。だからこそ「折りたたみ北京」や「百鬼夜行街」のような、民族性の部分とサイエンスとががっぷり融合する作品が読みたいと思うのだ。ところで中国の幽霊も足が無いらしいんだけど、浮くんじゃなく這って移動するのはスタンダードですか?怖いです。
『世界中の作家と同様、今日の中国の作家たちはヒューマニズムに関心を抱いています。グローバリゼーションに、テクノロジーの発展に、伝統と現代性に、富と権利の格差に、発展と環境保全に、歴史と権利と自由と正義に、家族と愛情に、言葉を通して気持ちを表明する美しさに、言語遊戯に、科学の深淵さに、発見の感動に、生の究極の意味に関心を抱いています』。ケン・リュウ
読了日:09月26日 著者:郝 景芳

国名シリーズの頃より大人の男になったっぽいエラリイ。色気も使えます。ライツヴィルに着いたとき、偽名を使い、犯罪の発生を期待するかのような不審な行動を取るので、ホームズみたいな、常識人から足を踏み外したマニアになったかと心配した。さて災厄の町。悲劇が起きたのは家なのに、「災厄の家」ではなく「災厄の町」である。口さがなく騒ぎ立て、名家の不幸を面白がり、石を投げつける田舎町の人々。もしライツヴィルが良心ある人々の町なら、ライト家の人はこんなに苦しまなくてよかったのに。だけど田舎町ってこういうものよね。余韻苦し。
読了日:09月25日 著者:エラリイ・クイーン


身近に想像できて、親しみやすい論文の紹介。私は心理学専攻でパーソナルスペースを扱った卒論を書いたので、「カップルの観察」の研究は自分が参加したいくらい興味深い。私の場合、テーマへの関心が先にあったのだが、その辺を扱う教官が大学にいなかったこともあって、ゼミを離れてふらふらしていたら担当教官を得られず、あやうく留年しかけたのだった。拾ってくれた教授は「自由研究よりちょっとマシ」と優しく送り出してくれ、今も感謝している。もし、これという研究室に出会っていたら、研究者になる人生もあったかも…いや、なかったか。
読了日:09月20日 著者:サンキュータツオ


日経の企画。セクハラ、パワハラを含め、「駄言」の定義は青野さんの『古い価値観、固定観念に縛られている変われない社会の中で言われている言葉』がしっくりくる。明治や戦後の為政者によって歪められた政策がそのまま現代の無意識に根を下ろしている。これを読んでも、何が問題かわからない人にはわからないようで、ある意味感心する。本人が愚かなだけで悪気はない場合もあろうが、その言葉が相手を傷つけることを重々理解して発せられる意図的なマウンティングの場合もあるので、やはりここは闘っておかないと、未来のためにならないでしょう。
このタイミングで野田聖子。「女性に関する政策しかやらない野田」という自民党内の認識は、どれだけ老齢男性優位の組織かを端的に示す。その中にありながら、政治も家族も諦めず、今なお総裁選に立候補し、女性や子供、弱者のための政策を掲げる野田氏は、自民党の希望だと思う。残念ながら、今後も自民党は変われないだろうとは思うけれど。『60歳になった私の今の存在意義であり役割は、若手の女性たちの「盾」になること』。
読了日:09月20日 著者:

構造上、巨大地震と火山活動は連動する。そして海溝型の南海トラフ巨大地震は2030年代に起こる可能性が高く、富士山は300年以上噴火していないことからマグマを溜めている可能性が高い…。自分が生きている間に大震災は起きる前提で読んだ。地震による街々の破壊、土砂災害や物流寸断はもちろん、富士山の噴火だって直接の被害は受けなくとも、電子制御されるライフライン破壊や生産活動停滞の影響は全国に及ぶだろう。これまでにも繰り返し受けてきた災害を、今回は日本人のどれだけがどうやって生き抜けるのか、戦慄せずにいられない。
火山噴火が引き起こす災害は、火山灰、溶岩流、噴石、火砕流、泥流、山体崩壊と多様だ。火山灰は物が燃えた灰とは違い、マグマが急冷してできた2mm以下のガラス質の破片であるという事実を、これまで何度も噴火の度に報道されたにもかかわらず、私は初めて知った。土の養分にもならず、こすれば鋭利に傷つける、それは、害でしかない。火山灰だけでも、交通インフラの破壊、人間の健康被害、電子機器の障害、農作物の不作、家畜の死、野生動植物への影響等々甚大なのだ。それが首都圏に流れる…。
読了日:09月18日 著者:鎌田 浩毅


小川さんの政治や有権者に対する姿勢、政策をある程度知っている私には、先の新書の方が興味深い。この本がこれほど話題になっているのは、専門家でない著者の、感情混じりのむちゃ振りに対しても真っ向から向き合う、小川さんの対話の姿勢が新鮮だからだろう。現状の問題や考え抜いた政策をどう話せばわかりやすいかと言葉に悩み、説明できていないと思えば自ら謝る。その様子が私たちの中に年々蓄積した、政治家というものへの先入観や諦めを突き崩すからだ。日本をより良く変えていくことを彼が『あきらめそうになるけど、あきらめない』からだ。
『政治は勝った51が、どれだけ残りの49を背負えるかなんです』。
小川さんが人前で泣くのは珍しい事ではない。ただ、これほど国を憂え、日本をより良くすべく奔走する小川さんを見ると、国民としての義務を私は果たしているかと省みるのだ。私は思う。だって変わらんのに。変わろうとせんやんか。小川さんは言う。『選挙は、毎日が砂粒を積み上げていくような感じがして、途方に暮れそうになるんですね。でも、そこで途方に暮れちゃうと、そうじゃない人の勝利なんで、途方に暮れそうなことを認め、でも、途方に暮れないことを決意して、一粒一粒、砂を積み上げることをあきらめない、ということしかないんです』。
読了日:09月16日 著者:和田靜香

マリさんから母リョウコへの愛の言葉。あるいは子育て論。描かれたリョウコの自由さが目立つけれど、金と時間はなくとも、愛情深く、また余計な枷をはめないよう気遣いつつ子供たちを育てた事実が、娘による描写から読み取れる。リョウコがあって今のマリさんがあるように、リョウコがあるのもまたその両親祖父母があってのことだ。大正時代に駐在したアメリカから女の思い出のあるベッドを持って帰る父とか、日がな一日楽器をいじって過ごす祖父とかいたら、私だって、いやそれよりも、知的好奇心や教養を唆す恋人がいたら、人生違ってた気がする。
ヤマザキ家はマリさんの実父をはじめ、たくさんの別れを経験した。別れを致し方のないもの、またしかるべきものと受け止めざるを得なかった経験が、彼女たちの強靭さを育てた。一方で、たとえ地球の裏側でも、一度得た縁はつながり、反永続的に保つことができると知っていることもまた、彼女たちの行動力の源泉となっている。それに引きかえ、私にはそのどちらもが足りないから、ごくごく小さな別れでもめそめそして、会わなくなってしまえばその好意すら信じることができず、SNSにコメントすることすら躊躇う、ちっちゃな人間なのだよなと思う。
読了日:09月15日 著者:ヤマザキマリ

八ヶ岳南麓の別荘地。なぜメイ・サートンが私の念頭にあったのかわからないが、山での独り暮らしを選び取ったというよりは、家族の思い出のある家が先にあって、ついそこに住むことになった感が強い。メイ・サートンが荒々しい自然に囲まれた我が家で独り、がむしゃらに闘っていたのとはむしろ対照的に、ごくごく日本人的に環境を整え、管理会社やご近所さんとうまく関係を築いているので、独りで不安なこともあるけれど、概ね満ち足りている印象。と言いつつ、私は羨ましいのだ。女独り自由に、小鳥の餌箱や庭について妄想し自ら実行する生活が。
読了日:09月12日 著者:平野 恵理子

レイチェル・カーソン×川内倫子。小さな驚異にぴたりフォーカスする川内さんの写真はカーソンの文章によく似合っている。忙しない日々の中にあっても、幼い姪に指をしっかと握られ連れまわされている時だけは、私も、彼女の気づきに賛意を表し、自分が得たまた別の気づきを共有することに、時間を充てることができる。子供の目に戻って世界を眺める。この先もそんな時間を得られるといいなとつくづく思う。巻末に福岡ハカセのエッセイがついているのが得した気分である。そう、大人になることは獲得のプロセスではなく、むしろ喪失の物語なのだと。
読了日:09月12日 著者:レイチェル・カーソン

内田先生の自伝。著作をいくつか読んでいれば、ああこのエピソードがあの論につながっていくのだなとわかって興味深い。本人の記憶の中の内田少年はだいぶいろいろしでかしている。ちょっと度を過ぎても、空気に許容度があったから、そのうちなんとかなった時代だったのだろうか。今もそうとは、あんまり思えない。『しなければならないことは「苦役」だと思わない』だなんて、主婦(主夫)論を内田先生から聞くとは思わなかった。相手に期待せず、押しつけず、全部自分でやる。余った時間がボーナスとは、わかっちゃいるけどやっぱり釈然としない。
『どうしてやりたいのか、その理由がうまく言えないけど「なんとなくやりたい」ことを選択的にやったほうがいい』
読了日:09月11日 著者:内田樹


怖い。思わず、テレビを見ている夫の顔を窺った。今んとこ大丈夫、かな…。なにかべちゃべちゃしたものが漏れるより、顔が変わっていくほうが怖い。なにもしなくなっていくことが怖い。その変化が、慣れた伴侶に気を許すレベルではなく、人としての崩壊に近づいているようで、一緒に暮らす自分ともども人生の終焉にいるような恐怖を覚える。逆に、私もなにかに悪態をつくようなとき、醜い顔をするだろう。それを見て、俺が結婚したのはこんな女だったかと、内心愕然としているのではないかと想像すると、これもまた怖いし。でも、山芍薬なのよね。
〈犬たち〉に、実は憧れる。守ってくれる家があって、猫たちと自分しかいない世界を想像する。
読了日:09月10日 著者:本谷 有希子


小川さんの口調が感じとれるような好著だ。小川さんの来歴と、「日本改革原案」に基づく構想インタビューの二本立て構成。小川さんが総理になった仮定(!)で行なう日本の大改革構想、なかでも「所得税・法人税・相続税課税適正化及び漸次消費税増税・本格的ベーシックインカム・教育社会福祉無償化法案」の存在は圧巻だ。さらには人口減少社会の困難を打破するために、国民自身の当事者意識と責任感覚を呼び覚ますために、その実現に文字通り人生の全てをかける小川さんの覚悟。ああ、余りの律儀さにもう、涙が出てくる。必ずや小選挙区当選を。
真っ直ぐに官僚を目指していた小川さんは、入省しばらくで真実を覚ったという。それぞれの省庁には全体観がない。官僚は、自分が所属する組織の部分利益と、自身の利益だけを追求する。だから、自分の担う仕事や、所属する組織の意義を疑い、廃止を求める事態はありえない。国益は二の次だと。だから、政治家が全体の構図を描いて決めなければならないのだと。森友・加計問題や「桜を見る会」を巡る問題。そこに、"政権の悪意を成立させてしまう知恵を官僚が提供している"構図があると小川さんは指摘しており、まさに目から鱗が落ちた気分だ。
小川さんは先日も自転車(!)でうちの会社に立ち寄り、新型コロナ等で今お困りのことはないですかと近況を尋ねてくださった。ついこないだテレビの討論番組に出ていたはずなのに、いつもながら、体が幾つあるのだろう。小川さんの熱意に接するといつも、日本の未来を諦めそうになっていた自分を恥ずかしいと思う。そしり記事を身内の新聞に書かせて本人は地元に影も形もないどこぞの悪徳ヅラ恫喝議員とは器が違う。この本の中で絶版と書かれた「日本改革原案」は加筆アップデートされた内容でKindle化されています。読みたかった方はぜひ!
読了日:09月09日 著者:小川 淳也,中原 一歩


野田さんはプロ・カヌーイストという肩書になるのか。カヌーでもなく筏を漕ぎ、ユーコンを下る。モーター付きのボートだと退屈で死にそうになるので、自力で漕ぐほうが正解らしい。椎名さんが、みんなでわいわい楽しげな場面に焦点を当てるのに対して、野田さんの描写はどこか静謐で、ぼんやり読んでいると独りと2頭が筏旅をして、他のカヌーイストや住民に邂逅しているように感じるくらいだ。実際は8人と2頭である。日本の川は無駄なダム&橋工事で分断されているうえに、難癖つけられたり通報されたりするとか。さもありなん。嫌な国だねえ。
読了日:09月07日 著者:野田 知佑

学名、和名の意味と由来。その植物にまつわる種々のエピソード。それぞれの香りが持つ効果について、研究結果などを挙げてさらりと説明してくれる。あれらのかぐわしい香りを成分に分解して説明されるのは興ざめだけど、古来漢方や習俗で用いる植物の効能が、進行形の研究により続々と裏打ちされていることを知ってはその先人の知恵に舌を巻く。今、私たちはマスクで様々な匂いからも隔離されている。ふくいくとした好ましい匂いのあれやこれやを、ゆったりと心ゆくまで楽しむ時間を、心がけて確保したい。備忘:歯が痛いときにはサンショウを噛む。
読了日:09月07日 著者:田中 修,丹治 邦和


日本が単一民族で構成されていると自認(誤認)していることにより、3代程度遡っても皆日本生まれ日本育ち日本国籍日本話者である人々の「日本人」認識はとても狭義になっている。外国馴れしている高野さんでも、その人のルーツに沿って物事を説明しようとすると行き詰ってしまうくらいの複雑さを持った人たち。フランスやブラジルのような「他民族多人種の移民国家」で育った人が言うように、生活する中でなにか概念を共有する人=同胞のほうが楽だ。国家によって区別されるアイデンティティなんて、薄い方が自他ともに生きやすいに決まっている。
加えて、障害を持たない、性的指向もマジョリティ側である、など枷を足しこんでいけば、そりゃ狭量になるに決まっている。とりあえず"同じな見た目"にするよう制度設計された日本の義務教育の中で、「多様性」の認識が育つわけがないわな多様性の芽をとことん矯めておきながら「多様性を尊重」もないもんだ。とパラリンピックを見ながら思ったのだった。「感動をもらう」ためにオリパラを観るとか、敢えて多様に見えるよう人選をしたのが透けて見えるとかって気持ち悪いけれど、パラリンピックの閉会式のパフォーマンスはなかなか好かったな。
読了日:09月06日 著者:高野 秀行

注:

Posted by nekoneko at 14:35│Comments(0)
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