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2024年07月01日

2024年6月の記録

コペルニクス的大転換、とは胡散臭いほど派手派手しい言葉だけれど、
自分の思考にそれが起こるとは、想像だにしなかったのだ。
体力を消耗するほどの混沌ののち、ひとつひとつ腑に落ちていく。
錯覚か? それは、誰にもわからない。
ただ、どちらを選ぶも自分次第。

<今月のデータ>
購入14冊、購入費用13,838円。
読了16冊。
積読本326冊(うちKindle本154冊)。


ブック

花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION (ちくま文庫)花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION (ちくま文庫)感想
イギリス、ロンドンの真南にあるブライトンに伴侶と住み、かの利発な子息が生まれる前の、初期のエッセイ。燃料をどくどく流し込むがごとくエネルギッシュに、書きたいテーマを描きあげるスタイルはすでにある。そして燃料とは並ならぬ量の酒であるらしい。著者が故郷に似ているというイギリスの町は、リゾート地と呼ばれるのだけれど、貧困世帯が多くて、LGBTQに類される人が多くて、なんでもありな印象を受ける。そして各文章の書き出しから着地点が見えないところ、なのに主張がガツンとあるところに、中毒性がある。いやあ面白かった。
読了日:06月29日 著者:ブレイディ みかこ ファイル

シリアで猫を救うシリアで猫を救う感想
アレッポのキャットマン。自国政府による空爆の下、著者はミニバンを改造した自前の救急車を走らせてボランティアの救助活動をしている。『負傷者を救助し、猫たちにえさをあげ、できるかぎり日常の生活を続ける』。だから邦題は「猫を救う」だが、これはアレッポに生きたすべての命の実話なのだ。故郷を離れず街に残る人々は、生活物資が困窮しても爆撃を受けても、適応し生き延びる術を見出そうとする。人間はできるだけのことをするしかできない。そして、ガザをはじめ地球上の紛争地域ではどこでも、人は命を救い合って生き延びていると知る。
日々の買い物のために『通りにはいつも大勢の人たちが並んでいるので、爆撃されたら甚大な被害が出る。だから政権軍とロシア軍は真っ先に市場やベーカリーを狙った。しかも、わざと市場がいちばん混んでいる時間帯──早朝と夕方──に合わせて。ベーカリーも、パンを買う人の列がいちばん長い朝の時間帯を選んで攻撃した』。政権は東アレッポにいる人間すべてテロリストとみなし、学校や病院を狙って空爆した。反体制派は一般市民が生活する街に立てこもり、そのうち道義を見失い略奪者と化した。どちらにも、ましてISISらにも正義は無い。
読了日:06月28日 著者:アラー・アルジャリール with ダイアナ・ダーク ファイル

印度カリー子のスパイススープ めぐる、ととのう、きれいになる印度カリー子のスパイススープ めぐる、ととのう、きれいになる感想
しまった。「私でもスパイスカレー〜」が上手いつくりで、月イチでつくる程度にはまれたので、同じ気軽さでスープもと手を出してしまった。この人はほんとうにスパイスが好きなんだ。ついカレー風味を想定したけれど、中華風、洋風もとバリエーションの多いレシピ本で、スパイスの多種づかいやアフターのテンパリングを面倒に思う人間には重い。香りの変化を感じ取れる自信もない。とりあえず基本の3スパイス+カルダモンで、気まぐれにつくってみるかな。ひょっとしたら道が拓けるかも。
読了日:06月23日 著者:印度カリー子

心霊電流 下 (文春文庫 キ 2-66)心霊電流 下 (文春文庫 キ 2-66)感想
愛ゆえ、選んでしまう。愛ゆえ、踏み外してしまう。ドラッグや金のためじゃない。だから切ない。そして、かの神は厄介だ。信じるか信じないかの二択を突きつける。生きかたの指針だったはずが、近視眼的なご利益にすり替わっていく。または明らかにトランプの集会やカルト集団を模した独善的な集団的高揚に堕してしまう。神を拒絶したジェイコブズは邪の道へ転落した。かの宗教ではそれは即ち地獄なのだ。その感覚はゆるやかな信仰を持つ私にはわからない。でも人を試すような神はいやだ。どっちみち、喪失には耐えるしかない、その手段なのだから。
読了日:06月23日 著者:スティーヴン・キング ファイル

皮膚という「脳」 心をあやつる神秘の機能皮膚という「脳」 心をあやつる神秘の機能感想
進化の過程で人間は大部分の体毛を失った。それにより鋭敏な触覚、皮膚の状態を保つ防衛システムとともに、外部刺激に対する、神経を介さない情報処理を著者は挙げている。神経を介さないとはつまり、皮膚が広大な感覚器であるにもかかわらず、中枢集約型でない情報処理をしていることで、そのために錯覚が少ないのだそうだ。振動や熱、音や光も受け取る。他者に触れる行為は言うに及ばず、物理的に触れなくても受け手は気や気配を感じることができる。つい情報処理の大部分を占める視覚と脳に頼りがちだが、皮膚にはもっと活躍する余地がありそう。
読了日:06月22日 著者:山口 創 ファイル

自然のしくみがわかる地理学入門 (角川ソフィア文庫)自然のしくみがわかる地理学入門 (角川ソフィア文庫)感想
著者は植生地理学者で、この本は自然地理学のほう。地形、気候、植生と土壌の3部構成で、地球まるごとを舞台に、ちゃんと概説でありながら単なる説明に終始しない。研究で滞在した各地のエピソードを交えて、学問分野内に終始しないので、センス・オブ・ワンダーに溢れて心地よくかつ面白く読めた。地形が人の暮らしに影響するのと同様、気候変動は人間の歴史に影響してきた。同じ地球上であっても、地形も、気候も、気象も違っていて、だから植生も文化も民族性も思っている以上に違っている。そして変化し続ける。人文地理学のほうも読みたい。
読了日:06月20日 著者:水野 一晴 ファイル

心霊電流 上 (文春文庫 キ 2-65)心霊電流 上 (文春文庫 キ 2-65)感想
この切なさは何なんだろう。純粋な感情の記憶、年を経るうちに喪った近しい者たち。少年と青年という構図は青年と中年、年齢を超えた個対個へと凝縮してゆく。美しいもの、善きものが禍々しいものに上塗りされようとする不穏の種は、折に触れ蒔かれている。『恐怖に駆られた人々はそれぞれ、ひとりきりの特別な地獄を生きている』。原題は「Revival」。宗教的なものを含め、いくつかの意味合いが込められていそうだ。雷が落ちる直前の総毛立つような緊張感で上巻は終わり。『これが起こり、続いてそれが起こり、結果としてあれが起こった』。
読了日:06月19日 著者:スティーヴン・キング ファイル

生きていく民俗 ---生業の推移 (河出文庫)生きていく民俗 ---生業の推移 (河出文庫)感想
平地に定住して田畑を開き作物をつくる者(自給中心の村)と、食べるものを手に入れるためにものづくりなどにより交易をした者(自給が成り立たないため交易中心の村)を軸に、日本人が生きるために選択した生業の成り立ちを説く。田畑を拓き、村ができ、行商が訪れ、虹のもとに市が立ち、町ができ、門前に店ができる。それは現代、マルシェに珍しいもの欲しいものを探して回る私まで、15世紀初めから連綿と続いているのだ。日本は平地からすぐ山地だから、切り離してはどちらも成り立たないなど、すべて漏れなく書かんとする情報の量が凄まじい。
なんとか自力で拵えていた道具と、生きていくために売り物としてつくる道具のレベルは段違いで、人は徐々に良い物を購うようになっていった。それが職人を生み日本自慢の技術を育てたわけだが、もっと楽に稼げる職をと望んだ結果、職業は生活を立てていくための単なる手段になり、都市に人が流入し続け、ブルシットジョブが増えていく現代の構図が見えてくる。生業は社会のありかたにつれて変わり続け、昔には戻らない。だけどその面影を手掛かりに、よりあらまほしき暮らしかたの参考にはなるよなあと思う。
牛や馬の放牧の章が興味深い。人や荷を運ぶための牛や馬を育てるのに、日本人は山地や島に放牧した。それを農繁期には村に連れて戻って農耕をさせた。農作業のときだけ借りる、育てた牛を農家に預ける、山と平地で牛を共有するなど様々な派生はあれど原形は同じ。戦後でも放牧した牛を連れ戻しに行く人が居場所は『どこかわからぬがほぼ見当はついている』なんて微笑ましい。Xで太郎丸さんが動画に添えた言葉『遠野の馬たちは初夏になると里から山に上げられる。さまざまな飼い主の馬たちが一斉に集い、晩秋までこの高原で自由に暮らすという』。
読了日:06月18日 著者:宮本 常一 ファイル

今昔物語集 (光文社古典新訳文庫 Aン 2-1)今昔物語集 (光文社古典新訳文庫 Aン 2-1)感想
平安末期、天竺、震旦、本朝の3か国の説話を日本人が編んだ長大物語集。都市伝説のようなものから、実話に尾ひれがついたようなものまで、今読んで面白い小話がひたすら続く。しかし口伝採録ではなく、文献を基にしているらしい。主役が特定されているものもそうでないものもあるのは原典が違うからで、時の権力事情とは関係な…くはなさそう。んで法華経推し。教訓めいた無理やりな締めくくりも後づけっぽいが、著者のアレンジなのか。芥川が短編に仕立ててみたくなるのもわかるような、よい骨格の物語がたくさんある。語ってなんぼの話だよなあ。
読了日:06月13日 著者:作者未詳 ファイル

国語入試問題必勝法 新装版 (講談社文庫 し 31-44)国語入試問題必勝法 新装版 (講談社文庫 し 31-44)感想
これは誰の文章に出てきて、読みたいと思ったのだったか。まあ面白いね、と読み進めて、ふと立川談志だったと思い出した。「バールのようなもの」の作者である。それは入っていないが、突飛な発想、展開、オチと、なるほど談志の新作落語に似た匂いがする。ピョートルとサンマ、既聴感あるある。話の妙、そして眼差しの温かさ。『時代食堂の~』は人情ものっぽいし、わー、これも落語で聴いてみたい。と思えば俄然面白かった。猿蟹合戦を太宰がなぜ「お伽草紙」に入れなかったのかなんて、作者の考察を読むとそれしかないようにさえ思えてきた。
読了日:06月13日 著者:清水 義範 ファイル

文庫 雑草と日本人: 植物・農・自然から見た日本文化 (草思社文庫 い 5-4)文庫 雑草と日本人: 植物・農・自然から見た日本文化 (草思社文庫 い 5-4)感想
何もなかった地面に雨が降った後、凄まじい数の雑草が芽吹き始めた。日本は温暖湿潤であるため雑草がよく繁茂する。だからこそうまくつきあってきたはずだ。作物の生育の邪魔になる雑草を除去する必要がある点は違いない。「雑草が少しある」状態は保つのが難しいから徹底的に取る。長じて『田んぼばかりか家の周囲や庭を草のない状態に保っていることが美徳であり、雑草が生えた状態になっていると、まるで怠け者であるかのように思われてしまう』。他方で草を田畑に鋤き込む肥料として活用するためともある。それもそうだがそれだけか。
読了日:06月12日 著者:稲垣 栄洋 ファイル

地球にちりばめられて (講談社文庫 た 74-5)地球にちりばめられて (講談社文庫 た 74-5)感想
とりどりなルーツと生きかたを持つ人同士が知り合い、集って旅をする。祖国がどこであるか、母語がなにであるか、お互い想像し確認しするけれど、そのうちごたまぜになる状態は、今の欧州では日常なのだろう。結局、その人はその人だ。人は、深く思考するには母語を習熟していなければならない。しかし異国で日々を暮らすのに、相手と気持ちをやり取りするのに、深い語学力は要らないと多和田さんは言っているみたいだ。Hirukoのパンスカは創作言語だけど、だからこそ伝わりやすく、自由でいられる、それがこの小説に軽やかさを持たせている。
読了日:06月09日 著者:多和田 葉子 ファイル

日本人が移民だったころ日本人が移民だったころ感想
日本にも移民を大勢送り出した頃があった。皆が食っていけるだけの食料を生み出せなくて、あるいはもっと豊かに暮らせる地を求めて、戦前には例えばパラオや満州、フィリピン、引き揚げては離島や北海道、戦後に再びブラジルやパラグアイへと家族や親戚ごと渡る、それを国策として政府が旗を振った。著者は近頃の若者が海外で職を得る報道にも触れる。彼らは海を渡り、家族を得て子孫が日本に戻ってくるかもしれない。そうした流れの中に、今の日本の、海外にルーツを持つ人を差別する狭隘な風潮も変わることを期待している。私もそれは好いと思う。
『苦労したねと言われるけれど、もう忘れちゃったよと。今はちゃんとしているし、いいんですよ。これから生きることを考えなきゃね。朝起きたら朗らかに』。
読了日:06月09日 著者:寺尾 紗穂

だからあれほど言ったのに (マガジンハウス新書)だからあれほど言ったのに (マガジンハウス新書)感想
全てブログで読んだ話題をまとめて読み返す。日本の人口は加速度的に減っていく。いろいろな集まりに顔を出して感じるのは、人が減ってからでは打てる手も打てない、現状を維持することに汲々とするしかない諦観である。この調子だと日本の人口は5000万人まで減る。日本において輸入無しに全員が食べていける人口はどのくらいか。明治40年代の人口が5000万人、明治維新時で3000万人。それで全国津々浦々に散らばって暮らしていた事実を繰り返し思う。同時に、あちこちに残り、あるいは生まれる健やかな萌芽は気にかけておきたい。
読了日:06月06日 著者:内田樹 ファイル

(059)客 (百年文庫 59)(059)客 (百年文庫 59)感想
客、と言われて思い浮かぶような小説が選ばれないのがこのシリーズの痛快なところ。むしろ人ならぬもの(に近いようなもの)が登場する点がこの3篇に共通している。吉田健一「海坊主」が好きだ。要素は最低限に絞られ、すっきりした文体で物語が進み、そのすっきりした文体ゆえに、あれ、風変わりな表現をするな、と気づきやすい仕掛けになっていて、真意を量る間もなく予想外の結末を迎える趣向。膝を打った。あとの2篇も、予想だにしない方向へと話が転がり、面白かった。
読了日:06月04日 著者:吉田 健一,牧野 信一,小島 信夫

服従 (河出文庫 ウ 6-3)服従 (河出文庫 ウ 6-3)感想
政局事情は詳しくないなりに。極右政党による政権を避けたいがために、穏健派イスラム政党を選んでしまったフランス。しかし仮に穏健派であっても、基幹となるのはイスラムの教義と世界観であり、個人の自由をなにより重んじるはずのフランス人が、言葉を尽くした思考や議論の末、イスラムの非個人主義の規範を受け入れてしまう脆さは恐ろしい。異教イスラムへの服従、絶対的な神への服従。理想や自由を求め続けるにはエネルギーが要る。日本に置き換えた思考も可能だ。欧米の論理や資本主義に服従し続けるのか。NOを選ぶ胆力は果たしてあるか。
佐藤優のあとがきがこの小説がヨーロッパ人に与えた衝撃や著者の仮定を補足してくれる。「ヨーロッパ人の疲れ」。地続きにあるがゆえに、ヨーロッパの内憂外患に立ち向かい続けるには凄まじいエネルギーが必要なのだと思う。いっこうに一枚岩とはいかないヨーロッパで、人々の内的生命力が衰えているのではないかという恐れは、イスラムの強固さに対比するとき、強く感じられるのだろう。
卑近な例で言えば、欠陥品をゴリ押ししてくる政府に対して、不便を呑んでマイナ保険証をつくらず貫けるのか。歪みのある制度だと知っていて、ふるさと納税の魅力的な返礼品と税制優遇に釣られずにいつづけられるか。思考を停止して、長いものに巻かれてしまえば、楽なのだ。NOと結論したことを、NOと貫くには、「武士は食わねど高楊枝」くらいの、個人的利益を拒める精神力、もっと言えばやせ我慢を保つ必要がある。こういった形の無い主義主張は、弱るとひよるとウェルベックは言っていると思う。さらに貧すれば鈍するものだ。
読了日:06月03日 著者:ミシェル・ウエルベック


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。


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