2019年01月07日
2018年の読書総括
2018年、読んだ本の冊数は151冊。
購入費用176,800円。
積読は現在146冊(うちKindle本51冊)。

高校時代までは、物語ばかり読んでいた。
大学在学中は学術書も読んだが、関心が拡がって自ら掘り返す熱量はなかった。
ここ10年ばかりではないだろうか。
関心が拡がり、問題意識が増え、ゆえに読める本が増えた。
同時に、世界に果てしなく存在する本に対して、焦りを覚えるようになった。
自分一人が一生のうちに読める本は、ほんのひと握りでしかないのだ。
思うように読めていないという気持ちばかり強く、こんなに読んだ実感がない。
今年もジャンルの幅広く、冊数をこなしたいとこっそり決意する。
2019年も良い本に出会えますように。

2018年、ベストというよりは、私に影響を与えた本たち。
読書メーターのページはこちら。
<からだとこころ編>
ナチュラル・ボーン・ヒーローズ 人類が失った“野生”のスキルをめぐる冒険 クリストファー・マクドゥーガル
山と私の対話 (達人の山旅) 志水 哲也 (編集)
遺言。 (新潮新書) 養老 孟司
<日本と日本人編>
歴史に「何を」学ぶのか (ちくまプリマー新書) 半藤 一利
忘れられた日本―沖縄文化論 (1964年) (中央公論社) 岡本 太郎
職業は武装解除 (朝日文庫) 瀬谷ルミ子
<環境自然編>
人間と動物の病気を一緒にみる : 医療を変える汎動物学の発想 バーバラ・N・ホロウィッツ,キャスリン・バウアーズ
外来種は本当に悪者か?: 新しい野生 THE NEW WILD フレッド・ピアス
※ 賛同はしません。
<フィクション編>
日本沈没 決定版【文春e-Books】 小松 左京
ふたご 藤崎 彩織(SEKAI NO OWARI)
購入費用176,800円。
積読は現在146冊(うちKindle本51冊)。

高校時代までは、物語ばかり読んでいた。
大学在学中は学術書も読んだが、関心が拡がって自ら掘り返す熱量はなかった。
ここ10年ばかりではないだろうか。
関心が拡がり、問題意識が増え、ゆえに読める本が増えた。
同時に、世界に果てしなく存在する本に対して、焦りを覚えるようになった。
自分一人が一生のうちに読める本は、ほんのひと握りでしかないのだ。
思うように読めていないという気持ちばかり強く、こんなに読んだ実感がない。
今年もジャンルの幅広く、冊数をこなしたいとこっそり決意する。
2019年も良い本に出会えますように。

2018年、ベストというよりは、私に影響を与えた本たち。
読書メーターのページはこちら。
<からだとこころ編>



<日本と日本人編>



<環境自然編>


※ 賛同はしません。
<フィクション編>


2019年01月07日
2018年12月の記録
国際社会や国のことへの関心は、年々増す一方だ。
時事物のノンフィクションも出来るだけタイムリーに読むようになり、
読んで大いに同意したり、目から鱗が落ちたりするのだが、不思議と、すっと忘れてしまう。
どんどん情勢が変わっていくからかもしれない。
それに加え、本を読んで得られるカタルシスというものは、忘却機能があるらしい。
本質的な部分や、人間や自然のことは、自分の中に知識が蓄積されている実感がある。
そういう本を、どんどん読んでいきたい。
<今月のデータ>
購入14冊、購入費用11,339円。
読了11冊。
積読本146冊(うちKindle本51冊)。

12月の読書メーター
読んだ本の数:11
タイワニーズ 故郷喪失者の物語の感想
台湾にルーツを持つ11人の著名人を取材したノンフィクション。日本、台湾、中国の複雑な歴史と、日本人の排他的無関心に因る彼らの困難、特に故国を喪失させられたことへの贖罪に、著者はこの本を位置づけている。しかし、私はそれは哀感が過ぎると感じた。日本人の民族的独自性、優位性なんてとっくに幻想だ。そして台湾に関しては、二重国籍は少しも異常なことではないと知った。ここに挙がるどの人もパワフルで、その複雑を抱えている故に魅力的だ。もっと知りたい。もっと台湾を好きになりたくなった。武術か観光か、来年は必ず台湾へ行こう。
読了日:12月31日 著者:野嶋 剛
Tomoi (小学館文庫)の感想
聖なる夜、ねぇ。とつぶやいて思い出したのはこの本だった。何度目かの再読。私にとってボーイズラブの延長線上で楽しんだ漫画だし、ドタバタな風味も大好きなんだけど、なんだろうね、このひたひたと胸を満たす透明なものは。純粋な悲しみ。祈り。そんな稀なるものが私の中にもあるんかなぁと思わせてくれる。安易なカタルシスを与えてくれないところがいい。異国の青い空。ただ想像して、TOMOIと共にいつまでも見上げていたい気分だ。
読了日:12月25日 著者:秋里 和国弐
緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」の感想
日本のあるべき民主主義、また国政というものを考える際に、枝野氏の言論は真っ当なものだと私は感じる。個々の政策や、過去の政権運営の失敗は別としてね。テレビも新聞も含め、報道は偏向がかかるし、一部を切り取っても錯誤を生む。こうして全文書き起こしで読めたのが良かった。彼は「事実」の扱いがクリアだ。当国会で立憲民主党は、政府提出法案の8割に賛成、2割は審議協力の上反対した。議員立法の法案が国会に出るまでの流れを、私は理解していなかったので勉強になった。理解したうえでテレビの報道は見ないと、国民はまず誤解してる。
最近の与党を見ていると、「もののけ姫」の乙事主の台詞と猪たちの猛進(盲信?)を頻繁に思い出す。『モロ、わしの一族を見ろ。みんな小さくバカになりつつある』。権力闘争はいつの時代も小汚いものだけれど、やっぱり、昔に比べると、より人間が小さく、より薄汚いほうへ、きな臭いほうへと向かっているんじゃないかな。
読了日:12月23日 著者:解説 上西 充子,解説 田中 信一郎
考具 ―考えるための道具、持っていますか?の感想
「考具」とはアイデアと企画を生み出すための知的道具。プロのアイデアマンになるための"インストラクション"本だった。「注目する視点をいつもと違うジャンルで縛る」ツールであるカラーバスが面白い。スマホカメラとセットで。「強制的にアイデアのヒントを頭から引っ張り出」すツールはマインドマップをはじめ、結局のところは同じ。既に目の前や頭の中にあるアイデアの種を引き出すための道具は、頭の中のリミッターを越える。どれが自分のツールとして性分に合っているかを見極めること。勝手に自分で可能性に蓋をするのはやめ。絞るのは後。
読了日:12月22日 著者:加藤 昌治
山行記 (文春文庫)の感想
楽しみにしていたエッセイはゆったり読もうと、お風呂に持ち込んだ。『きょう一日を生きのびるのは精神ではなくからだなのであり、動物としてのからだは動くのを好むようにできているのであるから、その自然にまかせる』。心の均衡の危うい時期を越えて、南木さんが自身に噛んで含めるように、心とからだの刹那を記し残す文章は、山歩きの素晴らしさを確実に掴んでいて、陶然とする。『ふだんはキーボードをたたいたり、箸で漬物をつまんだりしているだけの指が命を支える』。生きている実感、というのは、私はこれのことだと思う。沁みました。
読了日:12月22日 著者:南木 佳士
センス・オブ・ワンダーを探して ~生命のささやきに耳を澄ます (だいわ文庫)の感想
福岡先生の話している方向はいつもと同じなんだけど、相手が阿川さんってとこと、子供の頃熱中した本の話が目新しい。さて、「なぜ動的平衡の考え方が主流にならないのか」と訊かれた福岡先生の応え。機械論的な考え方のほうが資本主義社会に馴染むから、動的平衡は一般に受け入れられないのだ、と自己分析している。つまり、全ては動的平衡にあり、人間の単純な因果論的作為は無意味と言ってしまっては、資本主義的活動をしている人は儲からないし、お金や労力を費やして満足していた人は不安に陥るでしょうからね。でも、そっちが本当でしょうね。
生物多様性についての福岡先生の動的平衡の見地からの説明。それぞれの生物が営む生で保っていた地球上における動的平衡を人間が一方的に崩した結果、『二酸化炭素のところが滞っ』て発生したのが温暖化ガスの増加である。だから絶滅危惧種を延命することが重要なのではないとのこと。
読了日:12月18日 著者:阿川 佐和子,福岡 伸一
常備菜2の感想
前巻から私の定番になった副菜も多く、気に入っているので、引き続き購入。つくってみたいものの頁の角を折りながら読んでいたのだけど、多すぎるので途中で止めた。定番の食材と持っている調味料でつくれて、しかもシンプルな工程で、日持ちがする。それでこそ常備菜の鑑! なのに少し変わった調味になっていたりして、つくる意欲を喚起してくれる。片っ端からつくるぞ!と思えて、嬉しい。
読了日:12月18日 著者:飛田 和緒
都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)の感想
都市はその経緯がどうであれ、住む者には必然である。この込み入り捩じれた”二重都市”では、見てはいけない建造物や人を見ることも犯罪になる。seeとunsee。景色を真っ直ぐ見通せないことによる不安が人々に色濃い。全てを見てよい立場になった、主人公に訪れる混乱が印象的。一方で、それらの社会規範は無価値と、外国人に言下に否定される。普遍の上に虚構を乗せるのが上手い作家だ。欧州国家は、異質なものが”クロスハッチ”した国家・都市が"クロスハッチ"している。日本だって全てが"トータル"ではないから、私にも感じ取れる。
読了日:12月16日 著者:チャイナ・ミエヴィル
白洲次郎 占領を背負った男 下 (講談社文庫)の感想
「最強のふたり」の著者による白洲次郎の評伝は、吉田茂との強い信頼関係を副題とし、自然と日本の国政を追う形をとる。特に戦後、サンフランシスコ条約締結までの経緯には白洲次郎の水面下の活躍が燦然と輝き、一国が独立してあるということについて考えさせる。白洲次郎と白洲正子、どちらも「粋」を極めた人のような印象を持っていたが、白洲次郎がこれだけ国政に奔走していたところをみても、その「粋」の出所はまったく別のところにあったようだ。ダム工事現場にランドローバーを配置するとか、農作業にカーキのつなぎを着るとか、格好良すぎ。
憲法9条。警察予備隊(自衛隊)。安保条約。再軍備について、経緯や意図を知り、改めて考える。軍を持たず、アメリカの傘の下にも入らない方法は無いのだろうか。理想論を理想と切り捨てず、追及することはできないのだろうか。今の世界情勢は、たぶん機会だ。しかし日本の政財界もアレだから、変革は求めるべくもないのか。
あと、政治家の資質について。安倍家も麻生家も父祖は辣腕で功績を残しているのに、人脈も懐事情も生まれながらに恵まれた立場のはずなのに、なぜ孫はアレなんだろう。白洲次郎は『立場で手に入れただけの権力を自分の能力だと勘違い』する奴に言及していたから、当時からその手の輩はいるのだろうけど。いずれ、このように個々人の挙動や活躍を近接してみてみると、政治家の能力は新聞などでの文面や、恣意的に切り取られた報道映像では、本当のところは見抜けないと理解した。
読了日:12月15日 著者:北 康利
人間と動物の病気を一緒にみる : 医療を変える汎動物学の発想の感想
人間と動物、遠い祖先が同じなら生態に共通点もあるだろう、と理解していると同時に、私たちはどこか別物と決め込んでいるらしい。中でも生物としての危機対応の方法は人間と動物で同じ、と考えた瞬間に開けた視界に驚いた。拒食、失神、身体拘束時の突然死。身体を拘束されることや精神的な圧迫を受けることを命の脅威と感じ、過剰な程の生体反応を見せる症例に、人間は原因不明のショック死や不安障害など個別の名前を付ける。これが生体機能としての抵抗、絶望の意味で動物とどこも違わないなら、そもそもの考え方から変わってしまうではないか。
読了日:12月07日 著者:バーバラ・N・ホロウィッツ,キャスリン・バウアーズ
白洲次郎 占領を背負った男 上 (講談社文庫)の感想
明治から昭和時代の日本国の中心、上流階級の日本人の教養と人脈が育まれた世界にまず感嘆した。白洲次郎と正子の結婚は、著者の描き様もあろうがなんとドラマチックなものだったことか。さて、GHQ占領下の日本。いくら良い教養と高い志を持とうとも、敗戦国は敗戦国の扱いを受ける。人対人、国対国のことが、平時よりも濃密に、水面下に在った。日本側の記録とGHQ側の記録には齟齬がある。今となっては真実は闇の中だが、それでも白洲次郎や近衛、吉田の言い分を信じたいと思わせる人の魅力が、この本をぐいぐい読ませる原動力になっている。
日本国憲法が「GHQの押しつけ」と言われる意味を、恥ずかしながら私は初めて理解した。日本は自国の憲法を自主的に作成することができないようにGHQに追い込まれた、といえるだろう。そしてGHQはどこまでも身勝手な戦勝国アメリカの具現だった。日本は独立したのだ、現代の改憲派の言い分には理がある。私も現憲法を違わず死守すべきとは思わない。しかし、粗忽な現自民党の連中に憲法を弄られることは断じて許さない。激しく嫌悪する。憲法に奇しくも具現した国としての健全さ、白洲次郎の言うプリンシプルを決して理解しない輩だからだ。
読了日:12月04日 著者:北 康利
注:
はKindleで読んだ本。
時事物のノンフィクションも出来るだけタイムリーに読むようになり、
読んで大いに同意したり、目から鱗が落ちたりするのだが、不思議と、すっと忘れてしまう。
どんどん情勢が変わっていくからかもしれない。
それに加え、本を読んで得られるカタルシスというものは、忘却機能があるらしい。
本質的な部分や、人間や自然のことは、自分の中に知識が蓄積されている実感がある。
そういう本を、どんどん読んでいきたい。
<今月のデータ>
購入14冊、購入費用11,339円。
読了11冊。
積読本146冊(うちKindle本51冊)。

12月の読書メーター
読んだ本の数:11

台湾にルーツを持つ11人の著名人を取材したノンフィクション。日本、台湾、中国の複雑な歴史と、日本人の排他的無関心に因る彼らの困難、特に故国を喪失させられたことへの贖罪に、著者はこの本を位置づけている。しかし、私はそれは哀感が過ぎると感じた。日本人の民族的独自性、優位性なんてとっくに幻想だ。そして台湾に関しては、二重国籍は少しも異常なことではないと知った。ここに挙がるどの人もパワフルで、その複雑を抱えている故に魅力的だ。もっと知りたい。もっと台湾を好きになりたくなった。武術か観光か、来年は必ず台湾へ行こう。
読了日:12月31日 著者:野嶋 剛


聖なる夜、ねぇ。とつぶやいて思い出したのはこの本だった。何度目かの再読。私にとってボーイズラブの延長線上で楽しんだ漫画だし、ドタバタな風味も大好きなんだけど、なんだろうね、このひたひたと胸を満たす透明なものは。純粋な悲しみ。祈り。そんな稀なるものが私の中にもあるんかなぁと思わせてくれる。安易なカタルシスを与えてくれないところがいい。異国の青い空。ただ想像して、TOMOIと共にいつまでも見上げていたい気分だ。
読了日:12月25日 著者:秋里 和国弐

日本のあるべき民主主義、また国政というものを考える際に、枝野氏の言論は真っ当なものだと私は感じる。個々の政策や、過去の政権運営の失敗は別としてね。テレビも新聞も含め、報道は偏向がかかるし、一部を切り取っても錯誤を生む。こうして全文書き起こしで読めたのが良かった。彼は「事実」の扱いがクリアだ。当国会で立憲民主党は、政府提出法案の8割に賛成、2割は審議協力の上反対した。議員立法の法案が国会に出るまでの流れを、私は理解していなかったので勉強になった。理解したうえでテレビの報道は見ないと、国民はまず誤解してる。
最近の与党を見ていると、「もののけ姫」の乙事主の台詞と猪たちの猛進(盲信?)を頻繁に思い出す。『モロ、わしの一族を見ろ。みんな小さくバカになりつつある』。権力闘争はいつの時代も小汚いものだけれど、やっぱり、昔に比べると、より人間が小さく、より薄汚いほうへ、きな臭いほうへと向かっているんじゃないかな。
読了日:12月23日 著者:解説 上西 充子,解説 田中 信一郎

「考具」とはアイデアと企画を生み出すための知的道具。プロのアイデアマンになるための"インストラクション"本だった。「注目する視点をいつもと違うジャンルで縛る」ツールであるカラーバスが面白い。スマホカメラとセットで。「強制的にアイデアのヒントを頭から引っ張り出」すツールはマインドマップをはじめ、結局のところは同じ。既に目の前や頭の中にあるアイデアの種を引き出すための道具は、頭の中のリミッターを越える。どれが自分のツールとして性分に合っているかを見極めること。勝手に自分で可能性に蓋をするのはやめ。絞るのは後。
読了日:12月22日 著者:加藤 昌治


楽しみにしていたエッセイはゆったり読もうと、お風呂に持ち込んだ。『きょう一日を生きのびるのは精神ではなくからだなのであり、動物としてのからだは動くのを好むようにできているのであるから、その自然にまかせる』。心の均衡の危うい時期を越えて、南木さんが自身に噛んで含めるように、心とからだの刹那を記し残す文章は、山歩きの素晴らしさを確実に掴んでいて、陶然とする。『ふだんはキーボードをたたいたり、箸で漬物をつまんだりしているだけの指が命を支える』。生きている実感、というのは、私はこれのことだと思う。沁みました。
読了日:12月22日 著者:南木 佳士

福岡先生の話している方向はいつもと同じなんだけど、相手が阿川さんってとこと、子供の頃熱中した本の話が目新しい。さて、「なぜ動的平衡の考え方が主流にならないのか」と訊かれた福岡先生の応え。機械論的な考え方のほうが資本主義社会に馴染むから、動的平衡は一般に受け入れられないのだ、と自己分析している。つまり、全ては動的平衡にあり、人間の単純な因果論的作為は無意味と言ってしまっては、資本主義的活動をしている人は儲からないし、お金や労力を費やして満足していた人は不安に陥るでしょうからね。でも、そっちが本当でしょうね。
生物多様性についての福岡先生の動的平衡の見地からの説明。それぞれの生物が営む生で保っていた地球上における動的平衡を人間が一方的に崩した結果、『二酸化炭素のところが滞っ』て発生したのが温暖化ガスの増加である。だから絶滅危惧種を延命することが重要なのではないとのこと。
読了日:12月18日 著者:阿川 佐和子,福岡 伸一


前巻から私の定番になった副菜も多く、気に入っているので、引き続き購入。つくってみたいものの頁の角を折りながら読んでいたのだけど、多すぎるので途中で止めた。定番の食材と持っている調味料でつくれて、しかもシンプルな工程で、日持ちがする。それでこそ常備菜の鑑! なのに少し変わった調味になっていたりして、つくる意欲を喚起してくれる。片っ端からつくるぞ!と思えて、嬉しい。
読了日:12月18日 著者:飛田 和緒

都市はその経緯がどうであれ、住む者には必然である。この込み入り捩じれた”二重都市”では、見てはいけない建造物や人を見ることも犯罪になる。seeとunsee。景色を真っ直ぐ見通せないことによる不安が人々に色濃い。全てを見てよい立場になった、主人公に訪れる混乱が印象的。一方で、それらの社会規範は無価値と、外国人に言下に否定される。普遍の上に虚構を乗せるのが上手い作家だ。欧州国家は、異質なものが”クロスハッチ”した国家・都市が"クロスハッチ"している。日本だって全てが"トータル"ではないから、私にも感じ取れる。
読了日:12月16日 著者:チャイナ・ミエヴィル

「最強のふたり」の著者による白洲次郎の評伝は、吉田茂との強い信頼関係を副題とし、自然と日本の国政を追う形をとる。特に戦後、サンフランシスコ条約締結までの経緯には白洲次郎の水面下の活躍が燦然と輝き、一国が独立してあるということについて考えさせる。白洲次郎と白洲正子、どちらも「粋」を極めた人のような印象を持っていたが、白洲次郎がこれだけ国政に奔走していたところをみても、その「粋」の出所はまったく別のところにあったようだ。ダム工事現場にランドローバーを配置するとか、農作業にカーキのつなぎを着るとか、格好良すぎ。
憲法9条。警察予備隊(自衛隊)。安保条約。再軍備について、経緯や意図を知り、改めて考える。軍を持たず、アメリカの傘の下にも入らない方法は無いのだろうか。理想論を理想と切り捨てず、追及することはできないのだろうか。今の世界情勢は、たぶん機会だ。しかし日本の政財界もアレだから、変革は求めるべくもないのか。
あと、政治家の資質について。安倍家も麻生家も父祖は辣腕で功績を残しているのに、人脈も懐事情も生まれながらに恵まれた立場のはずなのに、なぜ孫はアレなんだろう。白洲次郎は『立場で手に入れただけの権力を自分の能力だと勘違い』する奴に言及していたから、当時からその手の輩はいるのだろうけど。いずれ、このように個々人の挙動や活躍を近接してみてみると、政治家の能力は新聞などでの文面や、恣意的に切り取られた報道映像では、本当のところは見抜けないと理解した。
読了日:12月15日 著者:北 康利


人間と動物、遠い祖先が同じなら生態に共通点もあるだろう、と理解していると同時に、私たちはどこか別物と決め込んでいるらしい。中でも生物としての危機対応の方法は人間と動物で同じ、と考えた瞬間に開けた視界に驚いた。拒食、失神、身体拘束時の突然死。身体を拘束されることや精神的な圧迫を受けることを命の脅威と感じ、過剰な程の生体反応を見せる症例に、人間は原因不明のショック死や不安障害など個別の名前を付ける。これが生体機能としての抵抗、絶望の意味で動物とどこも違わないなら、そもそもの考え方から変わってしまうではないか。
読了日:12月07日 著者:バーバラ・N・ホロウィッツ,キャスリン・バウアーズ

明治から昭和時代の日本国の中心、上流階級の日本人の教養と人脈が育まれた世界にまず感嘆した。白洲次郎と正子の結婚は、著者の描き様もあろうがなんとドラマチックなものだったことか。さて、GHQ占領下の日本。いくら良い教養と高い志を持とうとも、敗戦国は敗戦国の扱いを受ける。人対人、国対国のことが、平時よりも濃密に、水面下に在った。日本側の記録とGHQ側の記録には齟齬がある。今となっては真実は闇の中だが、それでも白洲次郎や近衛、吉田の言い分を信じたいと思わせる人の魅力が、この本をぐいぐい読ませる原動力になっている。
日本国憲法が「GHQの押しつけ」と言われる意味を、恥ずかしながら私は初めて理解した。日本は自国の憲法を自主的に作成することができないようにGHQに追い込まれた、といえるだろう。そしてGHQはどこまでも身勝手な戦勝国アメリカの具現だった。日本は独立したのだ、現代の改憲派の言い分には理がある。私も現憲法を違わず死守すべきとは思わない。しかし、粗忽な現自民党の連中に憲法を弄られることは断じて許さない。激しく嫌悪する。憲法に奇しくも具現した国としての健全さ、白洲次郎の言うプリンシプルを決して理解しない輩だからだ。
読了日:12月04日 著者:北 康利

注:

2018年12月01日
2018年11月の記録
録り置きのNHK番組「推しボン!」を観ました。
ひとさまの本棚を見て、脳内麻薬が豪快に出ました。
東出君は本棚に並んだ本も端正でした。なのにどこまでも謙虚なコメントに惚れました。
幼い頃の本の記憶があるって、ほんとうに幸せなことです。
<今月のデータ>
購入19冊、購入費用10,680円。
読了9冊。
積読本143冊(うちKindle本49冊)。

11月の読書メーター
読んだ本の数:9
ニワトリ 愛を独り占めにした鳥 (光文社新書)の感想
鶏への愛を標榜しながら、初っ端から日本の養鶏業と食の説明に明け暮れるのはどういう神経か。鶏を性能やコスパで語る時点で愛はない。都合がいいだけだ。大変に胸糞が悪い。鶏の祖先は東南アジアに今も生息するセキショクヤケイ。なぜ他の鳥でなく、鶏が家畜化されたのかというテーマ立ては面白い。しかし「多芸だから」はないだろう。日本における由来も結局曖昧だ。異分野にわたる知識やラテラルな発想力がないから冗長になる。動物福祉の素養もない。専門分野だけの専門書をお書きになればいいのに。研究者への冷遇を訴えたいなら政府へどうぞ。
読了日:11月24日 著者:遠藤秀紀
江戸の備忘録 (文春文庫)の感想
『江戸時代は身分の違いがあって窮屈な時代のように思われるけれども、まことに彩りゆたかな時代であった』。古文書に鼻を突っ込んで何時間でも座り込んでいる姿が目に浮かぶ。朝日新聞の連載らしく、短くも密に詰まった読み物。誰より磯田さんが面白がっている顔が想像できてにやにやしてしまう。明治や大正時代の記録ならば頑張れば読めるが、江戸の民草の記録は、あっても読めないところに断絶がある。それを埋めようと試みる磯田さんは、江戸の記憶も含めて日本の歴史を語れる人だ。日本はずっと昔から途切れなく繋がっていることを感じられる。
読了日:11月20日 著者:磯田 道史
ペテロの葬列 下 (文春文庫)の感想
なんと悲しい結末。金や大切な人や信頼を失って、失った事実を痛烈に思い知らされても、どうしてか人は生きていくことができる。そんな人たちの物語の後に、同じことが主人公にも降りかかるのだ。しかしこちらのほうが性質が悪い、と私は思う。だって彼女はなに不自由ない。痛みを知った人の悪より、痛みを知らない人の悪は、もっと悪いと思う。ぬけぬけと告白する彼女を憎む。彼女を罰したいという私の気持ちは、老人のものと同じだろうか。この物語で私が共感できたのは田中氏だ。都合よく忘れながら、それなりに率直に、ずず黒く生きるのがいい。
読了日:11月20日 著者:宮部 みゆき
ペテロの葬列 上 (文春文庫)の感想
ハイジャック事件はほんの序章にすぎない。しかしこの老人が善人か悪人かを推し量る作業に、私の思考と目は集中していく。あっけない幕切れから、物語は始まるのだ。「火車」を思い出す。ほんとうにごく普通の人々と、金。金、金、金。これまた金銭的な心配の要らない立場故に、程よい距離を保ちながら主人公はミッションを進めていく。宮部みゆきの物語はもちろん、それだけに終始しない。いくつもの伏線が撒かれて、いつもながら帰結点の想像もつかないまま、安心して上巻を読み終えた。
読了日:11月17日 著者:宮部 みゆき
イナンナの冥界下り (コーヒーと一冊)の感想
古い古いシュメールの時代の物語。文字や、心や時間の概念がなかった時代の物語はこんな感じだったらしい。粗筋はシンプルなものだが、文字がないのだから当然人間の声で伝える訳で、同じフレーズの繰り返しは音読に映えたことだろう。能楽の大きな役割である鎮魂とは違っても、その繰り返すフレーズの部分は、特別な意味を語り手と聴き手に与えたと想像する。ルヌガンガで聴いた安田氏の「夢十夜」第三夜は、漱石が能を意識したとはいえ、ぴたりと嵌まって得も言われぬ心の震えを私に与えた。この物語の仕舞もきっとそうだろう。観てみたいものだ。
読了日:11月12日 著者:安田登
世界のシワに夢を見ろ! (小学館文庫)の感想
バス旅行は本を読む時間が確保できてよいのだが、揺られているうちに寝落ちしてしまう。その点、この本は刺激的で寝落ちする間がなく、自称「バカ最長不倒距離」を誇るそうで、吹かないように適度な緊張感を保てて最適だった。さて、先日のクレイジージャーニーで、早稲田大学探検部OBとして高野さんがスタジオに出ていた。現役探検部の、今どきらしい若者が規格外の冒険を当たり前のようにこなす映像も圧巻ながら、高野さんがまともな人間の姿をして座っているのがどうにも奇異に感じられて、つくづく見つめてしまった。人間って凄いよなぁ…。
読了日:11月11日 著者:高野 秀行
目の見えない人は世界をどう見ているのか (光文社新書)の感想
『障害者とは、健常者が使っているものを使わず、健常者が使ってないものを使っている人』と定義し、自身が交流した人たちとの経験からまとめたものだ。使わなくなった視覚野を別の情報処理に使う、他の感覚が鋭くなるなど適応することで、視覚障害者は世界を創っていく。体の使い方の箇所が興味深かった。見えなければ、体の平衡を取ると同時に、周囲を探らなければならない。当然、環境に直接触れる足裏などの感覚は鋭敏になり、同時に環境との一体感が強くなるとは、視覚入力がないからこそだ。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」をやってみたい。
読了日:11月11日 著者:伊藤 亜紗
知らなきゃよかった 予測不能時代の新・情報術 (文春新書)の感想
世界はキナ臭い動きを見せて、それはテレビでは無論、新聞も各紙読み込まなければ粗方も知ることはできない。読み込みのプロである池上氏と佐藤氏の対談だ。例によって"知らなきゃよかった"事は多岐に渡るが、印象強いのはトランプのくだり。「トランプはキリスト教長老派(カルヴァン派)」という要素を佐藤氏が加えたことで、トランプの言動の一部が明快に説明された瞬間は鮮やかだった。『トランプはきっと世のため人のためにいろんなことをしていると思っているんですよ』。欧米やロシア、アラブ諸国の論理を理解する鍵は心理学より神学か。
読了日:11月10日 著者:池上 彰,佐藤 優
日本沈没 決定版【文春e-Books】の感想
風景も人の心も、どこまでも日本的なSF。45年前の小説なのに、まるで数年前の記憶を見ているような、あるいは近未来の現実を見ているような、軽い錯乱を覚えた。『日本はアジアの"アトランティス"になる』。この小説は、私の中の何かをいたく喚起する。これでもかと日本を襲う災害の連鎖、特に四国の、ふるさとの山河が沈み失せることへの無条件のかなしみが溢れ胸が詰まった。私は田所博士と運命を共にしたい。ここから離れて生きる気などどこにもない。大局から名もない千千の思いをも書き込んで、どこをとっても読み応えのある大作だった。
小松左京のご子息が巻末に詳しい解説を書いている。小松左京は阪神大震災、東日本大震災の報道を食い入るように見ていたという。文章も残している。「日本沈没」のベースとなった小松家の伝承や過去の戦争体験、この小説の結末が本人に与えた影響は想像以上に大きかった。東日本大震災は小松左京に大きな衝撃を与えたとあり、数か月後に80歳で亡くなった。毎日小学生新聞に寄せたメッセージは『この危機は必ず乗り越えられる。日本は必ずユートピアを実現できる。日本と日本人を信じている』。
読了日:11月09日 著者:小松 左京
注:
はKindleで読んだ本。
ひとさまの本棚を見て、脳内麻薬が豪快に出ました。
東出君は本棚に並んだ本も端正でした。なのにどこまでも謙虚なコメントに惚れました。
幼い頃の本の記憶があるって、ほんとうに幸せなことです。
<今月のデータ>
購入19冊、購入費用10,680円。
読了9冊。
積読本143冊(うちKindle本49冊)。

11月の読書メーター
読んだ本の数:9

鶏への愛を標榜しながら、初っ端から日本の養鶏業と食の説明に明け暮れるのはどういう神経か。鶏を性能やコスパで語る時点で愛はない。都合がいいだけだ。大変に胸糞が悪い。鶏の祖先は東南アジアに今も生息するセキショクヤケイ。なぜ他の鳥でなく、鶏が家畜化されたのかというテーマ立ては面白い。しかし「多芸だから」はないだろう。日本における由来も結局曖昧だ。異分野にわたる知識やラテラルな発想力がないから冗長になる。動物福祉の素養もない。専門分野だけの専門書をお書きになればいいのに。研究者への冷遇を訴えたいなら政府へどうぞ。
読了日:11月24日 著者:遠藤秀紀


『江戸時代は身分の違いがあって窮屈な時代のように思われるけれども、まことに彩りゆたかな時代であった』。古文書に鼻を突っ込んで何時間でも座り込んでいる姿が目に浮かぶ。朝日新聞の連載らしく、短くも密に詰まった読み物。誰より磯田さんが面白がっている顔が想像できてにやにやしてしまう。明治や大正時代の記録ならば頑張れば読めるが、江戸の民草の記録は、あっても読めないところに断絶がある。それを埋めようと試みる磯田さんは、江戸の記憶も含めて日本の歴史を語れる人だ。日本はずっと昔から途切れなく繋がっていることを感じられる。
読了日:11月20日 著者:磯田 道史


なんと悲しい結末。金や大切な人や信頼を失って、失った事実を痛烈に思い知らされても、どうしてか人は生きていくことができる。そんな人たちの物語の後に、同じことが主人公にも降りかかるのだ。しかしこちらのほうが性質が悪い、と私は思う。だって彼女はなに不自由ない。痛みを知った人の悪より、痛みを知らない人の悪は、もっと悪いと思う。ぬけぬけと告白する彼女を憎む。彼女を罰したいという私の気持ちは、老人のものと同じだろうか。この物語で私が共感できたのは田中氏だ。都合よく忘れながら、それなりに率直に、ずず黒く生きるのがいい。
読了日:11月20日 著者:宮部 みゆき

ハイジャック事件はほんの序章にすぎない。しかしこの老人が善人か悪人かを推し量る作業に、私の思考と目は集中していく。あっけない幕切れから、物語は始まるのだ。「火車」を思い出す。ほんとうにごく普通の人々と、金。金、金、金。これまた金銭的な心配の要らない立場故に、程よい距離を保ちながら主人公はミッションを進めていく。宮部みゆきの物語はもちろん、それだけに終始しない。いくつもの伏線が撒かれて、いつもながら帰結点の想像もつかないまま、安心して上巻を読み終えた。
読了日:11月17日 著者:宮部 みゆき

古い古いシュメールの時代の物語。文字や、心や時間の概念がなかった時代の物語はこんな感じだったらしい。粗筋はシンプルなものだが、文字がないのだから当然人間の声で伝える訳で、同じフレーズの繰り返しは音読に映えたことだろう。能楽の大きな役割である鎮魂とは違っても、その繰り返すフレーズの部分は、特別な意味を語り手と聴き手に与えたと想像する。ルヌガンガで聴いた安田氏の「夢十夜」第三夜は、漱石が能を意識したとはいえ、ぴたりと嵌まって得も言われぬ心の震えを私に与えた。この物語の仕舞もきっとそうだろう。観てみたいものだ。
読了日:11月12日 著者:安田登

バス旅行は本を読む時間が確保できてよいのだが、揺られているうちに寝落ちしてしまう。その点、この本は刺激的で寝落ちする間がなく、自称「バカ最長不倒距離」を誇るそうで、吹かないように適度な緊張感を保てて最適だった。さて、先日のクレイジージャーニーで、早稲田大学探検部OBとして高野さんがスタジオに出ていた。現役探検部の、今どきらしい若者が規格外の冒険を当たり前のようにこなす映像も圧巻ながら、高野さんがまともな人間の姿をして座っているのがどうにも奇異に感じられて、つくづく見つめてしまった。人間って凄いよなぁ…。
読了日:11月11日 著者:高野 秀行


『障害者とは、健常者が使っているものを使わず、健常者が使ってないものを使っている人』と定義し、自身が交流した人たちとの経験からまとめたものだ。使わなくなった視覚野を別の情報処理に使う、他の感覚が鋭くなるなど適応することで、視覚障害者は世界を創っていく。体の使い方の箇所が興味深かった。見えなければ、体の平衡を取ると同時に、周囲を探らなければならない。当然、環境に直接触れる足裏などの感覚は鋭敏になり、同時に環境との一体感が強くなるとは、視覚入力がないからこそだ。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」をやってみたい。
読了日:11月11日 著者:伊藤 亜紗


世界はキナ臭い動きを見せて、それはテレビでは無論、新聞も各紙読み込まなければ粗方も知ることはできない。読み込みのプロである池上氏と佐藤氏の対談だ。例によって"知らなきゃよかった"事は多岐に渡るが、印象強いのはトランプのくだり。「トランプはキリスト教長老派(カルヴァン派)」という要素を佐藤氏が加えたことで、トランプの言動の一部が明快に説明された瞬間は鮮やかだった。『トランプはきっと世のため人のためにいろんなことをしていると思っているんですよ』。欧米やロシア、アラブ諸国の論理を理解する鍵は心理学より神学か。
読了日:11月10日 著者:池上 彰,佐藤 優


風景も人の心も、どこまでも日本的なSF。45年前の小説なのに、まるで数年前の記憶を見ているような、あるいは近未来の現実を見ているような、軽い錯乱を覚えた。『日本はアジアの"アトランティス"になる』。この小説は、私の中の何かをいたく喚起する。これでもかと日本を襲う災害の連鎖、特に四国の、ふるさとの山河が沈み失せることへの無条件のかなしみが溢れ胸が詰まった。私は田所博士と運命を共にしたい。ここから離れて生きる気などどこにもない。大局から名もない千千の思いをも書き込んで、どこをとっても読み応えのある大作だった。
小松左京のご子息が巻末に詳しい解説を書いている。小松左京は阪神大震災、東日本大震災の報道を食い入るように見ていたという。文章も残している。「日本沈没」のベースとなった小松家の伝承や過去の戦争体験、この小説の結末が本人に与えた影響は想像以上に大きかった。東日本大震災は小松左京に大きな衝撃を与えたとあり、数か月後に80歳で亡くなった。毎日小学生新聞に寄せたメッセージは『この危機は必ず乗り越えられる。日本は必ずユートピアを実現できる。日本と日本人を信じている』。
読了日:11月09日 著者:小松 左京

注:

2018年11月06日
犬・猫の引取り及び処分数の分析(香川県・平成29年度)について
毎年掲載しておりました「犬・猫の引取り及び処分数の分析」は、
今回から別のブログに掲載することにしました。
迷子になっています。飼い主さんいませんか?の
犬・猫の引取り及び処分数の分析(香川県・平成29年度)です。
宜しくお願いいたします。
今回から別のブログに掲載することにしました。
迷子になっています。飼い主さんいませんか?の
犬・猫の引取り及び処分数の分析(香川県・平成29年度)です。
宜しくお願いいたします。
2018年11月01日
2018年10月の記録
忙しいと、当然ながら読み終える本は減る。
一方、読む時間が取れないストレスで衝動的に買う本が増える。
すると積読本はあっという間に増えるわけです。
積読本がここまで増えると、特に最近買った本が把握できないらしく、
同じ本を2冊買ってしまう事故が続きました。
消化に努めます。
<今月のデータ>
購入19冊、購入費用21,848円。
読了8冊。
積読本133冊(うちKindle本42冊)。

10月の読書メーター
読んだ本の数:8
怪物はささやくの感想
贅沢な装丁が目を引いた。厳しい家庭環境に置かれた少年。追い討ちをかけるように夜な夜な現れる怪物は何なのか。少年の怒り、その表裏の感情の激しさは、世界を壊すに値する。しかし、だとしたら、怪物の語った物語は、少年にどう与えたのだろう。不条理以外の、冷たい現実を超えた何かを伝えることができたんだろうか。怒っていい、壊してもいい、罰は与えないからと、それは赦しではなく許し。リリーや母の温みをよすがに明日へ向かう少年の姿を想像すると寒々しい。悪夢の訪れる夜といい、少年の心の影の部分といい、モノクロの挿画が似合う。
読了日:10月31日 著者:パトリック・ネス
GRANTA JAPAN with 早稲田文学 03の感想
小説好きには贅沢な一冊だ。若手から中堅の、直木賞級の作家の書き下ろし短編がずらりと並ぶ。それぞれに個性が現れて面白い。小山田浩子と滝口悠生は初読ながら、好みと分かったので追いたい。後半の海外作家の短編が、もっと深く面白く感じるのは年の功だろうか。こちらは既に世界に名だたる作家が並ぶ。知っているのはオルハン・パムク、イーユン・リー、チャイナ・ミエヴィルくらいで、ほか全てに読み応えがある。まさに珠玉。特にミロスラヴ・ペンコヴ、ヨハン・テオリン、イングヴィル・H・リースホイは邦訳を漁るつもりだ。嬉しい悲鳴。
読了日:10月27日 著者:オルハン・パムク,イーユン・リー,ゼイディー・スミス,リュドミラ・ウリツカヤ,チャイナ・ミエヴィル,ミロスラヴ・ペンコヴ,ラッタウット・ラープチャルーンサップ,ヨハン・テオリン,タイナ・ラトヴァラ,イングヴィル・H・リースホイ,川上 未映子,米澤 穂信,村田 沙耶香,西 加奈子,小山田 浩子,松田 青子,津村 記久子,朝井 リョウ,上田 岳弘,温 又柔,滝口 悠生
失われゆく日本: 黒船時代の技法で撮るの感想
様々な分野の文化人と交流する機会を持ち、既に上澄みのような伝統文化から土着の信仰まで、随分ご存知だ。一口に日本文化といっても、土地柄、時代それぞれに在り方があるのが、流行り廃りを繰り返しながら形も変えながら続いてきたとみるべきだ。根がそこにあるとはいえ、縄文を始点、明治以降を断絶とする大枠すぎる捉え方は興味深い一方、こればかりの文章にぶつ切りな印象を与える理由でもある。あと、開国以来、外国人が皆日本文化を絶賛してきたかのような表現、ピューリタン精神と武士道がつながっているという解釈は中々受け入れがたい。
読了日:10月25日 著者:エバレット ケネディ ブラウン
ファーマゲドン 安い肉の本当のコストの感想
この厚さは読む者に覚悟を問う。辛辣な表現への安易な同調は避けたくも、余りに絶望的な現実に途方に暮れる。ファーマゲドンとは、ファーム+ハルマゲドンの造語だ。大戦後、人間は食糧である農畜産物に「効率」を求め、自然との調和や自然への敬意を欠くようになった。結果生まれた工業型農業は搾取の連鎖だ。環境を壊し、動物福祉を損ない、人間の健康を害し奪い、生産効率が下がる実例が並ぶ。“持続可能な集約化” などないとの結論に私も同意する。経済を最優先したシステムは人間も動物も不幸にする。今後必要なのは集約ではなく分散だろう。
日本も例外ではない。スーパーに並ぶ野菜、果物、牛豚鶏、魚の生産と加工の現場には酷い歪みがある。日本の生産者のみならず、世界の環境と貧しい人々から搾取せずに日本の食はもはや成り立っていない。自分に何ができるかという命題は、毎日の食という欠かせない事だけに難しい。さしあたり、コープ自然派は比較的取り組みやすい手段だ。よりよい生産環境の整備、農薬使用の低減や、輸送コストの低減を図ったうえで、生産物のあるべき質の確保と、それらを確認する仕組みがあって初めて、生産に見合う正当な価格を納得して支払うことができる。
著者は英畜産動物福祉団体「コンパッション・イン・ワールド・ファーミング(CIWF)」に所属している。動物愛護を含め、動物福祉を訴える者はなぜ、世間に奇矯な視線や冷笑をもって受け止められがちなのだろう。滑稽に見えるのか、あるいは想像すらしたことがなく、理解が及ばないのか。それでも活動を続けるには、まして国に認めさせるにはどれだけ強い意志が必要か。日本も畜産品に動物福祉の視点を持つよう変わっていかなければならない。それには国ではなく、大きなシェアを持つ企業にメリットを訴える手法が効果的との示唆が興味深かった。
辞書で集約を検索すると【集約農業:一定面積の土地に多量の資本・労働を投下して、土地を高度に利用する農業経営】とある。反対語は【粗放農業:自然力の働きを主とし、資本や労働力を加えることの少ない農業】である。ここにもまた理解の歪みがあるように感じた。なぜ集約の反対が粗放になるのか。
もう一つ。少し前から、投資信託で「環境問題への取組状況を基に」絞り込んだ対象に投資するタイプのものがある。世界には環境問題に取り組んでいると謳い、助成金や投資を受けている企業・団体がたくさんあるが、本書には全くの詐称の企業が出てくる。だとしても、投資した者には確認する術もなければ、環境に貢献していないからと投資先から外すこともできない。これは、環境に配慮するどころか、悪化を助長していることにならないか。本当に環境に配慮する企業・団体を援助したいなら、自分の目で選んでピンポイントで援助するべきだと自戒した。
読了日:10月25日 著者:フィリップ・リンベリー,イザベル・オークショット
野良猫の拾い方の感想
猫を診る獣医は猫の体や病気について知悉している。飼い主は自分が一緒に暮らした猫の性格や癖を知悉している。しかし猫という生き物の生態を知悉しているのは、彼ら猫の保護ボランティアだと私は断言する。今や日本を代表する猫保護ボランティア団体、東京キャットガーディアンの持てる知識の集大成ともいうべき猫のお世話の書だ。猫を保護するのに必要な知識が惜しみなく詰め込まれている。猫を保護するにしても、飼うにしても、これらの知識は決して無駄にならない。ここまで書いた本は猫本コレクターの私でも初めてだった。全力でお勧めします。
動物愛護の世界を深く覗き込むうちに、私は在り得ないユートピアを夢見るようになってしまったようだ。それを、東京CG代表の言葉を読んで痛感した。東京CGの方針はこの現代日本の都会にどこまでも現実的で揺るがない。猫は、もう野生動物にはなれない。人間が「管理」しなければ存続できないと言い切ることで、覚悟と愛を表明している。故に、飼い主の認識の甘さを戒める言葉は厳しい。日本に人間が増えると共に、猫も増えすぎてしまった。その責任は人間が取らねばならない。
読了日:10月22日 著者:東京キャットガーディアン
ヒモトレ革命 繫がるカラダ 動けるカラダの感想
甲野先生が手提げからヒモを取り出すのを見て、存外にヒモトレの効能に関心を持たれていると知った。信じやすい私はともかく、懐疑派の夫まで信じたのだから、効果があるのは間違いない。しかし書店でも際物扱いされるのは、簡単すぎ、思考の介在を否定し、経済的波及効果がないからだろう。ヒモは『自分の体に元々備わっているものを整えるもの』。甲野先生の『出しゃばりなところを黙らせる』という表現が好きだ。私の場合、そもそも頭が出しゃばりで、変に真面目だからいけない。だから自分の感覚を信頼することを覚えるために、ヒモを巻くのだ。
読了日:10月15日 著者:小関勲,甲野善紀
幸田文 どうぶつ帖の感想
中年~晩年頃のエッセイを娘の玉氏が編集した、シリーズの1冊。孫の奈緒氏が後書きを書いており、文さんに似て端正な文体だ。幸田家は露伴が犬をよく飼っていたようで、文さんも犬の扱いは慣れていた。家の雌犬が放し飼いや野良の牡犬と「結婚」しないよう奮闘する様子など、犬の飼い方が変わりつつある時代の様子がわかる。猫の方は得手でないようで苦笑した。動物園好きが意外だった。裏門から出入りするほどお好きで、詳細な観察描写からは樹木を描いたのと同じ熱量を感じた。『めぐしはむごしで、むごしはめぐし』。動物は愛情と酷さを教える。
読了日:10月06日 著者:幸田 文
日本人の身体 (ちくま新書)の感想
今月、お話を拝聴する機会があるので、予備知識として。引用は古今東西の古典からで、身体は手足から始まり内臓や粘膜まであるのだから、とにかく話の間口が広く深い。東洋人にとっての境界とは点や線でなくもっと曖昧な一帯、即ち「あわい」であるなど、興味も尽きない。若い人の型稽古は、からだが強く柔軟な故にうまくないとの指摘に瞠目した。歳を経て、からだが堅くなって初めてあるべき型ができるようになる、それが老成。その為には逆に、若くから稽古を重ね、からだを緩めることを覚え、日本人の身体観を学び醸成することが大事なわけで。
読了日:10月02日 著者:安田 登
注:
はKindleで読んだ本。
一方、読む時間が取れないストレスで衝動的に買う本が増える。
すると積読本はあっという間に増えるわけです。
積読本がここまで増えると、特に最近買った本が把握できないらしく、
同じ本を2冊買ってしまう事故が続きました。
消化に努めます。
<今月のデータ>
購入19冊、購入費用21,848円。
読了8冊。
積読本133冊(うちKindle本42冊)。

10月の読書メーター
読んだ本の数:8

贅沢な装丁が目を引いた。厳しい家庭環境に置かれた少年。追い討ちをかけるように夜な夜な現れる怪物は何なのか。少年の怒り、その表裏の感情の激しさは、世界を壊すに値する。しかし、だとしたら、怪物の語った物語は、少年にどう与えたのだろう。不条理以外の、冷たい現実を超えた何かを伝えることができたんだろうか。怒っていい、壊してもいい、罰は与えないからと、それは赦しではなく許し。リリーや母の温みをよすがに明日へ向かう少年の姿を想像すると寒々しい。悪夢の訪れる夜といい、少年の心の影の部分といい、モノクロの挿画が似合う。
読了日:10月31日 著者:パトリック・ネス

小説好きには贅沢な一冊だ。若手から中堅の、直木賞級の作家の書き下ろし短編がずらりと並ぶ。それぞれに個性が現れて面白い。小山田浩子と滝口悠生は初読ながら、好みと分かったので追いたい。後半の海外作家の短編が、もっと深く面白く感じるのは年の功だろうか。こちらは既に世界に名だたる作家が並ぶ。知っているのはオルハン・パムク、イーユン・リー、チャイナ・ミエヴィルくらいで、ほか全てに読み応えがある。まさに珠玉。特にミロスラヴ・ペンコヴ、ヨハン・テオリン、イングヴィル・H・リースホイは邦訳を漁るつもりだ。嬉しい悲鳴。
読了日:10月27日 著者:オルハン・パムク,イーユン・リー,ゼイディー・スミス,リュドミラ・ウリツカヤ,チャイナ・ミエヴィル,ミロスラヴ・ペンコヴ,ラッタウット・ラープチャルーンサップ,ヨハン・テオリン,タイナ・ラトヴァラ,イングヴィル・H・リースホイ,川上 未映子,米澤 穂信,村田 沙耶香,西 加奈子,小山田 浩子,松田 青子,津村 記久子,朝井 リョウ,上田 岳弘,温 又柔,滝口 悠生

様々な分野の文化人と交流する機会を持ち、既に上澄みのような伝統文化から土着の信仰まで、随分ご存知だ。一口に日本文化といっても、土地柄、時代それぞれに在り方があるのが、流行り廃りを繰り返しながら形も変えながら続いてきたとみるべきだ。根がそこにあるとはいえ、縄文を始点、明治以降を断絶とする大枠すぎる捉え方は興味深い一方、こればかりの文章にぶつ切りな印象を与える理由でもある。あと、開国以来、外国人が皆日本文化を絶賛してきたかのような表現、ピューリタン精神と武士道がつながっているという解釈は中々受け入れがたい。
読了日:10月25日 著者:エバレット ケネディ ブラウン


この厚さは読む者に覚悟を問う。辛辣な表現への安易な同調は避けたくも、余りに絶望的な現実に途方に暮れる。ファーマゲドンとは、ファーム+ハルマゲドンの造語だ。大戦後、人間は食糧である農畜産物に「効率」を求め、自然との調和や自然への敬意を欠くようになった。結果生まれた工業型農業は搾取の連鎖だ。環境を壊し、動物福祉を損ない、人間の健康を害し奪い、生産効率が下がる実例が並ぶ。“持続可能な集約化” などないとの結論に私も同意する。経済を最優先したシステムは人間も動物も不幸にする。今後必要なのは集約ではなく分散だろう。
日本も例外ではない。スーパーに並ぶ野菜、果物、牛豚鶏、魚の生産と加工の現場には酷い歪みがある。日本の生産者のみならず、世界の環境と貧しい人々から搾取せずに日本の食はもはや成り立っていない。自分に何ができるかという命題は、毎日の食という欠かせない事だけに難しい。さしあたり、コープ自然派は比較的取り組みやすい手段だ。よりよい生産環境の整備、農薬使用の低減や、輸送コストの低減を図ったうえで、生産物のあるべき質の確保と、それらを確認する仕組みがあって初めて、生産に見合う正当な価格を納得して支払うことができる。
著者は英畜産動物福祉団体「コンパッション・イン・ワールド・ファーミング(CIWF)」に所属している。動物愛護を含め、動物福祉を訴える者はなぜ、世間に奇矯な視線や冷笑をもって受け止められがちなのだろう。滑稽に見えるのか、あるいは想像すらしたことがなく、理解が及ばないのか。それでも活動を続けるには、まして国に認めさせるにはどれだけ強い意志が必要か。日本も畜産品に動物福祉の視点を持つよう変わっていかなければならない。それには国ではなく、大きなシェアを持つ企業にメリットを訴える手法が効果的との示唆が興味深かった。
辞書で集約を検索すると【集約農業:一定面積の土地に多量の資本・労働を投下して、土地を高度に利用する農業経営】とある。反対語は【粗放農業:自然力の働きを主とし、資本や労働力を加えることの少ない農業】である。ここにもまた理解の歪みがあるように感じた。なぜ集約の反対が粗放になるのか。
もう一つ。少し前から、投資信託で「環境問題への取組状況を基に」絞り込んだ対象に投資するタイプのものがある。世界には環境問題に取り組んでいると謳い、助成金や投資を受けている企業・団体がたくさんあるが、本書には全くの詐称の企業が出てくる。だとしても、投資した者には確認する術もなければ、環境に貢献していないからと投資先から外すこともできない。これは、環境に配慮するどころか、悪化を助長していることにならないか。本当に環境に配慮する企業・団体を援助したいなら、自分の目で選んでピンポイントで援助するべきだと自戒した。
読了日:10月25日 著者:フィリップ・リンベリー,イザベル・オークショット


猫を診る獣医は猫の体や病気について知悉している。飼い主は自分が一緒に暮らした猫の性格や癖を知悉している。しかし猫という生き物の生態を知悉しているのは、彼ら猫の保護ボランティアだと私は断言する。今や日本を代表する猫保護ボランティア団体、東京キャットガーディアンの持てる知識の集大成ともいうべき猫のお世話の書だ。猫を保護するのに必要な知識が惜しみなく詰め込まれている。猫を保護するにしても、飼うにしても、これらの知識は決して無駄にならない。ここまで書いた本は猫本コレクターの私でも初めてだった。全力でお勧めします。
動物愛護の世界を深く覗き込むうちに、私は在り得ないユートピアを夢見るようになってしまったようだ。それを、東京CG代表の言葉を読んで痛感した。東京CGの方針はこの現代日本の都会にどこまでも現実的で揺るがない。猫は、もう野生動物にはなれない。人間が「管理」しなければ存続できないと言い切ることで、覚悟と愛を表明している。故に、飼い主の認識の甘さを戒める言葉は厳しい。日本に人間が増えると共に、猫も増えすぎてしまった。その責任は人間が取らねばならない。
読了日:10月22日 著者:東京キャットガーディアン

甲野先生が手提げからヒモを取り出すのを見て、存外にヒモトレの効能に関心を持たれていると知った。信じやすい私はともかく、懐疑派の夫まで信じたのだから、効果があるのは間違いない。しかし書店でも際物扱いされるのは、簡単すぎ、思考の介在を否定し、経済的波及効果がないからだろう。ヒモは『自分の体に元々備わっているものを整えるもの』。甲野先生の『出しゃばりなところを黙らせる』という表現が好きだ。私の場合、そもそも頭が出しゃばりで、変に真面目だからいけない。だから自分の感覚を信頼することを覚えるために、ヒモを巻くのだ。
読了日:10月15日 著者:小関勲,甲野善紀

中年~晩年頃のエッセイを娘の玉氏が編集した、シリーズの1冊。孫の奈緒氏が後書きを書いており、文さんに似て端正な文体だ。幸田家は露伴が犬をよく飼っていたようで、文さんも犬の扱いは慣れていた。家の雌犬が放し飼いや野良の牡犬と「結婚」しないよう奮闘する様子など、犬の飼い方が変わりつつある時代の様子がわかる。猫の方は得手でないようで苦笑した。動物園好きが意外だった。裏門から出入りするほどお好きで、詳細な観察描写からは樹木を描いたのと同じ熱量を感じた。『めぐしはむごしで、むごしはめぐし』。動物は愛情と酷さを教える。
読了日:10月06日 著者:幸田 文

今月、お話を拝聴する機会があるので、予備知識として。引用は古今東西の古典からで、身体は手足から始まり内臓や粘膜まであるのだから、とにかく話の間口が広く深い。東洋人にとっての境界とは点や線でなくもっと曖昧な一帯、即ち「あわい」であるなど、興味も尽きない。若い人の型稽古は、からだが強く柔軟な故にうまくないとの指摘に瞠目した。歳を経て、からだが堅くなって初めてあるべき型ができるようになる、それが老成。その為には逆に、若くから稽古を重ね、からだを緩めることを覚え、日本人の身体観を学び醸成することが大事なわけで。
読了日:10月02日 著者:安田 登

注:
