< 2025年06月 >
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
オーナーへメッセージ

2022年01月05日

2021年12月の記録

積読は一気に加速して300冊の大台を突破した。
半分は電子書籍になった。

電子書籍の市場が熟成しつつあるということなのか、明らかにセールが増えた。
年末などモグラたたきのようで大変だった。財布が。
新刊では考えられないような値段で"本"が手元に転がり込んでくるので、情報の獲得に怠りないよう毎日PC画面を眺め渡している。

装丁が素敵な本や、電子で読んで手元に置きたいものは本で買い直すが、電子市場が活性化すればするほど本の印刷や装丁にかかるコストは逆に増し、贅沢品になってゆくのだろう。

<今月のデータ>
購入32冊、購入費用36,849円。
読了12冊。
積読本301冊(うちKindle本136冊、Honto本14冊)。


ブック

12月の読書メーター
読んだ本の数:12

エレファントム 象はなぜ遠い記憶を語るのかエレファントム 象はなぜ遠い記憶を語るのか感想
海に臨む象の姿が心に残る。地位ある者も貧しき者も欧米人も現地人も、皆して象を狩った長い時代の果てに南アフリカの今がある。著者はローレンツに教えを乞う機会を得ながら拒み、デズモンド・モリスに師事して動物行動学を学んだ。象を"自然の生んだ大天使"と呼ぶ。その歴史や生態を追ったのは、著者が幼い頃出会った白い象と!カンマの記憶があったからだ。象は遊び、おどけ、怒り、超低周波音や足音を使ってはるか遠くの象と意思疎通する。象のことを理解したいならこちらをお勧めしたい。人間の知らないことはまだまだあるに違いないから。
当然、ワトソン氏も動物園という施設には懐疑的だったが、動物行動学者としてヨハネスブルグ動物園の勤務を引き受けた。そこにいたデライラは、初対面のワトソン氏に食べ物より友情を求め、檻の中で先に逝った同族を悼む儀式を行ない、ライオンとワトソン氏の間に立ちはだかって全身で威嚇する姿を見せる。象の世界の深さを、おおかたの人間は理解どころか、未だ知ってすらいないのだ。現代の動物園は、当時より進化しているだろうか。それとも、現代の動物園の象は、象から象へ伝わる智を受け継ぐ術もなく孤立し、鬱々と過ごしているのだろうか。
読了日:12月28日 著者:ライアル・ワトソン

歌おう、感電するほどの喜びを!〔新版〕 (ハヤカワ文庫 SF フ 16-8)歌おう、感電するほどの喜びを!〔新版〕 (ハヤカワ文庫 SF フ 16-8)感想
ブラッドベリのことは、これからは「SF作家」じゃなくて「稀代のストーリーテラー」と呼ぼう。これらの短編小説は全てがSFではない。しかしどれも冒頭でぐっと掴まれ、どこへ連れていかれるのかとわくわくするものばかりだ。『その穴から、機械油がゆっくりとしたたり落ちる』。たった1文で見える世界が転換する鮮やかさといったらたまらない。短編集にありがちなこととして、私はいつかこの本を読んだことを失念して再度手に取るかもしれない。そうしたらもう一度最初から楽しむことができる。それはもはや祝福されるべき事態だと思うのだ。
読了日:12月27日 著者:レイ・ブラッドベリ ファイル

逃北 つかれたときは北へ逃げます (文春文庫 の 16-6)逃北 つかれたときは北へ逃げます (文春文庫 の 16-6)感想
どこかさびれた場所、観光客の行かない地元民だけの場所、両親や祖母のゆかりの場所。能町さんの逃げる先はいつも北という。私も、北は好きだ。というより、皮膚のすぐ外側を冷えた空気が吹き去っていくその身一つ感、孤独感が落ち着く。南のように、身の内にこもったものが外へ溶け出ていくことなく、自分の中で処理することを強いる、ストイックさを気に入っている。地球の北端に人が暮らす景色を、私も見てみたい。北海道の人が北海道を愛するように、グリーンランドの人はなぜグリーンランドを愛して暮らせないのだろう。あんなに美しいのに…。
読了日:12月25日 著者:能町 みね子 ファイル

週刊東洋経済 2021年9/4特大号[雑誌](すごいベンチャー100 2021年最新版)週刊東洋経済 2021年9/4特大号[雑誌](すごいベンチャー100 2021年最新版)感想
「すごいベンチャー100」特集。いつの間にやら日本のスタートアップ企業の資金調達も、ベンチャーキャピタルや事業会社による投資が大部分を占めるようになり、何億もの資本金を集める企業も散見される。日本にもスタートアップの波が来ていると言えるのだろうか? 海外との比較記事を探してみたい。分野も多岐にわたるが、紹介されているのはデジタルや先端技術を使った技術革新が経済成長や社会貢献につながるというものが多い。経済誌なのでそこが強調されている可能性も想定しておく。トレンドは以前ソーシャルゲーム、今SaaSとのこと。
ある人のある着想が企業の形になり、耳目を集め、資金を集め、人を雇い、動き始める。会社が生まれ、育ち、変異し、あるいは別の流れに合流し、あるいは消えていく、有機的なうねり。それがここに取材されただけでもこんなにあるなんて、眩暈がしそうになった。日本のどこかで起きた動きが、現代ではインターネットを通じて素早く詳しく、私みたいな一般人でも知ることができる、そんな時代なのだなあ。
読了日:12月24日 著者:
季刊環境ビジネス2022年冬号
季刊環境ビジネス2022年冬号感想
至上命題は「環境・社会問題に対応しつつ、事業を成長させる」である。SDG'sを謳った新しい産業=飯のタネ探しに総がかりで血眼だ。WWFのCOP26についての寄稿も弱い。ほんとうに社会のためになる選択の手掛かりを探して、上滑りしがちな目をなだめながら読んだ。電気の自家消費はいずれ必須になるだろう。洋上風力発電が注目を集めているが、国がぶち上げたとおりに成功するとは思えない。発電場所と使用場所の距離がどんどん遠くなる。特集では東京水産振興会長谷理事の寄稿が現状と展望に堂々と釘を刺していて少しだけすっきりした。
読了日:12月21日 著者:

国家を考えてみよう (ちくまプリマー新書)国家を考えてみよう (ちくまプリマー新書)感想
『民主主義国家で、「政治って、どこかで関係ない誰かがやってるんでしょ?」というような声が平気で出て来たら、それはもう衆愚政治です』。国民の国家とは何か。国家主義は何が違うか。若者を念頭において、部活などわかりやすい例えで説く。この国をなんとかしなければならない焦燥感。批判するために論じるのではない。おおもとを理解して、自ずと非に気づき、曲げさせないためだ。末尾に自民党の憲法改正草案に触れる。憲法は権力者を縛って国民を守るものであって、権力者を守って国民を縛るのは憲法ではない。『国家は我々国民のものである』
初めには言葉遊びのように古今東西の「国」を表わす言葉を挙げていく。国の土台が領土か人間かが如実に現れているとは、面白いなあ。国とか藩とか、身分によって見えているものが違うのは外国も似た部分があるようには思うけど。政と暮らしの乖離が日本人のメンタリティに深く影響しているという指摘が興味深い。国の頂点に天皇を頂いたときから綿々と、土地所有や支配の構図にはズレがあり、日本人の「国」に対する感覚は「国家」と結びついていない。自分たちが主体となって国家を動かすということがピンとこない理由、そういうことなのかなと。
読了日:12月21日 著者:橋本 治 ファイル

クレイジーで行こう! グーグルとスタンフォードが認めた男、「水道管」に挑むクレイジーで行こう! グーグルとスタンフォードが認めた男、「水道管」に挑む感想
米国でスタートアップ(=ベンチャー企業)を立ち上げた日本人の奮闘記。同じ"ビジネス"でも受け継いだものと新しく立ち上げるものでは全然違う。なにしろ軍資金が元手にある訳ではなく、顧客との契約を成立させるまでは収入ゼロ、製品づくりも営業活動も、給与も家賃も、投資家から集めた借金からのスタートなのだ。考えただけでひりひりする。氏は事業を磨く作業をルービックキューブに例える。ビジネスの方向性が社会の需要に沿っていて、「光るものがあれば使ってみよう」と考える顧客がいて、企業が伸びていける、そんな社会であってほしい。
読了日:12月08日 著者:加藤 崇 ファイル

同志少女よ、敵を撃て同志少女よ、敵を撃て感想
評判に違わぬ読みごたえ。第二次世界大戦、ソ連の対ドイツ戦線という、日本人には取っつきにくい設定にもかかわらず、現代にも続く普遍的な視点も織り込まれ、読ませる。近しい者も故郷も失ったら、私は死にたいと思う。しかしその瞬間の衝動を逃したら、惰性で生きてしまうのかもしれない。そのうちに後ろ向きなそれを前向きに反転させる怒りや恨み、復讐心を抱いたら、誰かを"守りたい"と思い始めたら、私でも武器を取るのかもしれない。人を敵と呼び、殺すことをも正当化するのかもしれない。非常時、そこには、想像するほど段差は無いのかも。
ジェンダーや慰安婦の問題、民族問題、ソ連から東欧・中央アジアにかけての地政学も、まったく現代に繋がった深いテーマだ。折しも、ロシアがウクライナに侵攻するのではなど報道されている。この文献の多さ、読み捨てのエンタメにはもったいない骨太感だった。いや、すごいもの読みました。今ならアレクシエーヴィッチ「戦争は女の顔をしていない」読めるかもしれん。
読了日:12月06日 著者:逢坂 冬馬 ファイル

猫の學校: 猫と人の快適生活レッスン (ポプラ新書)猫の學校: 猫と人の快適生活レッスン (ポプラ新書)感想
猫がふたりして旅立ってのち、残されたひとりの戸惑いと寂しさは生半可でなく、人間へのもっと一緒にいて!もっと撫でて!の要求が叫びのようになってきた。これはお互い良くないと、腹を括り、新たに猫を迎えることにした。とはいえ、仔猫を迎えるのは13年ぶり。復習のために再読。家の中に猫が1匹か複数かでの違いについての章が、実感として迫る。複数頭いるとくっついて寝たり遊んだりできる以外に、健康面、精神面でも利点が多い。単独だと人間との間に共依存めいた関係が生じるので、やはり複数の関係をつくったほうが良いのだと納得した。
読了日:12月04日 著者:南里 秀子

渦巻ける烏の群渦巻ける烏の群感想
シベリアに駐留する日本軍の話。軍隊の論理、男の論理で動く兵営から少しでも逃れようと、男たちはささやかな食べ物を手土産に携えて、それぞれにロシア人の家に上がり込む。欲しかったのは刺激や性欲が満たされる情事ではなくて家庭の温かさだった、とは、冷えきった地に出征した経験者ならではの実感だろう。中隊は約200人と聞く。表題の意味が察せられた時、白と黒の強烈なコントラストが脳内に想像せられて慄然とする。小豆島に生まれ、また生を終えた作家とは恥ずかしながら知らなかった。青空文庫ではなくまとまった文庫で読んでみたい。
読了日:12月03日 著者:黒島 伝治 ファイル

小豆島小豆島
読了日:12月02日 著者:黒島 伝治 ファイル

ねこのふしぎ話ねこのふしぎ話感想
描かれたのは昭和。人と猫の距離感って、いつの時代もこんな感じなんやろなあ。いるのが当たり前の日々。ちょっとうっとうしい日もある。でも笑えるわけでもない、泣けるわけでもない、ほんの小さなエピソードがとても大事で。でも言葉にしたらやっぱりあまりに些細で、他人には届かなくて。『こんなに 問いかけてくる瞳の奥が 空っぽなわけがないよね』。逝った猫への消えることのない追慕の気持ちも、その気配が家の中に現れるのを心待ちにする気持ちも、この著者なら当たり前のことのように「わかるわ」と言ってくれそうな気がした。
読了日:12月02日 著者:やまだ 紫


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 11:40Comments(0)読書

2021年12月02日

2021年11月の記録

積読本は300冊の大台が見えてきた。
誰かが言っていたとおり、これら積んだ本全てを読み切る日は、私の人生には来ないだろう。
読みたいと思った本は、機会あらば買っておく。
そして読みたいと思ったタイミングで、読む。
その追いかけっこ人生を、これからずっと営んでいくのだなあ。

<今月のデータ>
購入28冊、購入費用26,710円。
読了16冊。
積読本280冊(うちKindle本118冊、Honto本14冊)。


ブック

11月の読書メーター
読んだ本の数:16

無農薬で安心・ラクラク はじめての手づくりオーガニック・ガーデン (PHPビジュアル実用BOOKS)無農薬で安心・ラクラク はじめての手づくりオーガニック・ガーデン (PHPビジュアル実用BOOKS)感想
賃貸に住んで知った。高層階では、ホームセンターで買った土を入れたプランターには草が生えない。虫も蜂も来ない。植えたものがただ大きくなるだけで、芽の出たサツマイモを置いたら軒下の水不足で枯れて後、そのままミイラ化した。いつまで経っても腐らない。私が曳地メソッドの庭に惹かれるのは、樹木と草花があって虫がいて鳥がいて、雑草もすべてが生き生きと共存し循環しているから。庭の維持には大変な労働を伴うだろう。それでも、その繁茂する力に私は焦がれるのだ。この本は木の剪定や雨水タンクにも触れていて、全体が見える感じ。
読了日:11月30日 著者:曳地 トシ,曳地 義治

滅びの園 (幽BOOKS)滅びの園 (幽BOOKS)感想
言っても詮無いことだけれど。なぜ人はそういうふうに生きていくことができないのだろう。誰が誠一を責められようか。確かに想念の異界は、ご都合主義的に金銭的物質的束縛から逃れている。しかし今この世界が生きづらいのは、それだけのせいだろうか。目の前に生きやすい世界があったら、そこで生きたいと願うのは駄目ですか。差し置いて人類全体とやらを考えなきゃ駄目ですか。突入者が異形に見えるのはなぜですか。希望をどこかに見出さなければ生きていけないなら、空に自然に、人と人とのやり取りに。邪なものは白い海に全て呑まれてしまえ。
戦争、テロ、感染症、未知の生物。それらに立ち向かう個々の意志は尊い。自分のことだけじゃない、身近な他者を想う利他が発揮されるから。なのにその母集団がでかくなって一つの到達点を目指すと、強権的な、因果をはき違えた、歪なものになる。AIによる司令という設定が象徴的だ。確かに目的達成のために遠回りや揺らぎはないだろう。それで人類みな幸せになったか。有機物のスープであったかつての地球。プーニーは地球リセットの仕掛けではなかったかと想像したり。ならば《未知なるもの》はノアの箱舟だったか。恒川マジックにやられた。
読了日:11月28日 著者:恒川 光太郎

人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~欧米のモノマネをしようとして全く違うものになり続けた日本の人事制度人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~欧米のモノマネをしようとして全く違うものになり続けた日本の人事制度感想
熱くて理解の進む人事本。私は日本型雇用制度が悪いとは思っていない。むしろ、日米欧の制度を客観視することで、中途半端に輸入した概念を切り分けて、日本の中小企業に最適化したシステムを見通せないかという読みは当たった。わかりやすい。職能vs職務の理解と、企業の持つ性質によるキャリアのタイプ分けで、ずいぶんすっきりした。大企業を念頭におく解説だが、零細企業にもじゅうぶん解釈流用可能だ。年功序列万歳。この考え方があれば、世間の流行りメソッドに振り回される無駄は無くなるだろう。役所の押し付けに惑わされる無駄もまた。
「役職の階段を上がらない正規」は働き方の多様化に向けての一つの解だろう。まあ、零細企業ではそれほど理詰めでなくてもそんな感じになってしまうのだけれど、これを意識化かつ容認する意味は大きいと思う。かつ若くても給料を上げられる、いやむしろ若いうちに給料を上げて生活を設計できる給与体系に変えていくつもりだ。言葉を借りれば『若者に階段を上がらせると、企業が自ずから儲かる』システムづくり。それにはボトムアップ期間と内容、定昇の上限の見定めが重要になってくる。そうすると、どんな年功カーブになるだろうか?
読了日:11月27日 著者:海老原 嗣生

ちいさな王子 (光文社古典新訳文庫)ちいさな王子 (光文社古典新訳文庫)感想
「坊ちゃん」と並んで、私の"どうしても読み終えることができない本"だった「星の王子さま」。光文社古典新薬文庫の甘すぎない翻訳に助けられて、存外にさらりと読み終えてしまった。こういう結末だったのですね。初めて読むなら、中学生の頃かしら。持てる純粋さもすり減ってから読んだのでは、物語に深く潜ろうとするエネルギー量が足りなかったのだと知った。つべこべ解釈もしないほうがいい。『ヒツジは花を食べたか、食べなかったか?』。ふと見上げる夜空に、見えないなにかを探る。そういう存在なのかなと、想像してみたことでした。
読了日:11月27日 著者:サン=テグジュペリ ファイル

泣くなら、ひとり 壇蜜日記3 (文春文庫 た 92-3)泣くなら、ひとり 壇蜜日記3 (文春文庫 た 92-3)感想
もはや自虐芸と呼びたい自虐ぶり。とはいえ、前巻まで全体に漂っていた悲壮感は薄らいでいるように感じられ、歳を重ねて不利になりつつあるはずの業界で、それすら切り返してみせる余裕が出たようにも思える。彼女が何によって稼いでいるかより、短くても情景をありありと想像させる言葉選びの感覚が好きだから、つい読む。今回も切れが良い。初めて短編小説が入った。エッセイと同じトーン、ただ自身の中核にあるものへの自己分析がより剥きだしになっていて、どきりとした。巻末は自筆のあとがき。言葉への感度と文字の整い方は相関しないものか。
読了日:11月26日 著者:壇 蜜 ファイル

やけに植物に詳しい僕の街のスキマ植物図鑑やけに植物に詳しい僕の街のスキマ植物図鑑感想
雑草は人の生活の近くで生きている。というよりは、人の生活の近くで生きるから、これらの植物は「雑草」という不名誉な称号を得たのだ。カラスがスカベンジャーぶりを発揮して嫌われるのと似ているか。あえて厳しい条件の場所で生きることを選んだがゆえに、個性的な生態が人目につく。その場の環境に応じて姿を変えるのを「可塑性」というそうだ。同じ種でも見た目が変わるって、不思議。そしてたくましいなあ。雑草にまつわる本を読むたび、その生存戦略の妙に感心してはもっと憶えたいと思うのだけれど、読んだ冊数のわりに、はかが行かない。
読了日:11月25日 著者:瀬尾 一樹

残したい日本の手仕事 (Discover Japan Books)残したい日本の手仕事 (Discover Japan Books)感想
手仕事の写真を眺めて惚れ惚れするのはもちろん、文章の読みどころも多くて、それぞれの物語の深さに感じ入る。本来はある地域において生活や生業からくる需要があって、身近に手に入る素材によって、用途に合わせたかたちで、「つくる」と「つかう」の循環が成り立っていたものが、需給が崩れたために手仕事そのものが消えていっている。カゴやザル、箕。編組品と括ると知る。無くすには惜しいそれらを繋ぎたい。でもどう使っていいかわからない。かといって家の装飾として飾るのは違うと思う。理解を深めた今をきっかけに、一歩踏み込みたい。
章立ては「○○さんの箕」のように、つくる人があって、その美しい手仕事を紹介するという流れになっている。しかし2015年までの連載の、6年前には既に職人が高齢で、途絶えかけていた手仕事たちは今どうなっているだろうか。国内を旅するたび、店で見かける工芸品は、土地によってその需要や植生が違う以上、素材や形、編み方も違っていたはずなのだ。それを、ああカゴだね、器だねと余りにざっくりした目でしか見ていなかった自分を恥じる。同時に、自分の地元の手仕事の持つ良さをもっとじっくり見たいとも思った。
読了日:11月23日 著者:久野 恵一

ブックセラーズ・ダイアリー:スコットランド最大の古書店の一年ブックセラーズ・ダイアリー:スコットランド最大の古書店の一年感想
書評で知り、店で手に取る。やや厚いので電子本で出ていないか逡巡しつつページをめくると、イーベイで買ったキンドルをショットガンで撃ち抜いた記述に行き当たった。これは電子本は無いなと察し、買って読んだ。その後、撃ち抜いたキンドルは店の壁に掛けられた。この店主が憎むべきは電子本そのものではなく、古書に価値が無いと決めつけ、僅かでも安く本を手に入れようとする客のさもしさや、出品する古本屋を買い叩くアマゾンのビジネスモデルではないか。持ち込んだ本のほとんどが「価値無し」で買い取られんけん、電子本で回避しよんやんか。
『これは奇妙な現象なのだが、うちの店に初めて来たお客さんは、禁じられた領域に立ち入ったと誰かに叱られるのを恐れているみたいに、おずおず歩くことが多い』。私も教養のない有象無象の一人なので、街の古書店(言わずもがな、ブックオフではない)にはいつもアンビバレントな思いを抱いて入る。思いがけない良書との出会いへの期待と、お前にここにある本の価値がわかるかと問われているような畏怖と。そういう客の心の機微がこの店主にはわからないものかな? お客や本を売ろうとしている人を見下す感じ、私も知り合いの古書店主にいるいる。
読了日:11月21日 著者:ショーン・バイセル

山と溪谷 田部重治選集 (ヤマケイ文庫)山と溪谷 田部重治選集 (ヤマケイ文庫)感想
『交通が今日ほど便利でなくて、山の地図が今日よりも不完全であったころ』の登山が最も楽しかったと懐古する。時代は明治から大正。無論、登山道も整備などされておらず、土地の猟師が足跡を幽かに残すだけ。目の前にどのような光景が現れるかわからない楽しみ、山に入れば自由を感じ、何か足りなくてもなんとかなると思える心持ちが清々しい。私が里山歩きを好きなのは、現代では逆に里山の方が手入れが届かず、判断力を試されてわくわくするからかもしれない。一日に50km余も歩けるのは草鞋のおかげ、靴では無理とのこと。草鞋履いてみたい。
読了日:11月19日 著者:田部重治 ファイル

神無き月十番目の夜 (小学館文庫)神無き月十番目の夜 (小学館文庫)感想
これほど引き込まれると判っていたら長く積まなかった。どこにでもありそうな集落の、このような惨い結末は何故かと、新しい事実が明るみに出た端から別の謎が浮かぶ。そして希望が削がれては、あぁ、と嘆息した。守ろうとしただけなのに。秀でた頭目がいなければ、良い自治は成らない。集落に住む者が絶えれば、伝統も信仰も繋がらない。しかし一人の思惑は、他の思惑と反発し、混じり、総意として集落を丸ごと巻き込んでゆく。御田が残ったとて、集落に人を呼んだとて、元どおりにはならない。藤九郎と新月の影。余りに余りに惜しいと思う。
「重い年貢に苦しむ農民」のイメージは、江戸初期、徳川の直轄地におけるものだったと別の本で読んだ。新しい配下への褒賞のため、幕府は各領地に年貢を確保する必要があった。一方、あえて年貢を緩く認められていた地では、徳川配下に下り、ただの米生産マシーンに成り下がることは、生きる糧の搾取であると同時に、土地柄に合うよう練られた伝統や信仰、自治の仕組みの破壊でもあっただろう。取立てが厳しいほど、集落は人の心の豊かさやおおらかさも失う。それでも生き、江戸末期には再び豊かな郷土をつくり上げていた、人間は凄いなと思う。
読了日:11月17日 著者:飯嶋 和一 ファイル

ぼくはお金を使わずに生きることにしたぼくはお金を使わずに生きることにした感想
1年間、お金を使わず、かつ受け取らない生活をする。現代社会の歪みはお金に起因するとし、生活から排除すべきと著者は考えている。フリーエコノミー運動は極端だ。ここまでは無理でも、先進国の人々が皆、幾分かずつ生活をこの方向へ寄せれば、CO2排出量削減などは他愛ない話なのだけど。強要されることなく、ただ自分のために、ただ生きるために、身体を働かせる暮らし。それは時間がかかることだけれど、この上ない達成感であり、余剰を恵みとして満喫することができる。そういうの、幸せって呼ぶのだと思うよ。羨ましいと感じる自分がいる。
物を無償で必要な人に渡し合う仕組み。生きていく上での必要スキルを無料で教え合う仕組み。こういう仕組みが日本には少ない、と思ったけれど、ジモティーのように無料でも使えるものも無いわけではないし、平日なら安価な講習会みたいなのもあるし、もっとローカルな、草の根的には探せばあるのだろうな。フリーエコノミーは必需を安価に済ませるという意味ではない。DIYや手芸も生活を自分で何とかするという意味合いは同じでも、趣味的に、必需でない材料やキットをそのために買わなければならないのでは、フリーエコノミーに反してすらいる。
読了日:11月11日 著者:マーク ボイル ファイル

チェンジング・ブルー――気候変動の謎に迫る (岩波現代文庫)チェンジング・ブルー――気候変動の謎に迫る (岩波現代文庫)感想
氷期から間氷期に気候がシフトした際に、CO2濃度が200から280ppmに増加していた事実について、研究者は『大気中の二酸化炭素やメタンの濃度の変動は、気候変動の「原因」ではなく、気候変動にともなって地球環境中の炭素のサイクルが変化したことによる「結果」だと考えている』という。ではなぜ、現在のCO2濃度が産業革命前より135ppm増加したことが全て人為だとして、それが気候変動の原因と断定するのか。CO2濃度増減と気温の高低は比例関係にあるのか。食らいつくように読んだが、どうにも消化できないのでもう諦める。
おそらく成毛氏の解説が全てなのだろう。『過去一〇〇年間に人類が放出した温室効果ガスが、地球温暖化を引き起こしていると、われわれが証明できないという事実は、さして重要なことではない。むしろ、赤外線を吸収するガスを大気に加えることにより、われわれの気候に対してロシアン・ルーレット5で遊んでいること自体が問題なのだ』。実質的に原油の生産量≒使用量が過去最高である事実を見れば、自ら決めた目標すら達成しそうにない。逆に、"新エネルギーへの転換"という御旗のもと、これまでにも増してエネルギーを消費しているからだ。
読了日:11月10日 著者:大河内 直彦 ファイル

火星に住むつもりです ~二酸化炭素が地球を救う火星に住むつもりです ~二酸化炭素が地球を救う感想
『二酸化炭素は可能性の塊』。CO2の研究に携わる著者は、ずっと温暖化解決と火星移住のことを考えているという。どうやら本気だ。CO2を直接空気回収するための装置「ひやっしー」を開発、さらに回収したCO2を燃料化して運用することを目指している。ゆるふわな装丁に反し、著者の熱量と成果に圧倒される。CO2分子が赤外線を地球外に放出させない原理「共振」をさらりと説明している。CO2は他の気体より『総合的に考えて』影響力が大きいから、CO2を名指しして排出量を削減するべきと考えるのが、現代のコンセンサスなのだな。
「ひやっしー」は既に家庭・オフィス向けに提供されている。特にSDGs圧の掛かる企業には訴求力のあるアイテムだ。「ひやっしー」が拡販されることは「ひやっしー」の能力を高め、研究を推進し、ついには科学技術の発展に資するだろう。ただ、企業にとってそれがグリーンウォッシュにならないかが気にかかる。それを言えば大抵の取組みはグリーンウォッシュなんだけどね。それで温暖化が止められるとは考えづらい。コロナ禍で人間の移動が抑制されたはずなのに、なぜCO2排出量が増えているのか。根本を解決することはもうできないのだろうか。
あと私が理解しきれないのは、よくある「それはもともと空気中にあったCO2だから±ゼロ」という考え方だ。そのCO2は別のプロセスでも計算に入れられていないか。過程で運搬や製造、廃棄処理に係るCO2は計算に入っているのか。机上の空論にならないことを願う。
読了日:11月05日 著者:村木 風海

薬膳サラダごはん薬膳サラダごはん感想
野菜でも豆でもスープにしてしまえば美味しいし温まるしで私は大好きなのだけど、夫はそうではないらしく生に近いサラダを欲しがる。熱で失われる栄養素や、体内の熱を冷ます役割を、本能が求めているのかもと推測したり。ならば薬膳サラダ、一石二鳥ではないですか。ベースとなるシンプルな献立に、プラスアルファの食材(効能)を足せるようになっている。五性、五味、帰経の説明や効能もさらりと書き込まれており、食材の効能覚えるのしんどいわと思っていた私にはちょうどよかった。豆類や木の実、香草などの乾物類は補助に重宝。常備すること。
読了日:11月05日 著者:植木 もも子

人体模型の夜 (集英社文庫)人体模型の夜 (集英社文庫)感想
短編を集めて一体にまとまる趣向。らもさんがまともなホラーなんて珍しい、と読み進めると、じわじわと言いようのない後味の物語になっていく。ホラーとは人の外にある怪異を人が怖がるものと定義できるだろうか。だとするとこれは、それが人の内側に取り込まれてゆく過程と言い換えることができる。身の内に巣くう異形。目、耳、胃袋、膝と人体模型を照らし合わせていくと、パーツが足りないことに気づいてしまう。取り込まれてはいけない。これはきっとらもさんの企みなのだ。「骨喰う調べ」が想像をどーんと越えてきて好き。どんな調べだよそれ。
読了日:11月05日 著者:中島 らも ファイル

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)感想
江戸の気配色濃く残る明治の日本を、多くの外国人が書き残している。近代化以前の辺境国の独特の在りようが、西洋産業文明の流入に伴って喪われる確信あればこそ、外国人は哀惜した。資本主義の進行に伴う西洋人の心の荒廃と相対したゆえに日本人の美徳が目立って見えた点を除いても、貧しくとも悲惨ではない暮らし、底抜けな陽気さと旺盛な好奇心、余分を求めないがために発揮された創意工夫や手工芸の技術は、稀有な到達点だったのだ。現代の私たちは既に西洋人の論理で過去を見、とかく言う。日本礼賛や懐古でなく、別の物差しを取り戻せないか。
大陸生まれの著者にとって、祖国日本は異国であったという。私にとっては故郷、しかしなにもかも江戸から様変わりしてしまった故郷だ。社会装置としての江戸は滅ぶべくして滅んだ。多くの伝統文化は形骸化した。しかし、明治に捨て去られた有形無形の痕跡は、実は江戸から細々とつながって、意味を変えることなく現代に垣間見ることができるのではないかと私は思う。江戸。様々の愛おしいことやものたちのルーツ。私も見てみたかった。復古は無理でも、拾い出して知り、できることなら暮らしに取り入れてみる。それは豊かな生き方ではないだろうか。
ビジネス論としても座右の書としたいくらい、目から鱗だった。近代化以前の日本では、労働は『貨幣化され商品化された苦役』ではなかった。眉間にしわ寄せて効率化を争うような生活ではなかった。自身が働きたいときに、働きたいように働く日々だった。『主体的な生命活動としての労働』を尊重してこそ、皆が陽気に機嫌よく、技能を発揮できた。労働がよろこびであればこそ、創意工夫も生まれる。これは現代の生活にも実は片鱗を見て取れるのではないだろうか。つまり、「機嫌のよい会社」が伸びる論である。それはまだ可能なのではないだろうか。
読了日:11月01日 著者:渡辺 京二 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 14:16Comments(0)読書

2021年11月01日

2021年10月の記録

衆院選の投票を終えて一夜明け、惨憺たる結果を目の当たりにする。
日本はますます生きづらい国になるだろう。
そこに、私が得てきた知識も倫理も、絶望感を助長するばかりだ。
私は何のために本を読んでいるのだろうか。

<今月のデータ>
購入22冊、購入費用23,830円。
読了18冊。
積読本272冊(うちKindle本114冊、Honto本13冊)。

ブック

10月の読書メーター
読んだ本の数:18

崩れ (講談社文庫)崩れ (講談社文庫)感想
文さん72歳、52kg。執着したのは「崩れ」、なんと山崩れと暴れ川である。窮屈なズボンをはき、人に負ぶってもらってでも登り我が目で確かめるのだ。無意識のうちに心に貯めた『ものの種が芽に置きあがる時の力は、土を押し破るほど強い』。文さんの、炎が噴き出るような気性が発揮される。「木」が生命力の象徴であるのに対比し、山崩れは荒涼や麓の命を脅かす存在だ。恐怖に圧倒されながら、崩落の打当たって割れる落石の真新しい断面の美をも瞬間に捉える。文さんの文章は、自身の感性を逃さず、豊かだ。大山の崩れを思い浮かべつつ読んだ。
読了日:10月28日 著者:幸田 文 ファイル

動物園は進化する (ちくまプリマー新書)動物園は進化する (ちくまプリマー新書)感想
動物園でゾウを飼育展示するようになった当初は見世物だったのが、時代と共に動物を通じて自然のしくみを教える、種を保存するなど機能を変えてきた。体が大きいゆえに飼育係の安全問題は喫緊であり、動物福祉も言われる今、変わりつつあるという。しかし繁殖は上手くいっていない。繁殖するためにはゾウが自然体で生きられる環境が必要だ。なのに群れの構造が複雑なゾウの少数飼育やコンクリートと鉄の檻、夜に自由に歩いたり食べたりできないスケジュール、なにより他者の視線など、人間に置き換えれば当たり前のことが動物のことになると難しい。
『ゾウの自然な生活を参考にして、家族群をつくり繁殖させる。そのためには、日々進歩する科学に基づいた飼育方針のもと、古い飼育方法ではなく、ゾウに適した高度な生息環境を整え、これまで無視してきた動物の福祉に配慮する』。その志は尊い。だけれども。
私は動物園の動物を憐憫する子供だったので、そもそも動物園にゾウは必要かとの疑念が消せない。私たちも、飼育に関わる人たちも、ゾウやライオンやが動物園にいる前提で話をする。だけどリアルな映像や情報の溢れる現代に、日本全国に何百もの動物園と100頭余ものゾウをはじめとする大型動物は必要だろうか。環境破壊や密猟がなくならないから動物園で種の保存をという考え方に、私はぞっとする。動物の餌代など"維持コスト"を議論するくらいなら、どのみち"触れあい"とは無縁な動物たちの飼育は諦めようという方向にはならないのだろうか。
読了日:10月25日 著者:川口 幸男,アラン ルークロフト ファイル

彼岸花が咲く島彼岸花が咲く島感想
話し言葉だけではなく、地の文の言葉にも違和感が激しく、なかなか読み進まない。普段使っている母語の機微を、ごく無意識に使い分けていることに改めて気づかされる。芥川賞だから、日本語を"正しく"使っていないといけないという規則はないはずなのに、ならばなぜこの作品が選ばれたのかと神経を鋭くして読んでしまう自分は、嫌な奴だ。さて、拓慈。最も身近な、異なる存在。彼を怖いと感じるのはなぜなのだろう。男だから。無知ゆえの無邪気さをぶつけてくるから。決定的に共有できないものが立ちはだかるから。それは理不尽なことだろうか?
読了日:10月22日 著者:李 琴峰

農家が教える 竹やぶ減らし 2021年 10 月号 [雑誌]: 現代農業 増刊農家が教える 竹やぶ減らし 2021年 10 月号 [雑誌]: 現代農業 増刊感想
際限なく増殖する竹林と人の闘い。苦労されている人には申し訳ないけれど、自然との知恵比べみたいで面白かった。タケノコやメンマで食べて美味しいのも良し、竹チップに粉砕して発酵させ、堆肥化するのも良し。いや好い。専門誌で繰り返し特集されるほど繁殖力の強い竹に困らされても、私たちはまだまだ自分たちの生活に役立てることができるのだ。なかでも、高さ1mで切るだけという、竹の生態を逆手にとった根絶やし方法は、よくぞ見出したと感嘆する。竹やぶはたいてい里との境目でもあるので、イノシシ対策も兼ねた自然との格闘技みたいだな。
読了日:10月21日 著者:

ヤマケイ新書 山を買うヤマケイ新書 山を買う感想
自分の山が欲しいと思っていた頃があって、それは新型コロナやソロキャンの流行より前からなのだけど、それは安易な衝動であろう、と戒めのために読んでみた。さすがヤマケイ。甘くない。ゆるくない。しかしやっぱり欲しくなってしまった。ここに出てくる人々が山を買い求めた目的は様々で、なかでも山を守ることに使命感を見出した人たちへの共感と共振は、固定資産税ぐらい何年でも払ったるわ!という気分にさせる。『荒れた山を美しい里山に戻しながら、楽しむ』。そうだそうだと乗り気になりかける私に、立ちはだかる数多の障害の解説が詳しい。
読了日:10月19日 著者:福崎 剛 ファイル

マイル81 わるい夢たちのバザールI (文春文庫 キ 2-61 わるい夢たちのバザール 1)マイル81 わるい夢たちのバザールI (文春文庫 キ 2-61 わるい夢たちのバザール 1)感想
"カップ"と"取っ手"の湧いて出る泉が健在であることに感謝する。「UR」は以前、原語で読もうとしたことがある。キングの文体を非ネイティヴが読むなど無謀だったと改めて思った。キーボード付Kindleは懐かしく、キングが『ちび助マシン』にわくわくする気配が好ましい。パラドックス警察より怖いのは、文学の研究者にとっては専門の作家の知らない作品が続々出現する事態であり、私にとっては買えども未読の本が並んでいる現実ではないかな。『わしの名前ではない』。「砂丘」の結末は私も大好きだ。しゃれこうべのニヤニヤ笑い最高。
読了日:10月17日 著者:スティーヴン・キング

西日本大震災に備えよ 日本列島大変動の時代 (PHP新書)西日本大震災に備えよ 日本列島大変動の時代 (PHP新書)感想
3.11以降、日本列島は『「大地変動の時代」が始まってしまった』。2030年代に発生が予測されるM9級の南海トラフ巨大地震をはじめ、東日本に再度の大地震、それに誘発される直下型地震。これらの発生は地球科学の分野では既定路線だという。活動周期や地盤の沈下/隆起現象の解析などの具体的な根拠を読み、自分が生きているうちに必ず来ると知り、備えなければならないと思いつつも、正常性バイアスとは厄介なもので、困ったなあ、とただぼやいている。日本人古来のメンタリティなどに思いをはせている場合ではない。備えんか自分。
今の日本列島が置かれた状況は、9世紀の日本に似ているのだという。9世紀は一般人には遠すぎるが、地球科学者には直近。驚嘆。
読了日:10月16日 著者:鎌田 浩毅 ファイル

アメリカ人の4人に1人はトランプが大統領だと信じているアメリカ人の4人に1人はトランプが大統領だと信じている感想
我が家は"あめしる"も欠かさず見る町山ファンなので、たいていの話題は町山さんから既に聞いたものだ。それにしても議事堂占拠は有り得ない事態だった。だからこそバイデン大統領の就任式が、オバマのとは違う意味で胸にずしりときたことを思い出した。さて、富豪たちの宇宙旅行合戦。ウィリアム王子の言うように、今やらないかんことはそれや無いやろ、である。全ての富豪に社会貢献の義務があるわけではない。だったら不労所得には重税をかけて社会に強制還元してもらわねば。Kindleを生んだ功績は多大なれど、ベゾスにはがっかりだ。
読了日:10月16日 著者:町山 智浩 ファイル

武漢日記:封鎖下60日の魂の記録武漢日記:封鎖下60日の魂の記録感想
湖北省武漢市が突如封鎖された、新型コロナ発生ごく初期の60日間の記録。新型コロナの本質的な事象は既にここにある。あと1週間の我慢だ。ワクチンができるまでの我慢だ。初期のそんな心持が今となっては新鮮なほど、あれはほんの始まりでしかなかったと知れる。発生場所が中国であるという一点で、私たちの頭の中にはフィルターがかかった。特殊な国家だからと。この本を読んで感じたのは、著者も著者のまわりの人々も、信じているということ。民主主義ではなくとも、在る秩序。人々との紐帯。善なるものへの信頼。『法治社会』としての中国を。
『政治的公正』の名分のもとに、ネット検閲官によってWeb上の投稿が通告なく削除されるのはよくあることのようだ。それでも諦めず思うことを投稿し、削除を免れたものによって意思を表明し、人々と意思疎通する。削除されることがわかっていても、怒りを表明する。そういう形で、社会は正しくあることができると、信じているようだ。それでも、バルガス=リョサの著作が本屋の棚から消えたことを知り、彼がなにか発言をしたからではないかと推測し、気落ちしている。その先には何が残るのだろう。先日読んだSF、馬伯庸の「沈黙都市」を想う。
読了日:10月15日 著者:方方 ファイル

出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記感想
なぜこの時代に、出版社と翻訳家の契約が書面でなく口頭なのか。そもそもそこに問題があると思うが、それにしても印税カットも出版中止も、出版社の翻しようが酷いのなんの。著者のプライドゆえの災厄とは言いきれず、出版社の大小の問題とも判じきれず、こちらまで出版業界不信になりそう。私の支払った代金は正当に翻訳者に届いているのか。商業主義的と出版社を非難するのは簡単だが、出版不況と言われると、あのしっかりしたつくりの美しいものに正当な対価を払わない読者側の問題も絡む。これからは本を買うのに出版社も選ぶ時代かもしれない。
今年のノーベル文学賞を受賞したグルナ氏の著作は和訳されるのかどうか、翻訳本をつくるには時間がかかる。まず翻訳しなければどのような感触の作品か出版社にもわからないのが、翻訳本の事情のややこしいところだ。今頃、出版社が翻訳家に最短期間で訳せるかせっついているところかもしれない。売れるチャンスなのだから。だけど翻訳本は以前に比べますます売れないのだろう、有名作家の新刊小説でも、地方の書店は置いていないことが多いものなあ。出版物数がやたら多いのも問題だろうし。つい安い本の方を選んじゃうのも問題だろうし。難しい。
読了日:10月10日 著者:宮崎 伸治 ファイル

ゴッホのあしあと (幻冬舎文庫)ゴッホのあしあと (幻冬舎文庫)感想
「たゆたえども沈まず」の副読本と謳ったエッセイ。「たゆたえども~」のどの部分が創作だったか明らかにされていて興味深い。中野京子さんが“爆発し続けた”と表現したゴッホの晩年5年間。その起爆剤はパリと浮世絵だった。ゴッホの絵の奥底にある彼の孤独を探り当て、対象として眺めるんじゃなくて手繰り寄せるような、そんな感受性があるから、原田マハは小説を書けるのだと思った。一方、林忠正が同胞のはずの日本人から国賊呼ばわりされた当人であると知る。私はこちらを手繰ってみたい。
読了日:10月09日 著者:原田マハ

たゆたえども沈まず (幻冬舎文庫)たゆたえども沈まず (幻冬舎文庫)感想
重吉、忠正、テオと登場し、フィンセントが現れて、役者は揃う。フィクションである日本人の、重吉にはテオの心情描写、忠正にはフィンセントの運命示唆が役割として割り振られ、それがしかも対比構造になっている。私は彼らの本当のところを知らないながら、上手いな、面白いなぁ、と思った。中野京子さんの本の続きで言うと、印象派の画家たちは、被写体の心情や立場に関心をもたなかったかもしれないけれど、自身の絵を描きたい情熱には真摯だった。日々食べるものにも事欠きながらも描くことをやめない、やめられない情熱なんて想像もつかない。
読了日:10月09日 著者:原田マハ

聊斎志異の怪 (角川ソフィア文庫)聊斎志異の怪 (角川ソフィア文庫)感想
17世紀中国のあやかし説話集。幽霊が賄賂を贈ったり嫉妬したり、取っ組み合いの喧嘩を始めたりと騒々しく人間臭い。性愛絡みの物語も多く、幽玄という美的感覚が中国にはないのかとぼやいてみるが、思い返せば日本の説話だって似たようなもの。説話は骨組であって、要は想像力の膨らませようか。現に巻末の芥川と太宰が翻案した作品から、原案に肉をつけると物語として違和感がないとわかる。これは彼らの膨らませ方が上手いこともあろうけれども、中国と日本の物語の構造もきっと似ているのだろう。「狐の嫁女」は映像にしたらさぞ美しかろうな。
『これはきみの心だ。きみの作文が下手なのは、きみの心の毛穴がふさがっていたためだから、いま、冥途にある千万の心の中からよいものを一つ選び出して、きみの心と取り替えたのだ。きみの心は取っておいて、不足した冥途の分を補充するのだ』。と閻魔王のとこの判官が主人公のイマイチな文才の改善に便宜を図ってくれる。なんとも人間の願望の透けて見えることよ。さらに奥さんの顔と性根も美しい人のそれと取り替えてくれるという「首のすげかえ」は至れり尽くせり。閻魔王のとこの判官さんは、そんなに退屈しとったのだろうか。
読了日:10月08日 著者:蒲 松齢 ファイル

印象派で「近代」を読む 光のモネから、ゴッホの闇へ (NHK出版新書)印象派で「近代」を読む 光のモネから、ゴッホの闇へ (NHK出版新書)感想
印象派は『何が描かれているかより、どんなふうに描かれているか』を重視する代わり、悲惨も鬱屈も顧みることない、人の心の深みとは切り離された絵画だった。当時の庶民同様、西洋史の教養も無しに眺めていた私に、絵は背景を知って観るのが面白いと中野さんは教えてくれる。ただ楽しむための絵画にも時代背景はある。屋外で描くという行為自体がたいへんな変革だったとか、エッフェル塔は醜いと嫌われたとか、中でも踊り子や上流階級の妻やお針子や、その時代の人々、同時に画家自身の生き方が絵の中に現れていると新たに知って俄然楽しくなる。
読了日:10月07日 著者:中野 京子 ファイル

老いた家 衰えぬ街 住まいを終活する (講談社現代新書)老いた家 衰えぬ街 住まいを終活する (講談社現代新書)感想
全国民を挙げての大ババ抜き大会である。人口が急減を始めるなか、それはもう既に始まっていて、たとえば20年後に処分できそうにない不動産を今買うなどもってのほかで、親や親族の不動産が転がり込んでくる可能性や、近隣が放棄物件で荒廃する可能性を考えれば、無縁でいられない人の方が多そうだ。個人ではどうしようもないケースも考えると、個人を厳罰化しても根本的な解決にはならず、マッチングにせよ近隣需要への橋渡しにせよ、譲渡推進にも早晩限界が出るのではないのかしら。法制面をはじめ、ババをババでなくする仕組みづくりが急務。
町を歩いていて明らかに空き家とわかる物件でも、様々な事情で放置/留置されている事情がある。所有者が施設に入ったなどはこの本にも書かれているが、不動産屋さんと話していると、親族や近隣住民との関係の都合で、堂々と売りに出すことができない様々の問題があるのだそうだ。かといって売れない実家、山林や原野="負動産"にかかる税金などの経費は年々かかり続け、ボディブローのように効いてくるのだから、持ち続けることにも無理がある。いやー、どうすんだこれ。
読了日:10月05日 著者:野澤 千絵 ファイル

猫と住まいの解剖図鑑猫と住まいの解剖図鑑感想
我が家の猫は1匹になってしまったけれど、縁があるなら、また猫を迎えたい。で、猫ズに優しい家を妄想する。猫を優先にして家をつくるのは本末転倒で、人間のための家を設計する中で、猫にも優しい工夫をするべきという前提には同意する。脱走防止に引き戸をつけるなどもよいけれど、今はいろいろな商材が出ていて、爪とぎやキャットウォークはもちろん、壁の漆喰塗りや、窓を開けておくための格子もDIYできるという情報がためになった。和のしつらえも案外大丈夫と知る。障子や襖は貼り直せばよく、畳も爪とぎされそうで実は大丈夫らしい。
読了日:10月03日 著者:いしまるあきこ

「男女格差後進国」の衝撃: 無意識のジェンダー・バイアスを克服する (小学館新書)「男女格差後進国」の衝撃: 無意識のジェンダー・バイアスを克服する (小学館新書)感想
セミナーで紹介された本。以前「女性活躍」と言われると、もやっとした違和感が拭えなかった。余計な意味合いが含蓄されて感じた。ではなく「ジェンダー・ギャップの解消」なら、目的は明瞭で社会の目標として掲げてよいと思う。さて、性別に基づく無意識の決めつけは男性だけでなく女性にもあり、地域差や世代差もある。組織において"女性ならではの"視点をという言い方もそれ自体が決めつけ的なものだが、できることがあるとすれば、「少数派としての体験」を生かして、マイノリティ属性の人の困りそうな状況を察知し、解消を発想することかも。
グローバル・ジェンダー・ギャップ指数(経済分野)の算出根拠は ①女性の労働参加率 ②類似職業の男女賃金格差 ③全体の男女賃金格差 ④管理職に占める女性比率 ⑤総合職・専門職に占める女性比率。家事育児介護の負担をアウトソーシングできる国柄の国の方が指数が高くなる傾向にある。公共サービスとしてアウトソーシングできる北欧の国と同様、新興国・途上国であるアジアやアフリカにも指数が高い国がある。それは、所得の多い家は低所得の女性を雇って家事育児介護をさせることができるので、自分も働きに出られるからであるとのことだ。
読了日:10月02日 著者:治部 れんげ ファイル

これってホントにエコなの?これってホントにエコなの?感想
人間はものを造る。運ぶ。使う。捨てる。それらは地球環境には全て負荷になる。衣食住、毎日毎日の膨大な選択で、負荷を減らせる選択について書いている。関心があっても眩暈がしてくる分量だが、それによって環境負荷を減らすための原則が解ると同時に、より複合的な問題、一律に答えを出せない問いが多い事実も、浮き彫りになっている。つまり選択は程度の問題で、次善の策を取るしかないことも解って、選んでいくしかないのだ。カーボンオフセットは、自力で解決できないから金銭で協力しようという行為。必要だけど、取組として本質的ではない。
自然の中で分解されない化学物質を使った洗剤より、水を余分に使ってでも自然に還る原料を使った洗剤で食器を洗うほうがグリーン。キッチンペーパーを使い捨てするより、水や洗剤を使ってでもふきんを洗濯して繰り返し使う方がグリーン。FSC認証のバージンパルプでつくったトイレットペーパーよりも、再生紙でつくったトイレットペーパーを選ぶほうがグリーン。
読了日:10月01日 著者:ジョージーナ・ウィルソン=パウエル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 13:04Comments(0)読書

2021年10月01日

2021年9月の記録

義母に、「なにか趣味を持ちなさいね」と心配された。
独身時代が長かったぶん、いろんなものに手を出してきたが、
そういえば手を使ってなにかをつくる趣味が今は無いと思い当たる。
無心に、あるいは右脳をつかって手を動かす趣味、手芸とか工芸かな。

読書はだいぶ"網"っぽくなってきた。
ジャンルを詰めて目を細かくするんじゃなく、適度に間隔をあけて、徐々に大きく繋いでいくイメージで。


<今月のデータ>
購入29冊、購入費用31,361円。
読了22冊。
積読本266冊(うちKindle本106冊、Honto本13冊)。


ブック

9月の読書メーター
読んだ本の数:19

讃岐の家づくりを考える本 I think ほんとうに心地よい家のつくり方讃岐の家づくりを考える本 I think ほんとうに心地よい家のつくり方感想
紙づかいが贅沢な雑誌。菅組の哲学が詰まっている。好いなあ、菅組の家。一軒家というと、外界から家族を守るというか、外の環境や他人の目を遮断する意味合いが先に頭に立つ。しかし菅組の設計の考え方は、どんな立地であっても窓で外への抜け感を設定するとか、外の自然とのつながりを大切にしたとかいうものが多い。菅組が西讃の企業だから古き良きの考え方が残っているというのはあるだろうけれど、街中のちっちゃい家でもそこを目指してくれるのであれば、それはそれでお願いしてみたいと思うのだ。写真がもっと大きいとよかったのに。
読了日:09月29日 著者:株式会社菅組

女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち (幻冬舎新書)女たちのポリティクス 台頭する世界の女性政治家たち (幻冬舎新書)感想
ドイツではコール元首相に引き上げられたメルケルが首相になった。そのために意に沿わない選択をしたこともあっただろう。政策を実現するためには自ら権力を掴む。そのために権力を持っている人間に近づく。それは男性の政治家も同じで、政治組織とはそういうものと考えるべきなのだろう。だからといって、政治能力の劣る有力者に唯々諾々と従い、日本人の尊厳を損なう政策をぶち上げてよいということにはならない。上位の座を掴んだ事実ではなく、性別でもなく、政策と能力の良し悪しで政治家は選ばなければ国は劣化する。よって高市は却下。
女性の立ち位置は向上すべきだが、権力の座につくのが誰でもいいとは思わない。男に阿り、あるいは持てる能力を振り回し抜け目なく立ち回って上位の座を掴んだ女性の政治家を、他の男性の政治家よりも評価すべきではない。掲げる政策を実行しようとする一個の政治家として見たい。世界諸国に比べ周回遅れの日本で、「初の女性首相」の称号に何の価値もない。よって高市は却下。
読了日:09月29日 著者:ブレイディ みかこ ファイル

人形浄瑠璃文楽編 曾根崎心中 日本古典文学電子叢書人形浄瑠璃文楽編 曾根崎心中 日本古典文学電子叢書感想
文楽の演目となっている「生玉社前の段」「天満屋の段」「天神森の段」の床本。原作と浄瑠璃は細部で異なり、やや端折られているようだ。聴く方が想像しやすいよう、段の冒頭が場の描写で始まるのは同じ。情景と心情を取り混ぜた風流な語り始めでぐっと引き込む。作者のそういう仕掛けなのだ。もともと話も長くない。響きに重きを置き、余白は浄瑠璃や人形や、観客の想像力が埋める趣向は、なんとも江戸らしくてよいなあ。人形浄瑠璃の「天神森の段」を観る予習としてはちょうどよかった。『そこな九平次の毛虫どの、阿呆口でもおいてたも』。
読了日:09月28日 著者:竹下 介 ファイル

曾根崎心中曾根崎心中感想
お初徳兵衛。私が思い浮かべる曾根崎心中は人形浄瑠璃だ。白く滑らかに整った、一見世間知らずみたいな二人の顔。その頬の表面を涙が流れる。木彫の裏に血潮が流れる。『これが、これが、これが、恋』。角田さんの描く初から、想いが止め処なく溢れて胸が一杯になる。打掛の下に徳兵衛を隠しながら、九平次に啖呵を切る初は見事だ。後世のそしりなど知ったことか。数多の哀しいおんなの、数え切れぬひとだまの、見守る、幸せな初の恋の成就。演目を観る人々は、木彫りの人形の向こうに、真実の魂を見てきたのだろう。その初を、父が遣うので予習に。
読了日:09月27日 著者:角田 光代,近松 門左衛門

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)感想
初ポケットブック判でじっくりと。前書きでケン・リュウに釘を刺されるまでもなく、ここにある物語には中国独自の政治的事情よりも資本主義社会共通の要素が色濃く出ているのを感じた。著者の属する国家や文化によって、創出されるSF世界の明暗やざらつき度合いは違っても、似た予感が伏流している。だからこそ「折りたたみ北京」や「百鬼夜行街」のような、民族性の部分とサイエンスとががっぷり融合する作品が読みたいと思うのだ。ところで中国の幽霊も足が無いらしいんだけど、浮くんじゃなく這って移動するのはスタンダードですか?怖いです。
『世界中の作家と同様、今日の中国の作家たちはヒューマニズムに関心を抱いています。グローバリゼーションに、テクノロジーの発展に、伝統と現代性に、富と権利の格差に、発展と環境保全に、歴史と権利と自由と正義に、家族と愛情に、言葉を通して気持ちを表明する美しさに、言語遊戯に、科学の深淵さに、発見の感動に、生の究極の意味に関心を抱いています』。ケン・リュウ
読了日:09月26日 著者:郝 景芳

災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
国名シリーズの頃より大人の男になったっぽいエラリイ。色気も使えます。ライツヴィルに着いたとき、偽名を使い、犯罪の発生を期待するかのような不審な行動を取るので、ホームズみたいな、常識人から足を踏み外したマニアになったかと心配した。さて災厄の町。悲劇が起きたのは家なのに、「災厄の家」ではなく「災厄の町」である。口さがなく騒ぎ立て、名家の不幸を面白がり、石を投げつける田舎町の人々。もしライツヴィルが良心ある人々の町なら、ライト家の人はこんなに苦しまなくてよかったのに。だけど田舎町ってこういうものよね。余韻苦し。
読了日:09月25日 著者:エラリイ・クイーン ファイル

ヘンな論文 (角川文庫)ヘンな論文 (角川文庫)感想
身近に想像できて、親しみやすい論文の紹介。私は心理学専攻でパーソナルスペースを扱った卒論を書いたので、「カップルの観察」の研究は自分が参加したいくらい興味深い。私の場合、テーマへの関心が先にあったのだが、その辺を扱う教官が大学にいなかったこともあって、ゼミを離れてふらふらしていたら担当教官を得られず、あやうく留年しかけたのだった。拾ってくれた教授は「自由研究よりちょっとマシ」と優しく送り出してくれ、今も感謝している。もし、これという研究室に出会っていたら、研究者になる人生もあったかも…いや、なかったか。
読了日:09月20日 著者:サンキュータツオ ファイル

早く絶版になってほしい #駄言辞典早く絶版になってほしい #駄言辞典感想
日経の企画。セクハラ、パワハラを含め、「駄言」の定義は青野さんの『古い価値観、固定観念に縛られている変われない社会の中で言われている言葉』がしっくりくる。明治や戦後の為政者によって歪められた政策がそのまま現代の無意識に根を下ろしている。これを読んでも、何が問題かわからない人にはわからないようで、ある意味感心する。本人が愚かなだけで悪気はない場合もあろうが、その言葉が相手を傷つけることを重々理解して発せられる意図的なマウンティングの場合もあるので、やはりここは闘っておかないと、未来のためにならないでしょう。
このタイミングで野田聖子。「女性に関する政策しかやらない野田」という自民党内の認識は、どれだけ老齢男性優位の組織かを端的に示す。その中にありながら、政治も家族も諦めず、今なお総裁選に立候補し、女性や子供、弱者のための政策を掲げる野田氏は、自民党の希望だと思う。残念ながら、今後も自民党は変われないだろうとは思うけれど。『60歳になった私の今の存在意義であり役割は、若手の女性たちの「盾」になること』。
読了日:09月20日 著者:

富士山噴火と南海トラフ 海が揺さぶる陸のマグマ (ブルーバックス)富士山噴火と南海トラフ 海が揺さぶる陸のマグマ (ブルーバックス)感想
構造上、巨大地震と火山活動は連動する。そして海溝型の南海トラフ巨大地震は2030年代に起こる可能性が高く、富士山は300年以上噴火していないことからマグマを溜めている可能性が高い…。自分が生きている間に大震災は起きる前提で読んだ。地震による街々の破壊、土砂災害や物流寸断はもちろん、富士山の噴火だって直接の被害は受けなくとも、電子制御されるライフライン破壊や生産活動停滞の影響は全国に及ぶだろう。これまでにも繰り返し受けてきた災害を、今回は日本人のどれだけがどうやって生き抜けるのか、戦慄せずにいられない。
火山噴火が引き起こす災害は、火山灰、溶岩流、噴石、火砕流、泥流、山体崩壊と多様だ。火山灰は物が燃えた灰とは違い、マグマが急冷してできた2mm以下のガラス質の破片であるという事実を、これまで何度も噴火の度に報道されたにもかかわらず、私は初めて知った。土の養分にもならず、こすれば鋭利に傷つける、それは、害でしかない。火山灰だけでも、交通インフラの破壊、人間の健康被害、電子機器の障害、農作物の不作、家畜の死、野生動植物への影響等々甚大なのだ。それが首都圏に流れる…。
読了日:09月18日 著者:鎌田 浩毅 ファイル

時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。感想
小川さんの政治や有権者に対する姿勢、政策をある程度知っている私には、先の新書の方が興味深い。この本がこれほど話題になっているのは、専門家でない著者の、感情混じりのむちゃ振りに対しても真っ向から向き合う、小川さんの対話の姿勢が新鮮だからだろう。現状の問題や考え抜いた政策をどう話せばわかりやすいかと言葉に悩み、説明できていないと思えば自ら謝る。その様子が私たちの中に年々蓄積した、政治家というものへの先入観や諦めを突き崩すからだ。日本をより良く変えていくことを彼が『あきらめそうになるけど、あきらめない』からだ。
『政治は勝った51が、どれだけ残りの49を背負えるかなんです』。
小川さんが人前で泣くのは珍しい事ではない。ただ、これほど国を憂え、日本をより良くすべく奔走する小川さんを見ると、国民としての義務を私は果たしているかと省みるのだ。私は思う。だって変わらんのに。変わろうとせんやんか。小川さんは言う。『選挙は、毎日が砂粒を積み上げていくような感じがして、途方に暮れそうになるんですね。でも、そこで途方に暮れちゃうと、そうじゃない人の勝利なんで、途方に暮れそうなことを認め、でも、途方に暮れないことを決意して、一粒一粒、砂を積み上げることをあきらめない、ということしかないんです』。
読了日:09月16日 著者:和田靜香

ヴィオラ母さん 私を育てた破天荒な母・リョウコヴィオラ母さん 私を育てた破天荒な母・リョウコ感想
マリさんから母リョウコへの愛の言葉。あるいは子育て論。描かれたリョウコの自由さが目立つけれど、金と時間はなくとも、愛情深く、また余計な枷をはめないよう気遣いつつ子供たちを育てた事実が、娘による描写から読み取れる。リョウコがあって今のマリさんがあるように、リョウコがあるのもまたその両親祖父母があってのことだ。大正時代に駐在したアメリカから女の思い出のあるベッドを持って帰る父とか、日がな一日楽器をいじって過ごす祖父とかいたら、私だって、いやそれよりも、知的好奇心や教養を唆す恋人がいたら、人生違ってた気がする。
ヤマザキ家はマリさんの実父をはじめ、たくさんの別れを経験した。別れを致し方のないもの、またしかるべきものと受け止めざるを得なかった経験が、彼女たちの強靭さを育てた。一方で、たとえ地球の裏側でも、一度得た縁はつながり、反永続的に保つことができると知っていることもまた、彼女たちの行動力の源泉となっている。それに引きかえ、私にはそのどちらもが足りないから、ごくごく小さな別れでもめそめそして、会わなくなってしまえばその好意すら信じることができず、SNSにコメントすることすら躊躇う、ちっちゃな人間なのだよなと思う。
読了日:09月15日 著者:ヤマザキマリ

五十八歳、山の家で猫と暮らす五十八歳、山の家で猫と暮らす感想
八ヶ岳南麓の別荘地。なぜメイ・サートンが私の念頭にあったのかわからないが、山での独り暮らしを選び取ったというよりは、家族の思い出のある家が先にあって、ついそこに住むことになった感が強い。メイ・サートンが荒々しい自然に囲まれた我が家で独り、がむしゃらに闘っていたのとはむしろ対照的に、ごくごく日本人的に環境を整え、管理会社やご近所さんとうまく関係を築いているので、独りで不安なこともあるけれど、概ね満ち足りている印象。と言いつつ、私は羨ましいのだ。女独り自由に、小鳥の餌箱や庭について妄想し自ら実行する生活が。
読了日:09月12日 著者:平野 恵理子

センス・オブ・ワンダー (新潮文庫)センス・オブ・ワンダー (新潮文庫)感想
レイチェル・カーソン×川内倫子。小さな驚異にぴたりフォーカスする川内さんの写真はカーソンの文章によく似合っている。忙しない日々の中にあっても、幼い姪に指をしっかと握られ連れまわされている時だけは、私も、彼女の気づきに賛意を表し、自分が得たまた別の気づきを共有することに、時間を充てることができる。子供の目に戻って世界を眺める。この先もそんな時間を得られるといいなとつくづく思う。巻末に福岡ハカセのエッセイがついているのが得した気分である。そう、大人になることは獲得のプロセスではなく、むしろ喪失の物語なのだと。
読了日:09月12日 著者:レイチェル・カーソン

そのうちなんとかなるだろうそのうちなんとかなるだろう感想
内田先生の自伝。著作をいくつか読んでいれば、ああこのエピソードがあの論につながっていくのだなとわかって興味深い。本人の記憶の中の内田少年はだいぶいろいろしでかしている。ちょっと度を過ぎても、空気に許容度があったから、そのうちなんとかなった時代だったのだろうか。今もそうとは、あんまり思えない。『しなければならないことは「苦役」だと思わない』だなんて、主婦(主夫)論を内田先生から聞くとは思わなかった。相手に期待せず、押しつけず、全部自分でやる。余った時間がボーナスとは、わかっちゃいるけどやっぱり釈然としない。
『どうしてやりたいのか、その理由がうまく言えないけど「なんとなくやりたい」ことを選択的にやったほうがいい』
読了日:09月11日 著者:内田樹 ファイル

異類婚姻譚異類婚姻譚感想
怖い。思わず、テレビを見ている夫の顔を窺った。今んとこ大丈夫、かな…。なにかべちゃべちゃしたものが漏れるより、顔が変わっていくほうが怖い。なにもしなくなっていくことが怖い。その変化が、慣れた伴侶に気を許すレベルではなく、人としての崩壊に近づいているようで、一緒に暮らす自分ともども人生の終焉にいるような恐怖を覚える。逆に、私もなにかに悪態をつくようなとき、醜い顔をするだろう。それを見て、俺が結婚したのはこんな女だったかと、内心愕然としているのではないかと想像すると、これもまた怖いし。でも、山芍薬なのよね。
〈犬たち〉に、実は憧れる。守ってくれる家があって、猫たちと自分しかいない世界を想像する。
読了日:09月10日 著者:本谷 有希子 ファイル

本当に君は総理大臣になれないのか (講談社現代新書)本当に君は総理大臣になれないのか (講談社現代新書)感想
小川さんの口調が感じとれるような好著だ。小川さんの来歴と、「日本改革原案」に基づく構想インタビューの二本立て構成。小川さんが総理になった仮定(!)で行なう日本の大改革構想、なかでも「所得税・法人税・相続税課税適正化及び漸次消費税増税・本格的ベーシックインカム・教育社会福祉無償化法案」の存在は圧巻だ。さらには人口減少社会の困難を打破するために、国民自身の当事者意識と責任感覚を呼び覚ますために、その実現に文字通り人生の全てをかける小川さんの覚悟。ああ、余りの律儀さにもう、涙が出てくる。必ずや小選挙区当選を。
真っ直ぐに官僚を目指していた小川さんは、入省しばらくで真実を覚ったという。それぞれの省庁には全体観がない。官僚は、自分が所属する組織の部分利益と、自身の利益だけを追求する。だから、自分の担う仕事や、所属する組織の意義を疑い、廃止を求める事態はありえない。国益は二の次だと。だから、政治家が全体の構図を描いて決めなければならないのだと。森友・加計問題や「桜を見る会」を巡る問題。そこに、"政権の悪意を成立させてしまう知恵を官僚が提供している"構図があると小川さんは指摘しており、まさに目から鱗が落ちた気分だ。
小川さんは先日も自転車(!)でうちの会社に立ち寄り、新型コロナ等で今お困りのことはないですかと近況を尋ねてくださった。ついこないだテレビの討論番組に出ていたはずなのに、いつもながら、体が幾つあるのだろう。小川さんの熱意に接するといつも、日本の未来を諦めそうになっていた自分を恥ずかしいと思う。そしり記事を身内の新聞に書かせて本人は地元に影も形もないどこぞの悪徳ヅラ恫喝議員とは器が違う。この本の中で絶版と書かれた「日本改革原案」は加筆アップデートされた内容でKindle化されています。読みたかった方はぜひ!
読了日:09月09日 著者:小川 淳也,中原 一歩 ファイル

ユーコン川を筏で下るユーコン川を筏で下る感想
野田さんはプロ・カヌーイストという肩書になるのか。カヌーでもなく筏を漕ぎ、ユーコンを下る。モーター付きのボートだと退屈で死にそうになるので、自力で漕ぐほうが正解らしい。椎名さんが、みんなでわいわい楽しげな場面に焦点を当てるのに対して、野田さんの描写はどこか静謐で、ぼんやり読んでいると独りと2頭が筏旅をして、他のカヌーイストや住民に邂逅しているように感じるくらいだ。実際は8人と2頭である。日本の川は無駄なダム&橋工事で分断されているうえに、難癖つけられたり通報されたりするとか。さもありなん。嫌な国だねえ。
読了日:09月07日 著者:野田 知佑

かぐわしき植物たちの秘密 香りとヒトの科学かぐわしき植物たちの秘密 香りとヒトの科学感想
学名、和名の意味と由来。その植物にまつわる種々のエピソード。それぞれの香りが持つ効果について、研究結果などを挙げてさらりと説明してくれる。あれらのかぐわしい香りを成分に分解して説明されるのは興ざめだけど、古来漢方や習俗で用いる植物の効能が、進行形の研究により続々と裏打ちされていることを知ってはその先人の知恵に舌を巻く。今、私たちはマスクで様々な匂いからも隔離されている。ふくいくとした好ましい匂いのあれやこれやを、ゆったりと心ゆくまで楽しむ時間を、心がけて確保したい。備忘:歯が痛いときにはサンショウを噛む。
読了日:09月07日 著者:田中 修,丹治 邦和 ファイル

移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活 (講談社文庫)移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活 (講談社文庫)感想
日本が単一民族で構成されていると自認(誤認)していることにより、3代程度遡っても皆日本生まれ日本育ち日本国籍日本話者である人々の「日本人」認識はとても狭義になっている。外国馴れしている高野さんでも、その人のルーツに沿って物事を説明しようとすると行き詰ってしまうくらいの複雑さを持った人たち。フランスやブラジルのような「他民族多人種の移民国家」で育った人が言うように、生活する中でなにか概念を共有する人=同胞のほうが楽だ。国家によって区別されるアイデンティティなんて、薄い方が自他ともに生きやすいに決まっている。
加えて、障害を持たない、性的指向もマジョリティ側である、など枷を足しこんでいけば、そりゃ狭量になるに決まっている。とりあえず"同じな見た目"にするよう制度設計された日本の義務教育の中で、「多様性」の認識が育つわけがないわな多様性の芽をとことん矯めておきながら「多様性を尊重」もないもんだ。とパラリンピックを見ながら思ったのだった。「感動をもらう」ためにオリパラを観るとか、敢えて多様に見えるよう人選をしたのが透けて見えるとかって気持ち悪いけれど、パラリンピックの閉会式のパフォーマンスはなかなか好かったな。
読了日:09月06日 著者:高野 秀行 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 14:35Comments(0)読書

2021年09月01日

2021年8月の記録

弱り目に祟り目と言うけれど。
猫たちのことで睡眠や食事が不規則になり、また亡くなってからは日々突発的に涙目になるような生活をしていればそれは難を呼び込んでいるようなもので、不注意から足の指を骨折してしまった。



動けないから盆休みもステイホーム、まん延防止なんたらのために体育館での練習も休止。
ならば在宅で読み放題といきたくも、体を動かさず活字だけを頭に流し込めば今度はメンタルが調子を崩すのは必至。
倦怠感が酷く、自分を騙すために酒を呑みながら食事をつくれば呑み過ぎて記憶を飛ばす始末。
わかっている。わかっている。でも悪循環が止まらない。

<今月のデータ>
購入12冊、購入費用11,846円。
読了14冊。
積読本262冊(うちKindle本105冊、Honto本18冊)。


ブック

8月の読書メーター
読んだ本の数:14

雑草と楽しむ庭づくりーオーガニック・ガーデン・ハンドブック雑草と楽しむ庭づくりーオーガニック・ガーデン・ハンドブック感想
雑草の上手な残しかた。ちょっとした雑草の図鑑で、見たことのある雑草がたくさん載っていて楽しい。処し方も知れば選択肢は増えるもので、人や車が通る箇所はまめに踏む&抜く、残りの余白は地上5cmの高さで刈る&抜くというのが私の夢想。一定の高さで刈っているとその高さで花実がつくようになるとは別の本で読んだけれど、5cmの高さだと雑草の生長が最も遅くなるという著者の経験則にも驚く。2週間ごとに刈るのは大変でも、刈った匂いは良いのではと想像したり。まあ、実際に管理すべき庭ができたらたちまち音を上げそうだけれどね。
読了日:08月29日 著者:ひきちガーデンサービス,曳地トシ,曳地義治

アーネスト・サトウの明治日本山岳記 (講談社学術文庫)アーネスト・サトウの明治日本山岳記 (講談社学術文庫)感想
日本駐在中の山旅の記録。外国人にとってのガイドを目指した記録ようの文章と、旅日記ようの文章が収録されている。当時から登山道や山小屋、茶屋というものはあって、それは日本人にとっては、生計の必需を除けば、参拝、修験、湯治などの目的があって山に登ったのだろうから、著者のような現代的な登山、登山のための登山は珍しかったのではないだろうか。案内に雇った地元の若者が見事な愚図馬鹿三人組で、それが地質学や動植物学の知識、山歩きの技術にも長けた著者を馬鹿にした態度を取ったとあっては、さぞ腹立たしかっただろうと苦笑した。
読了日:08月28日 著者:アーネスト・メイスン・サトウ ファイル

コモンの再生コモンの再生感想
GQのQ&A式トーク書き起こし連載。2016年から2020年までで触れられた東京五輪の失敗も、新型コロナのパンデミックも、まさかこのようなことになるとは、と嘆息するしかない。さてベーシック・インカムについてのトピック。ベーシック・インカムが奏功するためには、社会が開放的で流動的である必要があると内田先生は説く。裕福に暮らすには足りない程度の収入が国から支払われるとして、日本人はどのくらいそれを堂々と受け取り、自らの価値を貶めず、利他的になることができるのだろう。私の今までの想像は楽観に過ぎたのか。
読了日:08月26日 著者:内田 樹 ファイル

ロビンソンの末裔 (角川文庫)ロビンソンの末裔 (角川文庫)感想
ロビンソンとはクルーソーだろうか。終戦前夜、陸軍の甘言に騙されて、東京の困窮した人々が北海道へ渡る。身一つで"カイタクさん"となり、不毛の農地で生き抜いた人を漂着者になぞらえたと読んだ。上野駅構内や、北へ向かう列車の中にむせ返る臭いもさながら、北海道の風吹きすさぶ地でも、建てた拝み小屋の床に漂い始める人間の痕跡は、開高健ならではの描写だ。あと忘れてはならないのは食べ物の描写への執着。飢えた記憶がこれを書かせたかと思うほどで、冒頭の、北海道で待つはずの垂涎の味覚と、連日のスイトンの落差たるやもう呪いである。
読了日:08月22日 著者:開高 健 ファイル

中国はここにある中国はここにある感想
原題「中国在梁庄」。著者は居住している北京から、故郷河南省鄧州市の農村へ里帰りし、研究の一環として村の人々に聴き取りをする。3つの時代が対比的だ。1960年頃、家族が餓死することが珍しくなかった時代を経て、美しい自然の中で貧しいながらも作物を育て、宗族が協力して生きた時代、そして現金収入を得るために一家離散し、人とのつながりや文化が分断する現代。著者が典型的な農民、表情の乏しさと呼ぶものが、彼らが致し方ない辛苦をやり過ごす力、裏返せば生命力の表れであると考えることができるものか、じっくり反芻してみたい。
中国国内の出稼ぎは、日本の単身赴任とは違う。日本の都市部のフリーターに似ているが、結婚していたとしても子供を育てる余裕も預ける余裕もなく、故郷の祖父母のもとに残す。余程教育か技能が無ければ地方都市の建築現場、アクセサリー工場、高温のプラスチック工場、鋳造工場など、劣悪な環境下で働く。都市で働いたとしても最下層、誇りはくじかれていく。父母や子供に会えるのは年に数日。それでも現金を貯めれば故郷に家を建てられるあたり、日本のフリーターよりは希望が持てるぶんマシかと考えてみると、げんなりした。
中国の農村の、垣間見る彼らの論理や習俗はそういうことだったのかと興味深い。火葬を厭う人々に火葬を押しつけることで生じる葛藤や、身内を優遇したり、意に沿わない者を組織的に村八分にするやり方は既視感がある。一見貧しい、昔ながらの風俗や習慣を否定するように、コンクリートや洋風の街づくりを性急に進めることで、その実、良かったものまで振り捨てていく様子は、江戸から明治に変わった時代に日本で起きたことと似ていはしないか。社会が変化したとて民族の根は変わらない、それは中国でも日本でも同じだろう。
読了日:08月21日 著者:梁 鴻 ファイル

本の雑誌459号2021年9月号本の雑誌459号2021年9月号感想
海外ノンフィクション特集が良いと高野秀行氏がツイートしていたので。知っている本が多くて意外なのもそのはずで、普段HONZルートと高野/内澤/宮田ルートの両方から情報収集をしているからだ。読みたいと思った本は私がノンフィクションに手を出す以前のもの。ノンフィクションはハードカバーが多く、また電子書籍化しない出版社から出ることも多く、文庫化/Kindle化されることがないまま絶版になってしまうものが大半だ。古書で探して買うか、これ以上積むのか、しかし今買っておかなければ読めなくなるかもしれない焦燥感で一杯。
読了日:08月16日 著者:

追想五断章 (集英社文庫)追想五断章 (集英社文庫)感想
プロローグがとかく不穏で、これが某古書店ものラノベシリーズのような展開にならないであろう見当はつくのだが、まあどの景色も暗くて気が滅入る。芳光にも、これっぽっちの報酬への渇望よりも、どこか脱出口を求める気持ちの方が共感できそう。リドルストーリーの仕掛けに疑義が浮上した時点で、得心と、もっと陰惨な展開への覚悟をしたのだけれど、それは私の欲であったのかもしれない。結論、父は可南子を愛していた。可南子はそれだけで十分とするべきで、芳光の家族はなんとか繕っていかねばならないのが読後のすっきりしないところだ。
読了日:08月13日 著者:米澤 穂信 ファイル

サバイバル!―人はズルなしで生きられるのか (ちくま新書)サバイバル!―人はズルなしで生きられるのか (ちくま新書)感想
服部氏は「ズルなしで生きる」を日々体現しようとしている。能力より道具が山頂到達の成否を左右する現代登山への疑念から、サバイバル登山へ。つまり余計な文明的道具は使わない!と宣言しつつ、最新の素材だったりズルして小屋に入ったり嘘の計画書を提出したりと、笑い呆れても憎めないのは人柄。そこまででも並々ならぬ行動力なのだから、目くじらを立てるべきではないだろう。我が道を行ってしまっているくせに他人から言われたことに繊細に傷ついたり、馬鹿正直に内面を吐露してしまったりも微笑ましく。青海から上高地。雷鳥のくだりが好き。
『遭難しに行って、遭難せずに帰ってくるのが登山です』。
読了日:08月12日 著者:服部 文祥 ファイル

オオカミの生き方オオカミの生き方感想
多作にもかかわらず翻訳された作品がなく、偶然出会えたのは「葉っぱの坑夫」さんのおかげ。アメリカ北部の豊かな自然の中、動物の跡をそっと追跡して観察するやりかたで、シンリンオオカミの生態を描いている。『事実は明快だが、動機は確かではない』と、行動理由の推測は控えめだが、行動は雄弁である。オオカミは必要以上に狩らず、必要以上に食べず、仲間や他の動物と争うどころか、分け与える行動を見せる。社会性と協調性は人間以上じゃないか。自宅の庭先で小動物や鳥を観察する「鳥たちの食卓」も優しく好い読み心地。もっと読みたいな。
読了日:08月11日 著者:ウィリアム・ロング,大竹英洋 ファイル

江戸問答 (岩波新書 新赤版 1863)江戸問答 (岩波新書 新赤版 1863)感想
江戸と明治の間には断絶がある。西洋の流儀を知った時に、日本人は自前の文化に倦んでばっさり捨てたのだと言う人があったが、いずれにしても江戸に栄えた文化の様相を、私たちは断片的な知識とイメージでしか知らないという事実をお二人の対話から知る。人々は趣味や行事の集まりごとにいくつも参加し、人や情報の繋がりが縦横無尽だった時代。多層的な知が変異し深化し、その多様さが経済的な活性化にもつながっていた豊かな時代。それが連綿と現代に通じていることを私も実感したいので、私なりの好奇心で江戸のことをもっと知ることにする。
明治の時代、日本人は日本のことを欧米に紹介する際、武士道など欧米の価値観に迎合する日本像を描いて提示し、遊びやいい加減さ、言語化されない部分を半意識的に省いた。すると今度は逆に、欧米に認識された日本像に合致するように、人々が行動と思考の様式を変え始めた。それが断絶の真実であるという考え方は、ひとつ納得できるように思う。
読了日:08月09日 著者:田中 優子,松岡 正剛

地雷を踏んだらサヨウナラ (講談社文庫)地雷を踏んだらサヨウナラ (講談社文庫)感想
一ノ瀬泰造、24歳。『いい写真にならなかったけど、一生懸命に走り回り、おそろしい、充実した日だったから酔いたいのサ』。基本的に陽気。さっき一緒に遊んだ子供が撃たれて死んだり、自分の膝の肉が抉られたり、それは決して生易しい状況ではない。写真が好きである/写真で食っていきたいという若々しい情熱と、当時のカンボジアの、生活と戦争がごた混ぜな異様が、ちぐはぐで飲み込めないまま、一ノ瀬泰造はアンコールワットへの憧れを募らせていった。最期、クメール・ルージュに捕まったときも、彼は相変わらず彼らしくふるまったのだろう。
読了日:08月08日 著者:一ノ瀬 泰造 ファイル

地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題感想
基本的に気象学から解説する日本の雪の話。さて、地球温暖化による気候変動と異常気象(30年に一度級)は別物である。ということは、近年頻発する酷暑や豪雨はもはや異常気象ではなく、常態と言わねば。雪について言えば、気温上昇に伴ってひと冬に降る雪の総量は減るが、気温が上昇して海から水蒸気化する水分量が増える分、寒い地方の雪の量は増え、ドカ雪被害も常態化しそうだ。他にも、北極海の海氷が減ると海から熱と水蒸気が大気に供給され、大気の流れが変わることで、日本に寒気が流れ込んで寒くなる現象もあるとか、想像どおりでない。
読了日:08月07日 著者:川瀬 宏明 ファイル

イグアノドンの唄 ——大人のための童話——イグアノドンの唄 ——大人のための童話——感想
終戦直後、雪に閉ざされた食糧難の疎開地の夜、著者はドイルの「ロスト・ワールド」を子供たちに読み聞かせる。子供たちは大いに物語を楽しむ。子供のひとりは栄養失調のためにその後急死してしまうが、他のひとりは長じて自分で読み耽っているのを、著者は見守る。希望ある物語は生きている者の中で育まれ、もう世界のなにもかもを人類は知っているかのような気でいる世界に、誰も知らないことを発見する原動力になるのかもしれない。科学者である著者のそんな願いが感じられる。『それでよいのだ、生きる者はどんどん育つ方がよいのだ』。
読了日:08月03日 著者:中谷 宇吉郎 ファイル

オーストリア滞在記 (幻冬舎文庫)オーストリア滞在記 (幻冬舎文庫)感想
新型コロナにより各国の入出国制限がかかる寸前に、中谷美紀はドイツ人の夫と共にオーストリアの家に移った。クラシック音楽や料理の話よりも、私としては庭づくりや旅、暮らしの描写が面白かった。休暇や時間の使いかた、庭の美的感覚などは、多分に文化的なもので、日本のそれとは「違って」いる。一方、ごみ処理や食物生産の規制、オーガニックについては文化ではなく、その国の人々が現状や未来を考えて制度的に変えているもので、「進んで」いると感じる。オーストリアも南チロル地方も、大国に囲まれているからこそ、複雑であり、かつ美しい。
読了日:08月01日 著者:中谷 美紀 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 12:02Comments(0)読書