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2021年08月07日

2021年7月の記録

四十九日を待たず、またひとり、愛する猫が旅立った。
17歳といえば、人間の子供がほとんど巣立つほどの年月を共にした。
残された私は本調子にはまだまだ程遠く、本を読んでも上の空。




<今月のデータ>
購入19冊、購入費用13,268円。
読了15冊。
積読本267冊(うちKindle本105冊、Honto本23冊)。


ブック

7月の読書メーター
読んだ本の数:15

藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた感想
このままでは日本やばいんじゃないか案件が山積みの中、各地各分野で地道な活動を積み重ねる"現智の人"と藻谷さんとの対話。商店街、限界集落、農業、医療、観光、鉄道、まちづくり。どれも興味深く、発見があったのでこうも陳腐にまとめるのは不本意なのだけど、現場を自分の目で視て、考え、解決策の試行を積み重ねる行為の大事さは無論、一つの点である優れた活動を、他の地域の変革にも活用し、いずれ潮流となって、国を変える動きにつなげていくことが要点だと知った。私は直接携われないとしても、暮らしをちゃんと営める生きかたを選ぼう。
読了日:07月28日 著者:藻谷 浩介

御社にそのシステムは不要です。 中小企業のための〝失敗しない〟IT戦略御社にそのシステムは不要です。 中小企業のための〝失敗しない〟IT戦略感想
導入したいとイメージしているものがクラウドストレージとSaaSである点は判明したが、そちらの情報量は少なく、方法論がメインである。私自身がこの手のツールをいじり倒すのが好きな性質なので、戒めとしてメモしておく。現場の人間がやってよかったと思えれば、IT化は成功といえる。だから「この業務はIT化できるか」という視点で見るのではなく、課題を絞り込んでから導入ツールを検討しなければならない。使う側のハードルは低くメリットは大きく、情報共有できて、誰でも使えるシステムをつくることが目標となる。
読了日:07月27日 著者:四宮靖隆 ファイル

荒野へ (集英社文庫)荒野へ (集英社文庫)感想
青年が独り、アラスカの荒野で餓死して発見された。世間は非常識、未熟者、自然をなめた愚かな行為と取り沙汰したが、彼の足跡を丹念に追った著者の見解は違う。青年期には誰でも理想を追う。彼は社会や他人との隔絶した生を求め、彼なりに準備し、無事生き延びおおせようとしていたと推測する。若者に特有の、潔癖。荒ぶる自然を目指す衝動。著者は帰還し、彼は帰還しなかった。帰還した者はなにかを得、折り合い、生きる。帰還しなかった者たちは、特別愚かだったのではなく、不慮、また偶発の過ち故の死であり、それもまた生の証だと私は思う。
読了日:07月25日 著者:ジョン・クラカワー

マンガでわかる 東洋医学マンガでわかる 東洋医学感想
漢方の本はたくさん読んだので、自分なりに深めていきたいと思っている。一方で、実際に漢方に携わる人との交流もしてみたくて、講座などに行ってみようと見つけたカルチャースクールの参考図書がこれであった。漢方、鍼灸の基本的な概念の説明と、とりあえず使ってみたい人向けの漢方薬の選び方。あれこれ読む中で薄々気づいたように、日本漢方の理論にはいくつか流派がある。傷寒論に基づく日本漢方(古法)、それより後世の理論に基づく日本漢方(後世法)、中国の中医学。優劣ではないだろうから、混乱しないように整理して取り込みたい。
読了日:07月22日 著者:根本幸夫

ドミトリーともきんすドミトリーともきんす感想
この本を売ってくれた古本市の店主が「よくわからない」と言っていた。でもよく聞くタイトルの本。ノーベル賞を取るような高名な科学者の、学生だった頃。彼らが身近にいたら、どんなだったかしらと著者は想像したのだろうなと、私は思った。普通の学生のように笑ったり悩んだりしながら、深ーい課題を考え続けた、そんな日々を支える暮らしって、憧れる、ような気はする。『ユカワ君の話は むずかしいけれども聞いていると心が平らになるわ』。自然科学の著作を紹介する趣向。青空文庫でも短い随筆が読めるので、拾ってみるのもいいですね。
読了日:07月22日 著者:高野 文子

こわいもの知らずの病理学講義こわいもの知らずの病理学講義感想
頭が偏らないよう、信頼できる人の西洋医学モノということで、中野先生の一般向け病理学本を。しかし氏の笑かしをもってしても途中で気が遠くなる。読みたかったがんのとこだけはがんばって読む。がん細胞は複数種類の細胞の突然変異と、変異が蓄積して進化する。増殖能の増加、浸潤能の増加、転移能の獲得などの変異を積み重ねて、何年もかけてがんになる。だから、免疫監視機構の働きによって排除されるがん細胞は多数あっても、組織に育ってしまえば自然に寛解することはありえないのだと、がんを放置することの危険と無謀を強く指摘している。
読了日:07月21日 著者:仲野徹 ファイル

日記帳日記帳感想
あんたあほかー!と、ピュアな羞恥心などとっくに失くしている中年は思ってしまう。失恋することは怖い。そら怖いよ、だからって…。彼女のほうは、共通の認識があると思ってやっていることだから、手段としてはまだアリだけれど、何通も出してそれなりの反応が無い時点でやっぱりおかしいと勘づこうよ。そしてそのまま婚約してしまう女性の胸のうちを想像するとミステリでもあり、弟のやった行為のまるきり児戯っぽさが際立つ。そして王道の結末。
読了日:07月21日 著者:江戸川 乱歩 ファイル

三頭の虎はひとつの山に棲めない 日中韓、英国人が旅して考えた三頭の虎はひとつの山に棲めない 日中韓、英国人が旅して考えた感想
『東アジアの国々はなぜ良好な関係を築けないのだろうか』。マイケル・ブースはほんとうに人が変わってしまったのだろうか。日本、韓国、中国、台湾を巡る真面目なルポである。いつのまに東アジアの歴史や政情の機微に詳しくなったのか。食べ物のことはちょっぴりだ。ただいつもの蓋のできない口が、極右の作家や歴史修正主義者のYoutuberにも遠慮なく質問攻めにし、見えてくる本音は、直感に正直な著者の第三者的意見として受け取りたい。特に中国と韓国の意固地な態度の裏事情が、少し理解できた。まあ、戦争さえしなければそれで上出来。
読了日:07月19日 著者:マイケル・ブース ファイル

地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険感想
スマートスピーカー機能付きロボット掃除機…。いや無理があるやろ。と誰しもが思う設定で著者は押し切る。その制限の強さは、いくらミステリには制限が付きものといえど、もはやマゾヒスティックなレベルだ。だからこそ、物語の行き先が気になり、傷の具合を心配し、よくやりきったと快哉を送りたくなるのだとも言える。満身創痍、完全燃焼の"彼"に敬礼。あとがきに、アガサ・クリスティー賞選考委員北上次郎氏も『しかし、思うかね、そんなこと。お前、掃除機だよ。』とぼやいていて、それもまた痛快な笑いを誘われた。みんなしてやられたね。
読了日:07月17日 著者:そえだ 信 ファイル

図解「財務3表のつながり」でわかる会計の基本図解「財務3表のつながり」でわかる会計の基本感想
「悩めるマネジャーのための~」の著者本。財務分析において、複式簿記を理解しない者が決算書の『全体像とその本質を把握する』ことを目的にしている。我が社の経営者の卵に紹介できるかと思い読んだら、初心者に解りやすいかはさておき、私自身が面白かった。B/S、P/L、C/Sの視覚化を自社の決算書でやってみたところ、確かに特徴がつかみやすく、グーグルの決算書に形が似ている(!)というのは興味深い発見だった。自己株式の取得など投資絡みのトピックも勉強になる。それにしてもなぜグラッパのインターネット販売だったのだろう…。
読了日:07月17日 著者:國貞 克則

シャーロック・ホームズの冒険 【新訳版】 シャーロック・ホームズ・シリーズ (創元推理文庫)シャーロック・ホームズの冒険 【新訳版】 シャーロック・ホームズ・シリーズ (創元推理文庫)感想
ワトソンが収集したホームズの事件解決簿。怪奇な事件はホームズの大好物だ。以前に一度ならず読んだ真相をおぼろげに思い出しながらぼちぼちと読んだ。本格ミステリと違って、安心して読めるのだ。そもそも全ての手がかりが示されていないので、真相を当てようと頭をひねりながら読まなくていいというのは気楽で、奇想天外な結末ほど楽しめる。若い頃は物語展開に集中していたから気づかなかったけれど、イギリスや地方の風物もまあまあ描かれていたんだなあ。しかし、人の心の機微には乏しく、今読むなら、クリスティみたいな方が私は好きだな。
読了日:07月14日 著者:アーサー・コナン・ドイル ファイル

あるノルウェーの大工の日記あるノルウェーの大工の日記感想
ノルウェーの現役大工さんの日記風ノンフィクション。積み上げるように着実な文体が好ましい。「ある日本の電工の日記」なる本があると想像してみるに、こんな文章を書けるとしたら、その人は職人の腕と文才を併せ持つ異才の人といえよう。設計士や施主に職人風情と見下されるのは地球の裏側でも変わらないらしい。しかし実は頭脳と肉体での高次複合的な思考が求められる職業であることを私は知っている。著者は電気屋のことを、片付けを教わらないのに違いないと愚痴を言っていて笑ってしまう。確かに散らかしがちやけど、それはその人の性格よ。
読了日:07月07日 著者:オーレ・トシュテンセン

狼森と笊森、盗森狼森と笊森、盗森感想
五感や心を働かせて読む読書の訓練。最近は情報をさらえるような読み方ばかりしていたのでリハビリです。"水のようにつめたいすきとおる風が、柏の枯れ葉をさらさら鳴ら"す原野を、時間をかけて想像する。そして人間たちがやって来て、物語が動き始める。人間は暮らしを築き、災いに立ち向かい、捧げものをし、友だちになる。語り合うことができる。岩手山のふもと、気候は清々しくも、厳しいものだろう。だからこその語り合い、捧げものなのだ。毎年粟餅を届けに行くのは狼の塚を祀る風習からきている。既に粟餅が小さくなり始めていたのだなあ。
読了日:07月06日 著者:宮沢 賢治 ファイル

英国一家、インドで危機一髪英国一家、インドで危機一髪感想
まー相変わらず自分勝手な人で、言いたい放題したい放題、文句ばかりで始末に負えない。インドで目いっぱい無秩序にもまれろと思いきや、こんな結末になるとは。飲んで喰ってばかりの旅とは真逆の、つまりは著者が囚われている自身の精神的贅肉をそぎ落とす旅となったのだ。しかも帰国してからも習慣は続いているという。人が変わったみたいだ。食文化や民俗についての描写も的を射て面白いが、ヨガやヒンドゥーについての師との対話はインドの具える叡智の示唆に富んでいる。なお、危機一髪だったのは夫婦関係。リスンは肚が据わっていて格好いい。
読了日:07月06日 著者:マイケル・ブース ファイル

悩めるマネジャーのためのマネジメント・バイブル悩めるマネジャーのためのマネジメント・バイブル感想
MBAを取得した経営コンサルと聞いたら、それだけで眉に唾を塗る私がこの本を買っていたのは、サイボウズの誰かの紹介だったか。独立の際に相当ご苦労をされたようで、その経験、学んだ知識、たくさんの経営者との出会いによって育まれただろう、良心と人間味が感じ取れる。『複雑な人間に対してどうやって対応していくか。これを学ぶのは決してマネジメント理論などからではない』。MBAのビジネス教育も分析的・論理的思考も必要、しかし限界があるとし、展開する人本位の経営論は真っ当で沁みる。またゆっくり読み返したいビジネス書だ。
読了日:07月01日 著者:國貞 克則 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 09:59Comments(0)読書

2021年07月01日

2021年6月の記録

余計なことを考えないために、活字を頭に流し込むような読書だった。
読みながら、耳は猫の異変を察知するべく、常にそばだてていた。
先週とうとう旅立っててしまった猫に、できることはすべてしてやれたと思う。
でも寂しいなあ、とめそめそしていたら、人間の家族との関係がきしむ気配が。
活字に逃げ込む暇は、ない。




<今月のデータ>
購入13冊、購入費用8,050円。
読了17冊。
積読本260冊(うちKindle本103冊、Honto本23冊)。

6月の読書メーター
読んだ本の数:17

ヤマザキマリ対談集 ディアロゴス Dialogosヤマザキマリ対談集 ディアロゴス Dialogos感想
オリンピックにまつわる対談集。2020年のオリンピックに向けた企画だが、新型コロナの発生とオリンピック延期もあって話題も様々。対談相手それぞれに合わせた振りを用意するとみえ、その人の専門分野に絡まる対話が深まる。そう、対話。一方的でも、上滑りでも、対話ではない。対話ってスキルが要求されるよなあ。オリンピックは、そもそも神事だったという。スポーツや運動の意味を考えるのに、宗教性との関連という視点は興味深い。演るほうも観るほうもハイになるものね。国威やら放映権やら金やらがついてきたあたりからややこしくなった。
読了日:06月27日 著者:ヤマザキ マリ

THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本THIS IS JAPAN――英国保育士が見た日本感想
ブレイディみかこの文章が持つ底力は、どこからくるのだろうと探りながら、押し流されるように読んでしまう。日本に住んでいた頃は無教養な貧乏人の娘だったと告白しつつ、社会システムの中に蔓延るイデオロギーや現実を強靭な言葉であぶり出し、論じてみせる。イギリスの保育士のカリキュラムは、社会的な情勢やシステムを含めて考察するものであるという。曰く、『ミクロの日常からマクロの政治を見上げる習慣』。個人が社会的階層や貧富格差を越えて、目の前のことを捉え、社会をより良く変えんとする基本的な思考訓練、それが今の日本には無い。
読了日:06月26日 著者:ブレイディ みかこ ファイル

猫の學校2 老猫専科 (ポプラ新書)猫の學校2 老猫専科 (ポプラ新書)感想
3日前、14年間を一緒に暮らした猫を看取った。この本がいちばんの指針となり、心の支えになったと思う。あなたの取ったケアは間違いじゃない。獣医に任せる代わりに、自分が全力で観察し、生きている今を支えることに集中する。猫自身の生きる力を信じる。おかげで、私のすべきこと、伝えるべきことは、全てさせてもらったと猫に感謝もできた。今はただ、寂しい。まだ辛いこのタイミングで再読したのは、遠からず逝く猫がもうひとりいるから。もう一度肚を決め直すために。やるべきことをやるために。『猫は人のために生きているわけではない』。
読了日:06月26日 著者:南里 秀子

日本国憲法日本国憲法感想
個々の条文を吟味する程の教養も私には無いわけで、読んだと公言するのもおこがましいのだけれども、青空文庫で読めるならば一度目を通しておくべきかと。憲法は崇高な理念を顕し、また国家システムの大枠組みを定めるものと読む。GHQ原案の英語の条文も寄せ集めならば、翻訳作業も突貫であったにもかかわらず、『人類普遍の原理』としての理念を私は美しいと思う。私は、国の枠組みについての、よほど時代錯誤的な部分を微修正する以外は、このままが良いと思う。イデオロギー的な浅知恵での姑息な改憲には断固反対する。
読了日:06月25日 著者:日本国 ファイル

京大変人講座: 常識を飛び越えると、何かが見えてくる (単行本)京大変人講座: 常識を飛び越えると、何かが見えてくる (単行本)感想
日本の大学の双璧とも呼ぶべき東京大学と京都大学。官僚の育成を目指した東大と、自由を目指した京大。討論の東大と対話の京大。ヘンであることは、発想が自由であること。我が道を究めるために変人に成るのだという。私は京大に感じ取る野放図さが好きでタイトル買いしてしまったが、意外にまじめな講義集だった。それぞれの研究者の講座にはヘンなエピソードはさほど挟まれておらず、少々狙いが外れた感はあり。太陽系惑星の成り立ちの講義(地球の教室)と、鮨屋の作法についての講義(経営の教室)が面白かった。京大の文化、不変なれ。
読了日:06月22日 著者:酒井 敏,小木曽 哲,山内 裕,那須 耕介,川上 浩司 ファイル

帰ってきた 日々ごはん〈7〉帰ってきた 日々ごはん〈7〉感想
高山さんは六甲の家や街を、東京よりも謙虚になれる場所と言っている。仕事も、日記やエッセイや絵本の文筆業にスライドした感じ。料理家本の仕事もなくなって、家族への義務もなくなって、相変わらず人の出入りが絶えない家だけれど、豊かな自然を日々眺める、よりゆったりした生活になっている。来客に出す料理が気負ってなくて、ごちゃっとした料理じゃなくて、品数もあって、自然体で献立が湧き出てくる感じが羨ましい。引き出しが多いのだ。Kindle Unlimitedで読めるのはここまでなので、いったんシリーズ終了。
読了日:06月19日 著者:高山なおみ ファイル

帰ってきた 日々ごはん〈6〉帰ってきた 日々ごはん〈6〉感想
スイセイさんが独りで暮らす吉祥寺の家。スイセイカスタマイズされた部屋は高山さんが思うのとは違う意味で整っていた。その人その人の「したい生活」の様式は皆違う。お互いにしていた我慢や遠慮からの開放を味わう時期。そういう表現がぽろぽろと混ざり込んでいる。スイセイさんの傘に守られている自分。はみ出した自分。抑えてた自分。スイセイさんとうまくやれない自分。新しい神戸の生活の描写の下に伏流する葛藤。『その人といつまでも一緒にいられると思ったとたん、目には見えないくらいの微妙さで、関係はくすぶり、こわれはじめる』。
読了日:06月18日 著者:高山なおみ ファイル

帰ってきた 日々ごはん〈5〉帰ってきた 日々ごはん〈5〉感想
この巻だけ本で読んでみて、読み心地が電子書籍と違うのに感動した。さて、いよいよ別離の時。別離が近づくと、お互いに優しくなる。「お風呂入れ」とか「洗濯させろ」とかつけつけ言ってたのか。つくったごはんをおいしいと言ってもらえなくなったの、うちも同じだな。つくるほうもやっつけになっているから、どっちもどっち、全てが相互作用なのだろう。私は、人と人の物理的距離=心の距離になると思っているので、別々に住むという選択は別れの覚悟あってのことと感じる。『みいよう、リラック、リラックでの。ほいじゃが、楽しいと思うで!』
読了日:06月17日 著者:高山なおみ ファイル

ニホンオオカミの最後 狼酒・狼狩り・狼祭りの発見ニホンオオカミの最後 狼酒・狼狩り・狼祭りの発見感想
狼への情熱あふれるノンフィクション。なにがすごいといって、専門家でないにもかかわらず、大英自然史博物館までニホンオオカミのはく製を見に行ったり、岩手県の古文書庫に残る記録に感激して、55件の届出人の子孫を訪ねて回ったりするのである。狼の記憶を聞き取り、記録に留める意味は大きい。日本の狼は大陸の狼より小柄でも獰猛だったようで、身近に狼がいた頃の日本人の暮らしには緊張感がある。なにしろ家畜が全滅したり、人間の子供が喰われる時代もあったのだ。日本人は狼を恐れつつ戦い、祀った。今は無い原生林に群れる狼の幻を想う。
『狼は岩手県に千頭くらいはいたもんです。恐ろしいもんだったが、そんなに人にかかるもんではない。狐や狸なみに人里にも出はって、人間と共存していたもんです』。狼は生態系の頂点にあった。人間の土地開発から鹿などの獲物が減少、狼は里の家畜や人間を狙い始める。人間と野生生物が共存できなくなっていく流れはいつも同じだ。元禄から明治にかけては狼捕獲に役所が賞金を出すなど、手を尽くして狼を狩り尽くし、絶滅に追い込んだ。現代、狼の復権を考えるとき、現代の日本人がわずかの被害も容認できないことは想像に難くないと溜息が出た。
読了日:06月17日 著者:遠藤 公男 ファイル

帰ってきた 日々ごはん〈4〉帰ってきた 日々ごはん〈4〉感想
パートナーが家にいると時間を気にし、ごはんの段取りを気にし、とどうしても忙しない。スイセイさんが山の家へ行ったり広島に帰ったりで、高山さんは独りの時間が増えた。ごはんや日課が適当になってくる。むしろ、独りなら食べずに済ませたい日も、パートナーがいるとそういう訳にいかないってこと多々あるわね。それが、自分のためだけにつくるごはんを楽しめるように変化する日の描写が象徴的だった。この巻は大みそかの喧嘩で終わる。番外、スイセイさんの日記はちょっと趣味じゃなかった。ちゃんと書いた文章は理が通っていて好きなんだけど。
読了日:06月12日 著者:高山なおみ ファイル

帰ってきた 日々ごはん〈3〉帰ってきた 日々ごはん〈3〉感想
高山さんとスイセイさんはよく喧嘩をするという。文章の中にはそれほど出てこないけれど、その行き違いがお二人の別離につながってゆくのだろう、と想像して読んでいる。別離に向け距離感が増すのかと思いきや、逆にスイセイさんの存在にすがるような、感傷的な描写も多い。夫婦には夫婦の数だけ在り方がある、か。ごはんを「上っ面だけで作っていた」という言葉にどきりとする。あまり考えなくてもできる献立でやり過ごす感じが、猫たち優先で、人間の家族を我慢させているかもしれない私自身のことと重なって狼狽えた。向き合わなければ。
読了日:06月12日 著者:高山なおみ ファイル

人口減少社会の未来学人口減少社会の未来学感想
寄稿陣に知らない名前がほぼ無い新型コロナ発生前の論集。それぞれの専門的視点から測る日本の取り得る策は多彩だ。新型コロナは日本が隠し持っていた諸問題を顕在化し加速化するだろう。「未来」もより近づく。人口減少のペースがどうであれ、合わせて社会構造を変革する必要がある点では異論がなく、現代における社会包摂の形が問題だ。個人的には農業+ベーシックインカム+αな生き方が妥当な気がしている。しかし政界財界をはじめ、男が牛耳っている世界は変革が遅れるだろうから、ボトムアップの力でなんとかするしかないのだろうな。
読了日:06月10日 著者: ファイル

帰ってきた 日々ごはん〈2〉帰ってきた 日々ごはん〈2〉感想
『ここにある毎日は、ちっとも確かなんかじゃなく、いつ壊れてもおかしくない、いろいろなできごとで成り立っている』。それでも前に進む日々。とうとう、小耳に挟んではいたその時が近づいてくる。高山さんは『胸に浮かんだ言葉を並べるように』書く。感性を大事にしている。でも、読者が読んで心地よくない感情は、文章の中に書かない。だから、ごはんをつくらないことも、予定を変更することも、読み手は自然体と受け取る。行間にはたくさんの諍いがあるのだろう。スイセイさんは山の仕事が楽しくて、独りで行って作業することも多くなった様子。
読了日:06月08日 著者:高山なおみ ファイル

帰ってきた 日々ごはん〈1〉帰ってきた 日々ごはん〈1〉感想
高山さん、五十路の記。日記エッセイの途絶と再開のいきさつを、スイセイさんが客観的かつ端的に巻末にまとめている。スイセイさんの見解を直接に聞くことはないので、貴重なものを読んだ感じがする。高山さんとスイセイさんの出会いはそのまま現在の仕事と生活、つまり暮らしの全部につながっている。歳を取った自分たちの姿や、山の家での暮らしなど、未来を想うのは人の心に普通のことだ。未来から見れば幻であったとしても。さらにりうさんの結婚、孫たちの世話。産んでないのに育てる役回りがあるというのは福がある。と思うのは私の願望か。
読了日:06月06日 著者:高山なおみ ファイル

偉くない「私」が一番自由 (文春文庫)偉くない「私」が一番自由 (文春文庫)感想
佐藤優による米原万里アンソロジー。緩急硬軟の自在っぷりを活かすセレクトになっている。ロシア料理になぞらえた趣向だそうだ。専門が同じロシア圏というだけではない、もっと強いつながりを感じていたということなのだろうか。米原万里は佐藤優の逮捕前日、ごはんに誘う電話をかけている。時代ゆえか、置かれた環境ゆえか、いずれにせよ時勢を見切る目を持っていることをお互いに知っていたのだろう。文学、食べ物、仕事、癌などトピックは様々。「金色の目をした銀色の猫」はロシア人の気質も感じ取れる素敵なエッセイだ。
読了日:06月04日 著者:米原 万里 ファイル

猫の學校2 老猫専科 (ポプラ新書)猫の學校2 老猫専科 (ポプラ新書)感想
遠回りしても、最後はこの本に戻ってくるのだ。猫の変化が、老いによる衰弱なのか、病による苦痛回避なのかわからず、苦痛なら和らげてやりたいとあれこれ手を出してしまう。今日は食べたとか、部屋から出てこないとか、一喜一憂してしまう。老年期に入ったら猫の生きる意志に任せるべきと、南里さんは繰り返し言う。プライドを傷つけない。食べることを無理強いしない。普段通りの生活を続けられるようさりげなく支える…。死の瞬間まで常によくなろうとするからだの働きを信じ、目の前に今いる猫に寄り添う、毎日が試練で訓練だ。がんばれ私。
読了日:06月04日 著者:南里 秀子

症例から学ぶ和漢診療学症例から学ぶ和漢診療学感想
長年の知見が詰め込まれた実用の書。気水血、五臓、陰陽/虚実/寒熱/表裏、六病位の全ての相から証を探りあてる手順と手がかりを詳細に記してある。組合せは膨大、百人百通りだ。いくら医学生に履修を義務づけたとはいえ、全く別の論理で形成された理論を持つ東洋医学を、西洋医学を志す学生が理解するには、脳みそがでんぐり返るようなパラダイム転換が必要と想像される。よくある「慢性肝炎に小柴胡湯」は西洋医学の疾病分類に基づく考え方であり、漢方処方の本分である証が陰かつ虚である場合には、ベクトルが真逆の悪処方になるとわかった。
読了日:06月03日 著者:寺澤 捷年


ブック

注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 13:30Comments(0)読書

2021年06月01日

2021年5月の記録

時間と争うような読書。とにかく情報を得るために。

<今月のデータ>
購入17冊、購入費用15,986円。
読了20冊。
積読本256冊(うちKindle本93冊、Honto本25冊)。


ブック

5月の読書メーター
読んだ本の数:20

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)世界は分けてもわからない (講談社現代新書)感想
これも連載かな。福岡センセイの本は、それぞれの篇のつながりがよくわからず、あとがきで「そうだったのか」と思うことが多い。今回もよくわからないのだけど、後半の物語はまるで小説、まるでミステリのような余韻を残す。研究の道を選んだ人たちは、仮説を証明するためにほんとうに細かな実験と証明を積み重ねていかなくてはならない。証明の過程は難しく、また証明されたとしてもそれは全体から見れば星粒のようなもので、その粒から全体を理解することはできない。その哀しみが、星空の美しさに投影されて、福岡センセイの詩的感覚に感じ入る。
読了日:05月29日 著者:福岡 伸一

和漢診療学――あたらしい漢方 (岩波新書)和漢診療学――あたらしい漢方 (岩波新書)感想
漢方医学の奥深さを知るのに良い。西暦210年頃に記された「傷寒論」にはじまる数多の古典には、現代で使用する漢方薬や、療治の判断に役立つ知識が既に現れているという凄さ。自覚症状など、計量化できない要素をこそ重視するその漢方の働きを、西洋医学の言葉と論理で解き明かし、裏づけることが一部できているという。ようやく「証明」できたのだ。西洋医学の知識と併用するだけでなく、双方の利点を掛け合わせる医療の進化と呼びたい。漢方薬をドラッグストアで簡単に買える時代に感謝だけど、漢方学、漢方薬への敬意はいつも持っておきたい。
読了日:05月29日 著者:寺澤 捷年 ファイル

基本がわかる 漢方医学講義基本がわかる 漢方医学講義感想
こちらは漢方の歴史や概念の解説など、まさに教科書的な専門書。現在の日本では、医師資格を持っている人は漢方診療を行なえ、全ての医学部のカリキュラムに漢方医学が組み込まれていると知る。漢方医学では四診によって症状から「証」(=英訳はpattern)を判定し、治療法を決める。西洋医学よりも、医師の観察力に負う部分が大きく、経験値が的確さを上げる印象である。取り急ぎ覚えておきたいのは「血」と「水」は「気」の制御を受けているので、「血」や「水」の失調には「気」の失調も連動すること。陰陽と虚実はイメージが掴めた。
なるほどペットに四診は無理である。だから、生体反応から漢方薬を選ぶ"モダンカンポウ"は動物に漢方薬を与えるハードルを著しく下げるアイデアであるといえる。この本でそのあたりを確認できたことは良かった。実際に漢方薬を選ぶべく、「ペット漢方薬」フローチャートに戻る。
読了日:05月27日 著者:

獣医版フローチャートペット漢方薬 実は有効! 明日から使える!獣医版フローチャートペット漢方薬 実は有効! 明日から使える!感想
人間と同じように「証」を見極める漢方診療は、ペットには不可能。漢方薬を動物に与えて、副作用が出るのは稀。だから、症状に合わせた漢方薬をとりあえず与えてみる"モダンカンポウ"を著者は提唱している。ほんまにそんなんで大丈夫なんかと怖じるが、著者は"漢方が趣味の西洋医"を自称し、漢方の本をたくさん出し、移植免疫学の研究で様々な漢方薬を実験マウスに与えてもいる。もちろん自宅の犬にも。ついでに言えばイグノーベル賞も受賞している。フローチャートの記載は明快である。それだけに、もっと迷わなくてよいのかと迷ってしまう。
考えてみると、近所の獣医の出す錠剤は指示どおり飲ませて、本で紹介された漢方薬は躊躇するというのもおかしな話だ。こういうところに、西洋医学や医者の肩書きへの信仰みたいなものが表れるのだろう。あと、別の本のところでも書いたように、私ひとりの責任をもって決定することへの恐れと。私の身体なら、実験もかまわない。でも私の猫へとなると生じる恐怖もある。そうか、私も同じものを飲めばよいのだ。ちょっと論理がおかしいけど、それでいこう。猫のぶんの分量は人間の1/10を計算してみる。
読了日:05月26日 著者:新見正則,井上明

世界まちかど地政学 90カ国弾丸旅行記世界まちかど地政学 90カ国弾丸旅行記感想
自称地理オタクで旅行マニアの藻谷さんが、外国の現地に赴くことで見える地形や気候、人の様子から理解する世界の連載もの。人口規模や距離を日本のそれに当てはめてくれるのでわかりやすい。そういう方法で藻谷さんは世界を把握するのだな。島国に住むか大陸に住むか、日常眺めるのが象徴となる山かおにぎり山かなどの違いで、人間の持つスケールが変わるのは当たり前なのだろう。とすると、島国の日本の小さな香川県に住む私の感覚は、ちまちましているので間違いなく、そして致し方ない。ブラタモリならぬブラモタニ、面白そう。私、観たいです。
読了日:05月26日 著者:藻谷 浩介 ファイル

ねこの肉球診断BOOK―東洋医学的体調チェックとツボマッサージねこの肉球診断BOOK―東洋医学的体調チェックとツボマッサージ感想
東洋医学を学んだ開業獣医によるマッサージ指南書。猫は舌を見せてくれないので、代わりに肉球の状態を見るというのはアイデアである。肉球の状態別に体質を示しているのだけど、、、違いがわからん。人の掌や足裏がツボだらけなのと同様、猫の足裏もたくさんツボがあるという。もむと気持ちよさそうにするものねえ。お腹や手足のマッサージにイラストや写真が詳しく、ツボの場所や押し方がわかりやすい。ただし、体調が悪く触らせてもらえない状態では使えない。つまりそうなる前に、日々気軽に飼い主が自分でマッサージしてあげましょうの本。
読了日:05月26日 著者:石野 孝,相澤 まな

名医は虫歯を削らない 虫歯も歯周病も「自然治癒力」で治す方法名医は虫歯を削らない 虫歯も歯周病も「自然治癒力」で治す方法感想
夫が親知らずを抜き、隣で痛みに煩悶している。虫歯が「自然治癒力」で治る。そりゃ信じたいけど、「人は自分が信じたいものを信じる」という教訓を得たばかりの私としては、とりあえず信じてはいけない気がする。歯医者に行くのが怖くなるような描写もあり、できるだけ行かずにすむよう、今ある歯を大事にしようと決意する。「食後すぐに歯を磨かない」はやってみても損はなさそうだと思ったのは、母が常々「私は歯を磨きすぎて虫歯になったのよ」と言っていたからだと思う。"ドックベスト療法"、覚えておく。
読了日:05月26日 著者:小峰 一雄 ファイル

ジビエを食べれば「害獣」は減るのか―野生動物問題を解くヒントジビエを食べれば「害獣」は減るのか―野生動物問題を解くヒント感想
日本が誇る京大霊長研に在籍した研究者の著書である。つまりサルがご専門で、サルの話が続く。あれれ、6割がサル、3割がオットセイ・トドの話で、野生生物には違いないが、ジビエと聞いて思い浮かべる動物ではないぞ。森林開発や観光施設、動物保護、乱獲などによって国内外の生息環境が攪乱された事例が詳細に続く。各地の対策事業に関わってこられたとのことだ。結論としては、人間が最高位捕食者として野生動物の適正な生息数をコントロールできないのなら、オオカミを国内に復活させてその役割を担ってもらうしかない。である。なんと。
読了日:05月25日 著者:和田 一雄

ワンちゃん・ネコちゃんの健康は東洋医学で守る〜おうちケアで幸せなペットライフを送る〜ワンちゃん・ネコちゃんの健康は東洋医学で守る〜おうちケアで幸せなペットライフを送る〜感想
探せば系統立てて東洋医学を学んだ獣医も学会もあるようだ。需要はあるのだ。この手の本に必ず書いてあるのは、西洋医学と東洋医学では考え方の根本が違うのであって、治療として相反するものではないということ。この本の記述は実際の診察例も多く、飼い主目線で想像しやすい。いくつか新しい知識を得るも、情報に微妙なムラがある。人間と猫は幸い臓器のつくりがだいたい同じと考えて、ペット向けと人間向け、それぞれをもっと学んでみることにする。特に陰陽虚実はわかりづらく、漢方の投与は躊躇する。それでも少しずつ理解し始めた感じ。
読了日:05月24日 著者:鈴木綾香 ファイル

女に生まれてモヤってる!女に生まれてモヤってる!感想
女二人の『人生ゲームのバグ報告書』。女に生まれてしんどい点を切れ味良く思い出させてくれる。今や聞かなかったふりでスルーしたり、余裕があれば手厳しく反撃したりができるようになったけれど、あったわたくさん。お二人も言うように、40代に乗っかってラクになった。曰く、「女らしさ」を求められなくなったこと。物理的に出産不可能に近づいたこと。男の『テストステロン・スコープ』に入らなくなること。そこで敢えて狙ったようなオビの写真が素敵。結婚話に抱腹絶倒する。パートナーは『真人間でいるための漬物石』とか『培養液』とか。
読了日:05月23日 著者:中野 信子,ジェーン スー

やってはいけない健康診断 早期発見・早期治療の「罠」 (SB新書)やってはいけない健康診断 早期発見・早期治療の「罠」 (SB新書)感想
養老先生のお話からのつながりで。この手の議論は極端になりがちで、素人には判断のつかない部分も多い。しかし、それなりの機関による調査結果は信用に値すると思う。文中で紹介されるこれらの結果から言えば、がんは早期発見して治療を続けるほど早死にする。BMI26~30のちょいメタボがいちばん長生きする。血糖値や血圧、コレステロールを薬で下げないほうが長生きする。歳を取ると各種の数値が上がるのは、体の自己調節機能の働きなのであって、そこに自然の摂理があるという考え方だ。機嫌良く生きるためには、知らないほうがいいわね。
読了日:05月19日 著者:近藤 誠,和田 秀樹 ファイル

ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論感想
「クソしょうもない仕事」「役立たず」と歯に衣着せぬ分析が痛快で笑い転げたのもつかの間、肌で感じていた現象の根深さを知ってやがて震撼する。ブルシットか否かは本人の受け止め次第。問題は社会的に不要な職業ほど高給取りであることと、ブルシットな仕事は職業でも職務でも増殖するということだ。その点について、ブルシットな職を増やす要因の一つは民主主義であると著者は指摘する。労働の社会への貢献度と報酬、社会的評価、自己充足度はもはや整合性を取れず、人々の感情は理不尽にねじれている。私もアナーキストになろうかしら。
読了日:05月17日 著者:デヴィッド・グレーバー ファイル

養老先生、病院へ行く養老先生、病院へ行く感想
養老先生と中川医師のかみ合わなさよ。養老先生は科学としての医療を信じていないのではない。現代の医療システムや人体を数値化する行為への過信を避け、人間の身体機能を信じること、異変を自ら察知する感覚こそ大事と重んじて実践されているのだ。一方、まるの闘病、死。散歩に行ったまま林の中でじっとしていたまるを連れ帰ったことを気に病まれている。それは自然な死への過程だったかもしれないと考えられたのだろうか。でも、苦しんでいるのは放置できなかった、二人称の相手だから、との言葉に胸が詰まった。ほんとうに優しい、養老先生。
読了日:05月15日 著者:養老 孟司,中川 恵一

決定版 犬・猫に効くツボ・マッサージ 指圧と漢方でみるみる元気になる決定版 犬・猫に効くツボ・マッサージ 指圧と漢方でみるみる元気になる感想
手で触れることには痛みやストレスを軽減する働きがある。さらにホリスティックケアや指圧を取り入れればケア効果はより大きくなる。以前から猫のケアに取り入れたくも系統立った情報が少なかったので、犬猫の経脈図まで載っている本書は心強い指針となりそうだ。しっぽは胸と肩甲骨まわり、ぴゅうまは背骨まわりと四肢重視の指圧(なでなで)を取り入れる。投薬と見守り以外にも自分にできることがあるという考えは、想像以上に大きな希望を生む。しかし過信は禁物と自戒して、日々地道に虚心の姿勢でやりたい。漢方もそのうち取り入れてみたい。
読了日:05月13日 著者:シェリル・シュワルツ

アマニタ・パンセリナ (集英社文庫)アマニタ・パンセリナ (集英社文庫)感想
らもさんのドラッグエッセイ。高校生の頃、私はこの本をハードカバーで読んだ記憶がある。高校生に、この本の何が理解できたというのか。らもさんは異様な熱量を注いで薬物を探る。アルコールの過剰摂取が中毒人生のきっかけではあるんだが、光も闇も受け入れるのだ。そこから自分に信じられるものを見つけていくのだと、ドラッグの連れが幾人も死に行くのを横目に、人間の精神の深淵を熱心にのぞき込み続けた。『すべてのドラッグは自失への希求』。際限なく溺れながら、自分は生きようとしていると豪語して、予言どおりに死ぬなんて、深遠すぎる。
読了日:05月12日 著者:中島 らも ファイル

脱・筋トレ思考脱・筋トレ思考感想
ラグビー選手として活躍した後、指導者としてのキャリアにある著者が、どのように反筋トレの考え方と折り合うのかと興味を持った。過剰な筋トレの弊害は『感覚世界の矮小化』であり『身体知の空虚化』であるとの見解に立ちつつ、筋トレをしても感受性を衰えさせない努力や方法が重要としている。天才と呼ばれる選手は筋トレの弊害を察してトレーニングを適度ですませるというが、どうしても筋トレを免れない環境にある子供や選手には、楽しむこと、感覚を確かめながら動くことを提言している。脱「筋トレ」ではなく脱「筋トレ重視思考」なのだ。
読了日:05月07日 著者:平尾 剛

稲垣足穂 飛行機の黄昏 (STANDARD BOOKS)稲垣足穂 飛行機の黄昏 (STANDARD BOOKS)感想
古書店の店主が、戯れに私に勧めたのが、稲垣足穂だった。どんな作風なのかも知らず、著作を選べないまま古書店は閉まって、未完の宿題になってしまった。もっと早く平凡社がこのシリーズを出してくれていたら、感想を伝えられたかもしれない。稲垣足穂は永遠の理系少年みたいだった。どこまでも現実的な寺田寅彦とは違い、その科学や物理分野への博識からファンタジーの世界へ跳躍する感じがあり、それが老年になっても残っている。星座を覚えて、道々夜空を見上げては何が見分けられたかを日記に記すなど、愛すべき生真面目な人であっただろう。
読了日:05月05日 著者:稲垣 足穂

ヤマザキマリの世界逍遥録 (JAL BOOKS)ヤマザキマリの世界逍遥録 (JAL BOOKS)感想
JAL機内誌に連載された一編4ページのライトエッセイ集。挟まれた自筆の絵に惹かれて。私が家族と国内旅行をするような気軽さで、ヤマザキマリさん一家は世界を旅している。エッセイそれぞれ違う国で、特定の料理や物に視点が絞られているので、ぼんやりした雑感集になっていなくて格好いい。イタリカ/スペインなど行ってみたい地はあるけれど、現実的に、行けるとは今は思えていない。それでも覚えておきたいのは、パンダを抱っこする機会があったとしても、脳天の匂いを嗅いではいけないということだ。悶絶するらしいから。
読了日:05月05日 著者:ヤマザキ マリ

見てしまう人びと:幻覚の脳科学見てしまう人びと:幻覚の脳科学感想
様々な幻覚の症状と要因。怪我や病など器質的障害による幻覚もあれば、不眠、薬物、感覚遮断など生理学的要因による幻覚、PTSDによる幻覚もある。幻聴、幻肢、幻嗅を含め、幻覚を覚えたことがある人は決して珍しくないらしい。超自然現象やサードマン現象も一部幻覚とか。驚いたのはオリヴァー・サックス自身が、片頭痛や骨折のPTSDによる幻覚に加え、知的好奇心からあらゆるドラッグによる幻覚を体験していたことだ。医師として患者に向き合うだけでなく、実体感として知っているからこそ、深い関心を持ち、体験者に理解を寄せられたのだ。
読了日:05月03日 著者:オリヴァー・サックス ファイル

要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑 (サンクチュアリ出版)要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑 (サンクチュアリ出版)感想
勤め始めて20年も経つと、若い人が何に苦手意識があって仕事が滞っているのか理解できなくなった。この本はコンプレックスや苦手意識、ADHD特性があっても、小ワザで仕事はクリアできると励ましてくれるので職場の本棚に。ついでに本を読めなくても、索引めいた目次で「メンタルが弱い」「整理、片付けができない」など自分の課題を見つけられるようになっている。トラブルが起きるとテンパる人には、『呪文「しびれるなぁ!」で状態異常を回復』。あれ、これ私か。トラブルが現れたら、深刻であるほど「しびれるなぁ!」と爆笑してみよう。
読了日:05月03日 著者:F太,小鳥遊 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 14:32Comments(0)読書

2021年05月01日

2021年4月の記録

我が家の老猫たちの体調が気づかわしく、また主張も激しいため、
本を手に取って数分後には中断することの繰り返し。
自身の疲れもあって、思うように読めていない。

BOOX Nova2のストレスに耐えられなくなり、またAmazon一択に戻ることにした。
とはいえ、Honto本がまだ29冊もあるため、渋面で消化作業をしている。
誰だ、いっぺんに大量に買い込んだのは。
早くKindle Voyage生活に戻りたい。


<今月のデータ>
購入11冊、購入費用13,988円。
読了9冊。
積読本256冊(うちKindle本82冊、Honto本29冊)。


ブック

4月の読書メーター
読んだ本の数:9

俺、つしま 3俺、つしま 3感想
安定の存在感。人間の食べ物を欲しがるつーさんへの言動が我が家のやりとりとほぼ同じなど、「あるある」とおもしろがる私のコメントが毎巻同じだと、夫が変に感心していた。笑ったり泣いたりが激しすぎないのも、ある意味読み続けられる要因なのだろうな。適度に笑い、しんみりし、カシの木さんのこやのエピソードが沁みる。失われゆくものを惜しむ気持ちは、猫にもあると思いたくなる。そしてそのオチに感嘆する。おぉそうか、建つのか。売上げの一部は保護活動に使うともあり、やっぱり買わんといかんやないの。おまけシールLOVE。
読了日:04月29日 著者:おぷうのきょうだい

自然に生きる力 24時間の自然を満喫する自然に生きる力 24時間の自然を満喫する感想
モンベルの創業者、辰野さんのエッセイ。意外や、アウトドア初心者への指南書みたいになっていて、そのうえで自分ならこう、と我流を述べている。壁一面の収納棚から順番に用具を取り出すだけで旅支度ができる家は壮観だろう。昨日もアウトドア用品の店で眺めていて、自分にはあれこれ用品を揃えてテントごと担いで行くような山行はできないと悟った。準備して火を焚いて調理して、を山でまでやりたくない。帰宅してから洗って干して片付けて、なんてまっぴら。最低限の必要品だけザックに詰めて、歩いて、ぼーっとして、山小屋に頼る山旅がいい。
読了日:04月29日 著者:辰野 勇

その犬の名を誰も知らない (ShoPro Books)その犬の名を誰も知らない (ShoPro Books)感想
南極でタロとジロが生きて発見される直前まで生き延び、経験の浅い2頭を導いた犬がいたという。証言と記録文書を元にその犬を探るノンフィクション。一次越冬隊の犬係を務めた北村氏の記憶が、資料に触発されてよみがえる。一冬を共に越えて強い“確信”で結ばれた犬たちを、きつく繋いだまま置き去りにしたことへの自責から、氏は三次越冬隊に志願した。氷雪の下に寄り添って死んでいた犬たちを独りで掘り出し、1頭ずつ抱きしめ、水葬にする場面。声が出ないほどの慟哭が南極の大気に満ちて、どうしたってこちらが強烈に印象を残してしまう。
第3の犬は、タロとジロ発見時には既にいなかった。10年後氷雪から融けだすまで、埋もれてしまっていた。解剖の記録もない。つまり、彼がいつ死んだかは不明のままだ。証言から、彼がいなくなっていたうちの誰であるかは判明した。ほぼ間違いないだろう。他方で、いつまでか不明にせよ、首輪を脱出した犬は他にもいた。なぜ彼だけにスポットを当てるのか。謎解きとしてはあいまいなままの点が多いのだ。彼がタロとジロを導いた可能性は、近しい人にはタロとジロ生存に貢献した存在として意味を持つ。それは気高くも、少々、弱い光に感じられた。
国家事業としての南極越冬。犬は犬ぞりという動力のための手段で、機械だけに頼らなかった点は日本にとって正解だった。一方、科学的研究を目的とするため、科学者優先で獣医師も同行しなかった。敗戦国のレッテルを上書きすることに血眼だった日本には、致し方ないこと、だったのだろう。しかし氷の状況が予断を許さなかったとはいえ、犬たちを置き去りにして死なせたことは、日本中から猛非難の的になった。だから八次隊による新しい遺骸発見の記録と発表もあえて伏せた可能性があると著者らは考えている。犬の位置づけが伺われて興味深い。
読了日:04月27日 著者:嘉悦 洋

芸術新潮2020年12月号芸術新潮2020年12月号感想
三島由紀夫特集。作品をさして読んでいないのに特集読んでどうするのかという声もありつつ。ここに寄稿した何人もが思い入れを込めて文章を綴っている。三島由紀夫という作家は、その最期もあってのことに違いはないであろうけれども、浅からぬ感慨を人の心に残す人だったのだと思う。手書きの原稿、一字一字がマスからはみ出るほど大きく端正な字をまじまじと見つめてしまった。作品ガイドは平野啓一郎。これ以上の適任があろうか。あまり深入りするつもりはないけれど、あの文体がなんとも好きなのだ。そろそろ「豊饒の海」に手を付けようか。
読了日:04月24日 著者:

フランス日記: 日々ごはん 特別編フランス日記: 日々ごはん 特別編感想
2006年、高山さんはスイセイさんと一緒にフランスへ取材旅行に行く。新型コロナなどないごく普通の海外旅行が、はるか昔のことのように思えるなあ。さて、高山さんは街歩きも食事も貪欲にこなす。フランスでは新鮮な美味しい食材が身近な市場で手に入るのだから、料理研究家の需要なんてないのだろうと繰り返すのが印象的だった。『写真を撮ってもええか?』とフランスの子供に広島弁で聞くスイセイさんが好きだ。なんでこの穏やかなスイセイさんと喧嘩になるのか、私は不思議で仕方無いのだが、それってスイセイさんに肩入れしすぎだろうか。
読了日:04月23日 著者:高山 なおみ ファイル

白洲次郎〈増補新版〉 (KAWADE夢ムック 文藝別冊)白洲次郎〈増補新版〉 (KAWADE夢ムック 文藝別冊)感想
白洲次郎の格好良さにもう少しうっとりしたくて。歳取るほど格好いい日本人の男ってそうそういない。「プリンシプルのない日本」と「占領を背負った男」を読んでしまえば政治絡みのインタビューや対談は食傷気味。これだけの媒体で歯に衣着せず発言できたのは、それこそ政治的立場が無かったからだろう。妻正子の書きようが好い。『まあ、カッコはいいでしょうよ、見た目にはね。でも、家では、あんな弱虫いなかった』。『本当にカッコつけつづけて生きていたようなもんですよ。まあ、それを貫いたんだから、ご苦労さまだけど』。うーん、容赦ない。
読了日:04月18日 著者:

とにかくうちに帰りますとにかくうちに帰ります感想
オフィスには、日々事件が起きている。と、つられて言いたくなるくらい、彼女の目は些細な異変を拾う。そうなのよね、気がついちゃうのよね。そこから想像が膨らむのは娯楽半分、いかんともしがたい性分半分。原始の頃からの女性の役割を思えば、それは身内ごと生き延びるための能力(の名残?)と呼びたい。表題作は、現代の人間が大都市の街中で遭難しうる風景を描いている。買った缶飲料に残る、微かな温もりのごとき人情をよすがに、都会の人は日々生きているんだろうか。非常時の、皆に余裕のない事態には、行き倒れることもありそうに思えた。
読了日:04月18日 著者:津村 記久子

旅をする木 (文春文庫)旅をする木 (文春文庫)感想
『人の心は、深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう』。冒頭で心を掴まれて、一度に一編ずつ読み進めた。アラスカで出会った景色や、様々な来し方を持った人とのつながりを一つ一つ慈しみ、その優しさや厳しさをも愛しているのが肌で感じられた。景色や気候が違うだけではない。日本で日々慌ただしく明け暮れるのとは色も早さも違う彼方の時間の流れや、時間を無駄にした、生産性がない、などと自分を責めることのない生き方を我が身に取り込みたかった。歯車の軸の役目を外れたくなった。
読了日:04月14日 著者:星野 道夫

南極で心臓の音は聞こえるか 生還の保証なし、南極観測隊 (光文社新書)南極で心臓の音は聞こえるか 生還の保証なし、南極観測隊 (光文社新書)感想
南極観測隊もの。著者は南極に行きたいがために研究者の道を選び、越冬隊大気担当に見事選ばれた。しかし念願の南極で、気象観測への情熱やユーモアも控えめで、長い滞在の中に楽しい事、幸せな事はあっただろうかと訝しんでしまう。さて、角幡氏などの単独探検業の旅と比べると、些細なことが命に直結する外環境は同じでも、60回も観測隊を送っていれば日課は定型化、行事は恒例化し、「30人余の男たちで上手くやってゆく」点にエネルギーが注がれるのは仕方ないようだ。役目を終え雪に埋もれてゆくばかりのドームふじやみずほ基地が侘しい。
読了日:04月04日 著者:山田恭平 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 11:17Comments(0)読書

2021年04月02日

2021年3月の記録

久しぶりに、小説の世界に耽溺した。
深く入り込めるものと、表面を辿るだけのものと、それは読んでみないとわからない。
読むときの自分の精神の熟成の度合いや心境は測ることができないから、
その物語が自分にぴったり合うかどうかは、前もって選べないものなのだ。
意志の力で潜り込もうとしたって、どうにかできるものでもないのだ。
先を読みたくてうずうずする。
邪魔されると小さな苛立ちが先行する。
いかんいかん、せっかくの楽しみ、ぼちぼちいこう。

<今月のデータ>
購入9冊、購入費用7,668円。
読了15冊。
積読本254冊(うちKindle本81冊、Honto本29冊)。


ブック

3月の読書メーター
読んだ本の数:15

いちばんわかる!  トクする!  社会保険の教科書いちばんわかる! トクする! 社会保険の教科書感想
払うものは必要なだけ払って、しっかり給付を受けようという主旨。対話形式で読みやすい。しかし各制度の骨組みを整理したい向きには、まとめづらい感もある。実務をかじっているから理解できるけど、それこそ事務に任せきりの社長さんには、ハック的な部分しか頭に入ってこないのではないかと思われる。保険料や給付に細かいので、給付を受けたい人のお得感を狙っているようでもあり、実務担当者に情報をまとめているようでもあり、そう、信頼のおけるまとめサイトを読んでいる感覚だった。この手の情報は溢れているだけに、ソースの信用は大事。
読了日:03月31日 著者:キャッスルロック・パートナーズ ファイル

怒り(下) (中公文庫)怒り(下) (中公文庫)感想
私の中には大きな怒りがあると言われたことがある。そして哀しみと怒りは表裏だと私は思っている。この物語は哀しみでいっぱいだ。人は基本的に、他人を信頼しなければ生きていけない動物だ。だけど、相手に近づきたい、為になりたいと思ったとき、信頼の隙間に疑念が染みてくるのではないだろうか。相手を信じきれなかったための哀しみ、慟哭。それは弱さと責めたいとは思わない。一方、過去を伏せる生き方を想像してみる。伏せるには理由がある。それを力でねじ込まれたとき、彼らは裏切りと思っただろうか。諦めきれない思いは切りも繋ぎもする。
結局、「怒」はなんだったのだろう。犯人の中に、苛立ちや嘲りはあっても怒りは見えない。怒りは、何かに本気で向き合って初めて生まれる強い感情だ。例えば辰哉の父のように。だから犯人みたいなサイコパスには、無理なんじゃないかと。他の人々の中に見えた怒りも、哀しみに呑まれていくように私には見えた。
読了日:03月28日 著者:吉田 修一

怒り(上) (中公文庫)怒り(上) (中公文庫)感想
残酷な殺人があったことを、読者は冒頭で教えられて知っている。千葉と東京と沖縄で、決して十全でない毎日を生きる人々の間に現れた、過去不明の3人の男。市井の人間の感覚で不穏さを嗅ぎ取ったとしても、知らなければ決定打にはならない。ならば誰が犯人かと目を配るが、皆それかもしれないと思わせる特徴を匂わせながら、どの男も違う気がしてくるのだ。なぜなら、迷い、驚き、優しい気遣いを見せる、一人の若者だからだ。この人の書く物語は、色気はあっても生臭さがないので入りこまずに読める。下巻、クライマックスはさあどうかな。
読了日:03月28日 著者:吉田 修一

同伴避難同伴避難感想
3.11、原発事故で避難を余儀なくされた人のうち、児玉さんはペットと一緒に避難所に入れた人たちに焦点を当て、声と写真を集めた。一方では悲惨な写真もたくさん公開された時期だったことを思い返せば、児玉さんの意図はわかりやすい。緊急避難を呼びかけたとき行政は、避難所ではペット禁止だから、また集団避難のバスに動物は乗せられないから、放してこいと指示し、住民もまたすぐに戻れると思っていたためにたくさんのペットが餓死や衰弱死した。災害の際は、なにがあっても一緒に猫たちと行動しようと固く決意したことを改めて思い出した。
「同行避難」:災害の発生時に、飼い主が飼養しているペットを同行し、指定緊急避難場所等まで避難する行動。「同伴避難」:被災者が避難所でペットを飼養管理する状態。飼い主がペットを同室で飼養管理することを意味するものではない。(環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」)
読了日:03月26日 著者:児玉小枝

マンション管理員オロオロ日記――当年72歳、夫婦で住み込み、24時間苦情承りますマンション管理員オロオロ日記――当年72歳、夫婦で住み込み、24時間苦情承ります感想
分譲マンションの管理業務13年の管理員による事件簿といったところ。著者はもと広告業界の事業主という。マンションによって環境も人間関係も違っていて、マンションの築年数に係わらず、住人をはじめ管理会社や組合とがうまくやっていけるかによってマンションの価値が変わるというのは納得できる話だ。うちは賃貸だけど、良くお世話していただいているから、古くても長く住みたいもの。金を出して買った者の特権みたいに、管理員を下に見る人間が頻出するのは分譲には多そう。人間の尊卑ではないのにね。確かに若者には務まらない。奥様が素敵。
読了日:03月24日 著者:南野 苑生 ファイル

まんがで読む はじめての猫のターミナルケア・看取り (いちばん役立つペットシリーズ)まんがで読む はじめての猫のターミナルケア・看取り (いちばん役立つペットシリーズ)感想
書店でなにげなく手に取った本。帯に町田康さんの「お願い」が書かれているのに気づき、読まなければと思った。このところ悶々と考えていたけれど、猫を看取る覚悟なんていつまで経ってもできるわけがない。でも、どんな状況が起きうるか、どんな選択肢があるか、補助アイテムや緩和ケアのことも先に知ることはできる。これが後日の私を助けてくれるようにと願う。私が怖いのは、猫が旅立つことではない。自分がなにかしら間違えて、猫を苦しめる事態に陥るのが怖いのだと気付いた。頭の中だけで考えたことよりも愛猫から感じることを優先すること。
読了日:03月22日 著者:猫びより編集部,粟田 佳織

パンデミックの文明論 (文春新書)パンデミックの文明論 (文春新書)感想
この二人の対談が面白くない訳がないので読む。小中学校では治外法権扱い、テレビでは珍獣枠など、致し方なくはみ出してしまう二人に勝手に親近感を持つ。海外へ出て生活したことが、日本人の「空気」による抑圧を外して、好い方向へ背中を押した印象を受けた。感性と知識のガチンコ勝負、というよりは気軽なおしゃべりに近いのだが、各々の持っている教養の素地がでかいために、話の展開が止め処ない。結論があるわけではないので、読んでいるこちらも、へええ、面白い!で終わっていい。好奇心も教養も、拡げたら拡げただけ、無駄にはならないね。
読了日:03月21日 著者:ヤマザキ マリ,中野 信子 ファイル

極夜行極夜行感想
『極夜で冬至で新月という地球最悪の暗黒状態』の中、グリーンランド・シオラパルクを起点に北極海へ向かう"探検"の旅を角幡氏は思い立つ。例によって、真面目なんだか真面目でないんだかわからない調子で、胸の底の打算や欺瞞まで吐露してしまって、あんのじょう闇の憂鬱に呑まれる。だからこそ絶対的存在である太陽との邂逅が本質になるとはいえ、何を好き好んで…。ウヤミリックという伴侶の考察も読ませる。極夜の闇は一度きりの体験であると言いながら、彼はこのコロナ禍に、今また氷の大地にいるらしい。今度は何を思いついたのだろう。
3年前放映のNHK番組の録画を、読み終えた後にようやく観た。太陽が地表に現れない、極夜の世界。実際の体感とはかけ離れていると理解したうえでも、思っていたより氷河は高さがあり、橇は硬い音を立て、何とは言わないが臭そうだった。旅の序盤では生きて戻らせると断言したウヤミリックが、デポ襲撃が判明して以降、緊急食糧としての意味を持ち始めるところは、この本の読みどころの一つだが、そのことを訊かれた角幡氏は言葉に詰まる。結論を言葉にしづらいのか、あるいは、体で理解してなお相克する思いが彼を混乱させたのかもしれない。
読了日:03月20日 著者:角幡 唯介

光降る丘 (角川文庫)光降る丘 (角川文庫)感想
命からがら戦争を生き延びた男たちは日本に帰還し、自らの食い扶持を稼ぐために山間の原生林を開拓する。時を経てその地は直下地震に見舞われた…。恥ずかしながら、この物語が2008年の地震等事実に基づいて書かれていることに、読み終えるまで思い至らなかった。物語の中で開拓民となった男たちは、全力で挑まねば太刀打ちできない状況の中で陽気だ。冗談を言い合い、知恵を捻り、酒を呑んで明日に立ち向かう。自らの力でつくりあげた故郷を、そこで生きていきたいと子や孫に言ってもらえる幸せは、身に沁みて溢れるようなものと想像しました。
戦後、増える国民を養うために、山間地の開拓は国策事業だった。しかし、ブナがみっしりと根を張った原生林を切り開いてつくった土地は、その保持能力を弱めてはいなかったか。そこに人間は住んで良かったのか。避難した住民たちは帰ることができるのだろうか。物語の中であれば無責任に思い巡らせたことも、事実と知れば喉が詰まる。岩手・宮城内陸地震。ググれば土石流に巻き込まれた温泉、崩落した橋、住民の声も顔も現実と迫り、災害と無縁に安穏としているお前になにがわかるかと、真っ当な指摘を突きつける。今も住み続ける強さこそ思うべき。
読了日:03月14日 著者:熊谷 達也 ファイル

招かれざる客 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)招かれざる客 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)感想
戯曲仕立てのミステリ。音響効果まで書き込まれて雰囲気満点で、舞台で観ているみたい。誰もが誰かをかばおうと、こんがらがった糸を切り離してゆくように解かれる謎。「Yの悲劇」の方向にすっかり誘導されてしまった。スタークウェッダーなんてけったいな名前にも裏があるわけで、そうすると三角関係が刻々と変化してゆく流れも実は重要だったり。原題は"The Unexpected Guest"。ウォリック夫人も彼を信頼したくらいで、悪い人ではないだろうに、逃げおおせてどうするのだろう。結末の先を慮ってしまい不思議な余韻が残る。
読了日:03月08日 著者:アガサ・クリスティ ファイル

ザ・ソウル・オブくず屋: SDGsを実現する仕事ザ・ソウル・オブくず屋: SDGsを実現する仕事感想
札幌市資源リサイクル事業協同組合の理事長を務めた方で、資源リサイクル業を長年手掛けていただけではない、障害者雇用、農産物廃棄、原発問題などの社会活動も多岐に携わり、ここまで長く幅広く自分の言葉で語れる人に私は出会ったことがない。"くず屋"だから見える重たい様々も、説明する口調は優しいのだ。豆腐屋さんで買った豆腐を腐らせたとき、申し訳ないと思う。スーパーで買った豆腐を腐らせたとき、損したと思う。なぜだろうね、と。知りたかった廃棄やリサイクルの実際と共に、思いがけず「なつかしい未来」への魂も受け取りました。
飲料容器のリサイクルに関して。リサイクル回収率が高いアルミ缶ですら、決して環境にやさしくなどない。アルミの生成に必要な電力が莫大なこと、アルミ缶のボディはリサイクルアルミでできても底と蓋は新しいアルミが必要になることは、なかなか触れられない点だろう。最強(つまり環境負荷が最低)なのは断トツマイボトルで次がガラス瓶のリユース、次いで紙パック容器であることを覚えておく。最近は急須を知らない日本人の子供がいるって地味に衝撃的。
2011年から18年にかけてのフクシマのリポートも貴重である。著者は毎年のように訪れ、知人の除染作業を手伝ったり子供たちに野菜を送ったりしている。ここからも新しく知る/気づくことが多かった。地中に浸み込んだ放射能は木々が吸い上げ、葉には放射能が溜まり、落ち葉となる。洗っても燃やしても放射能はどこかに移動するだけで残り、消えない。10年経ったって、遍在しているだろう。どうやっても安全に無くすることができないのが放射性廃棄物なのだ。柿の実にも放射能はたまり、干し柿にして濃くなる。そのひとつひとつの事実が辛い。
読了日:03月06日 著者:東 龍夫

想像ラジオ (河出文庫)想像ラジオ (河出文庫)感想
あまたの死者からの声。私には当時も聴こえなかったし、10年経った今も聴こえない。だから、さぞ辛かったろう、冷たかったろう、わけがわからなかったろうと想像した。その欺瞞や甘さもわかっているから、著者は序盤に釘を刺すのだ。帰京する車の中で主人公たちに議論させる。ほんとうにわからない奴らがわかったような顔をするな。当事者はそう思ったとて仕方ないが、どうあったって当事者にはなれない者たちは想像するしかないじゃないか。むしろ想像することが鎮魂だと思う。そうして生きるうちに、同胞として同じ痛みを知る時が来るのだろう。
読了日:03月05日 著者:いとう せいこう ファイル

それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)感想
『歴史好きのための特別講座』と位置付けた講義。政治、経済、安全保障も含め、日清戦争以降、第二次世界大戦敗戦までの日本を、通じて俯瞰する。特に収穫だったのは、侵略/被侵略でない軸で見ることによって新しく見える世界があるということだ。日本と中国を、侵略/被侵略だけでなく、諸分野における競い合いの観点で見る。また、それぞれの戦争の経緯や意思決定、国内外の変化について、「なぜ」の部分を理解する。実在の要人の日記や発言などの記録を引いて、ありありとその心根すら想像させる講義は、難しくも人間的で興味深かった。
1930年頃、経済上も国防上も満蒙は日本の生命線であると、最低限度の権利であると日本は主張し始める。自らねじまげた事実を自ら信じ、煽動する。それが大過であると私はやはり思う。しかし、戦争はいかん。侵略は絶対いかん。で以前の私は思考停止していた。本当の歴史はダイナミックで、理由があったり時のいたずらだったりを重ねながら形づくられてきた。今度はまた違った視点で世界と日本を見てみようと思う。
煽り本やヘイト本では、心の底から湧き上がる「なぜ」に対する答えが結局は満たされず、さまようことになる。若い人には時間とお金の無駄遣いだと著者は言い切る。その前に、ひと通りの客観的な理解をするべきで、そのために、私はこの本は良いと思う。義務教育の頃に理解するには奥行きがありすぎ、では人生のいつの時期にならこうした内容を受け止められるかと問われると人それぞれとしか言いようがないのが難しいところだけれど。お勧めです。
読了日:03月03日 著者:加藤 陽子 ファイル

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」感想
噂のタルマーリー。何年か前に、ルヌガンガでトークイベントがあったのに行きそびれて以来、気になっている店。2013年、この時世ですでに、マルクス、腐敗と発酵、自然栽培と天然菌、地方移住で小商いなのである。近年のキーワード目白押しで話題にならないわけがない。一般的パン職人の職業病が手荒れや鼻炎だと話すくだりが忘れられない。輸入小麦に残留するポストハーベスト農薬にやられている可能性を著者は指摘している。長い時間触れるほど人体に害なすものを私たちは食べているのか。せめて国産小麦か。うどんはどうなんだろう。
読了日:03月02日 著者:渡邉 格 ファイル

図解決定版 すい臓の病気と最新治療&予防法図解決定版 すい臓の病気と最新治療&予防法感想
片手落ちにならないよう、すい臓の病気も調べる。消化液となるすい液を分泌する臓器で、胆管と位置関係も機能も近い。急性/慢性膵炎とも症状に思い当たるふしがあって疑わしいが、下痢や糖尿、黄疸の症状まではない。人間でもわかりにくい病気だが猫はよりわかりにくく、高齢猫に多い病気だが症状でしか判断しづらいと猫の病理本にある。痛みを我慢し、自覚症状を言語化できない猫ゆえ、もどかしい。図解やコラムも豊富で、情報量が多いわりにわかりやすい。再発や重症化の末の癌化まで解説されているので、本人や家族にとって重い内容なのも確か。
読了日:03月01日 著者: ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 14:45Comments(0)読書