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オーナーへメッセージ

2022年10月01日

2022年9月の記録

内田樹先生の講演を聴きに行った。
初めて聞く先生の声は柔らかかった。意外に感じた。
ルヌガンガさんが内田先生の本を持って来ていて、サインが頂けるということで1冊を急いで選んだ。
ちらと危惧したとおり、1年前に既に読んでおり、しかも比較的気に入らなかったものだった。
安田先生との対談本にすればよかった。
しかし内田先生に私の言葉を伝えて、にっこり笑っていただいたことは忘れない。

<今月のデータ>
購入19冊、購入費用21,977円。
読了15冊。
積読本328冊(うちKindle本161冊、Honto本6冊)。


ブック

9月の読書メーター

女には向かない職業 (ハヤカワ・ミステリ文庫)女には向かない職業 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
修道院で暮らした過去や、他人を安易に容れない性格による、ドライな世界観を持った若い探偵という設定。若干こなれない、上滑りな印象を受けるのは、シリーズ初作だからか。依頼を受け、予想外に淡々と乗り込んだカテージは、真実が明るみに出るにつれて穏やかな明るい隠れ家からおぞましい悪意に浸食された空き家へ変貌する。その過程もどこかしっくりこない感触だが、この物語の読みどころは事件解決後、ダルグリッシュ警視との攻防戦なのだ。このダルグリッシュ警視がシリーズ本流らしく、引力のある登場人物。買っちゃってるので続編を読む。
読了日:09月25日 著者:P.D.ジェイムズ ファイル

営繕かるかや怪異譚 その弐 (角川文庫)営繕かるかや怪異譚 その弐 (角川文庫)感想
違和感、気配と経て、怪異は凝って視覚化する。その経緯を書くのが小野さんは上手いのである。ていうか、今回は具現化しすぎて、これはこれで怖い。紐とか鎌とか、悪霊シリーズの再現である。中では、物と、人の思いが絡んだ怪異が印象に残った。物に残る魂。リサイクルや古物を取り入れた暮らしは流行りとて、物を大切に使う暮らしとは同義でない。逆に粗末にすることもある例である。工夫と横着は違う。『ものを作るのは手間暇かかるものよ。手間暇を惜しむから、あなたはすぐ奇抜なことに走るの』。隅田さんが素敵なキャラになってきた。 
読了日:09月22日 著者:小野 不由美

ビーグル号世界周航記 ダーウィンは何をみたか (講談社学術文庫)ビーグル号世界周航記 ダーウィンは何をみたか (講談社学術文庫)感想
航海記そのものではなく、著書からの抜粋を子供向けに編集した本「ビーグル号で世界を巡る旅の中でダーウィン氏が見たもの」の翻訳である。19世紀、ダーウィンが体験した事物が事細かに記録されている。各地の民族や土地の描写を読むのは楽しい。なぜなら、乗馬でボラスの扱いを失敗して南米ガウーチョ人に笑われた逸話や、タヒチ人への開けっぴろげな賛美など、西洋人らしからぬ偏りのない観察眼、旺盛な好奇心と道義心は、正直で愛すべき人物と認定するにじゅうぶんだからだ。原始林を「"自然という神"が生み出した殿堂」と呼ぶのも好ましい。
1835年2月20日11時半、ダーウィンはチリで地震に遭遇する。『ひどい地震はたちまちわれわれの古い連想を破ってしまう。堅固そのものを象徴するような大地が、流体の上のうすい皮のようにわれわれの足元で動いた。地震は一秒で、何時間の反省によっても産みだせないような奇妙な不安な心持を、心の中につくりあげてしまった』。そしてもしイギリスが地震の暴威にさらされたらどのような事態になるかと震撼している。地震に遭ったことがなかったと見える。地震は、地震が頻発する地に生きる民族の精神性に大きな影響を与えているのだろうな。
読了日:09月21日 著者:チャールズ・ロバート・ダーウィン ファイル

おくのほそ道(全) ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)おくのほそ道(全) ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)感想
ある本を読もうと思って、そういえば原本を読んでいないことに思い至り、さらりと読んでみる。深川の草庵から、芭蕉は自ら荷物を担いで旅に出る。笠敷いたり賽銭踏んだりしては、泣く。感動の誇張表現なのか、あるいは歩いて旅をするという行為が当たり前でも安全でもないゆえに、感情が増幅されるのだろうか。実際に歩いてみたらわかるのだろうか。先達の詠んだ和歌や俳句への知識が深い。当然、記憶している。この旅は、知己を訪ねる旅でもなく、名所巡りでもなく、先達の足跡を辿る旅だったのだろう。安田先生の芭蕉を歩く旅の、あれも読もう。
読了日:09月19日 著者:松尾芭蕉 ファイル

「十二国記」30周年記念ガイドブック「十二国記」30周年記念ガイドブック感想
もうガイドブックなんて読んでも目新しい発見は無いくらい繰り返し読んできたと自信はありつつ、小野主上のインタビューと短編はやはり逃がせないと購入。辻村深月のエッセイが上手くて、同じ時間を共有した者としてじんと震える。そしてなんといっても小野さんの肉声である。悪霊シリーズ以来、自らの言葉で語られる場がほとんどなくなって、綾辻さんから漏れ聞くだけだったから、、、あれ、そういえば何年か前のインタビュー誌はどこへいったっけ? ともかくお身体を大事にしていただきたい。あと、A0サイズの十二国記の地図見てみたいです。
読了日:09月18日 著者:

これは、アレだなこれは、アレだな感想
テレビの普及期からよほどメディア漬けでこられたんじゃないかと想像するほど、テレビ、漫画、本、音楽、映画、今はネトフリ他ストリーミング配信まで、あらゆる媒体で発表される作品を渉猟されてきたようだ。そのデータベースを 「これ」から「アレ」へと、古今東西思いのままに発想を飛ばされるのを、こちらは口をぽかんと開けて拝聴していればよいだけだが、ご本人にはかなり大変な作業になったらしい。たくさんの作品の「これ」と「アレ」を見定めてゆけば、生まれる感動が薄れるかと思えばそうではないらしく、「鬼滅の刃」は泣くらしい。
読了日:09月17日 著者:高橋 源一郎 ファイル

破船 (新潮文庫)破船 (新潮文庫)感想
極貧の漁村。タコ、イワシ、サンマ、塩と、自然の恵みに依存した営みは季節に沿い正しく繰り返される。漁獲は村人の糧の多寡に直結し、頻繁に身売りが行われる。物語の中で季節は執拗に繰り返され、お船様が現れた頃には読み手も生き延びるためのムラの論理をやむなく思い始める。しかしそれは、村外の人間の死と表裏だ。著者が描きたかったのは、その貧しき人の心のさもしさと生々しい生への執着の捻じれなのだろう。幼い伊作は父親に代わり、漁に出る。年ごとに上手くなり、家の母や弟妹を想う。そんな日々の積み重ねも疫病によって無に帰すのだ。
この村は、穀物の栽培もおぼつかず、漁獲が少なければ即、飢えてしまう。数年に一度の破船から奪ったもので数年を食いつなぐ、つまり破船が無ければ生きていけないから、破船をお船様と呼んで乞い願うようになる。この村には、未来があってはならないのだ。病んだ者ではなく、病まなかった者が出て行けばよかったのに。
読了日:09月15日 著者:吉村 昭

エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来感想
ブラボー! 感動未だ冷めやらず。石油会社の一社員の立ち位置にありながら、偏らない姿勢でエネルギーという巨大テーマに深い関心を持ち続ける意志がすごい。そして人がライフワークを抱いていると、様々な方面から知は集まってくる。すなわち、専攻の化学分野に留まらず、科学、哲学、歴史、地学と多角的に情報を整理し、エネルギーという抽象的な存在の本質に迫ることで人類の未来に希望を見出そうとする著者の誠実な試みは、人間の英知そのものと呼びたい。さらにそれを他者に分け与えんと執筆の労を担ってくださった著者に心から敬意を表する。
『エネルギー問題とは、単に技術革新に期待するだけでは解決できない複雑な問題』『安易な技術革新信仰を捨て、より深いところでエネルギー問題に正対すること』『環境負荷を全く気にすることなく人類が好き勝手に使ってよいような完璧なエネルギー源など、そもそもこの世には存在しない』『個々の省エネ技術はむしろ社会全体のエネルギー消費量を増やす傾向があるとなると、知識の蓄積で成り立っている現代文明を維持・発展させていくためには、エネルギー消費量を引き続き増やし続けていくほか手立てがなくなってしまいます。』
著者は核融合反応による原子力発電を希望の発電システムと見定めている。しかしその実現には世界中の英知と資本を結集した開発によって、今の人類の技術からはずっと先の技術革新を成さなければならない。目下としては、ヒトの脳が持つ際限のないエネルギー獲得への欲求を自覚し、太陽光エネルギー、水素、省エネ、地産地消を前提とした分散型システムなど、できること全てをやらなければならないとしている。『何もないところからエネルギーを作り出す技術、ないしはエネルギーの質の劣化を逆転させる技術、そのいずれもが実現不可能なのです』。
「旅のおわりに」と「謝辞」の真摯さ率直さは好ましく、「謝辞」の締めくくりにはほろりとしてしまった。英治出版の社長の心意気にも感謝したい。おかげで著者の英知を私が受け取ることができたのだから。電子書籍の末尾も末尾、いつもなら本を閉じてしまうところに文字を発見。"TO MAKE THE WORLD A BETTER PLACE - Eiji Press, Inc." かっこいい!
読了日:09月15日 著者:古舘 恒介 ファイル

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー (新潮文庫)ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー (新潮文庫)感想
カトリック系の私立小学校から、公立の"元底辺中学校"へ進学。息子君と家族の日々遭遇する事件は、持っている歴史や文化の相違上、日本ではありえず、同時にイギリスの内側でずっと同じ階級にいては当たり前すぎて気づけない種類の問題を可視化する。著者持ち前の元気でパンクな語り口と、社会制度への知識が読み応えに繋がっている。ボランティアの感覚が日本と絶対的に違う。相互扶助の精神が遍在する社会の姿や、多様な人々が共生するにあたって避けられない摩擦の例、それをより良い方向へ変えていこうと組まれる教育の在りかたが興味深い。
読了日:09月12日 著者:ブレイディみかこ

独りでいるより優しくて独りでいるより優しくて感想
ミステリのようで、つまるところ、黙然の物語であると私は思う。素直でよく笑う少女。泊陽の薄情や、如玉の拒絶に戸惑い、結果として犯罪に加担した苦しさはいかばかりか。それから渡米までの数年間については結局触れられていないが、その後の挙動には影が残る。相手は訳わからんだろう。だから、ジョセフとの関係を取り戻せたことはすごく良かったと感じるのだ。『先へ進む? それはアメリカのもので、私はそれをいいこととは思ってないよ』。芯からアメリカナイズされるのではなく、黙然が黙然であるところの女性で在れる結末を好ましく思った。
読了日:09月10日 著者:イーユン リー

にごりえにごりえ感想
文体が好きで、何度か読んでいたはずなのに、「文人悪妻」にちらりと出た結末に覚えがなかった自分に驚く。いやー、お力が健気で、かわいらしいやらいたわしいやらで、そちらが印象に強くて、最終章のがらりと展開してチョンと終わる、テンポの加減のせいかしら。「曽根崎心中」とやや混同している向きもあり。刀傷の描写をじっくりと読むと、お力の振舞いがまざまざと見えるようであり、やっぱりなんとも痛ましい物語である。
読了日:09月06日 著者:樋口 一葉 ファイル

文人悪妻 (新潮文庫)文人悪妻 (新潮文庫)感想
男性向け週刊誌の連載かと勘繰るノリと、女性たちの精気と色気に中てられてクラクラしてくる。流れでたまたま「文人」と題しただけで、さして「悪」妻でもない。森しげでもさほど悪く書かれていない。むしろ、妻の役目を務め上げた、あるいは強かに生き抜いた明治~昭和時代の著名な男性の伴侶、または自身が著名な女性への賛歌である。男性にしろ女性にしろ、文人という人種の伴侶は難しい。しかし、その人生経験を見事に文学作品に昇華する姿には、「まじか…」しか出ない。著者の文学への造詣ゆえ、混ぜ込まれる作品を片っ端から漁りたくなる。
読了日:09月06日 著者:嵐山 光三郎 ファイル

ウルフ・ウォーズ オオカミはこうしてイエローストーンに復活したウルフ・ウォーズ オオカミはこうしてイエローストーンに復活した感想
オオカミ再導入をいかに成し得たかの記録。野性大型動物の乱獲による急減と、人間と家畜動物の急増が、オオカミによる"被害"を増やした点は同じである。しかし"絶滅"させた日本と違い、アメリカでは国境の向こう側や隣州に同種がいるので、民間人による殺戮と家畜被害の補償の法制化が主である。先にニホンオオカミの本を読んだせいで熱が入らない頭で考える。ある種が100年を生き繋ぐのに、そもそも何頭残っていれば可能だろうか。その頭数のオオカミが、いくら人間の脚が山中で不自由といえ、発見されず生き延びられるか疑問に思えてきた。
先日、鴻池朋子の「みる誕生」を観に行った。知らなかったのだが、鴻池さんはオオカミやキツネの毛皮をいくつも吊るす展示をする。顔も足指もある毛皮に私が動揺していると、学芸員さんが近づいて、「オオカミの毛皮です。日本はいませんが、外国では害獣なので。インターネットで販売されていて、買えるそうです。」と説明した。冬毛だろうか、毒殺だろうか、手の甲で触れたハイイロオオカミの深い毛並みは、名状し難い激情を生んだ。泣きたかった。
読了日:09月04日 著者:ハンク・フィッシャー

貧困パンデミック――寝ている『公助』を叩き起こす貧困パンデミック――寝ている『公助』を叩き起こす感想
2020~2021年の、各支援団体の状況がわかる。新型コロナでもともと不安定だった雇用が奪われ、困窮の末住まいも失った人が急増した。そして福祉崩壊、相談崩壊。支援団体の人々は支援をしながら行政に申入れし、抗議し、地道に変えていく。一方で政治家によるネガキャンは大々的に報道され、確実に人々の心を侵食していく。国の組織としてのしなやかさの欠如が、日本をますます生きづらい場所にする。行政の支援を受けるのに、やりとりを録音しておくべきだなんて常態は酷すぎる。「自助も共助も限界に来ている。今こそ、公助の出番だ」。
読了日:09月03日 著者:稲葉 剛 ファイル

「身体」を忘れた日本人 JAPANESE, AND THE LOSS OF PHYSICAL SENSES「身体」を忘れた日本人 JAPANESE, AND THE LOSS OF PHYSICAL SENSES感想
2020年に亡くなったC.W.ニコル氏と養老先生の対談、2014年。ニコル氏はアファンの森をつくったり馬を使役したり学校創設に関わったりと活動の幅広く、養老先生も保育園の理事長を引き受けたりされているので、日本の未来を想って、日本の自然や子供のために尽力している共通点がある。"We have to be gardeners"。感覚は違いを発見するもの。意識は同じを見つけるもの。どちらに傾きすぎても生きづらいけれど、感覚の世界の奥深さを忘れては人は生きられないのだよという大切なメッセージ。広い土地欲しい。
読了日:09月03日 著者:養老孟司,C.W.ニコル ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 10:52Comments(0)読書

2022年09月02日

2022年8月の記録

食べた言葉を消化するには、なかなかのエネルギーを要するらしい。
食べる言葉の量を減らせば思考の量も減らせるらしいが、
ついアルコールと一緒に流し込んでオーバーフローに陥ってしまう。
「忘れる」はサーキットブレーカーみたいなものなんだろう。

<今月のデータ>
購入18冊、購入費用17,608円。
読了18冊。
積読本325冊(うちKindle本160冊、Honto本8冊)。


ブック

8月の読書メーター
読んだ本の数:17

コンビニ人間 (文春文庫)コンビニ人間 (文春文庫)感想
何気なく読んだら面白かった。でもメンタル引きずり込まれて困ってもいる。私のコンビニの記憶。雇い主や同僚には嫌な記憶ばかりだ。コンビニは社会の底辺だと割り切ってきた。しかしほんとうは私が徹底的に弾かれたのだよな。遡って、勉強さえしていれば挙動の怪しさは免罪されると思っていた子供時代、さらに親戚づきあいから逃げ回る現在へと、記憶たちがざわざわする。人は想像する以上にみな違うもんだよ治るとかよかったとかってなんですか。妹の「治らないの?」の涙に別の意味で動揺しない主人公が心強い。彼女がコンビニに戻れてよかった。
読了日:08月31日 著者:村田 沙耶香 ファイル

ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話 (文春文庫)ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話 (文春文庫)感想
目には見えないもののことをじっくり考える習慣は、人を強くする。人間の身体は遺伝子を繋ぐため、生命を存続させる必要がある間は生きたいと思わせ、時が来れば容赦なく壊れるようできている。対して、感情は振りほどきようがない強さで、いつもあとから湧いてくる。その落差を埋めるために、人は熱意を傾けて知を育むのではないだろうか。『自分が直面している状況に関して、切り口を変えると、全く見方が変わってくる』。"気配"の概念を理解できない西洋人の話が出てくる。東洋の思考は見えないものを捉える切り口を増やす利があると思い至る。
読了日:08月30日 著者:上橋 菜穂子,津田 篤太郎 ファイル

読み解き!『裸の大地 第一部 狩りと漂泊』 対談 不確実性(ナルホイヤ)のなかで見出す解(角幡唯介トークス) (集英社e選書トークス)読み解き!『裸の大地 第一部 狩りと漂泊』 対談 不確実性(ナルホイヤ)のなかで見出す解(角幡唯介トークス) (集英社e選書トークス)感想
2021年、服部文祥の小屋で。この二人の対談が面白くないはずがない。本人たちは、こんなの読者は読んで面白いか?とか売れないんじゃないか?とかじゃあ俺はどうしたらいいんだよとか、文章を書くってたいへんな作業なんだ。私はあなたたちの書くものなら何でも読みたい。それだって丸投げだし。歳と共に表現欲が減退して、モチベーションが下がっているとも言う。嫌だ、YouTuberになんかならないで、文章を書くのやめないで、想像するだけで泣きそうだ…。俺は文章表現が好きだから、と衒いなく言っちゃう服部文祥が私は大好きなんだ。
読了日:08月30日 著者:角幡唯介,服部文祥 ファイル

ニホンオオカミは消えたか?ニホンオオカミは消えたか?感想
オオカミはかつて食物連鎖の頂点に君臨したがゆえに、難しい立ち位置に置かれている。今世紀に入ってもイヌでもキツネでもない獣の目撃報告は続いている。目撃してしまった人の中では、最早オオカミがいないことにはできない。しかし生きている証明ができない。国による本格調査無き絶滅宣言は信用できない。ニホンオオカミが生きているならタイリクオオカミを日本に導入することはできない。八方塞がりだ。オオカミ信仰の残る秩父地方で目撃報告が多いのは示唆的である。日本の森には人間が知り得ない真実が今もあると信じる側に私は立ちたい。
読了日:08月29日 著者:宗像 充 ファイル

会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。感想
社員に会社辞めると言われると、落ち込むことにしている。言い直すと、その辞めたいと思った動機が、本人の軽挙妄動と即割りきるのではなく、なにか会社の側の至らなさにあったのではないかと省みることにしている。ただ今回は落ち込み過ぎたので、青野さんの本を再読してみた。サイボウズと同じにはいかなくも、令和を生き残る企業として必要なのはどのような姿勢か、方向性の確認をしたかったのだと思う。これからの社会では給料は成果への報酬ではなく、未来の期待値という考えは、希望があっていいなあ。さあ、やるべきことは山積みだー。
読了日:08月28日 著者:青野 慶久

こんにちはヤギさん!こんにちはヤギさん!感想
で、意識的にか無意識にか本編では省かれていた、ヤギを飼ううえで「役に立つ」情報を詰め込んだのがこのヤギZINE。本編を読んでヤギを飼いたい人が増えたらと内澤さんは心配しておいでる。いやー、本編に獣医とか出てこないし、いやにさらりとしていると思ったが、蹄の手入れもたいへんだし、もっと日常なところで、ヤギが好んで食べる草と食べられる草と食べてはいけない草がこんなにシビアとは知らなかった。ヤギは寂しがりで、独りでも寂しければ、仲の良いヤギ伴侶が死んだら鬱になるほどとも内澤さんは心配している。イラストが素敵すぎ。
読了日:08月27日 著者:内澤 旬子

カヨと私カヨと私感想
今作の内澤さんの文章は今までよりもたおやかな、やわらかい感触がしていた。昨日のルヌガンガでの内澤さんのお話会にサプライズ登場した杉江さんとの遣り取りによると、内澤さんはこれまで本を書くときは、誰かの役に立つ内容を届ける前提で、そうでなければ本を手に取ってもらえないと思って企画・執筆していたのだそうだ。今回は、書きたいことを書いた。たいへんだけど愛おしい日々を、言葉を介さない深い交流を、ヤギ愛全開で書いたから、私はそう感じたのだ。役に立たなくたって、もう胸いっぱいである。内澤さん、カヨと出会って良かった。
家の中に人間より動物の数が多い場合、生じる現象はヤギでも猫でも似ている。生命力は常に人間の想定を超えてくる。刹那を生きる動物の望みどおりにしてやりたい思いと、人間の居住地域内にいるがゆえに限られる選択肢、その板挟みで途方に暮れる人間に向かって全身で鳴き叫ぶ姿は想像するだに身もだえしてしまう。さらに個体同士の関係性は刻々変わっていく。動物には動物の理がある。急に嫌ったり攻撃したり仲間外れにしたり、人間の関われる範疇ではない。人間の都合よいとおりにはならないけれど、全き理解は成り立つと私は信じる。
読了日:08月26日 著者:内澤旬子

人、イヌと暮らすー進化、愛情、社会 (教養みらい選書)人、イヌと暮らすー進化、愛情、社会 (教養みらい選書)感想
理知めな犬エッセイ。ヒトーイヌ関係や、イヌを介在したヒトーヒト関係についての考察。ヒトーイヌ関係もイヌを介在したヒトーヒト関係も、ネコとのそれよりも相互作用が豊かであるというのは、どうやら確かだ。ネコとヒトもアイコンタクトは取れるが、そこに共感は発生しない。またネコと暮らす人同士にイヌ友のような友情は発生せず、それをきっかけとする地域の人間関係も生じ得ない。これは人生すら左右する現象だ。素晴らしい。だからといってイヌをうちに迎えようとはならないのは、私の中のネコ的要素がそれを求めないのだから仕方ないよな。
読了日:08月25日 著者:長谷川 眞理子 ファイル

野ざらし紀行 現代語訳付野ざらし紀行 現代語訳付感想
「おくのほそ道」の旅に出るより前、庵から西方面へ。備忘録程度の短い文章+句という構成で、その短い文章すら途中からは省くから残ったのは地名だけという、ミニマムな紀行文?である。句は、ふと思いついたことを句に仕立てた感じ。特に感慨深かったわけでもないけど風物が目の前にあるからひねってみた、みたいなものも多い。山頭火や放哉の、四六時中落涙か流血しているような句を魂の句だと思っている節がある私には拍子抜けだった。現代語訳に句の意味も書かれているのだが、句に書かれていない背景込みで説明されるあたり、ずるい。
読了日:08月21日 著者:松尾芭蕉 ファイル

コールセンターもしもし日記コールセンターもしもし日記感想
コールセンターってこういう仕組みなのか。マニュアルで対応する派遣、上にSV、管理職がいる。かける専門と受ける専門、単なる事務処理から問題解決まで難易度も客の経済水準もピンキリだが、派遣される側は業務内容を知らされず、勤務地と時給だけで選ぶ。携帯の代金を払わなくて電話を止められたからとコールセンターのオペレーターを怒鳴り倒す客の応対と、高めな時給の天秤は釣り合うのだろうか。かかってくる営業の電話も、たどたどしいのは派遣だろうか。詐欺まがいのマニュアルで相手にキレられる、そんな仕事はお辞めなさいと説得したい。
読了日:08月21日 著者:吉川 徹 ファイル

アルハンブラ物語 (講談社文庫 あ 31-1)アルハンブラ物語 (講談社文庫 あ 31-1)感想
1829年、著者は総督からアルハンブラ宮殿内の空き部屋に住む許可を得る。今のように観光地化される前、アルハンブラは荒れ放題で、出入り自由、貧民が住みついたりもしていた。それにしたってムーアの遺した造形物の美しさは紛う方ない。「月光を浴びるアルハンブラ」が好きだ。当然、ライトアップなどされていないので夜は暗闇である。ひと気のない宮殿は怖くもあろうけれど、手燭が揺らす彫刻や柱の陰影は目を奪おう。月が出れば乳白の大理石が白く浮かぶ。夜な夜な歩き、物思いに耽り、昼間はバルコニーの手すりに持たれてまどろむ贅沢さよ。
読了日:08月19日 著者:ワシントン・アービング ファイル

プロジェクト・ヘイル・メアリー 下プロジェクト・ヘイル・メアリー 下感想
よい、よい、よい! しあわせ! 人類やけっぱち作戦の顛末。ウィアーの小説ならば、バッドエンドは無い。しかし読み終えて覚えるのは、「結末はこれ以外に有り得なかった」という満足感だ。究極の二択で彼が選んだ世界は、彼だから選んだ世界。人類は愚かだ。いつも愚かな道を選ばずにいられない。しかしそれはそれとして、隣人を大切にする気持ちは信じる。意思疎通を図り、情報を共有し、だからこそ宇宙を航行できるほどの技術を人類は手にすることができた。そして科学のたゆまぬ探求、新たな発見が未来を拓く可能性は、信じてもいいと思った。
読了日:08月18日 著者:アンディ・ウィアー ファイル

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上プロジェクト・ヘイル・メアリー 上感想
今回は宇宙で、宇宙船の中で独りぼっち。理系の人って、こんなふうに次々と問題解決できる引き出しを素養として身に着けてるのか。すごい。しかし今回は地球の命運がかかっている。独りではどこまで…と思ってたら独りぼっちじゃなくなった! アストロファージの設定が細かい。やつらの持っている性質、それによっていろいろな使いでが導かれて、物語を盛り上げる。専門的な説明描写に浮遊しだす意識を引き戻しながら、私はユーグレナを連想していた。巷の資本主義的喧伝に幻滅しそうになるけど、新しい発見には地球を救うチカラがあるのかな?
読了日:08月12日 著者:アンディ・ウィアー ファイル

「日本の伝統」の正体 (新潮文庫)「日本の伝統」の正体 (新潮文庫)感想
私が知る伝統に偽物が混じっていないか確認するため。いわゆる雑学本だが、雑学本としての事実確認の深さがちょうどよい。さて、意図的につくられた「伝統」は多くて、商売繁盛のために商売人が仕掛けたもの、また政府や寺社仏閣が自らの存在に箔をつけるため、正当化するために謳ったものが多い。加えて著者が指摘しているのは、明治時代と戦後に「伝統」が量産された点だ。それは大きな断絶の後なのだ。断絶を感じ取り、新しい時代への変化を望みながら、同時に長い日本の歴史を誇ってもいたい気持ちが、「伝統」を創らせたのだろうと想像した。
高松まつりの総おどりを観に行った。四国で言うと伝統が長いのは徳島の阿波踊りで400年程度、それを羨んで創った高知のよさこいが70年程度。江戸時代からあった"よさこい節"に踊りをつけ、アレンジを加えて今がある。観ていると、俺たちは踊りたくて仕方ないんだ!と内から発散する熱にこちらが焦がされそうなほどで心掴まれる。よさこいソーランつくりたくなるのわかる。片や高松の"一合まいた"は室町小唄起源を力説しようと、もはや形骸感が半端ない。この先、伝統になっていくのはよさこいだわなと思わずにいられない。よさこい観たい。
読了日:08月11日 著者:藤井 青銅 ファイル

マーシャル、父の戦場: ある日本兵の日記をめぐる歴史実践マーシャル、父の戦場: ある日本兵の日記をめぐる歴史実践感想
マーシャル諸島で餓死した一人の日本兵。遺された手帳をその息子から託され、解読する作業から始まった企画である。そこには援軍の到来を待ち望みながら、空腹を耐え、機銃掃射から逃れ、作物を自給し、仲間を日々見送り、ついには自らの死を自覚する心中が綴られていた。『最後カナ』の絶筆。時系列からは、東京や大阪が空襲を受け、米軍が沖縄に上陸した、その事実も知らないまま床に臥していた事がわかる。しかし生き延びることは、ついぞ諦めなかった。37歳の出征当初から日本の敗戦は覚っていたという。還れなかった、その無念を思う。
読了日:08月11日 著者:大川 史織

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)感想
なにやらわからないが、異世界との接点が地球上に表れた。そこへ忍び込んで未知の知的存在が造った未知の物体を持ち帰る者が「ストーカー」である。人間の心身を害する要素もあるらしく、何人ものストーカーが斃れた。ホラー映画のように、正体が見えないまま危害が加えられるあたりも理不尽である。それでも忍び込むのは金になるから、つまりその未知の物体の構造や機能が、人間の好奇心を刺激してやまないからだ。未知の存在は、いっさい姿を現さない。あるのは、当たり前の人間の暮らし、変異した街に暮らす人々の殺伐とした心象、自滅への願望。
読了日:08月04日 著者:アルカジイ ストルガツキー,ボリス ストルガツキー ファイル

半日半日感想
ああ、典型的な悪妻。自分がやりたくないことは絶対したくない。そのためには事実を捻じ曲げる。筋道が通るまいが反駁する。おるなあ、そういうひと。生命力削られるんよなあ。自分の妻がそういう女であったと気付いて、論理思考な性質の男はどう思うのだろう。たとえば鴎外は。後悔するのか、愛おしく思うのか。ちなみに文中に妻を褒める言葉は顔立ちについてのみである。なだめ、すかし、エンドレスな諍いに諦観の匂いがする。真偽のほどは知らないけれど、この女性のモデルは自分だと知らされたら、鴎外の妻はそりゃ憤激するだろうな。
読了日:08月01日 著者:森 鴎外 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 14:41Comments(0)読書

2022年08月01日

2022年7月の記録

宮田珠己氏が「めちゃめちゃ好みだ、どストライクだという本と、これはなかなか面白そうだという本と、これは読んでおかないという本がある場合、まず読んでおかないと本から読んでしまう癖をやめたい。どストライク本までなかなかたどり着かない。」とつぶやいておられて、まったく同意する。
読んでくれる人も稀であろうこのブログの意義といって、月に一度自分の読んだ本を眺め渡すことにもある。
これといって重みのある本は読んでいないな、また特に響く本は無かったな、と思うけれど、なんらかの糧にはなっているのだ。
特に社会を見る目がまた転換期にあると思う。

<今月のデータ>
購入21冊、購入費用14,994円。
読了12冊。
積読本320冊(うちKindle本156冊、Honto本9冊)。


ブック

7月の読書メーター
読んだ本の数:12

吉田茂 ポピュリズムに背を向けて<下> (講談社文庫)吉田茂 ポピュリズムに背を向けて<下> (講談社文庫)感想
吉田茂の大舞台。サンフランシスコでの講和へ向かう場面はとかく目が潤んでしまって、未来の日本を想う先人たちの気持ちに感じ入った。政治家の在るべき姿について考えた。しかし一転、あとがきで感傷は吹っ飛ぶ。国民は政治を見る目を養えと著者は言う。政治家の本当の仕事は、一般人には見えない事の方が多いのだろう。そして政治の様相は、当時と今と違わない点も多い。それにしたって、小手先の人気取りだったり、粗忽な政策を議論を拒んで拙速に通したり、そんな教養も矜持も目減りが明らかな政治家がのさばる今の政治をどう信頼しろと。
読了日:07月28日 著者:北 康利 ファイル

美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔 (PHP新書)美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔 (PHP新書)感想
中野さんの本を読むのは好きだ。しかし絵を眺める時間は、3回くらい見返したとしてもそう長くない。きれいだなぁ、とか気味悪いなぁ、とか思うくらいで、どこがすごいのか探る気がさっぱり無い。私にとって中野さんの本は、ミニミステリだ。絵の裏に隠れた物語、壮大な、あるいは謎に満ちた、絵はその手がかり。もっと面白い話を聞きたくてずるずる読んでしまう。ユトリロにせよトルストイにせよ、ほう!と感嘆したことばかり印象に残って、絵も画家の名も覚えちゃいないのだ。でもアルテミジアは覚えておきたいな。かっこいいから。
読了日:07月23日 著者:中野 京子

無敵の読解力 (文春新書 1341)無敵の読解力 (文春新書 1341)感想
素地の全く違う二人の対談本も早や何冊目か。しかし慣れ合うのではなく、敢えて異なる見方を相手の見解の横に並べてみせるところが面白い。相手を驚かせるための隠し玉を事前に仕込んだりしていそうだ。さて、政治家の教養について。為政者を志すなら、質と量ともに一般人のそれでは足りない。頼るべきは先人の知恵たる古典で、その道を進むなら読んでおくべき類のものが底力となる。若い頃に重厚なものを読む力をつけてそこまで辿り着くには、天賦の嗅覚か、身近な者の誘導が必要だろう。あるいは素養が足りないと自覚して誰か教師役を捕まえるか。
しかし「きちんとした読書の基盤がある政治家」は与野党共に減っているという。松岡正剛氏のエピソードが興味深い。ある政治家に本の読み方を教えてやってほしいと請われ、試みたが全くうまくいかなかったという。そもそも読む必要が理解できない者には、馬を水辺に連れて行くことはできても、である。テレビでは政権に対する忖度とも取れる発言に留める池上さんだが、本書では日本の元首相や政治家に対して、佐藤氏と毒舌の応酬である。ということは、局側からNGがかかっているのだろう。知識と毒舌がぽんぽん飛び出す池上さんは格好好いぞ。
佐藤氏:古代ローマの詩人ホラティウスの頌歌を引いた一節です。「祖父母に劣れる父母/さらに劣れるわれらを生めり、/われら遠からずして/より劣悪なる子孫を儲けん」。
読了日:07月22日 著者:池上 彰,佐藤 優 ファイル

吉田茂 ポピュリズムに背を向けて<上> (講談社文庫)吉田茂 ポピュリズムに背を向けて<上> (講談社文庫)感想
日本が敗戦に向かって転げ落ちている時分、政府や官僚は何をしていたのかと以前の私は鼻白んだものだったが、今よりも胆力があって優秀な政治家や外務省官僚でも止めることができないほど、陸軍や親独派政治家の勢いが急速についてしまっていた。なんとか戦争回避、早期終結に奮闘していたのが、あの首相の入替りの激しさ、内閣の短命に表れていたと知る。水面下で流れた組閣も多かった由。結局、戦争に積極的な態度を取った首相は東条だけだったようだ。吉田茂も切歯扼腕、陰で奔走していた一人。憲兵隊コード"ヨハンセン"とは「吉田反戦」の意。
降伏文書に誤りがあり、アメリカの担当者がそのままにしようとしたことに日本側は抗議、訂正を求める。『この期に及んでささやかな抵抗を試みた彼らのことを滑稽だと感じる人は、感情の襞のいささか少ない人だと言わざるを得ない。この時の彼らの立場に自らを置いてみる努力を、今の日本人はすべきであろう。戦いに敗れてなお、彼らのような矜持ある日本人が残っていたからこそ、この国は奇跡の回復をなしえたのである』。上巻の終りに近い箇所のエピソードだが、ずっと読み進めた後のこれは、じんときた。
読了日:07月19日 著者:北 康利 ファイル

鷗外の怪談鷗外の怪談感想
戯曲は面白いなあ。心に秘めたものまでが、台詞にほとんど詰め込まれている。主張も迷いも絶望も吐露され、揺れる。この永井荷風が私は大好きだ。身をもって、信念にかけて守ろうとするものが、日本という国家に阻まれ守ることができなかった、落胆、悲嘆。それは現代の私たちがあからさまな政治の逸脱を糾弾することができなかった、改憲勢力の増長を選挙で止めることができなかった、悪政を通した元首相を国葬にするなどという茶番を止めることができない予感、そのたびに味わう挫折感に似ているだろうか。これらは確実に、人の心をくじいてゆく。
読了日:07月14日 著者:永井 愛

木綿リサイクルの衰退と復活 ―大阪八尾を中心とする木綿の経済史―〈発行:ブックウェイ〉木綿リサイクルの衰退と復活 ―大阪八尾を中心とする木綿の経済史―〈発行:ブックウェイ〉感想
木綿は温暖な地で江戸時代に栽培が盛んになった。しかし開国と共に輸入品に押される。明治16年、渋沢栄一が紡績会社設立。国産の綿でも試行錯誤したが、輸入品の綿糸のほうが良質だったため、明治19年以降中国産、インド産で操業。大正5年には河内の木綿栽培は壊滅した由。合成繊維が現れるまでもなかったようだ。なお、私の興味を引いた「リサイクル」とは、以前においては布地をボロボロになるまで使い倒した後、肥やしとして畑に鋤き込むことであり、現代においては"自然に優しい"に同義と扱われているあたり、不満と言わざるを得ない。
読了日:07月13日 著者:前田啓一

壊れた脳 生存する知壊れた脳 生存する知感想
「奇跡の脳」の脳神経科学者ジル・ボルト・テイラーや、「脳はすごい」の人工知能研究者クラーク・エリオットなど、脳の専門家本人による脳損傷、負った高次脳機能障害とその回復の記録は、人知を超えたような、畏敬の念を読み手に与えてくれたものだったが、我が香川県にも脳損傷からの回復の経緯を記した医師があったのだ。脳の損傷によって起きる行動の変異。障害による消耗も激しいが、周囲の、特に医療従事者の無理解がずいぶんダメージになる。熱心に回復に取り組むほど、脳の自ら機能を再生する力も強まる。脳も凄いが、人間って凄いな。
読了日:07月12日 著者:山田 規畝子

住宅営業マンぺこぺこ日記――「今月2件5000万! 」死にもの狂いでノルマこなします住宅営業マンぺこぺこ日記――「今月2件5000万! 」死にもの狂いでノルマこなします感想
フィリピンパブ接待だノルマだ気合だって、昭和なのはタマ…ホームだけだろうか。ローコスト住宅メーカーの内部事情。営業の悲哀はともかく、売り物が住まいである今作は買う側の悲哀が強い。手付金に100万円はおろか、10万円さえ払えず、それを営業担当が自腹で無利子で貸すのである。家賃並みの支払額で買えるとの宣伝を真に受け、月々1万5千円のローンを組めると考えるのである。安くても隣と見た目同じはイヤなのである。安住できるマイホームへの信仰は、建ち続ける戸建て住宅を見れば明らかなとおり、令和の時代も現役だ。私も含め。
読了日:07月12日 著者:屋敷康蔵 ファイル

焔感想
末世の百物語。ディストピア、そして人ならぬものへの変転が語られる。人間が減ってゆく。それぞれの短編は独立しているのでそれぞれに楽しめ、人間バンクとか、星野智幸らしい視点と展開で興味深い。どう結末するのかと期待したのに、なぜこうなったのでしょうか。最後の角力に喰われ、私の中に想像された均衡はだだ崩れ、こうなっては書き溜めた短編を単行本らしく整えるためにひねり出した趣向みたいな…いや、違うんだろうけども。希望が私には場違いに感じられて仕方ないからだな。単行本の表紙も好いが文庫本のも好い。
読了日:07月11日 著者:星野 智幸

トマト缶の黒い真実 (ヒストリカル・スタディーズ)トマト缶の黒い真実 (ヒストリカル・スタディーズ)感想
トマト缶は便利だ。手元のトマト缶には、イタリア国内の産地、品種、有機栽培であるとも書かれている。この本を読んで、抜け穴がそこら中にあることを知った後では全てが疑わしい。さすがにブラックインクとは思わないが、ウイグルの強制労働で収穫された戦闘用トマトでないと誰が保証できるだろう。クエン酸不使用、では他の添加物は? 品質保証マークにどれだけの信頼性が? 加工製品はもっとだし、トマトだけじゃない。ネオリベやグローバリズムの成れの果てに、知らずに騙されていたほうが幸せみたいな世界になっている証拠を突きつけられる。
読了日:07月10日 著者:ジャン=バティスト・マレ ファイル

ドリトル先生航海記 (新潮文庫)ドリトル先生航海記 (新潮文庫)感想
これも幼い頃に出会っておきたかった物語。感受性が強い年頃に読んで、どこが心に響くかはその子次第で分かれそうだ。ドリトル先生やスタビンズ君の魅力はさておいても、自然の学問の幅広いワンダーが散りばめられている。今の私には、初めて航海に出たときの心踊る感覚、ロング・アローが集めた標本の不思議、海カタツムリの殻を通して見た世界の美しさ、バンポ王子のキュートさが胸に残る。さらに訳した福岡先生の思い入れで、物語の力は2割増しじゃないかしら。Do a little,think a lot.の言葉遊びが素敵。
読了日:07月07日 著者:ヒュー ロフティング

いのちをもてなす―環境と医療の現場からいのちをもてなす―環境と医療の現場から感想
環境問題から終末期医療まで語れる珍しい経歴をお持ちの医師の著述集である。医師である人に「ペンタゴン・レポートが」なんて言われると面食らってしまった。しかし当然ながら、環境と人体は無関係ではない。流入流域の灌漑工事によるアラル海の縮小や日本の公害などは、人間による環境破壊と周辺住民の健康被害が関連する問題であり、医師の知見の生きる社会医学という分野なのだと知った。限られた資源を収奪する技術が進歩するほど、人間のこころの未熟さは強調されるとの指摘が鋭い。まさに歴史の全ては我れが我れがの帰結である。
読了日:07月04日 著者:大井 玄 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。

  

Posted by nekoneko at 13:22Comments(0)読書

2022年07月01日

2022年6月の記録

つまり、易しいノンフィクションで興味の範囲を拡げたり、優れたノンフィクションで事物を深く理解したり、よく練られた物語で活劇を楽しんだりすることとは、根本的に目的が異なるのだ。優れた文学作品を読むことは、絵画や音楽など他の芸術鑑賞のように、現実を写実とは違ったやりかたで捉えることで、厳しい現実の人生に、新たな色彩や揺らぎを与え、息苦しさをつかのま逸らすことができる。
話題の本も読みたいものは読めばいいけれど、並行して古典や文学を味わうことも、私を救うんではないかな。サプリや流動食はほどほどに。


<今月のデータ>
購入10冊、購入費用15,196円。
読了17冊。
積読本312冊(うちKindle本147冊、Honto本9冊)。


ブック

6月の読書メーター
読んだ本の数:16

頁をめくる音で息をする頁をめくる音で息をする感想
高校時代の同級生が古本屋を営んでいるのだが、どうにもとらえどころのない人で、古本屋を営む理由を問うたところで理解できる返答が返ってくる気がしない。これしかないから。これしかできないから。とこの本の著者は古本屋を営む理由を語る。古本屋を営む理由というのは、飲食店や工事店のように明確に相手に訴求することばになるとは限らないのかもしれない。形ある物の売買でありながら形のない思いや気持ちが行き交う。古本屋でコーヒーやビールを飲みながらも好い。今は無きリバー書房の店主の淹れたコーヒー、ゆっくりいただけばよかった。
読了日:06月28日 著者:藤井基二

隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)感想
けったくそ悪い物語だ。14歳だぞ。悪意、弱さ、卑怯さ。この事件に関わった少年ども皆、のたうち回って苦しんでくたばりますようにと祈る。デイヴィッドも例外ではない。悪夢など生ぬるい。この胸糞悪さは、このような事件が現実にもありふれて起こり得るからでもある。つい数年前、旭川でも「いじめによる自殺」事件があったはずだ。犠牲者になりかわり、私が呪いをかけてやる。キングがこの作品を褒めたのは1995年。頭おかしいんじゃないの。と毒づいておく。
読了日:06月25日 著者:ジャック ケッチャム ファイル

第三の脳――皮膚から考える命、こころ、世界第三の脳――皮膚から考える命、こころ、世界感想
皮膚の構造から、研究者がそんなこと書いていいのか級の仮説まで、幅広いトピック。しかし目下肌トラブルを抱える身としては、皮膚と精神の関わりについて知りたいのだ。『表皮が「興奮」するとバリアの回復が遅れ、肌荒れもひどくなり、「抑制」するとバリアの回復が促進され、肌荒れも治る』。痒さが痒さを呼び、「ここもかゆいよ」コールがやまない状態を私は「ケラチノサイトの大暴走」と呼んでいる。恒常的に放出されるサイトカインを鎮めるには何が良いか。精神よりも五感に心地良いことを心がけるのが実は最も効果的ではないかと思った次第。
マグネシウム塩やカルシウム塩は、角層のバリア回復を促進する。入浴剤としても使われるにがりの主成分はマグネシウム塩とカルシウム塩であり、またアトピーには海水浴が良いなんてこのような研究結果が出る前から言われていたのは、先人の知恵であるよなあ。マスクによる頬への摩擦や空気の乾燥、体重増加による衣服との摩擦、ストレスなど、肌の状態が悪化する要素には事欠かない。汗をかいて代謝を上げ、皮膚のバリア回復を図ろうと熱めの風呂に頑張って浸かっていたのは逆効果だったようだから、ぬるめのにがり湯に浸かって本を読むことにする。
読了日:06月24日 著者:傳田光洋

ボーヴォワール『老い』 2021年7月 (NHK100分de名著)ボーヴォワール『老い』 2021年7月 (NHK100分de名著)感想
ボーヴォワールは現実を直視できる目を持った人であるとともに、自由の良い面も悪い面も体現する生き方を貫いた女性であった。それは女性性、老いを取り上げた著作に見ることができる。ボーヴォワールを語る上野さんの口ぶりに称賛の響きがあるように感じた。彼女のように徹底した生き方はできないけれど、生物学的に遺伝子を繋がずとも、身を投げうつような献身でなくとも、なお後から来る人々に明かりを差し出す人でありたし。気になるぞボーヴォワール。読んでみたいがなあ。光文社さん、古典新訳文庫で出してくれないだろうか。
読了日:06月24日 著者:上野 千鶴子 ファイル

梅里雪山(メイリーシュエシャン)十七人の友を探して (ヤマケイ文庫)梅里雪山(メイリーシュエシャン)十七人の友を探して (ヤマケイ文庫)感想
素敵な響きだ。地元の村人は聖なる山"カワカブ"と崇め、毎朝祈り、亡くなった家族や仲間を想って巡礼に出る。ひっくるめて信仰とし、平穏に暮らす。美しい自然、雪解け水が農作物を実らせ、牛や豚を育てる。こんなに豊かな生き方が現代にあるだろうか。その山の登頂を日中合同登山隊が目指し、全17人が遭難した。地元の村人たちは、聖山だから登らないでくれと繰り返し訴えた。なぜ現代人は未踏の高山に登りたがるのだろう。刹那に生命を賭けて山頂を征服するのが自然に逆らう行為なら、自然に命を預けて平穏に暮らすほうが気高いように思う。
読了日:06月21日 著者:小林尚礼 ファイル

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)感想
同じ時代を生きる女性たちに思いを重ねる。憑依じみた行動は奇異だけど、それが母と先輩であったのには意味があって、女性は身近な女性の有形無形の助けによって支えられているのだと暗示する。韓国と日本はやはり似ている。それでも韓国の方が、男子を表立って優遇するぶん、酷いかな。男性を増長させる社会の仕組みにぞっとする。それは同時に弱い男性を疲弊させ、反動で女性を敵視させるのだ。でも男優遇な現実に気づかされて女性が水面下でうんざりしている日本よりも、女性がはっきり意思や怒りを表明する韓国の方が、変革は早いかもしれない。
ジヨンの母が素敵。耐えてきた自分の苦しみを娘たちに引き継がせることの残酷さへの自覚が、世代ごとに事をより良くしていると思う。ならば私たちも、子があろうとなかろうと、次の世代をより良い方向に押してあげる義務があるのだ。
読了日:06月20日 著者:チョ・ナムジュ

ファインダーズ・キーパーズ 下 (文春文庫)ファインダーズ・キーパーズ 下 (文春文庫)感想
物語の持つ力は大きい。物語という液体の中に頭の先まで沈み込めるような体験は稀で、そのような物語に出会えたことは身一つしかない人の生にとって祝福とも呼べるような出来事だ。でもどれだけ物語を現実のように感じられたとしても、目の前に生きている人を見失うことはあってはならんとわかっているかどうか。さて、キングの作品にシリーズ物は珍しい。だから、今作が前作のキャラクターを踏まえていることに戸惑った。しかも、当たり前だが、時間も人間関係も進展している。これはジミー・ゴールドものと同様、円環を描くと期待してよいのかな?
読了日:06月18日 著者:スティーヴン キング

土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて (光文社新書)土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて (光文社新書)感想
土って面白い。毎日目にするものなのに、眼から鱗がぼろぼろ落ちた。気候や地面の成り立ちによって、土は違った様相を見せる。農作物や特産品も、その地の土や水に因って生まれる。人はその土に合う作物を見つけ、またより豊かになるよう改良を重ねて食物を手に入れる。日本は豊かな土壌だと思っていたけれど、火山灰土壌や未熟土は、世界の中で見れば土としてはそうでもない。でも日本には豊かな水と農耕のノウハウがある。だから豊かなのだ。パンを食べるからじゃあ小麦をという訳にはいかないとわかった。日本には日本の豊穣、失いたくないなあ。
世界で最も豊かな性質を持った土は、チェルノーゼム。その土壌を持つ代表として、ウクライナに度々言及している。小麦を生産する広大な畑。収穫した小麦やトウモロコシを輸出できない、長年耕作してきた農地に植え付けできなかった、また砲弾だらけになった、ダメージは思うより甚大になるだろう。そしてウクライナ兵の捕虜や住民が貧しい土壌の極東に送られていると聞く。土が変われば作物も農法もまるで変ってしまう。そもそも農耕可能な土地があてがわれるかもわからない。かの人たちは、生きてゆけるだろうか。どうか恵みがありますように。
『我々は天体の動きについての方が分かっている、足元にある土よりも』 by レオナルド・ダ・ヴィンチ。不耕起栽培とか無農薬とか聞きかじったものに私は真実を見出したがるけれど、きっとそこには想像よりずっと奥深く、いろいろな真実があるのだろうな。日本の土は農耕や水によって酸性に傾きがちだ。日本の農地に石灰を撒きまわるのはそういうことかと納得もした。私はそのあたりを知らないに等しいので、わくわくしながら多面的に掘り返して、土、微生物、農作物、腸内環境、人間と関心をつなげ拡げてゆく予定。
読了日:06月14日 著者:藤井 一至 ファイル

ファインダーズ・キーパーズ 上 (文春文庫 キ 2-57)ファインダーズ・キーパーズ 上 (文春文庫 キ 2-57)感想
キングが社会問題を背景に入れ込むようになったのはいつ頃だったか。経済破綻や再び描写された無差別犯罪によって窮地に置かれた罪なき人々。格差を背景に、人々はより金銭にがめつくなり、主人公の家では<うちの一家はどんづまり>が頻繁に上演される。今回被害者を作家としたのはキングの企みだ。キングが教師として教えていた頃のことや「書くことについて」を彷彿とする。物語をつくりあげるものの『見た目はオートミールそっくり』ににやり。ホッジズ&ホリーの出番は終盤にちょっぴり。前作のキャラをあらかた忘れてしまっている自分が残念。
読了日:06月12日 著者:スティーヴン キング

ココアどこ わたしはゴマだれココアどこ わたしはゴマだれ感想
表紙のつくりにスイセイさんのこだわりが炸裂している。スナックたかやまが好い。ゲストとスイセイさんが話し、高山さんも料理を出しながら参加する感じが、そんなスナック行きたい。でも高山さんとスイセイさんがディープに話しているのはよくわからん。『生キルノ手帖』はもっとわからん。あと、どれだけ高山さんが神経を逆なでしたのだとしても、怒鳴りつけるスイセイさんは嫌だ。高山さんはスイセイさんに問いかけ、対話することによって、生きることの解釈や指針を引き出していた。これだけ深く話しあえる二人なのに、なぜなんだろう。
読了日:06月10日 著者:高山 なおみ,スイセイ

快楽としての動物保護 『シートン動物記』から『ザ・コーヴ』へ (講談社選書メチエ)快楽としての動物保護 『シートン動物記』から『ザ・コーヴ』へ (講談社選書メチエ)感想
そもそも人間の集団がさほど大きくなかった頃までは、民族と動物の間に古来より時間をかけて培った関係は文化や思想として、節度を持った均衡点を持っていた。他者のそれを想像する必要をはじめ、住みついてさえ会得することのできない微細の感覚があることは、前提としたい。思うに、人間は21世紀になってなお、自然のことも動物のことも理解しきれてなどいないのだ。加えて、一義的な「正しさ」を振りかざして、「野蛮」と決めつけた相手を糾弾する行為が快感と知覚される現象は想像に難くない。そしてそれは物事をより良くする結果は生まない。
去年亡くした猫のこと。彼は食欲を無くした後、ベランダの地面のコンクリートを熱心に舐めていた。その理由、そこにある真実を、インターネットでも獣医でも本でも私は見つけることができなかった。もしこれが外に自由に出られて、草むらや里山を出歩ける生活なら、彼は自分で自らを癒す植物なりを見つけに行くことができたはずなのだ。「猫は室内で飼うのが良いのです」としたり顔で説明していた自分の顔を平手打ちにしたかった。それは、100%人間都合の論理だ。私は知っているとばかり得意になって話す、そこに快感がなかったとは言わない。
イルカ(とクジラ)を特別視する風潮の生まれた経緯にも詳しい。ある研究者の描いたイルカについての論文(ポエム)が膨張し、到達点としてシー・シェパードは「ザ・コーヴ」で太地町の漁従事者の野蛮を糾弾するパフォーマンスを成し遂げた。イルカを自然のアイコン、特別愛すべき存在と位置付ける流れは「グランブルー」、「フィリー・ウィリー」、ラッセンの絵画など、1980年代以降の流行に表象されていたと著者は指摘する。知らず喜んで観ていた過去の自分を振り返ると、そのような「正しさ」の波がどれだけ人を呑み込みやすいものかと驚く。
読了日:06月08日 著者:信岡 朝子 ファイル

非正規介護職員ヨボヨボ日記――当年60歳、排泄も入浴もお世話させていただきます非正規介護職員ヨボヨボ日記――当年60歳、排泄も入浴もお世話させていただきます感想
祖母の葬儀を思い出す。通っていたデイサービスの職員5、6人が焼香に来てくれた。見慣れた色の作業服を見た時に気づいたのは、祖母が晩年楽しみにしていたのが、なんでもない会話でも児戯じみた遊びでも、職員との軽やかなやりとりに違いなかったことだ。この著者は長期入所施設の職員ということもあり、情を入れすぎては身が持たないと、全編にわたって淡々とした印象を受ける。それでも、面白がったり憤慨したりしながらでも人間と人間の付き合いをすることは、専門職としての身体のケアと同じようにこの仕事の大切な部分なのだと感じた。
読了日:06月07日 著者:真山 剛 ファイル

古来種野菜を食べてください。古来種野菜を食べてください。感想
日本農業新聞など読みながら釈然としなかったものが晴れた。今、国が推進している農作物の有機化は、ぱっと見に必要なことなのだけれど、思想が伴っていない。それはトップダウンなせいらしい。著者は「農業」と「農」を別と捉える。国民に食べさせるだけの農作物を確保するためには、化学肥料も最新技術もAIも使って、量を確保する、それが「農業」で、一方の「農」は古来の知恵や自然の持つ力を信じ、少量でも守っていく思想ありきだ。どちらも必要と捉えつつ、双方寄せ合っていけたらいい。『農法は生き方』。ならば、食べ方も生き方だなあ。
読了日:06月06日 著者:高橋 一也

ホビットの冒険 (全1冊) (岩波少年文庫)ホビットの冒険 (全1冊) (岩波少年文庫)感想
ホビットなんて見たこともない生き物、少ない挿絵をヒントに家も風景も全て想像するしかない。その彼らの世界に入り込み、冒険を共にする。なんと豊かな愉しみだろう。ビルボが能動的に冒険を想ったのはほんの一瞬で、あとは巻き込まれなされるがままの流れの中で 思い、考え、選ぶ。道を進み続けるのは大変なこと、世界にはいろんな人がいること、「自分ひとりのはげしい心の戦い」を戦わなければならない時があること。子供への贈り物としての物語は、大人が読んでも面白いけれど、やはり感性の鈍りは否めず、味わいきれなさが残念。姪に贈る。
ビルボの台詞。『ああ、やりきれない! わたしは今まで、かずかずの戦のほめ歌をきかされてきた。そしていつも、ほろびる者に栄光があると思ってきた。だが戦とは、ひさんなばかりでなく、まことにやりきれないものだ。この戦に加わらなかったらなあ!』 1937年の作品だから、ヨーロッパの戦争は無関係ではない。父から子供たちへの物語。ドワーフや人間、エルフ、ワシ族ほかの者たちは友好と均衡を取り戻すが、スマウグは滅び、ゴブリンとアクマイヌは叩きのめされる。平和。物語の中ですらかくも難しきもの。
読了日:06月05日 著者:J.R.R.トールキン ファイル

ある人殺しの物語 香水 (文春文庫)ある人殺しの物語 香水 (文春文庫)感想
のっけからものすごい臭気に襲われる。近世フランスの街に充満する種々の臭い、その臭いを消すための匂い。なので臭いも匂いも持たない体質の主人公は、醜くも透明さを併せ持った者のようにもあるが、人間らしいにおいをつけるための香水を身につけた瞬間から、身の内に凝った情念を一気に発散させる。彼が善悪の判断を持たなかったのはにおいとは関係ないだろうし、モラルも善意もあったもんじゃない時代の人々の行為には親愛の情も持ちようがない。そして後味がどうとか評しようのない幕切れ。これがそれほどの話題作になった理由が知りたし。
読了日:06月02日 著者:パトリック ジュースキント

ペルソナ 脳に潜む闇 (講談社現代新書)ペルソナ 脳に潜む闇 (講談社現代新書)感想
理知的な中野信子と辛辣な中野信子が波のように入れ替わる。"私の毒々しい感情"と称するところの主観を露わにするには、公的な場でまとう鎧をある程度削り落とさなければならず、その真っ当な防衛反応として、表れる棘は鋭い。中野信子にすれば他人の同調など鬱陶しいだけだろうけれど、本気で読みたければこちらも多かれ少なかれ血を流す覚悟で武装せざるを得ず、ふと気を抜くとつい「わかるよ。。。」とつぶやいてしまう。「ホンマでっか!?TV」との出会いは良かったのだなあ。あの番組に出ている中野信子はとても楽しんでいるように見える。
読者が何のために中野信子の書く本を読むのかを自ら分析するくだりがある。私は何故読みたかったのだろう? もちろん金を恵みたいのではない。完全に同世代である中野信子に共感したいという動機は認めざるを得ない。役に立てたかったのだろうか? 様々な事象を「理解しすぎてしまう」彼女が、このややこしい時代を、理不尽な人生というものを、どんなふうに処理しているのか知りたかった。クレバーな処しようがあるなら知りたかった。中野信子には論理的な頭脳と共に、芸術的な感性がある。それがこれだ。そしてそれは私には、文学と自然だろう。
『時間は、ただの時の流れではなくて、寿命の一部である。一部とはいえ、こんな闘争に、命を懸けて取り組む価値など、欠片もない。過去のよく知りもしない人が勝手に作り上げてきた男性原理を覆すなんていうことのために、自分の、有限でしかない時間を、惜しみなく注ぐ気になど到底なれない』。中野信子独特の言いように、声を出して笑ってしまった。遺伝子を残さない自分の引け目もあり、男性優位なこの社会で、後に続く女性たちのために抵抗し闘う義務が自分にあるように思っている私にはちょっと快感。それもまたよし。気張りすぎなさんな、私。
読了日:06月01日 著者:中野 信子 ファイル


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。
  

Posted by nekoneko at 10:11Comments(0)読書

2022年06月01日

2022年5月の記録

SNSに登録している、読んだ本の冊数が2000冊目を超えたのだとか。
感想も1700冊以上書いているそうだから、1冊255字とはいえなかなかの量になった。
自分の書いた感想に感じ入ることも少なくない。
さらに以前の、幼少の頃に読んだ本たちや何度も読み返した本たちに思いを馳せる。
もう思い出せなかったりするそれらすべてを糧にして今の私がある。

<今月のデータ>
購入28冊、購入費用23,490円。
読了16冊。
積読本321冊(うちKindle本154冊、Honto本11冊)。


ブック

5月の読書メーター
読んだ本の数:16

桃 もうひとつのツ、イ、ラ、ク (角川文庫)桃 もうひとつのツ、イ、ラ、ク (角川文庫)感想
「ツ、イ、ラ、ク」から間を置かずに読めばもっとヒリヒリできたかもしれない。彼女の周りにいた「普通の」生徒たち。彼/彼女らに対して私の感じていた嫌らしさは、本人が意識的に選択して行動した/行動しなかったからではなく、生物的スキルによって自動選択されたもの故であった。一方で彼/彼女らもまた熟し始めた個体としての衝動を隠し持っていたのであり、彼女のみを異質物のように浮かせた一方、彼女から少なからず影響を受けていた出来事がこれらの短編では明らかにされる、そのお互い知り得ない他者の内部の底知れなさがじわじわくる。
読了日:05月27日 著者:姫野 カオルコ

現代華文推理系列 第一集現代華文推理系列 第一集感想
若手作家による華文ミステリ集。外国ミステリとはいえ、学校のようなクローズド設定で、論理を詰めて進める類の謎解きミステリは日本のそれと何も変わらないのでつまらない。面白いのは、社会性や叙情性を持ち込むのみならず、それらを巧く利用した作品だ。水天一色「おれみたいな奴が」では社会的底辺者の鬱屈やユーモアがプーアル茶のくだりに現れ、寵物先生「犯罪の赤い糸」には『神経がサトウキビぐらい図太くないと』や『節のほかから枝が生えないように』のような独特の言い回しが興を添える。先入観が無いから楽しめる。はまりそうな予感!
読了日:05月24日 著者:御手洗熊猫,水天一色,林斯諺,寵物先生 ファイル

くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話 (シリーズ3/4)くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話 (シリーズ3/4)感想
パンクな個人投資家によるお金の使いかた指南。金融リテラシーを得る入門書として楽しく読める。なんて言うと軽い啓発本みたいだけど、ちゃんとした知識に根差した哲学がある。今遊ぶことを諦めず、将来のことも捨てない生き方。あと、金融商品でも生活に必要な品物でも、応援したい、ずっと残ってほしい、社会の役に立つと思えるお店の商品を選んで買おうよという話。これはこれで、自分たちの行動次第で未来を自分好みに変えられると考え行動する意味においては未来を拓く動きであり、例えば渋沢健氏の投資哲学とは違った知性の表れだと思う。
読了日:05月21日 著者:ヤマザキOKコンピュータ ファイル

カラスをだます (NHK出版新書 646)カラスをだます (NHK出版新書 646)感想
研究者からのベンチャー起業家、自称"カラス・ソリューショニスト"。カラスが好きで研究者になったわけでない人もいる。さて、カラスをだます。カラスを食べる。どちらも人間社会とカラスの摩擦を解消する試みだ。しかし視覚優位で記憶力にも優れるカラスを人間の意に沿わせるのは大変と知る。カラス剥製ロボットの首がもげたところは笑いすぎて涙が出た。カラスが人間の出すゴミを漁って、プラスチックを大量に食べてしまわないか心配だったが、カラスは消化できないものを体内に溜めず、ペリットと呼ばれる塊にして吐き出すと知って安心した。
読了日:05月20日 著者:塚原 直樹 ファイル

僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回感想
日本の若き知性として注目される、森田真生氏のエッセイ。書店で手に取った瞬間、やられたと思った。なにかここにある、と予感した。『このままではいけない。いままでとは別の、生き方を探しなさい』。感染症による活動縮小を契機に、新しいセンサを働かせて取り組む活動のセンスが好い。通底するのは、人間が人間でないものたちと同じ地平に降り立とうとする意思だ。『人間はもっと humiliate されていい』と言う。これまでと同じようには生きていくことができなくなった世界では、思考より肌感覚に従う、柔軟な行動こそ生き抜く術。
舩橋真俊氏の提唱する「協生農法」が気になる。無耕起、無施肥、無農薬の流れの一手法というだけではないようだ。国内外の実績もあるとのことだが、私の胸を突いたのは『人間がかかわることで、人間がいないよりも高い生物多様性を実現する』というヴィジョンである。できるだけ環境を壊さない、という消極的な環境活動とはベクトルの強さが違う。その圧倒的な突破力こそ、私が求めることのできる最強到達点ではないかと鼻息荒くなってしまう。もっと知りたい。
読了日:05月19日 著者:森田 真生

塩の道 (講談社学術文庫)塩の道 (講談社学術文庫)感想
宮本常一翁晩年の講演録「塩の道」「日本人と食べもの」「暮らしの形と美」。加速度的に転がる話に、ぽかんと口を開けてただ聴き入る。ほうほう。ああ、そういうことでしたか、そう考えたほうが自然ですね、なるほどなるほど。知らなかった事実を知るというだけではなくて、翁自身の脚で集められた情報量の凄みと、翁の中で見出された様々の事物が繋がる自在さがもはや小宇宙のようで心地よいのだ。人や獣に必須の塩について、塩を中心に見た歴史がこんなに奥深いとは思わなんだ。塩と醤油、味噌には、ぜひとも産地・製法にこだわって比べてみたい。
日本人には山間地や平地、海べりなど各地でそれぞれ為すべき生業があって、そのためには住まい作業するその土地に合わせた作物を見つけ、つくり、食べる必要があった。そのうちによりつくりやすい作物が流入し、また改良し、食が豊かになったぶん、また人が増え、産業が盛んになる、その繰り返しだった。日本では戦に加わる人と、作物をつくる人が別だったから、中国のようには人口変動の振れ幅が大きくなかったのだという指摘が興味深かった。
読了日:05月19日 著者:宮本 常一 ファイル

ヒトの壁 (新潮新書)ヒトの壁 (新潮新書)感想
読み進まなかったのはお風呂で読んでいたせいか、養老先生の言うように日常と同時進行で書かれたからか、病や別離のゆえに難しいご気分であったせいか。気の赴くままにこぼれるぼやきに近いのかもしれない。心に留めておきたいのは昭和天皇の開戦の詔勅『まことに已むを得ざるものあり、あに朕が志ならんや』。陛下の真情がどのようにあったかは別にして、当時の為政者や軍属の人々にも受け入れられるメンタリティーであったのだなあ。「なるべくしてなる」という日本人の感覚は、外国から見たら無責任に取られたりもするのだろうか。
読了日:05月18日 著者:養老 孟司

兄の終い兄の終い感想
いうなれば「毒兄」。よく聞くお名前なので、恥ずかしながらてっきり小説だと思って読み始め、同じ苗字の主人公に、どうやらノンフィクションらしいと気づいて動揺した。なんとトーマス・トウェイツ本の翻訳者さんでした。さて、生前いくら怒りを覚え、拒絶し倒すしか処しようのなかった相手でも、死後もずっと憎み続けることは、人にはできないのだろう。相手の精神の消滅と同時に、脅威は消え、自らの中で何かが変わり始める。こちらに真実に向き合おうなんて気持ちが欠片でも浮かぶ場合は特に。悔いも生まれる。きっとそれが「弔う」ことなのだ。
読了日:05月17日 著者:村井 理子 ファイル

佐藤優の裏読み! 国際関係論佐藤優の裏読み! 国際関係論感想
約1年前の著作であり、残念ながらウクライナには触れていないが、ロシアの北方領土交渉や地球温暖化についての見解は興味深い。読みどころは、氏の珍しく感情の混じる文章である。沖縄人としての強い思いと元外交官としての判断が相克している。本土人として胸に手を当てずにいられない。また、どうやら私たちは新型コロナやらウクライナ動乱やらを機にますます危うい情勢に巻き込まれつつある。自発性を重んじる"翼賛"の思想が同調圧力という強制に転じるのは、日本の政治文化であるという。恐怖政治の気配といい、どちらを向いても恐ろしい。
氏は、当時の菅政権の外交が満点に近いと評価する。外務省のトップが優秀である点と、政権が任せた点が良かったとのことだ。つまり、政権が無能のポンコツでも、外務省の要がしっかりしていればきちんと折り合いをつける外交ができるということだと理解した。極右政治家がわあわあ騒いでも、脊髄反射的に罵ったりせず、じっと見定める姿勢が大事である。戦闘能力や憲法を云々する前に、非常事態を回避する外交が必要。
読了日:05月16日 著者:佐藤 優 ファイル

限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか?感想
フィンランドの章。ソ連との浅からぬ因縁が書かれていたと記憶していたので再読。西欧と東欧のはざまに位置するのはウクライナと同じである。ロシア帝国からの独立後、1939-40年のソ連との冬戦争により賠償金と領土を失い、第二次世界大戦で敵(ソ連)の敵=ドイツに与したことで敗戦、再びソ連に領土のうち豊かな農地や発電所、港を割譲させられている。しかしアメリカやNATOには頼らず基地もつくらせない方針で、ソ連との折り合いをつけてきた国だ。それがその方針を転換しようとしているのは、歴史的な事件なのだと、改めて確認した。
読了日:05月15日 著者:マイケル・ブース ファイル

「十五少年漂流記」への旅 ―幻の島を探して (新潮文庫)「十五少年漂流記」への旅 ―幻の島を探して (新潮文庫)感想
「十五少年漂流記」は少年シーナマコトの冒険心の芽を育んだ。そのモデルとなった無人島へ上陸する企画。とはいえ、現地の描写は数ページである。脱線のように過去の旅での体験や知識が披瀝されるので、意図を計りかねて置き去りにされそうになる。もちろん適当な紙面埋めなどではなく、言わんとすることがあるのだ。椎名家の書棚にはフィクション・ノンフィクションを問わず、冒険記や漂流記が膨大に並んでいると推察される。経験と知識が合わさって初めて立つ仮説、実感があるのだなあ。シーナ級でないとできない偉業である。珍しくちょい辛口。
読了日:05月14日 著者:椎名 誠

言壺 (ハヤカワ文庫JA)言壺 (ハヤカワ文庫JA)感想
面白い面白い。言葉にまつわるSF短編集。言葉そのものの在りかたが変化してしまった世界は、スイッチ一つで小説が目の前から消え去ってしまう電子書籍や、スマホの予測機能で出る単語をつないで他者とやり取りするスマホネイティブの、延長線上にあるかもしれない世界だ。文字ができ、印刷技術が発達し、手書きしなくなり、そのたび言葉の機能も変わってきたはずで、さらに身体性が弱り、言葉にどっぷり浸かっていると、どちらがどちらを支配しているのかわからない感じとか、言葉の破壊が社会や人間をも破壊してしまう想像とか、脳内に遊ばせる。
「栽培文」が幻想的で好い。映像化できそう。『その言葉を枯葉の状態からよみがえらせるには、それを生んだときの気分が必要らしい。その言葉を読むと、その気持ちがよみがえるのか、その気持ちを忘れないでいるから、その枯葉がよみがえるのか、どちらなのか、と娘は考えた。言葉が先か、気持ちが先か、どちらなのだろう。』彼女の素朴な疑問は、実は深い意味を湛えてこちらの気持ちをゆらゆら揺らす。
1994年の刊行と聞いて腰を抜かしそうになる。1994年と言えばWindowsは95以前で、電子書籍もスマホもありゃしない。オフコンからワーカムを発想する凄さたるや。…しかし、ワーカムを今のWindows11よりもすごげな、VRみたいなガジェットに想像したのは、著者ではなく私の脳みそなのである。言葉。その威力をまざまざと感じる。
読了日:05月12日 著者:神林長平 ファイル

日本でわたしも考えた:インド人ジャーナリストが体感した禅とトイレと温泉と日本でわたしも考えた:インド人ジャーナリストが体感した禅とトイレと温泉と感想
インド人というより、インド生まれの国際人であるジャーナリストの日本滞在記として、インドで刊行された書籍の翻訳本。著者は日本を気に入っているが、日本礼賛本ではなく、社会や政治の在り様への辛辣な指摘も多い。これが何度も来日してくれる人々の本音だろう。切り口が面白い。子供が独りで通学するのは、コミュニティへの信頼が生きている証と洞察する。自分で掃除するのは自ら清潔にするための手段であって、罰でも人の尊厳を損なうものでない。私たちには当たり前のことが外国ではそうではないと気づく瞬間は、やはり醍醐味である。
読了日:05月10日 著者:パーラヴィ・アイヤール

特殊清掃 (ディスカヴァー携書)特殊清掃 (ディスカヴァー携書)感想
一人身の人間が増えれば孤独死も増える。孤独死に心理的拒否感は無いけれど、まあ、その後は問題よね。死は現代社会では表向き異質なものだ。存命中の姿を知らず、三人称の死と割り切れれば、モノの始末と処理をこなすことはできるのではと想像していたが、人体が腐乱し融解する過程は、プロでも抑えきれない拒否感を生じさせるようだ。この本能レベルの反応は、同様に死体を扱う例えば納棺師のような職業では聞かない。自然に還ることもできない人体を汚物として扱うしかない点が、人間の脳が持つバグを突く。ここがこの職業の特殊さかと想像した。
読了日:05月08日 著者:特掃隊長 ファイル

最後の講義 完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ安心して弱者になれる社会をつくりたい最後の講義 完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ安心して弱者になれる社会をつくりたい感想
NHKの番組はつまみぐいだったようだ。記憶より分量がある。講義は無論、対話も各々がどういう生き方を選んで、課題を抱え、どのような社会システムを望んでいるか知れて良い。日本は子育ても介護も家事も、公助/共助とも絶対的に足りない。今まで女がタダでやってきたから、そんなことにおカネを払う理由がないと誰かが考えている。私の夫はリベラルな方だが、それらにさほどの対価は払えないなどと考えるようになったとしたら、それは私のせいだなと自戒。『こんな世の中にしてごめんなさいと言わなくてすむ社会を手渡したい』の言葉が温かい。
観て好きだった講義。女が親になったら、子供に対して人生最大の権力者になる、という発言を鮮烈に記憶している。自らの体感は確実に人の人生の軌道を左右する。上野さんの切れの良い話しかたが好きだ。全てを抱え込んで途方に暮れている受講者には優しく助言する。一方、無神経に懐古的な発言をする受講者には間髪入れずぴしゃりと批判する。『年を取るっていうのは、現実の多様性にぶつかって、脱洗脳、つまり洗脳が解けていく過程なので、わたしは年を取ったほうがはるかに柔軟になって、寛容になりました』。まさに。
読了日:05月07日 著者:上野 千鶴子,NHKグローバルメディアサービス,テレビマンユニオン ファイル

宮辻薬東宮 (講談社文庫)宮辻薬東宮 (講談社文庫)感想
妹本。そうそうたる面々の短編リレー。最初に宮部さんがちょいホラーで縛ってしまった流れなのだろうか。それぞれの作家のカラーが出ておもしろかった。タイトルも意味深なニュアンスが中黒で表されていて、読後になるほどなあ、と作家の創意に唸ったものだが、うしろ2編はよくわからなかった。なにかダブルミーニングのようなひねりはあったのだろうか。そこも解説が欲しかった。記念撮影はどないことなったんかな。
読了日:05月02日 著者:宮部 みゆき,辻村 深月,薬丸 岳,東山 彰良,宮内 悠介


注:ファイルは電子書籍で読んだ本。

  

Posted by nekoneko at 10:01Comments(0)読書